【SPICE独占】作曲家 フランク・ワイ
ルドホーンの創造の根源に迫る~日本
発ミュージカル『フィスト・オブ・ノ
ーススター~北斗の拳~』インタビュ

2021年12月、日本発のオリジナルミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』がいよいよ開幕を迎える。全世界、累計発行部数1億部超えの伝説的コミック「北斗の拳」をミュージカル化し、世界での上演を目指す本作。音楽を手掛けるのは、『ジキル&ハイド』『スカーレット・ピンパーネル』など日本でも度々上演される海外作品はもちろん、『デスノート』や『四月は君の嘘』など日本発、人気コミックのミュージカル化作品も手掛ける作曲家フランク・ワイルドホーン。心揺さぶるその音楽は多くのミュージカルファンを虜にしている。
10月末、SPICEでは、制作発表のため来日していたワイルドホーンに独占インタビューを敢行した。約20年前の『ジキル&ハイド』上演からスタートした日本との関わり、ワイルドホーン流創造のプロセスや自身の生き方、そしてコロナ禍を経て書き上げられた今作、『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』楽曲制作までたっぷりと語っていただいた。
■『ジキル&ハイド』から始まったアジアにおける“冒険” 「愛と同じように、音楽には国境がない」と知った
――フランク・ワイルドホーンといえば、今やアジアでも知らない人はいませんが、初めて日本で作品が上演された時のことを教えてください。おそらく2001年の『ジキル&ハイド』(2001年11月~日生劇場ほか。主演:鹿賀丈史)だと思うのですが。
20年前に日本で上演された『ジキル&ハイド』で、僕のアジアにおける冒険、旅は始まりました。時が経つのは早いもので『ジキル&ハイド』から20年経ったことも、『デスノートTHE MUSICAL』のオファーを頂いてから10年経つことも信じられません(註:『デスノートTHE MUSICAL』は今作『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』と同じくホリプロ制作によるもの)。
『ジキル&ハイド』と音楽が僕を日本に導いてくれ、僕の人生は変わることになりました。仕事面でも、プライベートも、です。この20年で多くの仲間と出逢い、ワイルドホーン・ミュージックのファミリーは海を越えて大きくなりました。そしてもちろん、妻タカコ(元宝塚歌劇団宙組トップスター・和央ようか)との出逢いもありました。彼女とは15年前に宝塚の『Never Say Goodbye』で知り合いました。それ以来、僕は日本の皆さまと一緒に数多くの冒険をさせてもらい、これがおそらく東京での23本目の公演になるかと思います。
こうして振り返ってみると、思い出されるのは必ずしも各公演の初日ではなく、培われた関係です。何年ものつき合いを経て、新しく友人になった人たち、ファミリーというべき関係になった仲間たち、そして今ではその仲間たちがそれぞれファミリーを持つようになりましたが、20年という長い期間に色々なことがありました。
それを理屈で説明したり、分析し過ぎたりしたくないのですが、日本の観客の皆さまとは素晴らしいつながりが築けているように感じています。それは誰かとデートした時に感じるような感覚で、いい化学反応がある時には理屈抜きにいいと感じられる感覚です。そして日本の皆さまとはミュージカル、その冒険を通して、ずっといい化学反応を感じ続けてきました。題材もスタイルも、多岐にわたる様々なミュージカル作品のどの冒険も、どの旅も支え続けてくださったことに感謝しています。
その関係の中でも最高に素晴らしいのは、もちろん、オリジナル作品を一からつくれたことです。以前はブロードウェイやヨーロッパで上演されている作品の上演権を得た日本語上演ばかりでしたが、今では、オリジナル作品を日本で一緒につくっていて、『デスノート THE MUSICAL』や今回の『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』は僕にとってかけがえのない大事な作品です。本当に素晴らしい旅路を歩ませて頂いていますが、実はまだ山頂に達しておらず、日本の皆さまと一緒に今も登っている途中のような気がしてならないのです。
――文化の異なる海外の人たちと仕事をするのは、難しいことではないのですか?
