ピアニスト・ニュウニュウ、ニューア
ルバムを引っ提げ2年ぶり日本ツアー
へ「ピアニスト/作曲家としてベート
ーヴェンという“レガシー(伝説)”
を伝えていきたい」

中国生まれのニュウニュウは、TVアニメ『ピアノの森』(パン・ウェイの演奏を担当)などで日本でも人気の高いピアニストだ。2021年11月、およそ2年ぶりに来日し、ツアーを行なう。ここでは、11月3日(水・祝)に国内盤がリリースされたばかりのアルバム『ベートーヴェン:フェイト&ホープ』​と、いよいよ11月20日(土)から始まる日本ツアーについて話をうかがった。
――COVID-19が流行して以来の来日だそうですね。
感染拡大する前の最後の来日は、2020年1月。指折り数えて日本を訪れる日を心待ちにしていました。
――今回は、アルバムをリリースされました。ニュウニュウさんの作品以外は、すべてベートーヴェンの作品ですね。
タイトルは『フェイト&ホープ』。つまり、ベートーヴェンの「交響曲第5番」の《運命》(fate=フェイト)と、私自身の作曲家としてのデビュー作品となる「即興曲第1番《HOPE》」(=希望)に由来しています。
昨年(2020)はベートーヴェン生誕250年で、彼に捧げる意味も込めています。このような特殊な状況下で、私は彼からどれだけエネルギーをもらったことでしょう。私にとって、ベートーヴェンは特別な作曲家です。
――このCDは、まず暗いハ短調《運命》に始まり、最後にニュウニュウさんの明るい長調の曲で結ばれます。ベートーヴェンには、短調から長調へ……苦しみから勝利へという道筋のある作品もあります。このアルバムにも、そのようなストーリーを感じます。
(アルバムのストーリーは)まさにベートーヴェンからインスパイアされたものです。
ベートーヴェンの「交響曲第5番」は、なぜこんなに有名なのだろうと考えてみたんです。とてもシンプルなテーマが、あたかも人生が自然に進んでいくかのように、音楽も同じように自然に展開していく。だから、人々がこの曲を聴いた時、予備知識がなければ理解できないということはありません。この作品を聴いているだけで、エネルギーが自然に注ぎ込まれるようなものを感じます。
ベートーヴェンは、第1楽章から《運命》に毅然と立ち向かっていきます。ところが最終楽章に入った時、彼はまったく違うレヴェルに到達します。今までのすべての出来事を包み込むような、とても満たされた境地に達していくようなものを感じることができます。それがタイトルの由縁です。
運命とは予知できないものです。コロナ禍では、人生を突然に否応なく変えられてしまうような、予期できない事態が起きました。しかしそのなかにあっても、人々は希望を失わないことで、より明るい未来へ向かっていけるのではないかと。そのような思いをこのアルバムに込めました。
――ベートーヴェンの「交響曲第5番」は、ほとんどの場合はオーケストラで演奏されますが、なぜピアノで演奏しようと考えたのですか?
私が生まれて初めて聴いた交響曲は、ベートーヴェンのこの第5番でした。初めて聴いた時、幼いながらも、身体がその音楽に完全に共鳴しました。それほどまでに、私に衝撃的な印象を与えた作品なのです。
次に、リストの編曲版の存在があります。これは本当にチャレンジでした。しかし、このリスト編曲版は、ピアノ独奏曲を超越するような素晴らしい作品であると思っています。その難しさのひとつは、オーケストラでお客さまに伝えるものすごい量のエネルギーを、ピアノという楽器を通してひとりで伝えなければならない点です。
――リストの編曲版は、ユニークな輝きに満ちあふれています。
ベートーヴェンは作曲家として偉大ですが、ピアノ演奏にも長けた人でした。もしもベートーヴェンがこのリスト編曲版を弾いたら、どんなふうに演奏しただろうかとの思いもあります。
一方で、交響曲をピアノで弾く意味があるのかとおっしゃる人もいます。ただ、リスト自身が作曲家であり、ピアニストでもありました。ですから、編曲版ではベートーヴェンの「交響曲第5番」のあらゆる要素をぎゅっと絞り出し、見事に開花させています。編曲にあたり、オリジナルの音符をすべて入れ込むのではなく、大きなアコースティックな響きを再現してみせるあたりは、リストの凄さだと思います。
今年はリストのアニヴァーサリーの年(生誕210年)でもありますから、その意味も込めて、ベートーヴェンとリストという組み合わせを考えました。
ニュウニュウ(c) Paul Tsang
――交響曲の後に、ピアノ・ソナタの《悲愴》と《月光》を選曲した理由を教えてください。
この2曲のソナタは、最も有名なピアノ・ソナタと言ってもいいと思います。僕の解釈は、今まである解釈とは異なっていますので、ぜひみなさまに聴いていただきたかったのです。
例えば、《月光》について。とてもロマンティックな作品として見られるケースが多く、そのタイトルから、月の光の輝きやその反射などを描こうとする人も少なくないのではないでしょうか。しかし、《月光》のタイトルはベートーヴェン自身がつけたものではありません。彼の考えとしては、むしろ幻想の世界を思ってこの作品を書き上げていると言われています。とても暗いかと思えばとても静かであったりと、その時の彼の気持ちを回顧するかのようです。そういった人間の奥深い感情が幻想的に語られている作品であると、僕は考えています。
