活動のグルーヴが増し、作品の解像度
を上げるリーガルリリー 2ndシング
ル「アルケミラ」インタビュー

今年はEP『the World』のリリースと全国ツアー、8月には新曲「風にとどけ」と、映画『うみべの女の子』とのコラボレーションではっぴいえんど「風をあつめて」のカバーを配信。また、崎山蒼志の楽曲「過剰/異常 with リーガルリリー」でのコラボレーションなど、グッと活動のグルーヴが増してきた印象だ。そこに既に放送されているTVアニメ『86―エイティシックスー』エンディングテーマでもある「アルケミラ」を表題とする2ndシングルをリリース。曲展開の新鮮さや言葉の解像度の高さにハッとさせられる、バンドの覚醒を感じる「アルケミラ」をはじめ、くるりの「ばらの花」のカバーなど、今回も聴き応え十分な内容に。バンドが楽しい、リーガルリリーであることが楽しいーーそのモチベーションの所在を探る。
――「アルケミラ」、びっくりしました。
ゆきやま:やっぱりそうですか!(笑)
――意表を突かれました。『86−エイティシックスー』のエンディングでもありますが、どういうところからできた曲なんですか?
たかはし:最初はアニメのことを意識せずに、部屋でふと生まれた〈アルケミラ〉っていう言葉をサビに乗せてみたことがきっかけでしたね。お花の名前でもあるんですけど。そこから色々と広げていって、Aメロ、Cメロ、それでアニメにつなげようと思って。いろいろとメンバーとも話し合いながら、歌詞はもちろん、アレンジ、構成、結構、アニメ尺も考えながら作りました。
――発端は何か新しいものが生まれるように?
たかはし:そうです。いつもと同じようにゼロから1が生まれた気がします。
ゆきやま:これって『86−エイティシックスー』を目指したんじゃなくて、自分が寝るときのララバイ的に。だから気の抜けたとこから始まって。
海:こんなに掻き鳴らしてるのに(笑)。
――眠りたいから、ですか?
たかはし:はい。
海:最初は弾き語りのアコギのデモだったので、たしかにそういう雰囲気はすごくあって。でも、スタジオで3人で合わせたらこんな感じになっちゃって(笑)。
ゆきやま:ちゃんとリーガルリリーになる。
――出だしですごく引き込まれるというか。
ゆきやま:気持ちいいですよね。
――アルケミラって響きだけ聴いたとき、ギリシャ神話かなと思ったんですけど、アラビア語なんですね。
たかはし:錬金術で使用した花の名前で、その露を包帯とかに垂らしていたみたいです。それで何かを治すとか、包まれるというような意味合いのサビになって。
リーガルリリー
――じゃあ最初は眠れるようなというところから始まって、ある程度できてからはアニメの内容も意識して書き始めたと。このアニメに関しては皆さんどういう印象を持ちました?
たかはし:海ちゃんがいちばん……。
海:(笑)。私が一番観てるんですけど。テーマ的に重いけど面白そうだなと思っていて。理不尽な世界の中で闘っていくって……強いですよね。意志が強いというか。与えられてしまったものを全うしていく人たちって、与えられたものに自分で価値を見出さなきゃいけないので、そういうテーマって重いけどいいなと思って。でも戦闘シーンとかもあるので、眠りっていうテーマに重きを置きつつも、戦闘シーンで映える轟音だったり、そういうサウンドは目指しました。
――こういうストーリーは最近のアニメには多いですね。
たかはし:多いですね。共感もできるし、社会に喩えたりもできるので。
海:どっかでみんな差別のようなものを受けていたり、理不尽だなとか、味方がいちばん怖いじゃないけど、そういうものを感じてるのかなと思って。そこで献身的な愛(アルケミラの花言葉)って強いですよね。
――戦争状態にあっても結束する仲間が出てくる物語は多いなと。
海:夜に主人公たちがレーナっていう女の子と交信するシーンが一期で結構出てきて。そういう時間が安らげる時間というか、戦場との対比で日常と非日常じゃないけど……それこそ異世界と世界がつながっていくなぁと思って。「アルケミラ」って、そういうギャップが面白いなと思います。
――展開、特にリズムチェンジが特徴的な曲で。まさか始まったときにはサビがハチロクになると思っていないので。
たかはし:エイティシックス、ハチロクっていう。
――すごい! 本当ですね……普通、Aメロにしそうですけど、サビがハチロクって面白いです。
たかはし:デモをアコギで作ったので自由にリズムを決めました。メロディから作ったらこうなることはないんですけど、歌詞に「アルケミラ」っていうものを入れたらハチロクになって。それにバンドをつけるとなるとやっぱり4拍子がいいなぁと思ったので、1曲の中に両方入れました。
――なるほど。<絶え絶えなぼくのむねを整える>という歌詞も印象的でした。
たかはし:すごく個人的な話なんですけど、当時よくサウナに行っていて。それで「整える」って表現をみんな使っていて、「あ、でも確かにそれぞれの整え方があるなぁ」と思ったんです。私もその時サウナで整えていてました。
――たかはしさんがサウナに行くと言うと、なんとなくエクストリームな入り方をしてそうだなと。
一同:あははは!
