エクスペリメンタルロックの
ひとつの完成形となった
ヘンリー・カウの名盤『不安』

『Unrest』(’74)/Henry Cow

『Unrest』(’74)/Henry Cow

ロバート・ワイアット、ケヴィン・エアーズ、リチャード・シンクレアらを擁したワイルド・フラワーズは67年に活動を停止、ソフト・マシーンとキャラヴァンに分裂し、彼らとその周辺にいたアーティストは“カンタベリー派”と呼ばれるようになる。カンタベリー派とひと口に言っても、そのサウンドは多岐にわたるが、基本的には前衛ジャズ、ロック、現代音楽などを融合させたスタイルが底流にある。ソフト・マシーンやフランク・ザッパらのようなアヴァンロックに影響を受けたヘンリー・カウは、ケンブリッジ大に通うふたりの学生(フレッド・フリスとティム・ホジキンソン)によって結成された。当初、彼ら以外のメンバーは流動的で、69年にジョン・グリーヴス(Ba)が、71年にクリス・カトラー(Dr)が参加し、グループは本格的に始動する。今回紹介する『不安(原題:Unrest/旧邦題:アンレスト)』は彼らの2ndアルバムで、緻密に構築された側面と即興音楽の側面の両面を併せ持っており、その後のロックやジャズの進化に大きな影響を与えた傑作だ。

フレッド・フリスの才能

フレッド・フリスはマルチ・インスゥトゥルメンタリストで、世界中の音楽に精通した反体制のアーティストである。ヘンリー・カウをはじめ、彼が参加したアート・べアーズ、スケルトン・クルー、ネイキッド・シティなど、どれもがフリスの音楽そのものであり、彼の音楽世界では即興演奏と譜面演奏、構築と破壊、現代音楽とクラシック、商業音楽と芸術音楽などが普通に共存している。彼はまさしく真の前衛音楽家であり、デレク・ベイリー、ジョン・ゾーン、ビル・フリゼル、ユージーン・チャドボーンらと類似点の多い天才である。ロックファンなら、フレンチ・フリス・カイザー・トンプソンの連名で2枚のアルバム『リヴ、ラヴ、ラーフ&ローフ』(’87)『インヴィジブル・ミーンズ』(’90)を出しているのでご存知の方がいるかもしれない。また、フリスは日本のアーティストとの交流も多い。

ヘンリー・カウの音楽

72年にクレイジー・メイベルというブリティッシュ・ハードロックのバンドでサックスとフルートを吹いていたジェフ・レイが参加し、カウは5人組となる。カンタベリー派の多くに見られるジャズロック的で緻密なサウンドを基本としながらも、フリージャズや室内楽的な要素を前面に押し出した彼らのスタイルは多分に現代音楽の側面が感じられるが、ロックスピリットに満ちているのも確かである。

当時、新興レーベルとして「売れなくても良い音楽を紹介する」というスタンスを持っていたヴァージンレコードと契約、73年に1stアルバム『伝説(原題:Legend/旧邦題:レジェンド(のちにレッグ・エンド)』をリリースする。当時のヴァージンはファウスト、ケヴィン・コイン、マイク・オールドフィールド、ゴング、スラップ・ハッピーなどを次々にリリースしており、硬派のレーベルとして知られていた。ヘンリー・カウの音楽は、リスナーが選ぶのではなくリスナーを選ぶ性質であるだけに、大きなレコード会社では絶対に出せない(今なら尚更かも…)。

OKMusic編集部

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