戸川純のパンクスピリットに驚く
ライヴアルバムの大傑作『裏玉姫』

公演中にキャラが豹変!?

そんな戸川純が、「玉姫様」を作り、自身で歌うだけでも相当に衝撃的だったわけだが、アルバム『裏玉姫』に収められたパフォーマンスはさらにインパクトの強いものであった。『玉姫様』に収められた「玉姫様」、つまりスタジオ録音版は歌い方がわりと淡々としており、ある意味その無機質な感じであったり、少女っぽい感じであったりが独特の雰囲気を醸し出していたが、本作収録のライヴテイクは豹変と言ってもいいほどの変貌ぶりを見せている。ヴォーカリストとしての戸川純が、彼女がドラマやCMで見せたキャラクターとは別物であることは当たり前と言えば当たり前なのだが、それにしてもそのギャップには程があると言っていいほどの落差を感じた。

とりわけ、それを強く感じるのは《十万馬力の破壊力/レディヒステリック 玉姫様 乱心》と《神秘 神秘 神秘の現象》の箇所。歌ってるんだか叫んでるんだかよく分からない。どこか投げやりでもあるような、歌詞を強調しているような、とにかくすごいのである。M4「踊れない」の《アンチョン イイイイイイイイ ヤッハ》や《私のためのロボットのためのロックンロール》であったり、M5「涙のメカニズム」の《切ないもの それはわたしの言葉よ》であったりも、如何もパンクっぽい。M4は、1970年代後半に存在したパンクバンドのカバーであり、戸川はこのバンドの追っかけをしていたというから、いわゆる“お里が出た”というところだろうか。また、“ヤプーズの演歌をお送りいたします”紹介されたM5にも、こうしたパンクっぽいパフォーマンスを入れる辺り、彼女の中にしっかりとパンクが染みついた証拠と言えるかもしれない。

その、ある種エキセントリックとも言えるヴォーカリゼーションと、それまでブラウン管で彼女が見せていたキャラクターとのギャップに驚くなり萌えるなりするのは当然として、本作の中での彼女のギャップも少なからず驚くところである。M2でパンク然としたパフォーマンスを聴かせていた彼女が曲の終わりのMCでは、そこまで何もなかったかのように素に戻る。“どうも。皆様、こんばんは。ありがとうございます。それでは、1曲目は「玉姫様」という曲でした。2曲目は「ベビーラブ」という曲を聴いてください”。こうして文字に起こすと何でもないようだが、“どうも! 皆様! こんばんは~!”ではない。あくまでも淡々と話している。ドラマやCMに近いとまでは言わないけれど、聴いている側にしてみれば、先ほどまでの激しさが嘘だったように、しれっとしている感じなのだ。

その「ベビーラブ」のあとでは“どうも「ベイビーラブ」でした。ツアー中なんですけど、各地によっていろいろ違いますね。それでは”とM4「踊れない」へ進んだり、M7「ロマンス娘」のあとでは“ありがとうございます。私はあんまり汗をかかないんですけれども、汗びしょです。それで、あの…あの暑いですね。暑い国の人の歌を。「隣の印度人」という曲を聴いてください”とM8「隣の印度人」へつないだりと、観客への礼も失してないし、それなりに話もしている。だが、先ほどまでのワイルドさはどこへやら、人が変わったかのようになる…というか、歌になるとモードが変わるのである。冒頭で“バンドやりてぇ”“ロックやりてぇ”“パンクやりてぇ”と言ったのはそこである、正直言ってリアルタイムで本作を聴いていた1980年代半ばにそれを明確に言葉にできていたわけではないけれども、日常とは180度異なると言っていいキャラクターを放出している様子にはシビれた。魂の解放というとかなり大袈裟かもしれないが、本作での戸川純のパフォーマンスにはそれを感じるし、引いてはロックやパンクといったものはそういうものであることを体現しているかのようである。

前述した通り、『玉姫様』においても彼女はタブーを破っており、それだけも十分にロックでパンクなのだが、『裏玉姫』での表現方法はさらのその上を行ったようでもあった。雑誌のインタビューで彼女は、[自分とは違う人物になりきることが出来る点に芝居の魅力を見いだしている。また、ライヴでの一見奇抜な衣装も、作品世界の様々な状況における人物になりきりたいという変身願望に基づいている]という主旨のことを語ったというから、それが音楽ライヴにおいても発揮されたのだろう([]はWikipediaからの引用)。

OKMusic編集部

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