僕はユダヤ系のヨーロッパからの移民の息子としてニューヨークに生まれ、後にフロリダ州ハリウッドで育ちました。その自分がいざ海外への冒険に乗り出した時はとても心配でした。果たして自分の音楽が他文化ではどのように伝わることになるのだろう、と。僕の考えやイマジネーションが、言葉も異なる国でも通じるのか不安でした。ですがすぐに、今では人生の真言でもある教訓を得ました。それは、「愛と同じように、音楽には国境がない」ということです。つまり、それが何語であっても、僕が書いた時と同じ心と魂、情熱で歌い演じられれば、どの文化の垣根をも越えることを知ったのです。
もはや奇跡としか言いようがありませんが、日本ではこの20年、毎年一作品以上の日本初演の公演を果たしたことになります。その間、観客の皆さまに応援して頂き、プロデューサーの方々に支えて頂けたことに、心から感謝しています。朝起きると、僕ほどラッキーな奴はいないと感じるんです。元々そういう気質ではありますが(笑)。
異文化でも自分の音楽が成立することを知り、これもまた理屈で説明したり、分析し過ぎるのは避け、とにかく神に感謝してベストを尽くそうと思って作曲しています。これまでの軌跡を遡ると、お届けしたいと思って作曲した音楽を、日本の観客の皆さまも受け入れてくださったように感じられます。そしてこれからも最善を尽くしていいものをお届けし続けたいと思っています。
■作曲は「釣り」 起きるだけの意味がある日が訪れるまで寝ればいい
――今日は是非聞いてみたいことがあります。僕からするとフランクさんの作曲の作業があまりにも早くて、けれど確か、作曲しているところは誰にも見せないと聞いたことがあるのですが、作曲する時にはどうやって……?
「釣り(Fishing)」。作曲している時に何をしているのかと聞かれたら、その答えは、釣りです。その瞬間にやっていることは、禅にも通じるようなとても東洋的な感覚のものだと思います。僕が釣る魚は、常にすでにそこにいて、僕はそれを見つけようとしているのです。全てはそこから始まります。僕の仕事はピアノの前に座って釣りをすること。大きな魚が釣れる日もあれば、あまり釣果が良くない日もある。一匹も釣れない日もあれば、大漁の日もある。とにかく、禅的で直感的かつ体感的な作業をしています。
だからこそ、幸運なことに、僕は作曲が早い。それは、ある種のグルーヴ、バイブスのゾーンに入る感覚です。例えばバスケでジャンプシュートを続けてシュートしていく感覚に近いかと。ある種のグルーヴ、リズムの中へと入っていきます。そのリズムに入るのに時間が掛かる時もあります。本当に。でも一旦そのリズムに入ってしまえば、自ら抜け出してやめさえしなければ、短い期間にたくさんの曲を書くことができるんです。自分は本当にラッキーだと思うし、このこともまた、理屈で疑問視しないでいることのひとつです。
――話を聞いていると作曲するにはイマジネーションをすごく必要としていると感じます。作曲家として、これまで生きてきたなかで、音楽以外のことで何かこう、作曲に役立っていることって何かありますか?
