シンガーソングライターとしての顔も
持つピアニスト・ロー磨秀 東京での
初の本格ソロ・リサイタル、プログラ
ムに込めた思いを語る

ピアニストのロー磨秀が、日本コロムビア主催のコンサートシリーズ『7STARS』に登場。2021年9月10日(金)に、初の本格的なソロ・リサイタル《The Pianist》を開催する。
2017年にパリ国立高等音楽院を修了したロー磨秀。彼は「シンガーソングライター」としての一面も持ち、2019年に日本コロムビアよりメジャーデビュー。活動の幅を広げている。
その一方で、改めて「クラシック界でも本格的なスタートを切りたい」と決意を固めて臨むのがこのリサイタルだ。そのプログラムには、「人生のどん底」と語るほどの帰国当時から現在までの軌跡、そして”今“のロー磨秀そのものが反映されている。そのプログラムの意図や演奏会への意気込みを語ってもらった。
■気負わず、自然体の自分で
――初めての本格的なソロ・リサイタルだそうですが、今の心境をお聞かせください。
これまでもフランスや、国内でも小さなサロンなどでリサイタルをしたことはありましたが、東京でこれほど本格的な公演を行うのは初めてです。
2019年にシンガーソングライターとしてデビューし、こちらに多くの時間を費やしてきたのですが、やはりクラシック演奏家としても本格的に活動していきたい。このリサイタルは、一つの滑り出しだと考えています。ここ1年、自分自身の音楽への向き合い方に余裕が出てきました。そのため、気負わず自然体の自分を見ていただけたらと思います。
ロー磨秀
――今回はクラシック作品を中心に、プログラムが構成されています。
まず意識したのは、オリジナリティについて。リサイタルなので、自分でプログラムを考えます。ですから、プログラミングも含めて自分の作品になると考えています。
シンガーソングライターの場合、オリジナルの楽曲を歌うため、自ずとオリジナリティが出てきますよね。一方でクラシックは、かつて誰かが残した作品を演奏するものだから、お客様に「この曲はすでに聴いたことある」と思われるのは当たり前のことです。だからこそ、リサイタルでは「この流れでこの作品を聴くのは初めてだな」などと思っていただくことで、それがオリジナリティになる。作品の並びから生まれるストーリーを大切にして、選曲と構成を行いました。
もう一つ意識したのは、「誰もが知っている」みたいな作品をあえて選ぶ、というスタンスを取らないことです。僕は2つのジャンルで活動しているので、クロスオーバー的に「どちらも中途半端にやっている」と思われる危険性があると思っていて。僕はあくまでもクラシックとポップス、どちらも極めて2つの柱を立てておきたいんです。だからこそ、いわゆる「誰でもアクセスできるような作品」で構成することはしませんでした。
――まず前半は、ブラームス《創作主題による変奏曲》とシューマン《子供の情景》が並びます。
ここでは、自分の繊細な部分や内面的な表現がしたいなと。ここ数年、特にロマン派の作品に惹かれている自分がいるので、そこから選曲しました。小曲を並べてオリジナリティを出すのが好きな自分にとって、良いレパートリーが並んだと思っています。
シンガーとしては、マシュー・ローの名義で活動をしている
――そして後半は、ドビュッシー《2つのアラベスク》、ホーギー・カーマイケル《The Nearness Of You feat.Debussy》、ガーシュウィン《3つのプレリュード》《ラプソディ・イン・ブルー》が並びます。
ドビュッシーはすごく大好きな作曲家で、その後はシンガーソングライターとしての自分とリンクするような作品を選びました。特にガーシュウィンは、自分にとって大切な存在である「ジャズ」の影響の大きい作曲家です。これまで、彼の作品を「クラシック」と認識しながら聴いていなかったというのもあり、自分の「地」である開放的で即興的な部分を発揮できればと思っています。
前半と後半、2つのリサイタルを楽しめるくらいのボリュームになりました。僕は両極端な性格なのでいろいろと悩みましたが、いざ完成したプログラムを俯瞰してみると、一番しっくりくるな、と思っています。
■クラシックとポップス、どちらも極めたい
――「両極端な性格」ということですが、これはクラシックとポップス、それぞれ混同せず2つの柱を立てておきたい、という意志と合致しますね。
はい。2つのジャンルを中途半端に混ぜたところで、必ずしも良いものが生まれると思えなくて。安易にはやりたくありません。混ぜるなら、きちんと練らないといけないですね。
――それぞれのジャンルで、特有の音楽の捉え方や演奏表現などあるかと思います。各活動で、それが無意識に影響し合うことはありますか。