――究極まで入ってそうです(笑)。
たかはし:そんな感じですね(笑)。
海:瞑想ルームみたい(笑)。
たかはし:眠りに入る前は整えてから、新鮮な布団の中に潜りたいっていうものがあって。お日様でしっかり干したやつに入りたいなぁって気持ちがあるので。包帯を巻いてからアルケミラ(花の露)をかけるっていう感じ。
リーガルリリー
――自分なりの治癒の方法ですね。余談ですが海さんのブログに夜中にスープを作る話あったじゃないですか。あれも整うため?
海:そうですね。
たかはし:海ちゃんよくクッキーを焼くんですけど、そこで「作りたくなっちゃうんだよね」っていう言葉を聞くと、やっぱり整えるためなのかなぁって思う。
海:頭で考えずに手を動かしてお腹に入れるって、結構身体が整うので。好きなことをして穏やかになって眠るのが一番いいですよね。
たかはし:すごく苦しい状況のときほど、そのくらいの幅の整え方をすればバランスがとれると思うので、いっぱい気持ちいいことをしたりすることが大事なんだなと思います。
――ちなみにゆきやまさんの整い方は?
ゆきやま:私の整い方は散歩とかかな。散歩している時に街の風景を見ると、みんなが動いてるじゃないですか。人も動いてて植物も動いててそういうのを確認すると整います。
――なるほど。意外性のある曲なんですけど、自分をしっかりチューニングしたい気持ちになれますね。
海:アニメが終わって急に(エンディングが)流れてくると自分でもびっくりしちゃいます(笑)。“あ、こんな曲だったか”と思って。
たかはし:アニメで聴くとまた全然違う曲のように感じます。
――聴こえ方が変わってきますよね。
海:アニメ自体結構引き込まれるから、そっちに意識がいっている中でエンディングが流れてくるので。
――自分たちの曲というより、もうちょっと客観的に聴こえるということですか?
海:そうですね。最初に流れたときは期待して観ていたので、“このあとだ!”って思うんですけど、やっぱ回が続くとそれも忘れて観入ってしまうので、“あ、そうだった”と思って。
――今回、「アルケミラ」も「チェインスモーク」もたかはしさんのギターが歪み系でもなく、どっちかというとクリーンだけど、そのことが却ってコード展開を印象づけてるなと。
たかはし:今までコーラスっていう空間系のエフェクトをよくかけていたんですけど、そうするとコード感がちょっと混ざるので……かっこいいんですけど、ちょっとそれをやめてみたんですよね。コード感をもうちょっと大切に聴かせたいなと思って。なので、かなり変わったんじゃないかなと思います。まぁ、コーラスを使う場所もあるんですけど(笑)。
――「チェインスモーク」は歌詞がかっこよくて。1番だけ読むとミッシェル・ガン・エレファントみたいな。
たかはし:確かに。女子が考えた歌詞じゃないですよね。今までは歌詞を書くにあたって、例えば「ああ、嫌だな、好きだな、嫌いだな」っていうのを一回自分の中での詩のようなものや言葉に変換してメロディに乗せていたんです。でもこの曲は、もう<だれにもあいたくない>っていうフレーズが頭にポンって出てきたので、そのままサビに入れたんです。勢いのある歌詞になりましたね。
――誰にも会いたくないのも本当だし、でも後半には誰にも会わなくても大丈夫だったら生まれてこなくていいじゃないか、というように転換していく内容だなと思って。
たかはし:うんうんうん。そうなんです。
海:自分の気持ちを言ってるけど、それもちゃんと客観視できてる人の歌ですよね。自分の悪口を誰かに当てはめてしまってるっていうのも理解できてるし。ちゃんと全部わかってるのに……っていう感じが。
たかはし:わかってるのに誰にも会いたくないって言いたくなっちゃう。
――<わたしの誕生日に>というフレーズのところは本当に誕生日パーティーみたいな演出になってますね。