僕という人間は、生活や人生の全てにインスパイアされて作曲しています。それはハワイのビーチに昇る朝日や、沈む夕日、妻の顔、あるいは息子たちとのアメフトのキャッチボール。それから、人の体験を聞くことだったり、読んだ何か、世の中を見ること……ありとあらゆることがインスピレーションの源になります。様々なところから、何かしらが生まれるのです。何かの着想だったり、コンセプトだったり、音楽のアイディアだったり。そのインスピレーションと自分のイマジネーションとを融合させられる力を与えてくれたことを神に感謝しています。
実は南カリフォルニア大学に通っていた頃、本を執筆していて、書き上げられなかったのですが、その本のタイトルは「インスパイアされない人生は生きる価値がない」でした。19歳の若造が書くにはずいぶん説教くさいタイトルですよね(笑)。でも何を考えていたかといえば、インスパイアされないなら朝起きないほうがマシ、ということなんです。何かやりたいこと、果たしたいことがなければ、起きるだけの意味がある日が訪れるまでは、目が覚めても、その日はまた寝ればいい、と。
ずっとそういう考えでやってきたし、僕は朝起きた時に目の前に登るべき山が必要な人間なのです。しかも、一つでは飽き足らず、たくさんの山を登りたい。山を一つ登り終えた時に、すぐに次に登れる山がないと、気が変になってしまうという。それが僕の生き方です。
■全てが止まり、悲しみに満ちたコロナ禍のNYからハワイへ “再生”から生まれた楽曲たち
――今回の『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』はコロナ禍で創作することになりましたが、それはどういうシチュエーションで、どのくらいの期間で作曲されましたか?
全幕のスコアを書き上げるまでに、おそらく4ヶ月くらいかかったのではないかと思います。ひょっとしたらもう少し短い期間だったかもしれません。
この一年はコロナ禍にあって、これまでにない状況に直面することになりました。昨年の2月末から3月頭にかけてワシントンD.C.に赴き、2週間後に初日を迎える『GOLD〜カミーユとロダン〜』の稽古をしていたんですが、ある日突然、開幕中止の知らせを受けました。そして、「とにかく今すぐニューヨークに戻るように。急げ」そう指示されました。そこで慌てて荷造りをして、アムトラック(註:全米を結ぶ旅客鉄道)に飛び乗り、タカコに電話して「タカコ、ひどいことが起きてる。すぐに食料雑貨店に行って、たくさん買い物をしてきて。とんでもないことになってる」と言ったんです。彼女がその日のうちに買い物できたことは、本当にありがたいことでした。
そうして僕はニューヨークの家に帰宅したのですが、次の日、少なくともニューヨーク市内では、世界が止まりました。カーネギーホール、リンカーンセンター、ブロードウェイ、オフブロードウェイはもちろん、レストラン、クラブ、とにかく全てがシャットダウンされ、街が止まったのです。それはあたかもスティーヴン・キングの小説や映画さながらの光景でした。世界規模で疫病が広がっているという。ニューヨークで車を走らせていても日に日に通行止めになっている道が増え、そして救急車のサイレンが絶えず鳴り響くようになったのです。
本作『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』の作曲を始めたのは、そんな日々のさなかでしたので、世界で実際に起きていることが僕の体内に入ってくるのを、どうにか音楽にして体から外に出していく、という作業をすることになりました。
それから数ヶ月経って、僕はハワイに行くことを決めました。それができたことはとても幸運だと思いますし、その時点ではまさか家を見つけてそのままハワイに生活の拠点を移すとは思ってもみませんでしたが。
ニューヨークであの時期を経て、ハワイへ移住したときに、再生して生まれ変われたような感覚を味わいました。朝起きて、いまだかつて見たこともないような美しい風景を目にして、山や海や空に神々の存在を感じました。『フィスト・オブ・ノーススター』のスコアを書き終えたのはそういう環境の中でした。つまり、コロナ禍が最も熾烈な猛威をふるい、とても悲しい日々でもあった時期にニューヨークで住んでいて、その街を離れてハワイに行き、実際に移り住むことを決めた頃に書き上げた作品となったのですが、その期間が4ヶ月から半年ではなかったかと思います。この作品は、その間の体験が背景となっています。
――作曲する時に、実際にピアノに座る前に、例えば移動中とか、どういうメロディかなぁって考えることはあるんですか?
