尾崎亜美の『STOP MOTION』は
“天才少女”が潜在能力を
如何なく発揮した傑作中の傑作

3作目にしてセルフプロデュース

そんな『SHADY』の解説でも良かったのだが、何となく気乗りがせず、“それでは他の作品はどうだろう?”とググっていると、その2年後に発表された3rd『STOP MOTION』がセルフプロデュース作であることを知った。3作目にして全曲のアレンジも手掛けていたとは驚きである。2年後ということは21歳。もう“少女”という年齢ではなかったが、“天才”の称号はデビュー時ではなく、この時を指してそう言われていたのではないか。そんなふうにも思ったところだ。『STOP MOTION』を聴いてみると、こちらもまた下世話さはないけれども、『SHADY』に比べればポップな印象。勝手を言わせてもらえば、個人的にはこちらのほうが好みだ。最も印象に残ったのはヴォーカルの表現力の高さ。自らアレンジをしているということは、楽曲全体のプロデュース能力も長けているのだろう。そう考えると、デビューから3枚目、若干21歳での仕事としては、ちょっと驚異的にも思う。『SHADY』も名盤に違いないだろうが、今回は3rd『STOP MOTION』を紹介させてもらうことに決めた。

オープニングは、軽快なエレキギターとパーカッシブなリズムに彩られたM1「センセイション」。ギターは鈴木 茂、ドラムは林 立夫、パーカッションは斉藤ノブである。興味深いのは頭に入っている波の音のSE。『SHADY』の1曲目、インストの「プロローグ」も波の音が入っていて、そこから雷→雨の音と進んでいくのだけれど、何か因果関係、相関関係があるのだろうか。歌詞もなかなか興味深い。

《まだ私の肌は眠っているわ/熱い想いを焼きつけて/センセイション/もうすぐレディ 君はレディ》《「帰りたけりゃ帰ったらいいさ」/あなたの気持ちに入りこめない/いたずらな神様が吹かせてくれた/はじけそうな想いは Only you/センセイション/そうさレディ 君はレディ》(M1「センセイション」)。

先ほど、自分は“もう“少女”という年齢ではなかった”と書いたが、《もうすぐレディ 君はレディ》からは、まさに少女から大人への端境期のようなものを感じさせる。セルフプロデュースを行なうことになったという、アーティストとしてのレベルアップを重ねることもできよう。

M1での波の音はそのままM2「ジョーイの舟出」のイントロにも重なっていく。シティポップな雰囲気で、ソウルっぽいホーンセクションも入ってるが、それこそ下世話ではない程度にバランス良く導入している。ここでの最注目はアウトロで聴かせる彼女のシャウトとスキャットであろう。

《心細い月の光に小さな舟を出すなんて/闇に紛れてひとりでどこへ行くの?》《ジョーイ 聞こえてる?/ジョーイ 連れて行って/ジョーイ 恐いものはないわ ふたりなら》《ジョーイ 女だから待ってる ひとりでも》(M2「ジョーイの舟出」)。

歌詞はこんな感じで、“舟出”というくらいだから、新しいことを始めるのか、新しい場所を目指すのか、何か目標を定めた“ジョーイ”なる人物への想いを綴ったものだ。そんな“ジョーイ”に対して、アウトロでのヴォーカリゼーションでは言葉にならない感情が溢れているような印象がある。そこがとてもいい。ことさら“女性の強さ”といったところを強調するのもアレだが、そのはっきりとした物言いに、ユーミンを筆頭に女性シンガーソングライターが台頭してきた時代の象徴を勝手に感じたところである。

その辺は続く楽曲にも垣間見える。M3「嵐を起こして」はタイトルからして能動的かつアグレッシブなスタンスがうかがえるし、M4「ランクダウン」はサウンドも含めてダウナー系に分類されるものであろうと思うが、内側に溜め込んだ沸々としたマグマのような熱さを感じる。《あなたらしいわ せめてうわさが/伝わる前に言い訳を考えておくものよ》辺りの歌詞がそうだし、狂気じみた感じを受ける間奏のギターソロもそうした情念に呼応したものだろう。

かと思えば、バラードナンバーであるM5「来夢来人(らいむらいと)」では、ストーリーテラーのような落ち着いたヴォーカリゼーションを聴かせるのも本作の面白いところ。多くを語らずにその背後にある物語を想像させるタイプの歌詞であることが関係しているからだろうが、極めて客観的に語り部のような歌い方を見せている。こういうことができるのは、彼女のヴォーカリストとしての資質が確かなものであることを改めて示しているように思う。ちなみにM5は間奏で寸劇が入る。ここで会話を交わしているのが尾崎と、M2でコーラスにも参加している寺尾 聰(つっても彼の台詞は「うん」だけだが…)。で、M5ではオフコースの小田和正、鈴木康博がコーラス参加している。

OKMusic編集部

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