《悲愴》と《月光》を並べたのは、この2曲のピアノ・ソナタにつながりを感じているからです。
《悲愴》の方は、若い頃に耳が聞こえなくなったという、受け入れがたい現実に対するベートーヴェンの強い怒りを、ダイレクトに私たちに投げかけてくるような音楽です。《月光》は、《悲愴》よりも怒りがさらに奥深いところまで浸透し、そこでまだ燃えているようなものを私は感じるのです。この2つの怒りを、コントラストをもって表現したいと思いました。
――アルバムでは、ベートーヴェンはすべて短調の作品を選曲していますね。
おっしゃる通りで、最後に僕の作品「即興曲第1番《HOPE》」が長調で終わるわけです(笑)。
アルバムのタイトルを見ると、ベートーヴェン、フェイト、ホープ、ニュウニュウ……と並びます。「お前、ベートーヴェンと肩を並べる気か?」と、からかわれたりしました(笑)。でも、決してそういう意味ではなく、僕はベートーヴェンという“レガシー(伝説)”を、いまを生きる芸術家として受け取り、それを次へと伝えていきたいとの思いを抱いています。素晴らしい芸術を、ピアニストとして、そして作曲家である僕は、“レガシー”をしっかりと受け止め、未来へと受け継いでいきたいのです。
――その自作曲についてはいかがでしょうか。
小さなころから作曲は大好きでした。はじめの頃は、むしろ即興演奏と言った方が正しいかもしれません。自分を表現する術が即興演奏だったのです。ジュリアード音楽院では作曲も勉強しました。
今回の「即興曲第1番《HOPE》」の初稿はすぐに書けました。しかし、完成までにさらに数か月かかりました。初めて出版される自作ですので、自分の言いたいことを作品にすべて入れようとしてしまったのです。それをぎゅっと引き締めながらも自然なものに仕上げることを心がけ、最終稿を完成させました。
――もうすぐツアーも始まります。コンチェルトもリサイタルもありますね。
とても楽しみにしています! まず、リサイタルのプログラムの半分は、今回のアルバムに収録したベートーヴェンのピアノ・ソナタを考えていて、場所によっては僕の新作も聴いていただけるかもしれません。また、沖縄ではアルバムにも収めたベートーヴェン「交響曲第5番」を弾きます。どんなに厳しい状況にあっても、常に希望はあります。僕のコンサートを通して、ベートーヴェンが与えてくれるエネルギーや希望を感じていただければ嬉しく思います。
また、今回の来日では、ついにピアノ協奏曲を演奏することができます。それもとてもワクワクしています! 11月20日(土)には京都で、ショパンの「ピアノ協奏曲第1番」を京都市交響楽団&指揮者のデリック・イノウエさんと共演します。
――京都での公演では、實川風さんと福間洸太朗さんと、それぞれショパンのピアノ協奏曲を演奏しますね。おふたりにお会いしたことはあるのですか?
別の取材の際に画面を通してお会いしました。まだ直接お会いしたことはなく、典型的なコロナ禍での出会いのパターンです(笑)。京都では、3人の若いピアニストがショパンのピアノ協奏曲に挑みます。例えば、僕の演奏する「ピアノ協奏曲第1番」はショパンが20歳の時の作品ですし、ショパンの若い頃の作品を若い人たちが弾く、とても楽しみなコンサートです。
――そして年明け1月には、新日本フィルハーモニー交響楽団&指揮者の佐渡裕さんとベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番《皇帝》を演奏します。
この曲は、ベートーヴェンの音楽のすべてが込められているような作品です。このピアノ協奏曲の緩徐楽章(第2楽章)は、あらゆる協奏曲の緩徐楽章のなかでも、僕にとって最も心惹かれるもののひとつです。そして、最後の楽章(第3楽章)は喜びに満ちあふれ、それでいながら情熱的です。音楽の流れに身を任せ、そこに気持ちをそのまま乗せて自然に入っていけるような作品だと思います。
――指揮者の佐渡裕さんとは、少年時代にも共演していますね。
今回、再共演できることを嬉しく思います。私にとっては“メンター”であり、音楽の世界における僕の恩師。とても尊敬しています。佐渡さんと共演した際、終わった瞬間に満足感を覚えました。小さなころに共演して思ったのは、世の中でこんなに優しい指揮者がいるのだと。とてもフレンドリーで、それでいてユーモアのセンスもあり、人間としても学ぶことがとても多い指揮者だと感じています。
実は、11月・1月の日本でのリサイタルのほかに、12月には香港フィルとラフマニノフのピアノ協奏曲を演奏する予定があります。この3か月でショパン・ベートーヴェン・ラフマニノフの協奏曲を演奏する。ピアニストとして、そういう意味でもとてもワクワクしています。
――日本のファンのみなさまにメッセージをお願いします。
初来日のころから変わらずあたたかい声援を送ってくださるみなさまに、改めてお礼を申し上げたく思います。今回のツアーでは、協奏曲もリサイタルもあり、新しいCDも引っ提げてきました。CDも聴いていただき、また生の演奏も聴いていただければとても嬉しく思います。みなさまと再会する日を心から楽しみにしています。
【コメント到着】ピアニスト・ニュウニュウ、ニューアルバムを引っ提げて2年ぶり日本ツアー開催!
取材・文=道下京子

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