Yamato City Ballet 秋季公演、ダン
スが紡ぐ平安絵巻『玉藻の前』~振付
・演出の池上直子に聞く作品の魅力

2021年10月22日(金)、大和シティー・バレエ(YCB)秋季公演『玉藻の前』(全三幕)が上演される。原作は岡本綺堂による平安時代を舞台とした伝奇浪漫小説。もとは人を惑わす九尾の狐であったと伝えられる「殺生石伝説」をモチーフに、妖狐に憑かれた美女・玉藻の前と、彼女に恋する幼馴染み千枝太郎との悲恋を描いた物語だ。
振付・演出はコンテンポラリーダンスカンパニーDance Marchéダンスマルシェを主宰する池上直子。主演の玉藻の前にはK-BALLET COMPANYの飯島望未、幼馴染みの千枝太郎に同じく杉野慧が配され、話題を呼んでいる。また陰陽師に高岸直樹(元東京バレエ団)、関白・藤原忠通に八幡顕光(ロサンゼルス・バレエ団ゲストプリンシパル)、その弟である左大臣・藤原頼長に菊地研(牧阿佐美バレヱ団)といった個性的なダンサーが名を連ねるなど、豪華キャストも見逃せない。さらに衣裳には着物を、音楽には和太鼓、琵琶や笛などを用いるなど、和の要素もふんだんに取り込んだYCBならではのこだわりも盛り込まれている。振付・演出の池上直子に作品の見どころやダンサー演じるそれぞれの役について、話を聞いた。(文章中敬称略)

■自分では選ぶことのない題材。「挑戦の機会をいただいた」
――まず池上さんが『玉藻の前』を振り付けることとなった経緯をお話いただけますか。
YCBのプロデューサーである佐々木三夏先生が2019年、私が『Carmen カルメン』などを上演した「Dance Marche vol.8 Dance Performance」(2019年)を見てくださり、声をかけていただいたのがご縁のきっかけです。2020年のYCB夏季公演で『牡丹灯篭』を発表、2021年夏季公演では私の『オペラ座の怪人-地下迷宮-』を再演する機会をいただき、さらにこの秋季公演で全幕作品をつくらせていただけることになったのです。
題材は三夏先生からいくつか提案いただいたもののなかで、一番ピンと来た『玉藻の前』を選びました。創作に当たっては原作を読むところから始め、台詞や場面など、必要となるところを抽出して私なりに物語を構築し、観音様や殺生石の野原などのパネルの図案や、照明などのイメージを膨らませていきました。
YCB――三夏先生とのお仕事は、一言で言えば「挑戦の機会」ですね。2020年の『牡丹灯篭』も今回の『玉藻の前』も、こうしたことでもない限り自分ではまず選ばない題材ですし、和物で作品をつくる機会もきっとなかったと思います。自分では考えもつかない、新しいものへの挑戦というのでしょうか。やりがいがあるし、ありがたいです。それに音楽や衣裳、舞台装置など、これだけのものを自分一人でつくり上げられるかというと絶対にできないですし。三夏先生が私にそうした一つの作品を託すという、その勇気にも感謝しています。

■衣裳の着物は伝統的な色彩も採用
――主演にK-BALLET COMPANYの飯島さんと杉野さんが配されていますが、キャストについてはどのように決められたのでしょう。
主演のお二人をはじめ、プロデューサーの三夏先生の人選をもとに、一緒に話し合いながら決めていきました。そのうえで、話の組み立てや構成、演出、音楽のセレクトなどは私の方でやらせていただいています。プロデューサーの意向を汲みながら作り上げていくという感じですね。
構成は1幕が子供時代の藻(みくず)と千枝松の物語で、私の作品に何度か出演してもらっている児玉アリスさん、そして戸田祈さんが踊ります。2幕から成人した玉藻の前と千枝太郎の物語になり、そこで飯島さん、杉野さんの登場となります。2幕冒頭、平安時代の朝廷のシーンは男衆や女官などが一堂に踊る華やかなもので、ここは見どころのひとつになると思います。また今回は着物を羽織って踊るのですが、衣裳デザインは全て三夏先生によるもので、色彩一つにもこだわってつくられています。京都で200年以上続く呉服屋さんとご縁をいただいたことから衣裳製作の相談に乗っていただき、関白の着物の色、左大臣の着物の色といった、伝統的な決まり事も教えていただいたと伺いました。そうした要素を取り入れている衣裳にも、ぜひ注目していただきたいですね。
デザイン:佐々木三夏

■制約された中から生み出される着物ならではの動き
――ダンスで着物を着るとなると、普段の振付とはだいぶ勝手が違ったのではないですか。
着るといっても一枚羽織る形なのですが、それでも確かに動きはいろいろ制限が出てきます。大きく飛んだり跳ねたりということはできないし、スローな動きになるところもあります。でも腕や足の伸ばし方次第ではとても美しく見えるといった着物ならではの動きもあるので、実際にダンサーに踊ってもらいながら、より美しく見えるところを探っています。
――そうしたある意味独特な動きの中で、物語を紡ぐ工夫などはどのようにされているのでしょう。
バレエでよく使われる「マイム」はやりたくなかったので、そのものを表す動きや言葉を振付でつくるようにしました。例えば「玉藻の前」、「烏帽子をかぶった人」といった、キーワードは全て振付にしています。それによって、踊ることで会話が見え、ストーリーが伝わるという効果を狙いました。
――リハーサルでは実際に台詞を言いながら振付をしていると伺いました。
感情をしっかりと伝えていきたいと思ったので、そのようにしています。例えば「好きだから行きたい」のか、「好きだけれど行けない」のか、それによって気持ちや動きのスピードも変わりますし、おのずと表現も変わってくる。出演者たちには、そうした細かい心情も大事にしてほしいと思いながら、振付をしています。
撮影:中島駿野

