『DELTA 2021』ギャラリー・コレクタ
ー・アートファンをつなぐ大阪の新た
なアートフェアに込めた、若手アート
ディレクターの挑戦と願い

新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界的なアートフェアが中止になるなど、アートシーンにも大きな変化が訪れた2020年。コロナが猛威をふるう最中に、大阪で1つのアートフェアが産声をあげた。その名は『DELTA』。立ち上げたのは、大阪の美術界を担う2人の若手アートディレクター。同い年で、職場の同僚だった岡田慎平(TEZUKAYAMA GALLERY)と高橋亮(DMOARTS)が、大阪・京都・東京の3都市から独自の視点でギャラリーを集めスタートした。昨年8月、大阪・南堀江に構えるTEZUKAYAMA GALLERYで開催された初回のアートフェア『DELTA Experiment』は3日間で約400人が来場。今年は7月に同会場、9月〜10月に東京・天王洲WHAT CAFEでの展覧会を経て、11月26日(金)から11月28日(日)の3日間、大阪港のシーサイドスタジオCASOにてアートフェア『DELTA 2021』が行われる。昨年よりも会場・出展ギャラリーともに規模を拡大。昨年『DELTA Experiment』に参加した7軒に加え、東阪京のギャラリー計16軒が出展する。フェア開催に先駆けて、今回SPICEでは岡田と高橋の両名に『DELTA』が生まれた背景や思いを語ってもらった。
『DELTA』
大阪から発信して、僕らの世代で何かを動かしたい
ーーまず、お2人の出会いは?
岡田:高橋さんはDMOARTSで働いていますが、僕も立ち上げから3年間、DMOARTS(以下DMO)で勤めていたので、元同僚なんですよ。大阪では僕らの世代で美術の仕事、特にギャラリーの仕事をやってる人にあまり出会わないので、意気投合したというか。僕がTEZUKAYAMA GALLERYに移った後もプライベートでよく会っていたし、お互いのギャラリーも行き来していました。
ーーアートに関する仕事や、アートフェアに興味があってDMOに入られたんですか?
岡田:2人ともそうですね。
ーーそれぞれのアートの原体験は?
岡田:姉と妹が美術系の学校に行っていて、僕も小さい頃からモノを作るのが好きだったんです。徐々にアートから離れて大学は普通科に進んだんですけど、高校時代の友人が京都の美大に進学して。大学時代も彼とプライベートで遊ぶことが多くて、彼の美大の友人のデザイナーやアーティスト志望の子たちとも遊ぶようになり、ものづくりやクリエイティブな仕事に関心が戻っていきました。彼らは僕よりも突出したものを持っていたので、彼らと関わりながら仕事ができる立場は何だろうと調べていたら、どうやらギャラリーらしいと。で、DMO系列のdigmeout ART&DINERにアルバイトで入ったんですよ。マスターの古谷さんに「展示の仕事に興味があるんですけど、どうやったらやれますか?」と聞いたら、そんなこと言ってくるスタッフは今までいなかったみたいで、「じゃあこの日設営やってるからおいで」と言われて、ネジの打ち方やトンカチの使い方をイチから教えてもらって、展示のお手伝いをする中でアーティストの考えに触れる機会が増え、どんどんのめり込んでいきました。
ーー高橋さんは?
高橋:僕は高校生の時からレッド・ホット・チリ・ペッパーズが好きで高3の夏、レッチリを好きになって初めての来日公演を東京に友達と観に行ったんです。お金がなかったので往復夜行バスで行ったんですけど、早朝に着くから昼間はめちゃくちゃ暇じゃないですか。とりあえず上野でも行こうと東京国立博物館へ行ったら、レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」がウフィツィ美術館から来ていて、「うま! すげ! 500年前!? やば! 超楽しい!」となって、そこから美術館やギャラリーに行くようになりました。僕も普通の大学の普通学科に4年間いたんですけど、勉強は苦でもなければ楽しくもないから、仕事は芸術系に携わろうとDMOに入社して、早10何年が経ちました。
『DELTA』
ーー『DELTA』が生まれるまでのいきさつは?
