シリーズ世界を具現化するクリエイテ
ィブの力(2)/TRUMP解体新書 Vol
.5【音楽・照明編】

2021年6月からスタートした<TRUMPシリーズ>Blu-ray Revival発売記念連載『TRUMP解体新書』。この連載では、毎月1タイトル、8か月連続リリースする舞台<TRUMPシリーズ>について、毎月、全8回、脚本・演出の末満健一さんのインタビューと共にたっぷり、じっくり振り返っていきます。
前回から2回にわたりお届けしている<TRUMPシリーズ>のクリエイティブにまつわる話。
物語に寄り添う舞台美術、個性を醸し出す細部まで美しい衣裳、鮮やかに胸を打つ照明、そして作品を引き立てる音楽は、このシリーズに欠かせない魅力のひとつ。徹底的にこだわられたその一つひとつが、作品の世界を膨らませます。これらはどのようにして生まれているのか。
先月の【舞台美術・衣裳編】に続き、今回は【音楽・照明編】です。10月にBD発売となる『マリーゴールド』は、シリーズ初のミュージカル作品でもありました。照明のこだわりシーンも明かしていただいています。ぜひご覧ください。
■音楽家・和田俊輔への信頼
ミュージカル『マリーゴールド』キャストパレード/母アナベル役に元宝塚歌劇団雪組トップスターの壮一帆、その娘ガーベラに田村芽実のほか、東啓介、愛加あゆ、三津谷亮、宮川浩、吉野圭吾らがシリーズ初のミュージカルを彩る
――<TRUMPシリーズ>は音楽も印象的で、和田俊輔さんが手掛けたTRUMPシリーズの音楽集「繭期音源蒐集 TRUMP series ORIGINAL SOUNDTRACK-1」も発売されています。和田さんの音楽は、キャストの方から歌うのが大変だとうかがうことも多いですが、そこが魅力にも繋がっている気がします。
TRUMPシリーズで歌モノをやる時は、普段、ミュージカル出演などで歌い慣れているキャストの方が「音が取りづらい」と仰ることが多いですね。多くの楽曲が変拍子だったり三拍子だったりするので、正しい音楽知識があればあるほど楽譜を見ただけで音の難しさがわかるようです。稽古中、イントロから歌い出しのタイミングがなかなか取れない、という役者さんもよく見かけます。それは和田さんの音楽が難解というより、日本の音楽シーンで変拍子や三拍子に出会う機会が多くはないからだと思います。僕は楽譜が読めずに耳コピ(耳で聞いて音を取ること)で曲を覚えるので、その楽譜的な難しさを共有することができないんですが。
――音楽は完全におまかせなのですか?
和田さんには、僕が「変拍子と三拍子が好き」ってことは伝えています(笑)。あと「転調させて」もよく言ってますね。飽き性なので、大衆音楽に多く見られる四拍子で、イントロがあってAメロがあってBメロがあってサビがきて、というスタンダードな構成が好きではないのかもしれません。「わかりやすいサビはいらない」という注文も最近はよくします。音楽朗読劇『黑世界』雨下の章の、宮川浩さんと樹里咲穂さんが歌った「夢から醒めて」はその最たるものですね。
ミュージカル「マリーゴールド」パンフレットより/ナンバー(撮影:iwa)
――イメージは伝えるのですか?
以前は参考になる既成曲を選曲して渡したりもしていたのですが、最近はそれもしていません。既成曲を渡しても、和田さんはその曲から物語に及ぼす影響だけを汲み取って、全然異なる曲を仕上げてくださるので、そのやり方でもいいのですが。
――ではどのようにできていくのでしょう。
歌モノの場合は、歌詞と、例えば「この曲は賑やかに」とか「この曲は悲壮的で重たく」「大人の雰囲気で」などイメージを提示する一文を台本に添えてオーダーする、という感じです。BGMに関してはもはやそれすらもなくて、「台本読んだらどんな曲が必要かわかるよね?」という暗黙の了解でやっています。他の作曲家さんとはこういうやり方はしておらず、長年やっている和田さんとだけですね。このやり方は。
――それでイメージ通りのものがくるのですか?
普通は何往復もやり取りしてイメージを近づけていくのですが、和田さんに関してはリテイク(修正)が圧倒的に少ないです。
――へえ! 末満さんと和田さんは別作品でも組まれていますが、その中でそうなっていったのですか?
