変わらぬ信念のアップデート。遥海が
信じる歌の力とは

メジャー・デビューのタイミングでコロナ禍に見舞われ先の予定が頓挫。自身ほか数名がウイルスに感染したことによりミュージカル『RENT』も中断になり入院生活を余儀なくされるなど、苦悩の2020年を経て2021年。遥海が大きくスケールアップした。まずは2月。荒れ果てた大地(心)の上に強く立ち新たな決意を表明するかのように、オーセンティックな70年代ソウルやパワフルなゴスペル・コーラスとともに持ち前のヴォーカル・パフォーマンスを披露した新曲「FLY」を含む『INSPIERD EP』をリリースする。そして7月~9月にかけて、まさに「FLY」で歌ったことを有言実行したとも言えるシングルを3カ月連続で発表した。それだけで物語を完結させることのできる歌声をあえてダンス・フロアに捧げたような第一弾の「ずっと、、、」。NHK『みんなのうた』8月~9月楽曲でキャリア史上もっともシンプルなサウンドとともに歌った第二弾の「スナビキソウ」。国民的ドラマの映画作品、『科捜研の女 -劇場版-』の主題歌で、物語の内容と人生がシンクロする歌詞を、これまでにないレベルのパワフルなサウンドと共鳴しながら歌い上げた最新曲「声」。そのどれもが新たなチャレンジで個性を更新する圧倒的な魅力に溢れている。今回はそんな遥海の心境の変化と、3曲のシングルへの想いについて深堀りすべくインタビューをおこなった。


Photo:Ryutaro Izaki
Text:Taishi Iwami
――前回遥海さんにインタビューしたのは2020年の11月。本来はシングル「WEAK」(2020年12月11日)に的を絞ってじっくり話を聞く予定でした。しかしご自身ほか何名かが新型コロナウイルスに感染したため、出演ミュージカルの『RENT』が11月の終盤で中断に。インタビューの話自体もいったん白紙に戻りかけたのですが、最終的にはまだコロナの症状が残るなか、リモートで対応していただきました。

そうでしたね。熱は下がっていたんですけど咳と息苦しさはまだ残っていて、精神的にもかなりしんどかったことを覚えています。でも、ちゃんと言っておきたいこともあったし、「WEAK」のリリースも控えていたので。あらためて、あの時はありがとうございました。

――こちらこそです。あれからお体の具合はどうですか?

体はぜんぜん動くんですけど、まだ酸欠に近いような状態になることはあります。歌っていてもときどき息苦しいし、「もう1回感染したらどうなるんだろう」という不安も強くて。だから低酸素トレーニングやメディテーションを始めて、最近は体の不調やネガティヴな感情とも、うまく付き合えるようになってきたと思います。

――シングル「WEAK」は文字通りご自身の弱さととことん向き合った曲。それに対して2021年2月にリリースされたEP『INSPIRED EP』は、リード曲の「FLY」はじめ、Alicia Keys「No One」やRihanna「Take A Bow」のカヴァーなど、色とりどりの前向きな曲が揃っていました。その流れは遥海さんの心の移り変わりそのもののようだと感じたのですが、いかがですか?

「WEAK」も『INSPIRED EP』もレコーディングは『RENT』より前でした。自分がコロナにかかるなんて思ってもいなかった時期なんですけど、結果的に『RENT』が中止になってからの、私の心の動きをリアルに表したリリースの流れになったと思います。

――どのように心が動いていったのでしょうか。

『RENT』は私にとって初めての演技経験でした。しかも、ミミというすごく難しい役。私にはHIVに感染したドラッグ依存症のストリッパーなんて、想像もできなかったんです。「WEAK」は、その稽古のなかで感じた自分の弱さや、コロナにかかって落ち込んでいた心を描き出したような曲でした。そして、しばらく入院することになって、私なりに前向きな気持ちを取り戻したかったから、復帰したらいつでも歌えるように自分の曲をよく聴いていたんです。そこで、もっとも私の支えになってくれた曲が「FLY」でした。