岡田:プライベートで会っても自分たちが関わっている作家さんの話、アートフェアの話など、仕事の話をしてました。去年は特に、コロナで国際的にアートフェアが中止・延期になって。うち(TEZUKAYAMA GALLERY)もDMOさんも、年間を通してアートフェアに出展してるんですけど、それができなくなってしまって。作家さんはコロナ禍でも制作は続けているのに、主催者の判断でアートフェアの開催がなくなると、作家さんも発表の機会も失ってしまう。自粛要請でギャラリーの営業自体ができない時期が約1ヶ月あって、待ちの体勢になっているもどかしさがありました。だけど、自粛が明けてからは結構すぐにお客さんが戻ってきたんです。やっぱりお客さんはアートを求めてるんだなという話を高橋さんとずっとしてて。ギャラリーの規模感でできるアートフェアを考えてみるところが始まりでした。
高橋:去年の5月〜6月ぐらいにやろうかと話をして、約2〜3ヶ月で1回目を開催しましたね。
ーー2020年8月にTEZUKAYAMA GALLERYで行われた、1回目の『DELTA Experiment』ですね。
高橋:1年前はわからなかったんですけど、アートの展覧会はクラスターが起きないんですよ。それがこの1年でエビデンスとして出てきた。でも当時は今以上にシビアに考えていて、必要な感染症対策をした上で、ミニマムな規模で開催しました。
ーー「Experiment」は「実験・試み」という意味ですね。本当に試しでやってみようと名付けられたんですか。
岡田:そうです。初回という事もあり、僕らにとっても実験的な試みだったので。屋号の「DELTA」は、2人で最初に決めていました。ギャラリーを大阪・京都・東京の3都市から誘致しているので、トライアングルという意味も込めました。
ーー『DELTA』誕生の背景に「大阪では先鋭的かつ新しい感性を持ったギャラリーやディレクターによるプレゼンテーションがまだまだ不足していることに問題意識を持った」とありますが、詳しくお聞かせ願えますか。
岡田:今年19回目を迎えた『ART OSAKA』という現代美術のアートフェアでは、関西を中心とした老舗のギャラリーが参画して運営母体になってるんです。いわゆる関西のギャラリーの歴史を築いてきたレジェンダリーなギャラリーです。でも、それ以降のギャラリーが、何軒かはあるんですけど、帯としては存在していなくて。大阪で歴史あるアートフェアもあるし、僕らもこの先20年30年とこの仕事を続けていくので、未来のことを考えた時に、大阪を耕しておきたいという思いがありました。大阪から発信して僕らの世代で何かを動かしていくことが大事だなと。
高橋:自分たちを含め、若手とされる人たちの活動や、やりたいことを、さらに下の世代やいろんな人に見てほしい。多くの人に憧れられるような存在や、フォローアップする存在にならないと「あの仕事カッコいい」とか「あそこのギャラリー素敵だな、作品も欲しいな」とならないので。今ある仕事を回すだけなら今でもできるんですけど、そうではなくて、どれだけ新しいところにチャレンジングできるか。その辺の課題も自分たちの中にはあって。その1つのツールとして『DELTA』が存在しているのかなと個人的には思っています。
大阪・京都・東京の出展ギャラリーとアーティストを自らセレクト
『DELTA』
ーーDELTAが既存のアートフェアと違う点は?