たかはし:ちなみにこれはこの後に拍手があるんですけど、それ私ひとりでやったんです(笑)。3回に分けて。
海:最初は「おめでとー!」って言って拍手してたんですけど、なんか“おめでとうは違うな”と思って消したり。
たかはし:で、その後に「はははは!」って一人で笑ったものを入れたり。最近は誕生日のときにライブをやっているから誰かしらいて寂しくないんですけど、おばあちゃんになったとき聴いても温かい気持ちになれるように、ひとりで誕生日迎えても大丈夫なようにこの部分を作りました。
リーガルリリー
――曲が始まったときは思わないんですけど、結果誕生日を思い出す曲でもあるなと。
たかはし:そうですね。で、ニルヴァーナの『イン・ユーテロ』ってアルバムがすごい好きで、子宮みたいなものをイメージして作りました。
――子宮って、お母さんの中にいたんだなとも思うし、出てきたからこそ、いまこうして生きてるわけでもあるし。
たかはし:だからおへそを見ると感動するという。私、りんごが好きなんですけど、りんごが木になってたあそこ(ヘタの部分)を見ても“ああ、いいな”と思ったりしてて。
ゆきやま:お母さんとつながっていたところ。
たかはし:やっぱり離れていく瞬間というか、他人になっていく瞬間というものが植物も人間も動物もみんなあって。
――細かく見ていくとすごい曲ですね。
海:「チェインスモーク」は、半年〜1年くらい寝かせてからもう一回掘り起こした曲なので、当時は作りきれなかったアレンジがようやくこのタイミングで形にできて。棚ぼたじゃないけど(笑)、好きなことができたというか。
たかはし:この曲を作ってメンバーに渡したのはコロナの時期で、「みんな家で作ってきてね」って感じだったんです。で、データでやりとりしたのでみんなちぐはぐに考えてて、それでアレンジとかがゴチャゴチャしちゃったんですよ。ですけど、1年後ぐらいにスタジオでバン!って合わせたら超かっこいい曲になって。
ゆきやま:本当になにも考えないでノリでやったら良くなったので。
海:最初に作ってるときに家でひとりだったのもあるのかな。今回いろいろとツアーを回ってライブをした中で作っていたので、それが本当に活きている曲だなって思いました。
たかはし:バンドっていいなって心から思えて。
海:歌詞を見てわかるように、パズルのように考えるより、パッションで行くほうがかっこよくなったなって感じですね。
――一旦寝かした時期があって、ツアーもあったからなんでしょうね。これはでもたかはしさんならではの歌詞ですね。最初の四行とか。
たかはし:そう、これ女子じゃないですよね(笑)。
海:使ってる言葉が強いというか、今まで柔らかい言葉で情景描写をすることが多かったんですけど、今回歌詞を見ると“排泄”とか“子宮”とか“換気扇”とかカクカクした言葉が多いなって。より、リアルですよね。
たかはし:生々しい。
ゆきやま:音も強くなってるしね。
――ただ具体物が物語の大事な構成要素になっているのが面白いです。そして、くるりのカバーはライブでもやっていましたが、音源にカバーを収録することは定期的にやっていこうという感じですか?
たかはし:人の作った設計図を歌うのが好きなので。
――資料によると「ばらの花」でくるりに出会ったそうですね。
たかはし:はい。NHKでくるりの曲を紐解こうっていう番組があったんですけど、その中で「ばらの花」を特集していて。〈ジンジャエール買って飲んでこんな味だっけな〉っていうのは、実際にその場で思ったというようなことを岸田さんが書いていて。ああ、やっぱこういう情景描写ってシンプルに伝わってくるなぁ、自分たちにつながるなぁと思って。
リーガルリリー
――この曲のどういうところが好きですか?