――2020年末から2021年を「WEAK」と「FLY」のリリースで跨ぎ、文字通りどん底から気持ち新たに飛び立った。しかしコロナ禍の状況は良くなったとは言えないまま現在に至ります。

そうですね。まだまだ先が見えない状況が続いています。でも、結局は目の前のことを一つひとつクリアしてくことしかできないし、それがやるべきこと。ものすごく希望に溢れているわけではないけれど、以前よりは光を見出せるようにはなって、心は多少軽くなりました。
――歌うことに対する考え方に変化はありましたか?

喜怒哀楽をちゃんと表現できるアーティスト、シンガーになりたい。その信念はずっと変わっていません。そのうえで、一つひとつの経験が線になって繋がっていくような、引き出しが増えたというか、私なりに表現力をアップデートできたと思います。

――経験によって得た強さ。「FLY」はまさにそうだと思います。

「FLY」は言ってしまえば綺麗ごとなんですよ。

――ざっくりと言えば「必ず明るい未来があるから信じて」という曲ですよね。

私自身、落ち込んでいるときにそういうことを言われると「別に答えは求めていないし」っていらつくこともあるんです。じゃあ私は辛いとき何に共感するんだって考えて、歌詞にもすごくこだわったことで、イラっとしない綺麗ごとになったと思います。そしてさっきも言いましたけど、結果的に入院中の私を前向きにしてくれた。自分の曲に救われたのが自分だなんて、不思議ですよね。
――それが曲の説得力になっているのだと思います。そして2021年7月の「ずっと、、、」、8月の「スナビキソウ」、9月の「声」という3カ月連続シングルに繋がる。どの曲にも遥海さんの新たなチャレンジが聴いて取れる、まさに「FLY」で歌ったことを実行した3曲だと思います。まずは「ずっと、、、」について。サビにあたる部分がダンスミュージックのドロップになっていて、遥海さんは歌わない。曲のハイライトを演奏に託すような<Forever>というフレーズにドキッとしました。

もともとこういう音色(おんしょく)ではなかったんですけど、いつもとは違う雰囲気にしたくなったんです。ドロップのところはライヴでぶち上がる光景を想像しました。エントランスでいったん投げ捨てた悩みを、ほんとうにすべて忘れて無になってほしい。音だけを感じて踊ってほしい。そう思いながら歌を積み重ねて一気に開放するようなイメージですね。誰かの想いや悩みに直接作用するような曲もいいけれど、現実から逃避して踊ることに没頭できる曲もいいなって。

――歌詞もキラキラしたラヴ・ソングで、それを“現実逃避”とすると語弊があるかもしれませんが、曲調にすごくはまっています。

そうですね。例えば<車に乗り込んで走らせて 行く当てなんて決めずに>とか、私はそんな恋愛をしたことがなかったから、最初は歌詞に共感できなかったんです。じゃあどうやって言葉を自分のものにすればいいのか。考えれば考えるほど脳が閉じちゃって。でもこういう恋愛が嫌なわけではない。ドラマとかで似たようなシーンになったときに「キャー!」とか言ってる自分もいるんですよね。だから主人公の気持ちを理解しようとするのではなく、そんな恋することに憧れているマインドでいこうって。そしたらだんだんとキュンキュンしてきて、現実や本来の性格なんて忘れて歌うことができました。だから嫌なことを忘れて踊れるサウンドとの相性もすごくいいんです。ミュージック・ビデオに私が出ていないことも、この曲の特徴を表していると思います。
――続く「スナビキソウ」はNHKで1960年代から放送されている歌番組『みんなのうた』の2021年8月~9月用のオンエア曲です。

歴史のある番組で、小さな子供からお爺ちゃんお婆ちゃんにまで届く歌が歌えるんだって、ワクワクが止まらなかったです。

――潮風をまともに受ける厳しい環境のなかで美しく強い花を咲かせるスナビキソウと人生を重ねた歌詞が印象的です。

この曲は私自身のことでもあるんです。私は幼い頃にフィリピンで育ったので、日本語を使わない環境で育ちました。だから13歳で日本にきた時に、まったく日本語を話すことができず言葉が通じなくて、一人の人間として生きていくうえでも、歌手としても難しい場面が何度もあった。それでもなんとかここまでやってきた私とスナビキソウを結び付けて作ってくださったんです。

――実際に重なる部分はたくさんありましたか?

