安野希世乃が「でーじミーツガール」
収録で脳をフル回転させた沖縄方言

(c) 波之上青年団/でーじミーツガール製作委員会 放送中の「でーじミーツガール」は、沖縄を舞台に、ひと夏の“でーじ(沖縄の方言で「とても」「大変」という意味)な出会い”を90秒で描くオリジナルショートアニメ。実家のホテルでアルバイトをする高校1年の比嘉舞星(ひが・まいせ)は、東京からのワケあり宿泊客「すずきいちろう(?)」の来訪をきっかけに不思議な出来事に直面する。ビジュアルの魅力とともに心地よく耳に残る沖縄の方言は、どのように吹きこまれていったのだろうか。舞星役を演じる安野希世乃に、「アニメハックTV」第7回(2021年10月2日配信)出演後、話を聞いた。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
――「アニメハックTV」のご出演いかがでしたか。
安野:濃くて楽しいギュギュっとつまった1時間でした。MCの徳井(青空)さんは人のお話を聞くのがすごく上手ですよね。初めての2人しゃべりだと、お互い遠慮してお見合いみたいな空気になることもありますが、徳井さんがしゃべりやすい雰囲気をつくってくれました。作品についての話もたくさんできて、今お伝えできるかぎりの魅力をお話しできたと思います。後半の沖縄方言クイズはすごく盛りあがって、童心にかえって一緒に遊ぶことができました(笑)。
――「でーじミーツガール」は、沖縄の方言がとても印象的です。
安野:番組でもお話しましたが、「でーじミーツガール」は沖縄出身の儀武ゆう子さんが方言指導として立たれています。最初は収録当日にみていただく位の話だったのですが指針があったほうがいいという話になり、儀武さんがキャスト全員分の音声ガイドを丁寧にこしらえてくださったんです。収録前にガイドを聴けたおかげでキャラクターの感情にフォーカスすることができ、方言の再現だけにならずに気持ちをこめて演じることができました。儀武さんには、もう感謝しきりです。
――舞星の声がはじめて披露されたPVでは本編ほど方言が強くなかったので、1話を拝見したとき、こんなに沖縄っぽい話し方をするんだと新鮮でした。PVは舞星が自己紹介する内容でしたから、あえて沖縄の方言をうすくしていたのかなと思っていました。
安野:先行してPVの声を録った段階では儀武さんの方言指導は入っておらず、舞星がどのぐらい沖縄の言葉を話すか定まっていなかったんです。なので、PVの段階では方言のことは意識しすぎず、素直に舞星の気持ちをだしていました。それぐらいこの作品は許容範囲が広く、ゆらぎのあるなかでニュアンスを決めていったところがありました。どのぐらいのなまり具合にするかは本番当日に決まったところも多く、私としてはすごくやりがいがあって、このかたちでやらせてもらえてよかったなと手ごたえを感じています。
――番組でも話されていたとおり、視聴者に言葉の意味を伝えるためにあえて方言にしないところと、ニュアンスをだすために方言にしているところを相談しながらつくりあげていったわけですね。
安野:そうですね。収録で方言には難航しましたが、芝居面でもっとこうしてほしいというディレクションはあまりなかったと思います。舞星の年齢感やキャラクター性についてのすり合わせはPVの収録のときにできていて、最初に私が演じたものよりもう少し子供っぽすぎない感じで、等身大の女の子が言っているセリフにしてくださいと言われ、私のなかで「あ、こっちなんだ」と認識できていたんです。なので流れとしてはスムーズだったのですが、方言の細かい確認をしつつ進めていったので、本番の収録自体はけっこう時間がかかっています。
――舞星のセリフはイントネーションが独特で耳に残りました。
安野:そこは演じていてすごく面白かったところで、儀武さんの音声ガイドを耳コピして収録にのぞんだのですが、それでも「微妙に違う」となってその場で直すこともありました。土地によってどこの音が上がるといった節の感じが全然違っていて、沖縄の方言は言葉の後半が歌うようになることが多いと感じました。3、4、5音目あたりで音が高くなることが多くて、そこからカーブを描くようにさがっていって、語尾は上がってと……なんだか歌っているみたいだなという発見がありました。
――「すずきいちろう(?)」役の小林竜之さんとは、一緒に収録されたのでしょうか。
安野:ご一緒して隣に立って収録しました。コロナ禍なので大人数で一気に録ることはできなかったのですが、私と小林さん、舞星の父役(比嘉海星)の三宅(健太)さんの3人は一緒に録ることができました。
 そのとき小林さんが「そんなに(舞星に)話しかけないで」というディレクションをうけていたのが印象的でした。最初小林さんは、舞星を強く意識して会話のキャッチボールが成立するように演じていたのですが、監督から「スムーズに会話が成立していないように見せたい」というリクエストがあったんです。すずきは人間不信になるぐらい心を閉ざして沖縄にやってきた人ですから、舞星のことも最初はやっぱりちょっと面倒くさいなぐらいに思っていたんでしょうね。そうしたディスコミニケーション感は、2人のあいだに必要なみぞだったのかなと思います。
