ハルカトミユキは何故いま希望を歌う
のか 最新アルバム『明日は晴れるよ
』の真意に迫った

ハルカトミユキはまるで時代の闇を映し出す鏡のように、前時代的な価値観や同調圧力、集団心理といった世の中にはびこる不条理や、それらに押しつぶされそうな人間の孤独を描き続けてきた。革命を扇動する意図があるわけでもなく、未来を約束するわけでもなく、だからこそリアルで聴く者一人ひとりの心に旗が立つような、二人が常々言ってきた“希望の歌”がそこにはある。

そして世界がコロナ禍という未曽有の事態に見舞われた2020年。さまざまな情報が錯綜し選択に迷い続けて気が滅入る日々のなか、私は二人が音楽を通して叫び続けてきたことを、あらためて見直す必要性を痛感していた。そんなタイミングでリリースされたEP『最愛の不要品』(2020年6月)は、タイトルからもわかるとおりカルチャーが〝不要不急”とされたことで起こった意見の分断、正義という名の皮を被った暴力、そして外出自粛を余儀なくされた孤独や束の間の安息などが交差する、その瞬間の記録のような作品だった。
そしてあれから1年2カ月、状況が好転したとは言えないなかでオリジナルフルアルバムとしては約4年ぶりとなる『明日は晴れるよ』のリリースが発表された。今までにない明確に希望を示したタイトルと明るい光の指したジャケット写真、“ラブソング”と“応援歌”というテーマ。そして実際に聴いてみてもそのイメージ通りの作風に驚く。明らかなネクストフェーズ。それはまるで、二人が生々しい現実をその体で受け止め続けてきたからこそ見えてきたユートピアのよう。パンデミックにより失われた時間はもう戻らないけれど、その先にもっと明るい未来を描くために、今からまた新しい一歩を踏み出そうと思えた。
――オリジナルフルアルバムとしては前作『溜息の断面図』(2017年6月)から約4年ぶりなんですけど、もうそんなに経ったのかと。
ハルカ:私も同じような感覚ですね。間にシングル「17才」(2018年11月)とベストアルバム(2019年5月)があって、昨年もEP『最愛の不要品』を出しているので、リリース自体は続いていたのと、コロナのパンデミックで時間の感じ方も少し変わったこともあってか、スタッフのツイートやニュースに“4年2カ月ぶりのアルバム”と出ているのを見て、「もうそんなに経ったんだ」って、少し驚きました。
――私が時間の経過を実感できなかった理由は、『溜息の断面図』の作風にもあるんです。怒りが表に出た曲で、例えば収録曲「近眼のゾンビ」の<誰かが死ぬまで裁判ごっこ>という歌詞などは、まさに今、その問題を強く実感する局面で。
ハルカ:本当に糾弾されるべき悪がそれを免れて、言葉尻だけを捕まえられてとことん叩かれる人がいる。そういう状況がここ数年、特にコロナによって、よりはっきりと浮かび上がってきたっていうのはあると思います。
――ハルカトミユキは常に“希望の歌”ということを口にされてきました。では、その希望とは何なのか。同調圧力や集団心理、前時代的な価値観といったプレッシャーに感じる孤独感を救い上げることができる言葉やサウンドの力だと、私は思います。だからコロナ禍で大きな不安を抱えたまま家に一人でいることを選んだときに、過去の作品、特に『溜息の断面図』は支えになったんです。
ハルカ:なるほど。おっしゃっていることはわかる気がします。
――だから今こそハルカトミユキの新曲が聴きたいという期待感はいつも心のどこかにありました。そのうえで『最愛の不要品』はすごく合点がいくプラスアルファの作品だった。それに対して今回のアルバムは『明日は晴れるよ』というタイトルがきて、今までにない晴天下でのジャケット写真が。作品の内容もダイレクトに希望を指す言葉とポップな曲調が主になっていることには、正直言ってかなりびっくりしました。しかし一方で、そのほうが楽しめている自分もいるんです。
ハルカ:1回目の緊急事態宣言の頃は、人間の膿みたいなものがどんどん溢れてきたことに感じる憤りが強かったんです。それは3.11の頃にも感じたこと。すごく殺伐としていてぎすぎすしていて、自粛警察が出てきてみたいな。震災とかパンデミックとか、そういう危機的な状況に陥ったときに人の醜さって一気に出るんだなって。
――3.11のあとには、まさにその頃のムードについて歌った「絶望ごっこ」を含むEP『虚言者が夜明けを告げる。僕たちが、いつまでも黙っていると思うな。』(2012年11月)をリリースされています。
ハルカ:そうですね。そして今回のコロナは、“不要不急”という言葉も出てきて、ライブハウスが感染拡大の大きな温床の一つだって、やり玉にあげられたじゃないですか。昨年リリースしたEP『最愛の不要品』は、有事になって文化が“不要”だとされても、どうやって対抗していいのかわからないことで心に生まれた葛藤を作品にしました。
――しかし、2021年夏現在、世の中の状況は手放しでよくなったとは言えません。そこでなぜ『明日は晴れるよ』だったのか。未来をそこまで直接的に明るい言葉で指したことは、今までほぼなかったと思うのですが。
ハルカ:昨年の今頃って、「2021年に入れば少しはよくなっている」と思っていたんですけど、なんなら去年と比べてひどいとも言える状況になっていますよね。そう感じたときに今までのような怒りや葛藤というよりは、この先どうすればいいのかわからない、もう駄目なんじゃないかって、無気力みたいなところに気持ちが落ちちゃったんです。ハルカトミユキを続けること、自分自身が音楽を作ることにも意味が見出せなくなって、もう何もかもやめようと思いました。でもそこから気持ちが変化していって今に至ります。
ハルカトミユキ・ハルカ
――ハルカさんがハルカトミユキを本気でやめようと思ったのは2回目ですよね? 2015年前後、12カ月連続シングルの第一弾「世界」あたりのタイミングでそういうことがあったと、私が進行役を担当させてもらったオフィシャルフォトブック『Memento』でのお二人の対談でおっしゃっていました。あの時はミユキさんが止めたと聞きましたが、今回はどうだったんですか?
