『SENTIMENTALovers』の
両想いに至らない歌詞から
平井 堅が恒久に求めるテーマ、
コンセプトを想像する

それは平井 堅の本質なのか

想いが通じていない描写はまだある。青春という人生の祭りの終焉、その始まりを描写したかのようなM6「青春デイズ」。おそらく母親のことを歌ったものであろうM10「nostalgia」(母親ではなく、父親かもしれないし、祖父母かもしれないし、もしかすると肉親じゃないかもしれないが、この歌詞の主人公が子供の頃に支えてくれた年長者であることは間違いない)。この2曲にあるものは回顧なので、物理的に(?)気持ちが交わされていることはない。アルバムのフィナーレであり、タイトルチューンとも言えるM12「センチメンタル」は、《君を見つけて今わかったよ 手にするものは一つだけでいいと》など、素直な愛の告白のように見える。だが、《今 君も同じ気持ちだったらいいな》とあることから、その気持ちを共有する以前なのである。オープニングM1「思いがかさなるその前に…」で《ねぇ そんな事を隣でキミも思ったりするのかな》と言い、ラストM12で先のように言うことで、アルバムに円環構造を与えているようでもあるし、コンセプチャルな作品であることが際立っているようで、この辺はお見事であると言わざるを得ないが、それによって作品のテーマを余計にクリアとしている感は否めない。言うまでもなく、それはかなり意図的にやっているということだ。それだけ、リスナーにそれをはっきりと理解して欲しくてやっていることは間違いなかろう。

そして、それは平井 堅というアーティストの本質に近いテーマでもあるように思う。“ように思う”というのは、筆者が平井 堅のオリジナルアルバムを全てつぶさに聴いてないからだが、この度、リリースされたニューアルバム『あなたになりたかった』に関して彼はこんなコメントを寄せている。

「憂鬱と夢見心地を行ったり来たりの我が心模様は、いつだって誰かを羨み、此処ではない何処かに行きたがるのです。」

短文で若干抽象的な表現ではあるが、“憂鬱”と“夢見心地”が『SENTIMENTALovers』にも通底していることはここまで説明してきた通り(“夢見心地”は“妄想”と変換可能だと思う)。そもそも『あなたになりたかった』というタイトルからして、想いを通わせたいという強い気持ちを感じ取ることもできる。決して叶うことのない“両想い”を希求する…というのは、アーティスト、平井 堅の恒久なるテーマ、コンセプトなのかもしれない。

影を覆い隠す歌唱の説得力

さて、こうして歌詞を深掘りしていくと、いかにもダークサイドが目立つ格好で、陰キャなアルバムに思えてくるが、そうではないことはみなさんのほうがよくご存知のことと思う。メロディーとサウンド、そしてヴォーカリゼーションが影の部分を中和しているというか、それをダイレクトに感じさせない作りになっているようだ。唱歌や童謡を連想させるメロディーを持つM1「思いがかさなるその前に…」、M10「nostalgia」、M12「センチメンタル」(その意味では“nostalgia”とはよく付けた題名だ)。M2「jealousy」はコンテポラリーR&B、アルバム中盤のM6「青春デイズ」、M7「style」、M8「signal」、M9「鍵穴」辺りはリズム&ブルース、ソウルを下地にしていて、唱歌や童謡に比べれば汎用性が低い印象で、そこだけ捉えたら若干マニアックな感じもするが、いずれもサビはキャッチー。楽曲の展開も概ねA、B、サビがある、いわゆるJ-POP的なので、親しみやすさは変わらない。

平成を代表するナンバー、M5「瞳をとじて」については説明するまでもなかろう。アレンジを含めてドラマチックな展開が分かりやすいメロディーをさらに感動的に演出している。そして、何よりもハイトーンなヴォイスが楽曲の中心にあることで、聴き手の中心線がぶれない印象がある。この歌唱によって、歌詞の物語に影があるとか、サウンドがマニアックだとかいうことを、覆い隠されてしまうようなところもあるのではないかと思う。そのシルキーな歌声に魅了されると言えばいいだろうか。細かいことはどうでもいい…と言い切ってしまうのはあれだが、あの歌声にはそんな気にさせられる。シリアスだが、スリリングではない。そんな言い方もできるだろうか。いずれにしても、歌声がいい意味で強く印象に残る。そこが彼のシンガーとして秀でているところであり、特異なところであることに改めて気付かされた『SENTIMENTALovers』である。それでは、歌詞のテーマはどうでもいいかというと決してそうではない。本作を聴き終えた時に感じる余韻は、この内容でなかったとしたら、決して味わえないものであることは、これまた疑うまでもないことだ。

TEXT:帆苅智之

アルバム『SENTIMENTALovers』2004年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.思いがかさなるその前に…
    • 2.jealousy
    • 3.言わない関係
    • 4.君が僕に憑依した!!
    • 5.瞳をとじて
    • 6.青春デイズ
    • 7.style
    • 8.signal
    • 9.鍵穴
    • 10.nostalgia
    • 11.キミはともだち
    • 12.センチメンタル
『SENTIMENTALovers』('04)/平井 堅

OKMusic編集部

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