もうぜんぶと言ってもいいくらい。悩みって、やっと一つ解決したと思ったらまたやってくるじゃないですか。生きていると悩みもどんどん更新されるから「もう受け止めたくない!」って、そんなしんどい気持ちを軽くしてくれる曲。特に<塩辛い涙の上にしか咲かない花がある>、<夢はきっと咲く場所を選ばない>という歌詞が好きなんですけど、何年後かには別のフレーズにハッとするかもしれない。それくらいたくさんの名言が詰まっています。
――終盤までアコースティック・ギターと歌のみで進むことで生まれる繊細さや温かみ、力強さや緊張感も、歌詞とすごくマッチしています。

もともとこの曲はもっとビッグなフル・バンドで演奏する予定だったんです。でもスナビキソウってもっとシンプルで凛としているよねってことで、今のアレンジに落ち着きました。レコーディングもシンプルに一発録り。そして結果的にですけど、歌詞と同様にまるで私自身のようなサウンドに。アコースティック・ギターの一本の音色が私にはいちばん合っているんですよね。

――遥海さんにアコギ一本のイメージはないのですが、どういうことですか?

フィリピンってアコースティック・ギターと日常生活の距離がすごく近いんです。私の場合はお姉ちゃんが持っていて、よく弾いているのを聴いていました。私はまだ小さかったから持たせてはくれなかったんですけど(笑)。朝起きて「なんか鳴ってるなあ」と思ったら隣の人が弾いている音だったり、教会にもあったし、学校でも先生が弾いて私が歌ったり、セッションみたいことをよくしていました。

――遥海さんといえば、「FLY」のような、オーセンティックなソウルやゴスペルのイメージが強いのですが。

それはそうだと思います。「FLY」がアーティストの遥海だとすれば、「スナビキソウ」は私のふだんの生活、本名の草ケ谷遥海っていう感じですね。もともと草ケ谷遥海として活動していて、アーティストとしての自分を見つめ直して改名した経緯はありますけど、結局どっちも私ですから。
――最新曲の「声」は、国民的ドラマ『科捜研の女』の映画版『映画『科捜研の女 -劇場版-』の主題歌。すごくパワフルで奥行きもある希望的なバラードで、一連の活動の集大成のような印象も受けました。

ここまでで話したことをぜんぶまとめて「これが今の遥海だ」って曲ですね。

――遥海さんの歌声をもっとも深く知る人物の一人、松浦晃久さんが作曲、編曲とプロデュースを手掛けられました。松浦さんのパワーと遥海さんのポテンシャルを信じる心に遥海さんが応えた、相乗効果の凄まじい曲。

私もそう思います。『INSPIRED EP』の時にもヴォーカル・ディレクションで入ってくださったんですけど、私の声の特徴やレンジをわかってくれている。私は音楽的な知識がまだ足りなくて、「感覚、直感、気分!」みたいなタイプ。だから迷いだすと戻れなくなることもよくあって、そんなときに松浦さんはちゃんとロジカルに対応してくれます。私に足りない部分を補ってくれることはほんとうに大きいですね。

――遥海さんのことを理解しているからこそ、歌が音に負けないことはないと確信しているからこそ、ここまでリッチでダイナミックなアレンジに踏み切れたような気がするんです。