ミユキ:「世界」の頃は私も「こらえてくれ」ってお願いしましたけど、今回はそこまで止めに入ったっていう感じではないし、ハルカも私も言葉で留まったわけではないと思います。私自身も『最愛の不要品』のあと、曲を作ってもライブは配信しかできないし、けっこうしんどい時期があったんです。でもそこで手を止めたらますます意味がわからなくなって、本当に何もしなくなるような気がしていたから音楽と向き合うしかないみたいな感じで。ある意味ハルカと近い部分がありました。
――そうだったんですね。
ミユキ:そこでハルカには、本当に歌うことや曲を作ることが嫌いになったんだったらそれでいいと思うし、私もそれ以上何も言わないけど、もし何かのきっかけで変わるんだったら続けたほうがいいって、そういうことは話しました。
ハルカ:そんなこんなで私なりにいろいろと気持ちを整理している頃に、今回のアルバムの話をいただいたことがきっかけで、ある意味吹っ切れたというか、もう一度曲を作ってみたくなりました。そこで思ったのが、すごく腹の立つこともたくさんあるけど、同じように怒っている人や逆境にもめげずに頑張っている人に何が言えるんだろうって、怒りからくる表現ではなく、そっちの感情が自然に湧いてきたんです。
――今作で世の中の不条理を生々しく描き出すことをしなかった理由が少し見えてきた気がします。
ハルカ:だから意図的にそうしたわけではないんですよね。たしかにコロナ禍になってから、過去の作品が「今こそ響く」とか「涙が出た」とか言っていただけたことはたくさんありました。そのなかには今までそこまでハルカトミユキには興味のなかった人もいて。それって、私たちの曲が必要なくらいダメージを食らっている人が増えているということ。そこに音楽の存在意義があったとしても手放しに喜ばしいことではないじゃないですか。だから今まで言い続けたことが伝わったというよりは、「みんな弱ってるんだな」という印象の方が強かった。みんながいっぱいいっぱいで、わたしも同じように弱りきっていて、だから今回は今までよりもストレートに、たとえ嘘でも「明日は晴れるよ」って、自分を鼓舞しないとわたし自身も立っていられなくて。だから自ずとそうなっていった感じです。
ハルカトミユキ・ミユキ
――今ハルカさんがおっしゃったことについてお二人でも話し合ったうえで、作品を作っていったのですか?
ミユキ:今の話を聞いて、ハルカがなぜストレートに希望を歌いたいと思ったのかは、わかっているようでわかってなかったと思います(笑)。でも、「自然に湧いてきた」「自ずとそうなった」と言ったことについてはすごくわかるんです。と言うのも、今回の収録曲のうちの7曲はアルバムを出すことが決まってから書き下ろしたんですけど、ハルカが曲や歌詞を書くスピードがいつになく速かった。これまではトラックができていても歌詞で詰まることがしょっちゅうあったのに、今回はデモの段階で歌詞もフルでできていて。それに、今までよりっていうと語弊がありますけど、とにかくずっと楽しそうだったんです。
ハルカ:1カ月くらいですべて完成したんです。私たちにとってはすごく速い。コロナであまりにも手応えのない日々が長く続いて、とことん落ちたところからの心境の変化によって創作意欲が湧いてきたから、そのギャップで今までにないくらいの水を得た魚のような状態だったのかもしれれません。だから出てくるものも前向きになっていってスピーディーに進んだんだと思います。
――いただいた資料のミユキさんコメントには「"ラブソング"と"応援歌”がテーマの今作、ど真ん中に勝負を挑む気持ちで曲を作りました」とあります。特に“ラブソング”という言葉は初めて聞きましたし、“ど真ん中”という言葉も、これまでの作品もお二人なりの真ん中だったと思うのですが、そこにはどういう意味があるのでしょうか。
ミユキ:「ハルカトミユキがラブソングとか応援歌を作ったらどんな曲になるんだろう」って、レーベルの方に言われたときに、そうだと受け取れる曲はあったとしても明確なテーマにしたことはなかったことに気がつきました。その時の自分のマインドも、周りは関係なく自分がやりたい音楽をやるという気持ちは『最愛の不要品』でまっとうできた感触があったので、その次の段階として単純に「どうやったらもっと人に伝わるんだろう」というモードに入っていました。そこで、ラブソングとか応援歌って、すごくありふれたテーマなのにどんどんいい曲が生まれてトップチャートにも入り続けていることに興味が出てきて。じゃあ私たちがそのフィールドに立って勝負したらどうなるのか、そういう意味での“ど真ん中”で、今まで以上にポップスであることを意識したキャッチーな曲を作ろうとしたことがすごく楽しかったです。
