戸川純のパンクスピリットに驚く
ライヴアルバムの大傑作『裏玉姫』

ポップでカラフルな世界観

さて、そうしたライヴのおける豹変ぶりを強調すると──しかもエキセントリックとかワイルドとか形容してしまうと、まったく知らない人はかなり凶暴なロックライヴと思われかもしれないので、補足しておくと、『裏玉姫』はポップな作品である。そこは推しておこう。M2「玉姫様」こそ、歌メロに派手な抑揚がなく、比較的淡々と続いていくが、M3「ベビーラブ」はいつの時代のアイドルが歌ってもおかしくない感じのポップロック。M4「踊れない」もまたリズムが淡々と進み、歌も抑揚に乏しい印象ではあるが、シンセサイザーが奏でるメロディのループがそれを補っている印象ではある(…と、ここまで書いて、M2「玉姫様」とM4「踊れない」での彼女のパフォーマンスは抑揚の乏しさを補ったものかもしれないなぁ…)。

M5「涙のメカニズム」は、“ヤプーズの演歌”とは言うものの、そこまでの演歌っぽさはなく、どちらかと言うとロシア民謡風で、一風変わった感じのメロディがアルバムのバラエティーさを強くしているようでもある。M6「電車でGO」はハルメンズのカバー(ハルメンズとは、パール兄弟のサエキけんぞうの他、上野耕路、泉水敏郎(Dr)らが在籍していたバンドで、上野はゲルニカのメンバーで戸川と創作活動を共のする人であり、泉水はまさしくヤプーズのメンバー)。歌メロはアイドル歌謡…というと若干語弊があるかもしれないが、テクノポップ風のサウンドと相俟って可愛らしい印象ではある。

M7「ロマンス娘」はグループサウンズっぽいというか、どこか昭和な雰囲気もあるナンバーで、バンドサウンドはR&Rの基本のようでもある。そして、M8「隣の印度人」。タイトルからして奇怪な感じではあるのが、アラビア音階を使った歌の抑揚といい、何とも説明の仕様がない歌詞世界といい、まさにニューウェーブではあるし、個人的にはこの時期のヤプーズの真骨頂とも言えるナンバーではないかと思う。と、中盤の楽曲をザっと紹介しただけでも、そのサウンド、パフォーマンスにおいて好みが分かれるところはあろうが、決して分かりにくいものではないことを確認した。そのバラエティーに富んだ様子は、ライヴハウスという閉鎖空間での演奏を収録したものではあるが、むしろ開かれたものであるような印象を強くするところである。

続くM9「昆虫軍」はテクノ風味が強めではあるものの、バンドサウンドがグイグイとドライヴしていく様子はまさにロックでパンクだ。パンクと言えば、続くM10「パンク蛹化の女」は、まさしくそれである。「蛹化の女」はヨハン・パッヘルベル「カノン」に歌詞を付けたもので、アルバム『玉姫様』においてもラストに収録されたもので、『裏玉姫』が『玉姫様』と対を成す作品であることをはっきりと表している。タイトルに“パンク”とあるだけあって、「蛹化の女」よりもテンポが速く、しかもバンドサウンドである。曲紹介のMCも“それでは、やります…1、2、3、4!”と、高揚感を抑えられなかったのか、ここでのカウントはわりと大声モードだ。でも、そこがいいと思う。歌も全体に粗く、ぜいぜいと肩で息をしている感じもライヴっぽい。真のアンコールといった感じだ。バンドサウンドがアウトロでノイジーに密集してく様子には大団円感もある。やはりライヴパフォーマンスの熱を実によくパッケージしたアルバムであることは疑いようもない。

この『裏玉姫』はカセットのみで発売され、1993年のCD化まではカセット以外では流通されなかったのだが、本作のこの仕様もとても良かった。ネットを介して手軽に映像作品を見ることができる今となってはほぼ笑い話だが、ビデオテープすら世間一般には普及していなかった時代、アダルトカセット(エロカセット)と呼ばれるものがあった。知らない人でより詳しく知りたい人はググってもらえれば…と思うが、要するにアダルトビデオのサウンドオンリー版である。『裏玉姫』にはあれに近い匂いがあった。いけないものを聴くようなアングラ感覚もまたロックであり、パンクであったような気もする。…かなり強引に結びつけた気もしないでもないが、それはそれとして、こういう試みというか遊び心は、フィジカルが売れなくなった今、捻り方次第ではイケるんじゃないかと思うので、最後に記しておく。

TEXT:帆苅智之

アルバム『裏玉姫』1984年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.OVERTURE
    • 2.玉姫様
    • 3.ベビーラブ
    • 4.踊れない
    • 5.涙のメカニズム
    • 6.電車でGO
    • 7.ロマンス娘
    • 8.隣の印度人
    • 9.昆虫軍
    • 10.パンク蛹化の女
『裏玉姫』('84)/戸川 純とヤプーズ

OKMusic編集部

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