『JUSTICE』で
徳永英明が世に問うた
“本当の幸せ”と“本当の愛”とは?

未来を予見したテーマ性

さて、ここからはアルバム『JUSTICE』の中身を見ていこう。今ほどM2に関してちらりと述べたように、本作は“1/fゆらぎ”を持つと言われる美声だけでなく、そこにしっかりとしたテーマがあり、德永英明からのメッセージが内包されていることが特徴であるし、決してそこを見逃してはならない。テーマ。メッセージ。誤解を恐れずに言えば、それは彼からの問題提起と言ってもいいし、あるいは彼自身の自問自答であり、自己啓発であると言ってもいいだろう。アルバムのオープニングからそれは明らかであるように思う。

《夜空を切り裂き ビルが伸びてゆく/仮面をやぶって 人が歩き出す/欲望のカケラが 街を埋めてゆく/小さな叫びが 海へ落ちてゆく》《変わり始める 時代の中で/伺を見るのか 君と/同じ瞳で 同じ拳で/立ち上がれたら/きっといつか/都会にも 綺麗な花が咲くだろう》(M1「NEWS」)。

《何も聞こえない 何も聞かせてくれない/僕の身体が昔より 大人になったからなのか》《飾られた行きばのない押し寄せる人波に/本当の幸せ教えてよ 壊れかけのRadio》《遠ざかる故郷の空 帰れない人波に/本当の幸せ教えてよ 壊れかけのRadio》《遠ざかる溢れた夢 帰れない人波に/本当の幸せ教えてよ 壊れかけのRadio》(M2「壊れかけのRadio」)。

《ビルが伸びてゆく》や《欲望のカケラ》辺りが如何にもバブル景気に沸いていた当時の世相を感じさせ、《小さな叫びが 海へ落ちてゆく》とそれに対する警鐘を鳴らしつつも、《何も聞こえない 何も聞かせてくれない》《本当の幸せ教えてよ》と、すぐに持論を展開させるのではなく、あくまでも疑問を投げかけている。M2 に関して言えば、今更ながら“壊れかけ”という形容にグッとくる。役目を終えつつあるように思えて、まだ完全に御役御免というわけではない。あるいはもし御役御免だとしたら、そこに何を見出すか。そんなことを否応にも考えてしまう言葉だ。注目は本作が1990年10月9日(=トクの日)発売だったということ。いわゆる“バブル崩壊”が[内閣府景気基準日付でのバブル崩壊期間(第1次平成不況や複合不況とも呼ばれる)は、1991年(平成3年)3月から1993年(平成5年)10月までの景気後退期を指す]というから、この『JUSTICE』はその直前の発売だ([]はWikipediaからの引用)。楽曲制作自体は発売日より一年近く遡らなければならないだろうから、その先見の明は称えられて然るべきであろう。“優れたアーティストは未来を予見する”と言われるが、まさしくそれである。

以降、アルバムはM3「MYKONOS」からM9「CRESCENT GIRL」まで、さまざまなシチュエーションのラブソングが続く。ラブソングというのは自分の見立てで、男女の恋愛に限定されたものだけでもなかろうが、概ね自分と相手の機微を描いたものだ。なので、パッと聴き、オープニングとは趣を異にしているかのようにも思える。サウンドもブラスセクションがきびきびと鳴るアッパーナンバー(M3「MYKONOS」)、AORなミッドチューン(M4「帰れない二人」)、ストリングスを取り入れたゴージャスなアンサンブル(M6「道標」)、1980年代っぽいエッジーなバンドサウンド(M8「Be nude」)等々、バラエティー豊かで聴いていて飽きない作りだ。だが、単に耳障りが良く、そこにある物語を眺めるでおしまい…という楽曲ではない。例えば、M6「道標」では、《歩き続けてた 青春の舗道を/振り向けばいつも 君が隣にいる》としながらも、《匿名希望の街で 今日も僕は生きてゆく》と、都会を揶揄する言葉をサラリと入れているし、M7「雨が降る」ではダークかつヘヴィなサウンドで、そこに不穏な空気を注入している。この辺はありでもまた述べるが、一見独立したポップソングに見えて、決してそうでもないのである。

OKMusic編集部

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