いえ、和田さんは最初からそうでした。台本から汲み取れる情報や演出家の意図するものを咀嚼する能力が高いんだと思います。もともと劇団(デス電所)の座付き作曲家だったというのもあるのかもしれないですね。だから台本の底の底を見通す、ということができるんですよ。あの汲み取る力は和田さんの特殊能力だと思います。
ミュージカル「マリーゴールド」(2021年10月20日発売)
ミュージカル「マリーゴールド」パンフレットより/歌詞はすべて英語詞があてられているという(撮影:iwa)
――どういうところが特殊なのですか?
「このストーリーの流れで、この台詞があって、この感情のバイオリズムで、この(台本の中での)位置で、こういう歌詞だったら、こういう曲だよね」という導き出しが適格なんですよ。通常は、ひとつの楽曲の中でも、どこで盛り上がりをつけるかなども細かく話しますし、何往復もしながらイメージに近づけていくのですが、和田さんとはそういうやり取りが少ないです。「このシーンだったらこういう音が流れる」っていうのが、台本を読むと聞こえるのかな……。もちろんたまにリテイクも出しますけど、それでも2回目にはほぼ正解がきますね。なにが問題でリテイクになったのかの理解も早いんです。
――すごいですね!
そうなんです。でも<TRUMPシリーズ>に関しては『SPECTER』でお願いした瓢箪島光一さんもすばらしかったんですよ。初演の主題歌「異郷にて森は寂寥」も、再演の主題歌「All sin own, All sin all」も、こちらが予想だにしていなかったメロディでしたが、作品世界にばっちりハマるものでした。和田さんが作品世界に埋もれている音を掘り起こす音楽家なら、瓢箪島さんは作品世界の空白を自分の音で埋めようとする音楽家。それぞれに別のジャンルの天才音楽家です。だから瓢箪島さんともいずれまたご一緒したいなと考えています。
■照明との化学反応で生まれる世界~物語のもうひとりの語り部
ミュージカル「マリーゴールド」(2021年10月20日発売)
――私は<TRUMPシリーズ>の照明に撃ち抜かれることがあります。作品によって違う方が担当されていますが、今月Blu-rayが発売するミュージカル『マリーゴールド』や、音楽朗読劇『黑世界』を手がけた関口裕二さんの照明も心に残りました。
関口さんは東京にから来て知り合った照明家ですが、僕から見た関口さんはすごく芸術家肌の方で。
東京のスタッフさんってたくさんの現場を次から次にこなしていかなければいけないこともあり、「プロの仕事人」という感じの方が多いんですね。でも関口さんは、プロフェッショナルであることに違いはないのですが、作品に対する集中力が「たくさんある現場のうちのひとつ」ではなくて、「この照明は自分の作品」として取り組んでくださっているような気がします。「すべての現場でそんなやり方していたら、体がもたないんじゃないか」と心配になるくらいで。関口さんのその姿勢には僕も勉強させてもらっています。それは僕がよくご一緒するもうひとりの照明家の加藤直子さんもそうです。このお二方はとても信頼を置いている照明家ですね。
――関口さんの場合はどんな取り組み方をされるのですか?
