庄野真代が筒美京平、
船山基紀らとのコラボで
その名を音楽シーンに示した
代表作『ルフラン』

筒美京平、船山基紀らの確かな手腕

それでは、そのヒットメイカーと組んだアルバム『ルフラン』がどんな作品なのか、どう雑多なのかを以下、具体的に見ていこう。

オープニング、M1「風の街角」は庄野本人の作詞作曲。明るくさわやかなナンバーだ。パーカッション、ストリングス、ホーンセクションがとてもいい。パーカッションがリズムをグイグイと引っ張っているだけでなく、Aメロ後半からストリングス、Bメロからブラスが聴こえてきて、楽曲全体がどんどんドライブしていく。かと思えば、サビでリズムの手数が少なくなったり、アゲ一辺倒ではなく、メリハリの効いた、良くできたポップチューンという印象である。ちょっとコケティッシュな歌い方になったりするのも面白いし、間奏でサンバ感が増すところなどもあって、聴きどころは満載。高橋信之のアレンジの素晴らしさを堪能できる。

《もしも あなたと私が/この町で出逢ったなら/ひとめで恋に落ちたはずなのに/すれ違った ひと時を/いまさらもどせないわ/夢が覚めたみたい》《Windy love 街角で/Windy love あなたに/どんな風に どんな色で/伝えよう 今の 気持ち》(M1「風の街角」)。

歌詞はサウンドのアッパー感に相反している…とは言わないまでも、若干影があるというか、開放感のみを描いていないところも興味深く、この辺は職業作家にはない彼女らしい作風が垣間見える部分だろうか。

M2「昨日に乾杯」はM1から一転、優雅なイメージ。筒美メロディーもちょっと大人っぽいし、竜真知子の描く歌詞世界は耽美だ。

《ねぇ あなたを愛して/幸せだったわ/だから お願い/乾杯させてね もいちど/二人の ラスト・シーンに》《一度 手を放したら/恋は 帰らないのね/胸のすきまをすりぬけて/ゆらゆら》(M2「昨日に乾杯」)。

注目したのは船山基紀の編曲。筒美メロディーももちろん印象的なのだが、楽器が奏でる音階もそれに劣らないキャッチーを湛えている。間奏でのサックスを始めとするブラスもさることながら、随所で聴こえるストリングスがとにかくキャッチーである。この楽曲での弦楽はもうひとつの主旋律だ。とりわけアウトロが相当にドラマチックで世界観をふくよかにしているのは間違いない。また、優雅とは言っても、小気味の良いドラムやシェイカーが独特の疾走感を生んでおり、ひと筋縄では終わらせない船山基紀の手腕は流石と言わざるを得ないだろう。

庄野作詞、筒美作曲のM3「X(エックス)」もまたM1、M2と印象が異なるナンバー。そればかりか、楽曲内でも景色がコロコロと変わっていくという不思議な感覚を得る楽曲である。打楽器による、まさしく不思議なサウンドからイントロが始まるが、Aメロはシティポップ的に展開。歌は若干大陸風というか、大らかな印象でありつつ、サビはブギーっぽくなり、グラムロック的なギターリフが歌に重なる。かと思えば、1番と2番をつなぐブリッジ部分ではストリングス~ピアノからシンセ(エレピか?)が聴こえてくるなど、プログレっぽい箇所もあり、ひと言で言えば奇妙なアレンジなのだ。これも船山基紀が手掛けたものだが、サウンドからすると“X(エックス)”というタイトルは言い得て妙である。歌詞ははっきりと物語が分かるタイプではないけれども、《天気は晴れ 心はフリーダム》辺りを、前述したシンガーソングライターとしてのスタンスの変化、そこでの彼女の心境と重ね合わせるのは考察が単純過ぎるだろうか。

M4「飛んでイスタンブール」は庄野真代最大のヒット曲。今となっては昭和っぽいというか、若干のいなたさは否めないものの、筒美メロディーを船山基紀がアレンジすることによって、キャッチーさのつるべ打ちのようになっているところは、40数年経って今でも圧巻に感じるところである。失礼を承知で言うと、イントロのチターっぽい音もそうだし(“ぽい”ではなく、チターかもしれん)、そもそも音階がそうなのだけど、それらが本当に中東っぽいのかどうか分からないのに、何となくそうだと感じさせるのも、この楽曲の優秀さであろう。冷静に聴くと演歌っぽい感じもあって、歌謡曲路線へシフトしたことが明白であるけれども、前作『ぱすてる33 1/3』収録の彼女作曲のナンバー「皆殺しのハレルヤ」もエスニック風味だったので、スタッフはその辺を意識したのかもしれない。これまた意味が分かったような分からない感じではあるが、ちあき哲也が作った歌詞は素晴らしいのひと言に尽きる。とりわけサビでの韻は楽曲のキャッチーさに拍車をかけていると思う。

《おいでイスタンブール/うらまないのがルール》《飛んでイスタンブール/光る砂漠でロール》《おいでイスタンブール/人の気持はシュール》《好きよイスタンブール/どうせフェアリー・テール》(M4「飛んでイスタンブール」)。

M5「あんず恋唄」はタイトルから想像するに、美空ひばりオマージュみたいな歌謡曲寄りの楽曲が飛び出すかと思いきや、これが何とポップなR&R。イントロからドゥワップ調で《あんず アプリコット アプリコット》とリフレインされるのはいい意味で意外だし、これもまた庄野真代のソングライターとしての懐の深さを感じさせるところだ。

《石段まじりの この道は/鏡にうつせぬ傷がある》《坂道つづきの 人生に/甘くしのびよる 恋唄》(M5「あんず恋唄」)。

可愛らしいだけの内容かと思ったら、歌詞には上記のような含みを持ったフレーズもあって、これからも彼女特有の作家性が感じられる。

ミドル~スローのM6「Don't let me down」はイントロのサックスが完全にAOR。ベースラインもカッコいいし、エレピも渋い。短いのにドラマチックに仕上げたブリッジもとても印象的で、“これはどなたのアレンジだろう?”と見たら筒美京平の編曲であった。そう思うと、サビやCメロでのコーラスワークは良くも悪くも“THE 昭和”で(特にCメロが色濃い)、その隠しきれない歌謡曲はどこか愛おしくもある。何かいい。

OKMusic編集部

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