岡田:出展ギャラリーとアーティストを、全て僕らがディレクションしているところです。基本的にアートフェアというのは公募で出展ギャラリーを募るケースが多いんですよ。『DELTA』は僕たちから出展して欲しいギャラリーにオファーをしています。そして、1ギャラリー2〜3組のグループ展形式で出展するケースが多いので、出展ギャラリーのディレクター陣とすり合わせをしながら、「僕らとしてはこの作家さんを大阪で紹介したい」とこちらからもリクエストを出します。出展してもらって任せきりというより、僕らも大阪のお客さんに紹介したい、観て欲しいという思いで、ギャラリーだけでなく出展アーティストの選定にもディレクションをしているという点は、他のアートフェアと違う特徴かなと思います。
ーーギャラリーや作家を選ぶ基準はありますか。
岡田:先鋭的なギャラリーやアーティストに特化していますが、僕らの独断と偏見です。
高橋:あとは結構近い世代のディレレクターが多いです。僕らは33(歳)の年ですけど、同世代や少し上の世代の人たちと一緒にやっていこうみたいなところもあって、30〜40代くらいの人が集まってやってる感じですかね。
ーーギャラリー間のネットワークはどのように作ってこられたんですか?
岡田:『DELTA』を立ち上げる前からいろんなフェアに出展していたので、そこでギャラリー間のコミュニケーションを図れるんですよね。作品、展示方法、ディレクターの印象で覚えてるギャラリーはたくさんあって。あとはお客さんから情報としても入ってきます。「ここの新しいギャラリー行ってきたけど、良い作家の展示やってたよ」とか、そういうのを記憶しておきます。去年『DELTA』を立ち上げた時も、キャパ的に7軒が限界だったので、僕らのギャラリーと残りの5軒をどうするかというところで、今言った流れでセレクトしました。立ち上げ当初は強い結びつきがあったというよりは、顔見知り程度かな。
高橋:初めましての人もいましたもんね。でもそのギャラリーのクオリティや活動はもちろん、作家さんも知っていて。
岡田:だから関係値は今まさに築いていってる途中です。世代が近いからか、仕事以外の共通言語が多いので、関係ができるのはやっぱり早い。問題意識や見ているポイントが自然と近くなって、共有できることが多いのかな。
ーー参加ギャラリーの皆さんも、『DELTA』への思いは共通認識として持って参加している。
岡田:あとは面白そうだと思ってくれたんだと思います。東京だとアクションが起こりやすいと思うんですけど、関西のしかも大阪という場所。
高橋:「大阪で何か新しいこと生まれるらしいで、面白そうやな」みたいなのは絶対ありますよね。
ーー大阪はFM802がカルチャーの中心を担っているといっても過言ではなくて、FM802から売れるミュージシャンやアーティストがいたり、広がるムーブメントがありますよね。一方で、現代美術は一般の人にとっては少しハードルが高い側面もあります。お2人はFM802界隈にいながら歴史あるアートフェアやアート業界との関わりも持っておられて、ちょうど真ん中におられる感覚があります。
岡田:それは多分2人ともアート畑出身じゃないところもあるのかなと。僕らもこの仕事に携わる前は少なからず、どこを入口にしたらいいのかわからなかった。
高橋:違う畑から来ても、畑に入っちゃうと楽しいじゃないですか。入り口だけちゃんと作ってあげれば、普通に入れるのは実体験としてわかっているので。そういう意味では、『DELTA』の入り口の敷居を高くすることはあまり考えたくはない。いろんな人に来て欲しいのは、大前提としてありますね。
岡田:ただ、『DELTA』としてはちゃんとディレクションしたものを展示する。ギャラリーの選定をすることで、僕らも、参加ギャラリー同士もリスペクトし合えるギャラリーが集まっている。そういうフェアにしたいですね。
エリアを超えたギャラリー同士の結びつきを生み出したい
『DELTA』
ーー改めて1回目のフェアを振り返ってみていかがですか。
高橋:僕らもどんな感じかなと思いながらやったんですけど、蓋を開けてみたらお客さんもたくさん来てくれました。天候も悪かったのにずっと途切れずにお越しいただいて、手応えとしては結構良かったです。
岡田:去年、1回目を開催したことで東京・京都のディレクター陣とコミュニケーションを取れたのは、僕らとしてもすごく大きくて。コロナでアートフェアやギャラリーの運営が今後どう影響を受けるか図れない部分があったので、「来年以降も一枚岩になって頑張っていこうよ」という意識に向かっていったキッカケにはなりました。
ーーコロナが結果的に1つのキッカケをくれたんですね。
岡田:コロナがなかったら『DELTA』をやっていなかった可能性もありますね。いろんな状況をちょっと立ち止まって考える機会にはなりました。
高橋:多分それはお客さん側もそうですもんね。
岡田:自分たちでできることがあればやってしまえばいいかなと思ったのが去年ですね。
ーー今年の11月の開催に向けては、7月にTEZUKAYAMA GALLERYで、9〜10月に天王洲のWHAT CAFEで、昨年DELTAに参加したギャラリーによる展覧会が開催されました。反響はいかがでしたか?