ピアノに座る前にも、たくさんのメロディが頭の中を駆け巡ります。そして、自分がどうにかなってしまいそうになります。というのも、僕はそれを覚えておこうと必死で、かつ、そのメロディは互いに重なり合ってしまったりして。なので、耳が聴こえなくなってなお、世界でもっとも崇高ともいえるメロディが聴こえ続けたに違いないベートヴェンは、一体どう感じていたんだろうと思いますよ。僕は一生懸命に覚えておこうと急いでピアノに向かうのだけど、それまでに大抵、半分は忘れてしまっています。そうして覚えていられるものだけ、かたちにするのです。
新作の曲づくりを始める時、僕の場合、最初にまず頭を遮断します。これは、ほとんどのブロードウェイの作曲家はしないことだと思います。どんな人物が、どのような状況下にいる曲かは把握して書いているのですが、その際に、僕は自分にいかにクレバーかを誇示することには興味がなく、とにかく聴き手の心を動かすことを意図していますし、そういう作曲家として知られたいと願っています。
僕にとって音楽とは魂が込められたもので、「ソウルフル(魂のこもった)」という言葉も大好きです。音楽だけでなく人生もソウルフルに生きたいと思っていますね。そしてそのソウルフルな、魂に従う感覚にたどりつくためには、僕の場合、大抵、頭を遮断しなくてはなりません。そして直感的、体感的に、歌い手の声、登場人物、人物が置かれた状況などとつながっていると、何かが起きる、という感じです。その“何か”こそが創造のプロセスで、それはある種の奇跡ともいえます。言葉ではこれ以上の説明ができないのです。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』歌唱披露 2021.10.28
■今日を生き抜くために必要な希望と癒し 『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』にはそれが詰まっている
――今、何をしているのが一番楽しいですか?
僕はとにかく作曲することが好きなんです。ものすごく好きで、15歳の時に独学でピアノを弾くようになったその日から、曲づくりをしてきました。逆を言えば、作曲しなかった日はありません。食べて呼吸して寝るように、僕は作曲する。それが生活の一部なのです。自分では意識していない、潜在意識的な時もありますが、常に作曲しています。いつも何らかのかたちで創造している。今日まで、一方では、腕を磨き続ける努力を惜しまずに、時間をかけ、心と魂を注いで一生懸命にやってきたとも言えますが、もう一方では、人生、1日も働いたことがないとも言えるのは、本当にラッキーだと思います。朝起きて、自分がこよなく愛することをできるのですから。そして、そのやり方というのはこの40年間、変わってないのです。
僕を知る人は言うでしょうね。「一銭ももらわなかった時代と全く変わらない、心と情熱で曲をつくっている」と。今ではかなり頂けるようになりましたが(笑)。つまるところ、ずっと同じことをしています。直感と体感で題材とつながり、鍵盤に指を乗せる。そうすると何かが起きる。
――最後に、『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』を楽しみにしている人へ、この作品の魅力、メッセージを。
僕自身、『マッドマックス』『マッドマックス2』など、世界滅亡後の、人々が希望を失っている世の中を描いた映画を観て育ちました。そんな世界では、どんなものに希望を見いだすのか、荒地に咲く一輪の花に何を感じるのか。『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜​』には、どれだけ過酷で熾烈な状況になっても、希望があります。その希望はケンシロウにあり、子供たちの中にあり、悪や負の暗黒面に決して屈することのない人々の心の中にあるのです。『スターウォーズ』でいえば、まさにダークサイドになるわけですが。そして彼らはその希望を持ち続けます。希望は永遠のもので、この世の中には必要不可欠です。そして音楽は癒し、同時に希望を与えてくれるものでもあります。僕は心の底からそう信じています。
この作品は多岐にわたる事柄を扱っています。善人も悪人もいて、確執や争いがあり、明日も分からない日々を生きのびるために想像を絶する闘いが繰り広げられます。希望がなかったら、もはや何もできない。今日の、希望がなかったら生き抜くことが不可能な世の中には、どれだけたくさんの希望が必要なことか。そして人には癒しが必要で、音楽にはその力がある。『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜​』には良いものがぎっしり詰まっているので、是非それを感じて持ち帰って頂きたいです。
撮影=ジョニー寺坂

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