無意識ならばあると思います。ポップスをしている友達からも「クラシックのそれ、羨ましい」なんて言われることもありますね。それは例えば、耳で和声が聴き取れる、とか。この力は本当に役立っているなと思います。
ほかにも、シンガーソングライターとして曲を書く中で、クラシックの作曲家の捉え方が変わりました。子どものころ、やっぱり作曲家というのは「雲の上の存在」で。しかし今は、彼らをいち人間として捉え、「どういう人だったのか」「自分とどこが似ているのか」と思考をめぐらせられるようになりました。
マシュー・ロー(シンガー)
――語弊があるかもしれませんが、その作曲家と同じ立場に立てる、という感覚でしょうか。
「同じ立場」なんて口が裂けても言えませんが、シンガーソングライターは自らのパーソナルな部分や体験、心情を音楽にするので、まず自分を掘って見つめる必要があります。それと同じで、クラシックの作曲家にも同じ見方をしたくなるんです。
そうして作曲家への愛が生まれて、そこで作品のことも愛せるようになる。この人の作品なら、身を削ってでも弾きたい、と思えるから、作品にも入り込めるんです。
――「パーソナル」という言葉がキーワードになっている気がします。リサイタルのプログラム前半も内面的な部分を作品に投影していました。シンガーソングライターとしての音楽と向き合い方と、どこかつながっているのでしょうか。
そうかもしれないです。今より若いころ、派手な作品を好んで弾くことが多かったのですが、今はそうではありません。それは歳を重ねたり、活動の幅が広がったり、留学・帰国したりするうちに、自分の内面の深い部分とよりつながれる作品を取り上げたい、と思うようになったからです。
フランス留学時代、気持ち的にすごくナイーブだったんです。それこそ当時、今回のプログラムの前半作品のような内面的な音楽を弾くと、あまりにパーソナルな部分が表出してしまい、曲に入り込みすぎて、客観的になれていなかったことも……。今でもナイーブさはありますが、ちょうど良い距離感で取り組めるようになったと思います。
■かつてなら躊躇していた作品も、今なら取り組める
ロー磨秀
――プログラムを俯瞰して見てみると、フランス時代から今までの磨秀さんの軌跡が見えてくるようですね。
そもそもの話ですが、帰国当時、人生のどん底にいたんです。精神的に終わっていたというか……。
――終わっていた……?
半年ほどピアノも弾けず、「もうピアニストになるのは無理だ」とも思っていました。当時は音楽に関することもそうでないことも含め、ショックな出来事が続いていたんです。
特に、高校生のころに発症した局所性ジストニアという病気に、とても悩まされていました。精神的に調子が悪くなると、指も同じように調子が悪くなり、悪循環に陥る。とにかく帰国前後1、2年はもがいていましたね。「自分がフランスにいたら、何ができなかったのか」と考えてシンガーソングライターとして活動し始めたころでもありました。
――現在は気負わずリサイタルに臨めるとのことですが、どこかで肯定的になれるスイッチがあったのでしょうか。
そうですね。あるとき、過去を否定的に考えなくなった瞬間があって、そのときにやっと「あ、前に進んだのかもしれない」と楽になりました。今も人並みに辛いことはありますが、「あのとき自分は地獄を見た」「あの時よりマシだ」と思える感覚は、すごく強みになっています。
もちろん、一夜にしてそうなったわけではありません。家族や友人、レーベルやマネジメントの皆さんなど、さまざまな方のサポートがあったから、徐々に乗り越えられたのだと思います。
今では、音楽家や人間としての軸が戻った感じがあります。シンガーソングライターとして作品を書く中で過去を見つめ、当時を肯定して浄化できているのも大きいです。かつては躊躇しただろう前半プログラムのような作品も、今なら挑戦できる気がして。
ロー磨秀 / 月の光(ドビュッシー作曲) Matthew Law / Debussy - Clair de lune
――それでは最後に、この公演を楽しみにしている皆さんに、メッセージをお願いします。
このご時世、音楽の力だけでいろんなことが解決するわけではありません。でもそれを生業とするからには、音楽を信じるしかない。だからこそ、リサイタルでは全力で行います。
今は生演奏が聴ける機会も減りましたが、「やっぱり生演奏が必要だ」と思う方もいらっしゃる。そんな方のために、最善のものを届けるつもりです。きちんと感染症対策を行い、安心して来て頂ける環境を整えてお待ちしておりますので、「よし聴きに行くぞ」と思ってくださった方は、ぜひお越しください。
――ありがとうございました!
取材・文=桒田萌

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