岡田:展覧会とフェアの2軸で年間を回していくのは、立ち上げ当初から決めていました。東京は会期中、2万人弱の人が会場に足を運んでくれました。カフェギャラリーなのでカフェ利用の方ももちろんいるんですけど、とはいえ結構な数の方に見ていただいたかなと。あと『DELTA』を認知してくださってるお客さんがすごく多いと感じました。まだ動き出して1年ちょっとなので、そんなに知ってもらえてるんやと驚きました。
ーー今回の会場は大阪港にあるCASOです。見どころは?
岡田:ギャラリーセレクトが16軒に増えたところと、展示環境が大幅に変わりました。天高で壁面高、ブースのサイズが大きくなったので、かなり大型の作品を持ってくるギャラリーも多くて。キャンパスで言うと150号以上とか。美術館級のスケールの展示をフェアで見れるのは、大阪でもなかなかないです。
高橋:うん、実際のところ難しいですよね。
岡田:売る気あんのかみたいなね。一応商売なんで(笑)。ギャラリーの面白いところって、商売ではあるんですけど、魅せることにもすごく力を入れていて。そこを楽しめる環境になってるのは、昨年に比べて大きな変化ですね。あともう1つ、作品を購入したことが無い方でも自宅に作品がある状況をイメージしてもらい易くなればという思いで、大阪のgrafさんとコラボレーションをします。会場の一角でgrafさんのオリジナル家具やプロダクトを展開しつつ、『DELTA』の出展ギャラリーから家具とアートの親和性のある作品をセレクトして一緒に展示します。
ーー『DELTA』の使命は何だと考えていますか?
岡田:僕らが大きく掲げるのは、自分たちの世代からもう少しだけ美術業界自体の風通しを良くしたい。だから出展ギャラリーやアーティスト間で新たな結びつきができるキッカケになればいいなと。例えば『DELTA』以外の場面で、ギャラリー同士がエクスチェンジする展覧会の企画が生まれたり、ポイントだけではなく、それ以降も続いていく流れになれば、僕らとしてはすごくやってる意味があるのかなと。むしろそれしかないというか。作家さんにとっても発表の機会創出に繋がるので、エリアをまたいでギャラリーの関係性が密に繋がると嬉しいです。あとは多様なギャラリーが一堂に会することで、全員がいろんな価値観や表現を共有できる場になる。ギュッと固まるよりも、上手く巻き込んでいきながら、渦みたいになっていくと面白いのかなという気はしてます。各ギャラリー、それぞれミッションがある上で『DELTA』に関わってくれてると思うので、全体をコントロールしたいというよりは、いろんな要素を僕らに与えてもらって、僕らも還元する形が1番理想的なのかなと。
高橋:僕らはたまたま先頭にいて旗を振ってるだけ。ダイバーシティの時代なので、いろいろな多様性のチャンネルの1個に『DELTA』があったらいいなと思います。今回はしっかりと時間をかけて見ていただきたい内容、作品、ギャラリストが揃っているので、楽しみにお越しいただきたいです。
『DELTA』
取材・文=ERI KUBOTA 撮影=福家信哉

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