■音楽には和楽器も。ダンサーと奏者のアーティストとしての掛け合いに期待
――今作は衣裳に着物を取り入れたうえ、音楽にも琵琶や笛といった和楽器を使いますね。
メインとなる音楽は三宅純さんの作品が中心ですが、そのテイストはジャズ風であったり三味線やバイオリンの音楽があったりと和洋折衷なので、和楽器の生演奏への移行は、おそらくスムーズにいくのではないかと踏んでいます。
また今回の和楽器の音楽には、一部ですが奏者の即興のところもあります。その場合、とくに振付の作り込みが重要になります。ここからこういう振りが始まり、こう動きながらくるっと回って終わる、といった決まりをしっかり作って、そこに曲をつけてもらうというやり方ですね。ダンサーの動きをしっかり作り込むことで、本番の舞台ではきっちりとあわせていけるだろうと考えています。
小林太郎(和太鼓)、鎌田薫水(薩摩琵琶)、笛吹かな(笛)
――振付に奏者が音楽を当てていく、というやり方になるわけですね。
はい。また今回出演するダンサー達は皆さんお忙しいうえにカンパニーがバラバラなので、リハーサルの調整時間が本当に難しいんです。ですから各シーンそれぞれリハーサルをやりながらも、「ここにはこの人がこういう形でいる」「この位置にこうしたパネルがある」といったことはしっかり伝え、時にはアシスタントとして手伝ってくれているYCBやダンスマルシェのダンサー達に代役として入ってもらいながら進めています。時間のない中で可能な限り工夫をしながら創作を重ね、最終的にはダンサーや奏者さんらの、アーティストとしての感性や力に賭けていくという感じになるのかなと。でもその感性と表現力を信じるに値する方々が揃っていると思います。

■個性豊かなダンサー達。コンテンポラリーダンスへの挑戦の機会にも
――ゲストダンサーの方々についてお伺いしていきます。まず主演の玉藻の前を踊る飯島さん、妖艶な、九尾の狐の化身ともいえる絶世の美女という役どころですが、彼女についての印象は。
(飯島)望未さんは可憐でかわいらしい印象でありながら、非常にしっかりしていて芯がある。でもある瞬間一気に妖艶に変わる時があるんです。そこがとても魅力的ですね。役も非常によく研究してくださっていて、ご自身でこうしようと考えながらリハーサルに臨んでくださいます。アメリカでコンテンポラリーダンスも踊ってこられているので、なんでも踊れるとても器用な方でもあります。
千枝太郎を踊る(杉野)慧さんは、踊りもものを見る目もとてもまっすぐで、千枝太郎のキャラクターにぴったり。玉藻の前と師匠である陰陽師との間で翻弄されるところなど、役の雰囲気にとても合っていて楽しみです。
飯島望未、杉野慧
――その千枝太郎の師匠である陰陽師が高岸さんですね。
高岸さんは陰陽師そのもの。立っているだけで強い存在感を放っている。目力も素晴らしいですし、もう言うことはないという感じです。
撮影:木原丹
――朝廷の方々の主要な役どころ、藤原忠道・頼長の兄弟が八幡さん、菊地さんです。
兄の関白である顕光さんは私の作品にも何度も出ていただいており、私の舞踊言語をよく理解してくださっていて、やりたいことも汲んでくれる頼もしいダンサーです。関白は原作ではそれほど出番が多いわけではないのですが、顕光さんの表現力や演技の幅の広さも生かし、ちょっとお茶目でファンキーな味わいも加えながら活躍してもらおうと思っています。
弟の左大臣を踊る(菊地)研さんは、本格的なコンテンポラリーダンスに取り組むのは今回が初めてということで、「僕にとって挑戦になる」と仰っていただけました。私の方からも身体の使い方やトレーニングの仕方などを一度お伝えしてリハーサルに取り組んでいるのですが、牧阿佐美バレヱ団で長年主演などを踊って活躍されている方だけあって、少し言っただけですぐものにされる。さすがだなと思いました。
――よく「クラシックとコンテンポラリーはバレエの両輪だ」という言葉を聞きますが、池上さんの作品に出演することで、バレエダンサー達にとってもいいチャレンジの機会になっているのかもしれませんね。
撮影:木原丹

■二度とない豪華キャスト。ダンス、衣裳、美術や音楽が醸す「物語」を楽しんでほしい
――最後にお客様にメッセージをお願いします。
まず、ダンスで紡ぐ物語を楽しんでほしいですね。舞台上には踊りだけではなく、演出や音楽、照明など、いろいろな要素がありますが、そういったものをあわせて「ダンス」を楽しみ、また『玉藻の前』という物語やその世界観を感じていただきたいと思います。
そしてこの豪華キャスト。きっともう二度とない、今後あるかどうかわからない豪華メンバーのダンサー達が一緒に踊り、物語を紡いだらどういう世界が生まれるのか、そうしたところにもぜひ興味を持って見ていただきたいと思います。
『玉藻の前』という作品をつくる時に、常に意識したのは登場人物たちの目線です。舞台や物語を通して何を見て、語っているのか。これはもちろん『玉藻の前』に限ったことではないのですが、ダンサー達の動きや視線にも、ぜひ注目してください。
――ありがとうございました。
撮影:中島駿野
取材・文=西原朋未

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