カンバーバッチが核戦争を防ぐ運び屋
を演じる、『クーリエ:最高機密の運
び屋』ドミニク・クック監督インタビ
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『クーリエ:最高機密の運び屋』は、米ソ冷戦時代の実話をもとにしたスパイ映画だ。クーリエとは国際宅配便のこと。一介のセールスマンだったグレヴィル(ベネディクト・カンバーバッチ)は、今にも勃発しそうな核戦争を防ぐため、ソ連の機密情報を運ぶ役目を任される。映画ではグレヴィルと、彼に機密情報を渡すことになるGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)のスパイ、ペルコフスキー(メラーブ・ニニッゼ)を中心に、冷戦時代の緊迫した状況、そのなかで大切な人を守るために生きた人々が静かに、しかし情熱的に描かれた。
監督のドミニク・クックは、もともと演劇畑の出身。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのアシスタント・ディレクターを経て、60年以上の歴史を持ち新進気鋭の劇作家を数多く生み出してきたロイヤル・コート・シアター(RCT)の芸術監督を務めた。在任した6年間に130以上もの演劇を上演している。監督に、映画製作へのこだわりなどを聞いた。
ドミニク・クック監督(Zoomインタビュー)

■カンバーバッチとニニッゲ、2人の化学反応が肝だった
メラーブ・ニニッゼとベネディクト・カンバーバッチ
──この題材を映画化したきっかけを聞かせてください。どんなところに面白さを感じたのでしょう?
脚本を読むまではこの話を知らなかったんです。スパイを題材にした物語ではきっと珍しいと思うんですが、とても心を動かされました。一度読んですぐに「これを僕が監督したい」と思いました。
──人物の描き方が魅力的な脚本だと思ったのですが、人物描写で意識したことや俳優に求めていたことは?
まずは主役の2人ですね。ベネディクト・カンバーバッチ演じるセールスマンのグレヴィルと、メラーブ・ニニッゼ演じるGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)のスパイであるペンコフスキーに化学反応が起きるかどうかが大事なところでした。この2人の絆が本当にあるんだと、観客に思わせなければいけませんでしたから。もちろん歴史上は長い年月をかけて起きたことですので、2時間の映画で描くことはできません。実際の出来事のうち、どの部分を描くべきで、かつ役者にとっても役に立つのかどうかを見極めなければいけませんでした。
ベネディクト・カンバーバッチとメラーブ・ニニッゼ
──役者にとって役に立つ部分を描く、とは?
たとえば旧ソ連育ちのメラーブは、自分が演じるペンコフスキーというスパイに対して悪いイメージを持っていたんです。というのも、政権がペンコフスキーについてとてもネガティブなプロパガンダを広げていたので、幼い頃から良くない印象があったんですね。そのため脚本のなかで、ペンコフスキーにシンパシーを抱ける描写を心がけました。なぜ彼が国を裏切るようなことをしたのか……メラーブがそれを理解することで、演じやすくなりますから。
──なるほど。そういった人物背景や役づくりにおいて俳優の手助けになるように、監督からもアプローチしていくのですね。
なによりもその役がどんな状況にあるのかを、俳優には完全に理解してもらわなければいけません。俳優にとって「その行動はわかる」と共感できる部分もあれば、考えもしないような部分もある。そのためには全体像を見ながら、なにがその人物の行動の動機になっているのかを考えてもらわなければいけないので、それを一緒に探していく作業をします。
ベネディクト・カンバーバッチとドミニク・クック監督
──そういったキャラクター造形がとても丁寧になされている、と映画を観て感じました。運び屋としてのグレヴィルの変化や、クライマックスのペンコフスキーの表情など、台詞ではっきり言葉にしなくとも伝わることがすごくありました。そういった台詞では語られない人物の思いや背景づくりには、どのようにこだわられたのでしょうか?
撮影前に俳優とおこなう最初の作業が肝心です。僕は演劇だけでなく映像でもリハーサルをするのですが、そこで俳優とともに役の根っことなる部分を作り上げていきます。そのキャラクターにとってなにが大事なのかを理解してもらう作業です。そうすることによってキャラクターに命が吹き込まれていくし、俳優も自分が演じるキャラクターを理解できる。それができたうえでいろんなアイデアを出し合っていきます。
──俳優の存在感が強く、言葉は少ないながらもキャラクターの人間味が出ていました。今回の出演者たちとの仕事はいかがでしたか?
物語の中心となった2人はリスクを追う心の準備ができている俳優です。極端なことでも「やってみよう」と思ってくれる。僕が好きな俳優というのは、アイデアを投げた瞬間にオープンな姿勢でそれを受け取れる人。2人ともまさにそうで、どんなアイデアでもすぐに試すことができるんですよ。
メラーブ・ニニッゼと話すドミニク・クック監督

■歴史映画には、現実への責任と、フィクションへの責任がある
──実在の人物を描くことで気をつけていることは?
映画は2時間ほどしかないので、その人物の人生をものすごく圧縮しなければいけない。その時にやらなければいけないことは、真実のエッセンスや本質を描くことです。ディテールにこだわりすぎてはいけません。もちろん取り上げる人物に対しての責任があるので、ある程度のディテールは必要ですが、正確なことにこだわるあまり本質を見失っては元も子もありません。
──映画のなかでも、このやりとりはもしかしたら実際にはなかったのかもしれないというドラマティックな部分もあれば、かなり正確な情報を元にしている部分もありました。とくに小道具や、スパイ関係の情報などは、専門家が見てもリアリティがあるようにこだわられたとか。ドラマと事実、両方のバランスが大切なのですね。
まさにその通りです!つねに両方のバランスを考えています。つねに、ですよ。実際に起きたことを描くという責任がある一方、物語のある映画作品だということにも責任がありますから。
──実際にあったことについては、どのように作り上げていったのですか?世界が核戦争の危機にさらされた冷戦下のスパイの攻防という、かなり繊細な題材だと思いますが。
いわゆる“クリシェ”といわれるありきたりな描かれ方よりも、真実の方が面白かったりします。たとえばアメリカ大使館は、盗聴器があちこちに仕掛けられていたり、清掃係の方々が写真を撮ったりするような場所でした。そのため、諜報員のエミリー(レイチェル・ブロズナハン)は声を出さず、子ども用の文字板で会話します。この板に文字を書いて会話するというアイデアは、リサーチのなかで出てきたものでした。なぜ紙ではないのかというと、紙だと筆圧で次のページに文字が写ってしまうからなんです。そういった事実を知るたび、映画に採用していきました。
ベネディクト・カンバーバッチとレイチェル・ブロズナハン

■演劇と映画、ふたつの表現を行き来して
──演劇でのキャリアが長いですが、映画との違いはありますか?また、映画製作において心がけていることはなんでしょう?
同じところもあるんですよね。脚本がストーリーテリングの基本になければいけないことや、俳優とキャラクターができる限り深いところで繋がっていなければいけない。一方で、映画と演劇で異なっている部分も僕は大好きです。たとえば、演劇で大切なのは劇場というひとつの場所だけでなにかが起きているということですし、映画の場合はいろんな要素を気にかけなければいけません。そういった違いはありますが、演劇で培ってきたことが映画づくりにとても役立っていますし、映画を作っていることがまた演劇にも反映されています。両方に携われているのは、とても運が良くて幸せなことですよ。
【動画】映画『クーリエ:最高機密の運び屋』予告編|9.23[木・祝]全国公開

取材・文=河野桃子

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