コシミハルが
細野晴臣との邂逅で
本格的に才能を開花させた
エポック作『TUTU』

テクノポップの意欲的な導入

そんな時代にあって、自身の信念を曲げずに音楽活動を続けたことが今のコシミハルに繋がっているわけだが、まさしくエポックと言える作品が『TUTU』であり、それまでの作品とは作風の異なるアルバムである。まずぱっと見て分かるのはジャケットのアートワークだ。百聞は一見に如かず。ググってみてほしい。1stアルバム『おもちゃ箱 第一幕』(1979年)、2nd『On The Street MIHARU II』(1980年)、3rd『Make Up』(1981年)と、この『TUTU』、加えて言えば、5th『Parallelisme』(1984年)とは、アーティストが変わったと思わされるくらいにビジュアルが違う。1st~3rdと4th~5thとでは髪型が違う…というのは半分冗談にしても、彼女の容姿が強調されている前者に対して、後者は彼女をアートワークに取り込んだジャケットと言ったらいいだろうか。3rdはショッキングピンクをあしらった辺りが如何にも1980年代という感じで、これはこれでいい感じなのだが、やはり1st~3rdのジャケからは、件のアイドル歌手扱いを想像することができる。とりわけ、そのショッキングピンクからモノトーンへと変化した3rd→4thは、アーティスト性の変貌を印象付けるには十分なものであっただろう。

そして、肝心のサウンド。これは相当に違う。細かく音像がどうだこうだ言う以前に、聴き応えが1st~3rdとはまったくと言っていいほど異なる印象だ。何と言ってもM1「ラムール・トゥジュール」がいい。これはベルギーの音楽ユニット、テレックスのカバー。テレックスは[YMO、ダフト・パンク、ジェフ・ミルズ、モービーらに影響を与え、ハウス・ミュージックの原点にもなった]というだけあって、オープニングにそのカバーを持ってきていることだけでも、本作がテクノポップ、ニューウェーブの影響下にあることが分かる([]はWikipediaからの引用)。楽器が奏でる旋律もヴォ―カルのメロディーラインもゆったりとしているが、サウンドは如何にもテクノらしい硬質さがありながら、歌声には独特の浮遊感があって、お互いがお互いを引き立てている。間奏のフランス語(ですよね?)も何とも“らしい”し、選曲にあたっては細野のアドバイスもあったということだが、彼女の新たなステージの幕開けに相応しいナンバーであったであろう。

M2「レティシア」もゆったりとしたテンポで、比較的淡々と進んでいく。大陸的というか、大らかというか、全体にはそんな雰囲気でありつつ、深めのリバーブがそこに幻想感を与えていて、当時の歌謡曲やポップスとは明らかに違う感触。アルバム2曲目にしてリスナーに決定的なイメージを与えたことだろう。M3「スキャンダル・ナイト」はアップチューン。音数も多く、音圧も強めだ。歌メロは大衆的…とまでは言わないけれど、キャッチーはキャッチーだし、可愛らしいボーカリゼーションと相俟って、今でもテクノアイドル歌謡として他者に提供出来るのではなかろうかと思わせる内容だ。個人的にはYMO中期のハードコアテクノ感を彷彿とさせるところもあるし、曲終わりのキレも良く、とてもカッコ良いと思う。中期YMOっぽさは続くM4「ラムール…あるいは黒のイロニー」でも感じるところだが、頭からいきなりリバースっぽい音が聴こえてきたり、シンセやサンプリングと思しきサウンドで楽曲が構築されているのが圧倒的に面白い。既存の楽器に囚われない音作りはM4に限ったことではないけれど、それが間違いなく、彼女にしか出し得ない世界を創り上げている。しかもM4に関して言えば、ベースはかなりブイブイとしたプレイを鳴らすなど、デジタルに生音を融合しているのも興味深い。リズムは速くても歌メロはゆったりしているというところもそうだし、相反する要素のコントラストはこの時期の彼女と言えるのかもしれない。と、ここまでがアナログ盤でのA面。

以下はB面。イントロからポップなメロディが聴こえてくるM5「シュガー・ミー」は、シンセの音色が如何にもニューウェーブ。A、B、サビという展開もJ-POP的で、M3「スキャンダル・ナイト」以上に歌謡曲対応可能だと思わせるナンバーだ。とは言え、コード感であったり、間奏(ブリッジ?)のややダークな感じとかは、簡単にアイドル的ポップソングと括られるものでないのは彼女の非凡さをうかがわせるところでもある。M6「プッシー・キャット」はジャジーなファンクナンバー。ダンサブルはダンサブルではあるが、ディスコティックという感じではなく、独特の不穏さを伴って展開していくのがおもしろい。当時はジャズの知識はほとんどなかったという彼女が、なんとかジャズの雰囲気を取り込もうとしたところでオリジナリティーが生まれたのだろうか。

不穏な感じはM7「キープ・オン・ダンシン」にもある。メロディは可愛らしく、ちょっとばかりセクシーな味付けがされている感じだが、随所でサイケ風なサウンドが聴こえたり、間奏でギター(だよね?)がかなり荒々しく鳴らされたり、シャレオツなだけに留まらない奥深さがある。M8「日曜は行かない」はAOR寄りと言っていいだろうか。サウンドはそれほど派手ではない…という言い方でいいかどうか分からないけれど(間奏のギターは大分派手だけど…)、歌が前面に出ている印象だ。この辺はアーティスト、シンガーソングライターとしての過渡期をうかがわせるところでもあるし、逆に言えば、彼女の懐の深さを知ることも出来るナンバーと言えるのかもしれない。アルバムのフィナーレはM9「プティ・パラディ」。歌劇、クラシカルな要素も取り入れた三拍子。愛くるしくも親しみやすいメロディをオルガンやアコーディオン(多分シンセ)などで彩っている。最新作『秘密の旅』のBlu-ray盤においても収録されているので、コシミハルのスタンダードというか、なくてはならないナンバーと言っていいかもしれない。

OKMusic編集部

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