シンプルなアレンジに仮歌の入ったものを歌ったあとにレコーディングに臨んだんですけど、弦だけでも15人くらいいて、「こんなにたくさんの方々が遥海の声を支えてくれるんだ」ってプレッシャーを感じると同時に、これだけの生楽器が出す力強さや繊細さに負けたくないっていう気持ちも溢れてきて、想像以上に楽しい現場になりました。1回で何キロカロリー使うんだっていう曲なんですけど、低いところからコーラスで「パチーン!」と上がる部分とか、注目してもらえるとおもしろいかもしれません。
――歌詞は科捜研という仕事と人の生き様がリンクする内容で、映画館に行きたくなりました。

『科捜研の女』って知らない人はまずいないですよね?すごくないですか?その圧倒的な事実も含めてチャレンジングな曲でしたね。曲の制作段階で観ることができた映像や資料を何度も調べて、情報を整理したうえでしっかり私自身の気持ちも込めないと、物語も立たないし歌う意味もないから、レコーディングまではけっこういろんなことを考えました。

――そして「声」というタイトル。そこには事件現場の“声”という意味もあると思いますが、シンガーが“声”をテーマに歌うこともまた、すごく意味のあることだと思います。

私も「声」というタイトルの曲を歌うことには特別な意味を感じています。シンガーとしての声もですけど、意志という意味で自分の声を上げることはすごく大切。声をあげられなくなってしまうと大きなフラストレーションを抱えることになるし、その世界のなかで生きている実感が持てなくなると思うんです。私自身、日本語が話せなかった頃は声がないような感覚で、誰にも聞いてもらえないしわかってもらえないし、ずっと「辛い」て思っていましたから。

――遥海さんの立場だから感じることもある。

話は少し変わるんですけど、<目に見えるものが全ての世界の中で 何を掴み何を捨てて 何処へ向かえばいいと言うのだろう>という歌詞がほんとうにそうだなって。今はその視覚情報ってSNSの占める割合が大きいじゃないですか。そこではみんな基本的に見せたいものだけを見せる。その情報に対して、さっきまでいい気分だったのに一瞬で不愉快になることもあるし、スワイプするたびに一喜一憂する自分にも嫌気がさすこともある。じゃあそんなフラストレーションはどこに出すのとなったときに、メンタルヘルスの問題って、タブーというか正当に扱われない場面が多いように思うんです。

――「あの人なんか病んでる」みたいなことですか?

そこで日本人は我慢強いから、それはいいところでもあるけれど、言っても構わないことや言うべきことまで、“言っちゃいけない”みたいな風潮がどんどん進んじゃう部分もあると思うんですよね。

――確かに、そういう側面はあると思います。

だからよく「みんなってどうやって気持ちの整理をしているんだろう」って思いながら悩むんです。そこで私には歌がある。だからこそ、私自身が言葉が通じなかった経験があるからこそ、できることはあると思っています。声を上げられない人の気持ちをどこまで受け止めて寄り添えるのか。そこまで覚悟して歌えた曲です。だからまず、いろんな人たちに聴いてもらいたくて。そして誰かのストレス発散や、もっと言えば救いになれたら本望です。

――そして11月10日には今回の3曲を1枚にまとめたCDをリリース、2022年3月にはツアーもあるということで、この先が楽しみですね。

メジャー・デビューしてから東京でのライヴもそこまでできていないし、まだ一度も全国を回れていないんですよね。仕事以外はほぼ外出もしていないし、「コロナ早く収束してよ!」って、シンプルにそんな気持ち。でもこれは命の問題だから仕方がない。コロナ禍になって一人で考える時間が増えて、たくさん考えた結果、やっぱりやりたいことは音楽しかないって思えたから、今のこの瞬間選んだことが無駄にならないように考えながら音楽を続けていきたいです。そして来年、コロナの状況が良くなってみなさんと会える日を楽しみにしていますので、よろしくお願いします。

〈リリース情報〉

「声」
2021.09.03 release
配信URL https://www.harumiofficial.com/discography/buy/?BVXX01586B01A


遥海
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変わらぬ信念のアップデート。遥海が信じる歌の力とははミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

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「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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