――1曲目の「RAINY」も2曲目の「鳴らない電話」も、それらを題材に恋バナができるようなラブソングで。私もお二人と顔見知りになって長いですけど、恋愛観とか好きなタイプの男性とかまったく知らないですし、勝手なイメージで申し訳ないんですけど、そういう話は好きじゃないと思って聞きたくなっても避けていたところもあって(笑)。
ハルカ:(笑)。正直、不本意にそういう人じゃないイメージを強調されてきた部分はありました。でも私は別に才能に溢れてもいないし変わった人間でもないし狂ってもいない。普通のことを普通に歌いたいってずっと思っていたんです。何をもって普通かは難しいし、人から見て多少ずれているところはあるのかもしれないですけど、いつだって「こういうことを思っている人はいっぱいいるだろうな」って思いながら歌詞を書いていました。その普通さを大切にしたいんです。
――日々に感じることを吐露していただけで、奇をてらってきたとは思っていないんですけど、それにしても前提として“ラブソング”は意外でした。
ハルカ:どんな気持ちを歌ってもそれは生活のことだから、恋愛も入ってくるんです。だったら今回はそのくらいのテンションであえて“ラブソング”をテーマに書いてみようって。そこで気がついたのが、デビューした前後に書きたくて書いていた内容とそんなに変わらないということ。当時はすごく素直で無知なところもあって、そこがよさでもあった。でも社会に揉まれていくことでなぜか書かなくなった何かが確実にあって、今回はそれらを排除したくて。デビュー期のあの人がそのまま真っすぐ成長したらどうなっていたのか。例えば「鳴らない電話」は、今は“女性らしさ”が見直されている時代で、そこには昔とは違う私なりの考えもありつつ、当時も今も心のどこかに存在し続けてきた女の子としての自分に素直になったというか、「この気持ち、わかってくれる女性は多いんじゃないかな」って思いながら書いたり。
――3曲目の「夏にだまされて」は、ハルカさんのメロディのは日本のフォークやニューミュージック的な要素があって、ミユキさんは80年代のきらびやかなポップスがお好きだと公言されている、お二人のルーツが絶妙な塩梅で融合した、どこか懐かしい匂いのするシティポップ風の曲。
ハルカ:確かに、昔のシティポップはよく聴いていました。全体的には、今作は私たちなりのJ-POPを作りたかったんですよね。それが歴史や文脈的に正しいのかどうかはわかりませんけど。
――ハルカさんは“J-POP”、ミユキさんは「今まで以上にポップスであることを意識した」とおっしゃった一貫性のなかに、さまざまなタイプの曲があるアルバムです。
ミユキ:今回は馴染みの安原兵衛さんと、新たに坂本祐介さん、江畑兵衛さんのお二人にアレンジをお願いしました。江畑さんはTRIPLANEというバンドの方で、「煌びやかにしたいけどどこかに生音ならではの泥臭さも出したい」っていうイメージを伝えただけで、すごく理想的なサウンドが返ってきました。坂本さんはいろんなタイプのアーティストをプロデュースしている方で、ハルカトミユキのいいところを大切にしてくださったうえで意見やアドバイスをくださいました。安原さんとやるときはいつもほぼ完成したサウンドがある状態で、それをスタジオで一緒にアップデートしてくださるんです。結果、それぞれの曲の色がはっきりした、なおかつアルバムとしてもまとなりのある作品になったと思います。
――今作を引っ提げてのツアーを9月に行いますが、「約束」のような初期のギターロックの香りが残っている曲は、過去の曲ともハマるイメージが湧くんですけど、根っこの部分で変化があったぶん、どういうライブになるのか予想がつきません。
ハルカ:今日こうしてインタビューを受けて思ったんですけど、今は前を向いて生きていきたいけどそれを邪魔する腹の立つことことも毎日起こるみたいな、アップダウンの激しい状況に置かれている人が多いから、今の時代にハマると言ってくださった怒りを表した昔の曲と今の曲を素直な気持ちで織り交ぜていくことで、すごくいいライブになるような気がします。
――この先の動きも楽しみにしています。今日はありがとうございました。
ハルカ&ミユキ:ありがとうございました。

取材・文=TAISHI IWAMI 撮影=高田梓

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