 ディレクション後の小林さんと私との芝居は、舞星がすずきに片思いしているようにも見えて、どこかかみあっていないすれ違っている感じがでていると思います。それが徐々に通っていく過程を、お芝居の変化で見てもらえたらうれしいです。
――一緒に収録していて掛け合いのよさがだせるはずなのに、あえて出さないというのが面白いですね。
安野:それでもちゃんと会話として成立しているから、見ていて面白いんじゃないかと思います。別々に録るとどうしても温度差が生まれることがあって、今回のケースだと一緒にやっているからこそ、その温度差をだすのが難しいという。もっとも呼吸をあわせられるシチュエーションで求められているのが「話しかけないで」ですからね。キャラクターの立ち位置として小林さんは難しさを感じられたはずで、実際小林さんもそこが難しかったとおっしゃっていたと思います。
――本作は90秒で、1話で舞星がどんな女の子か伝わってきました。演じられるさい、30分のテレビアニメと比べて違いはあるのでしょうか。
安野:90秒の作品でも、(30分アニメの)Aパート15分を一気に録る場合でも感覚としては変わらないです。それよりも秒あたりのカット数や密度など、オンタイムで感じるアニメーションの体感速度のほうに影響があるかなと思います。「でーじミーツガール」は30分アニメより1カットを長く見せられないので、沖縄のゆったりとした雰囲気は全面に伝わってきつつも、カットの切り替えは速くなっているので、そのスピードに息のアドリブなどをいれていく難しさなどはありました。
――本作は1クール分を1日で収録されたそうですが、毎週1話ずつ録っていく30分アニメと比べての違いはありましたか。
安野:主人公の女の子として舞星視点の物語を演じる自分としては、変わらずしっかり演じさせてもらったなという感覚でいます。物語としては何日か日をまたいでいますが、休憩の時間に気持ちを切り替えていった感じです。ただそれ以上に、方言のほうであっぷあっぷすぎて収録の日はとにかく必死でした。脳のリソースをフル回転させて、録り終わったあとは頭がもう絞りきった雑巾のようになっていました。収録後に小林さんと少し雑談したはずですが、脳がパンクしてボーっとしてしまっていて、何を話していたのかあまり覚えていないぐらいです(笑)。
――完成した1話をご覧になって、いかがでしたか。
安野:とても綺麗で丁寧な、手描きのよさを残したアニメーションだなと思いました。人の手で描いた線のぬくもりが最初から最後まで感じられて、いろいろな種類のお魚のヒレの描き方なども、これを全部人が描いているんだ……と驚かされます。線がちょっと太いのもポイントで、輪郭の丸っぽさなど丸紅茜先生(※キャラクター原案・シリーズ構成)の繊細な線のまま動かそうという気概が感じられました。淡すぎない色使いも印象的で、沖縄、常夏、夢の国というか、そんなバカンスの風景を切りとっているような色彩豊かなところも魅力です。90秒とはいえ、このクオリティでお話をつむいでいけるのは本当にすごいなと思います。
――物語の中盤あたりで注目ポイントがありましたら教えてください。
安野:舞星の祖母である「おばあ」という人物(※比嘉テル子)が、後半に登場してアドバイザー的に舞星を導いていきます。ユタ(民間霊媒師)である彼女の登場によって物語の核心に近づく謎が紐解かれていくのですが、おばあの一言がとにかく重いんです。
――番組でも話されていましたが、おばあの方言は舞星よりもっと強いそうですね。
安野:実は、おばあ以上になまった方言をあやつるキャラクターも登場します。その人物の言葉は沖縄の人でも若い人は分からないレベルだそうで、方言指導の儀武さんも、自分では分からないから身内の協力をえて音声ガイドをつくったと話されていました。ほとんどの人にはまったく意味が分からないけれど、沖縄の言葉なんだということは強く伝わるシーンが今後でてきます。
 「でーじミーツガール」を通して、方言は沖縄の財産のひとつなのだなとあらためて感じることができました。風土に残る言葉は文化で、言葉は魔法だなあと。舞星を演じられたことで沖縄にぐっと近づけた気がしています。この作品で沖縄の言葉にふれて面白いと感じてもらえたら、アニメーションの一部としてその魅力を伝える一助になれたのかなと思っています。コロナが落ち着いたら、皆さんぜひ沖縄にいきましょう!
※安野希世乃さんがゲスト出演した「徳井青空のアニメハックTV #07」もあわせてご視聴ください。
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