浜田省吾は『J.BOY』で
1980年代の豊かな日本に
何を描き、何を問いかけたのか、
改めて検証してみた

逡巡し、彷徨う人たちの姿

『J.BOY』にはここまで掲出した歌詞ーープロテストソングにも近いナンバーが多いかというと、そうでもない。M2やM8は政治的抗議の意味合いはあんまり感じられないので、3曲程度。18分の3と、はっきり言えばその割合は少ない。ただ、そのメッセージ性がはっきりとしている上、その傾向は本作に限ったことではなく、本作前後のアルバムにもこうした歌詞が収められているので、一部リスナーにはそういう認識があったかもしれないが、浜省の本質はプロテストソングではないだろう。少なくともそれだけではないのは間違いないと思う。それよりも、今回、『J.BOY』を聴いて改めて感じたのは、そうしたはっきりとした物言いよりも、その真逆と言っていい、逡巡や彷徨を描いたものが多いということだ。恋愛の描写に関してはほとんどそうだと言っていいような気がする。

《ショーウィンドゥに映った 黒い目をした J.BOY/帰る故郷を見失って…》《We were lookin'for AMERICA/映画の中の アメリカン・ドリーム/今も AMERICA/あの娘の 輝いていた瞳 想い出す》(M3「AMERICA」)。

《おれには どこか心に欠けたところがあるのか/触れるすべてを壊しちまう/強さなのか 脆さなのか わからない/でも気付けば/大切なもの いつもおきざりにして》(M5「悲しみの岸辺」)。

《これは愛なの?/と おれに尋ねるのは やめてくれ/身体と心 重ね合う理由は ただ…》《愛という仕草 愛という約束事/何度も互いに 裏切ってきたはずさ/Lonely/ホテルの窓に 映ってる 二人は…/Lonely もう 若くない/このままでいい 夜を背にして》(M9「LONELY -愛という約束事-」)。

《君を想う時 喜びと悲しみ/ふたつの想いに 揺れ動いている/君を裁こうとするその心が/時におれを傷つけてしまう》(M10「もうひとつの土曜日」)。

《口づさめば 悲しい歌ばかり/届かぬ想いに 胸を痛めて/ああ 今日もまた呼ぶ声に応えては/ああ 訳もなく砕かれて 手のひらから落ちて/今はおれ22 初めて知る/行き止まりの 路地裏で》(M13「路地裏の少年」)。

《お前が大切にしてきた幻想が脆く/流されてく波打ち際 砂の城のように》《愛だけが最後の答とわかるまでは/おれもひとり彷徨ってる悪い夢の中を》(M16「SWEET LITTLE DARLIN'」)。

M13「路地裏の少年」に至っては、逡巡、彷徨どころか、文字通りの行き止まり状態である。もちろん、上記は歌詞の一部抜粋なので、それが即ち楽曲全体のテーマかと言うと必ずしもそうではないのだろうが、決心が付かない感じであったり、当てもない状態であったりを丁寧に描いていることは間違いない。歌詞の背景はバラバラだから、いつ何時どんな状況でもそれが起こり得ることを指摘しているようでもあるし、ここまで多いとその状態こそがデフォルトであると言っているようでもある。はっきりとしない状態ーー誤解を恐れずに言えば、“答えが出ない状態”こそが人間の本質であると言っているようにも捉えることが出来る。個人的には、こうした状態、スタンスをM1、M14、M17と重ねることで、『J.BOY』というアルバムをより立体的に楽しめるようにも思うし、“J”の意味も理解できるような気もする。

OKMusic編集部

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