演出家に対して「どんな照明をご所望で」という受け身ではなく、関口さんのビジョンがちゃんとあるんです。まず台本を読んで、今稽古場では芝居がこういうふうに立ち上がっていて、物語に通底する感情のうねりはこうである、じゃあそこにどんな灯りを当てるのか、というような。台本、演出、役者の演技、全体のスタッフワーク、それらを総合して立ち上がってくるものに対する意識は、和田さんとも共通するものがあります。
それは、必ずしも打ち合わせでこちらがオーダーした通りの照明ではない。関口さんには関口さんが解釈したものがあって、しかもその解釈が作品を多面的にしてくれるものなので、「あ、この場面をそんな捉え方してくれたんだ、関口さんは」という新しい視点の気づきが得られます。例えば、動きのない静かな会話シーンでゆっくりと照明が動いていて、「なんでここで動かすんだろう?」と考えると、「あ、この感情の裏のニュアンスを取ってるのか」とか。もしかしたら観客には気づかれない照明プランかもしれませんが、でもその灯りの微かなタッチは、視覚的にではなく潜在的に観客に干渉するはずです。
ミュージカル「マリーゴールド」(2021年10月20日発売)
ミュージカル「マリーゴールド」(2021年10月20日発売)
技巧的にも、「そんなビームの出し方があるの!?」とか「そこで壁に照明を当てるんだ!」とか面白くて。「それ、やっていいんだ!」という驚きと発見があります。
例えば『マリーゴールド』でも、主人公(ガーベラ)がソロで歌いあげるクライマックスシーンで、後方に母親役(アナベル)が佇んでいるのですが、その顔の表情に一切灯りが当たらない。まるで黒く塗りつぶしたみたいに表情が見えないんです。
――物語的に、お母さんが今どういう状態なのか観客にはわからないシーンですよね。
その照明は僕が注文したわけじゃありません。場当たり(劇場で、本番の立ち位置や照明などを確認する稽古)で見たらそうなっていて、「あ、ここは母親の表情を見せないことにしたんだ、関口さんは。確かにここは表情が見えないほうが効果的だな」って。同じ場面の流れで、母親が主人公の前だか後ろだかを横切るんですけど、その一瞬だけ主人公に当てているピンスポットを消すんですよ。母親に灯りが当たらないように。
――表情がわからないように。
そう。母親の表情を徹底的に照らさないように。細かいテクニックですよね。でもそうすることによって、母親がすごく得体の知れない存在に見える。
――たまらないです!
照明家って、物語のもうひとりの語り部なんだと改めて思わされたのが関口さんでした。関口さんはレギュラーで長年組んでいらっしゃる演出家さんも多いですが、そこではもちろん<TRUMPシリーズ>とは全然違うやり方ですし、その照明もまた素晴らしい。かたやああいうやり方、かたやこういうやり方。「作品に合わせてくれてるんや」って。
――「たまたま相性が良かった」とかではないってことですよね。
はい。僕が出会った中ではそういう方はなかなかいないですし、関口さんや加藤直子さんもまた天才だなと思っています。音楽の天才や照明の天才、<TRUMPシリーズ>はいろんな天才に支えられています。そして、そういう方と出会えたっていうのが幸運ですよね。
ミュージカル「マリーゴールド」(2021年10月20日発売)
――美術、衣裳、音楽、照明とうかがってきましたが、改めてスタッフの力は大きいのだなと感じました。
とても大きいです。そしてそういう方に出会えるかどうか、というのはやっぱり大事だと思います。ものづくりにおける座組。東京でやり始めてからトライ&エラーを重ねてきましたが、<TRUMPシリーズ>は、いい座組でやらせていただいているなと思います。あとね、観客の目に見えるポジションじゃないけど、舞台監督の存在も重要です。
――小野八着さんですね。
<TRUMPシリーズ>をずっとやっていただいているのですが、八着さんは誰よりもこのシリーズのファンでいてくださるんですよ。シリーズの専門用語も熟知してくださっているので、話も早いですし。過去作に出た小道具がまた必要になった時も、「ああ、あれですね」とすぐにわかってくださいます。現場を円滑に回すことが舞台監督の仕事ですが、八着さんはそれに加えて、作品をよりよく届けるためにはどうすればいいかも一緒になって考えてくださいます。そういう意味でも安心できるというか。
音響の百合山(真人)さんもずっと<TRUMPシリーズ>を手掛けてくださっている音響家です。「ここはイニシアチブの音、あったほうがいいですよね」「咬む音は全部入れときますね」みたいに、僕以上に<TRUMPシリーズ>に必要な音をわかってくださっています。スタッフワークに関しては、ヘアメイク、宣伝美術、制作、演出部や演出助手もとても重要なので、語り尽くせないですね。
――これからまたどんな作品が生み出されるか楽しみです。
ただ<TRUMPシリーズ>も始まって10年以上経ってますからね。完結する前に引退されるスタッフさんが出てきたらどうしようとか思って(笑)。僕もいい年ですけど、僕より年上のスタッフさんが多いので。だから、「皆さんが現役のあいだに完結させねば」という焦りがありますね(笑)。
ミュージカル「マリーゴールド」(2021年10月20日発売)

次回は、登場人物とキャストにまつわるお話です。

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