たかはし:良い意味であまり変化がないところです。リーガルリリーって、私の性格かもしれないんですけど、躁と鬱みたいな。
海:1曲の中ですごく波があるんですよね。
たかはし:それもわかりやすくて、音のボリュームで変化をつけたりしちゃうんです。
海:音の数とかね。
たかはし:なんですけど、「ばらの花」のそういう波の部分って、音のボリュームとかじゃなくて、心の中にずっとしまっているけど、しっかり動いているものを表現しているみたいな。“ああ、それおしゃれだなぁ”って。“そういう生き方したいな”って、憧れの人みたいな曲です(笑)。
海:凛としてますよね。
ゆきやま:演奏してみて特にびっくりするというか。あまりビートの変化もなく、これで成立するんだっていう感動がありました。
海:シンプルで淡々としてるっていうのがいちばん好きなところだったので、そういうところはちゃんと残したいねって話はしました。頑張ったカバーというよりはちゃんと肩の力を抜いたリーガルリリーなりのミニマル・ミュージックのような感じにしたいって言っていて。
たかはし:装飾してしまうと自分たちの雑念みたいなものが入ってしまって、シンプルにリーガルリリーらしさを出せないので、もう何も考えずにスタジオでバン!って合わせました。
ゆきやま:何も考えずにやったときにどうしても出ちゃうリーガルリリーらしさみたいなのが強いから、行けちゃうのかなぁ?と思って。
たかはし:ちなみにアルケミラってバラ科の花なんです。
――すごい符丁! 「ばらの花」は、この気持が何の花にたとえられるだろうか、というときにばらの花だったという歌ですよね。
たかはし:ああもう、キュンキュンしますね。
海:曲のテンション感は一定ですけど、歌詞を見ると〈思い切り泣いたり笑ったりしようぜ〉って、結構熱いこと言ってるなぁと思うんですけど、やっぱくるりが言ってるから言い負かされてる感じがしないんですよね。気軽に誘われてる感じがして。
たかはし:そういう連絡のとり方したい。がっつかずに、サラッと。
海:当日に「今日空いてる?」みたいな。
たかはし:そうそうそう! だけどそこにいっぱい含まれてる。
――そこまで持ち越されてきた気持ちはあるけど、さらっと言うという感じですかね。なんかもう岸田さんが泣きそうないい話が(笑)。
一同:あははは!
海:くるりへの愛を語る会みたいな。
たかはし:なっちゃったね(笑)。
リーガルリリー
――さて、今年を振り返りたいのですが……ツアーもありましたし、配信リリースも続きましたね。どういうことが印象に残ってますか。
ゆきやま:結構リズム感がよかったなって。ツアーをやっていたら、途中で書いた曲「風にとどけ」を配信しようとなって、そしたら急に崎山くんとのコラボも決まって。「風をあつめて」のカバー、いいタイミングだからやってみようよとか。で、「アルケミラ」がアニメのエンディングに決まったり、そういう小気味いいステップが続いて、やってる最中も“あ、なんか来るんじゃないか?”っていう期待感を持ってやれていて。で、いざ「アルケミラ」をリリースしてみたらなんとなくざわついてる感じがして。“なんか伝わってるかもしれないね”って。そういう嬉しいことができてます。
たかはし:キャパオーバーしちゃうんじゃないかなって思ってたんですけど、すごく楽しくて。
海:ライブもすごく楽しいんですけど、今年はやっぱり曲作りが楽しい1年だったなと。今までストックしてたものももちろんあるんですけど、それをちゃんと形にしていくっていうことが着々とできた気がします。
ゆきやま:だから『the World』をリリースして、「風にとどけ」「アルケミラ」のリリースが決まり始めると、どういう順番でリリースする?ってなってくるじゃないですか。リーガルリリー、こんなにいっぱいいろんな表情を短い期間に出しちゃっていいんだと思って。そういう嬉しさとか。
――躊躇のなさというか、それに自分自身が喜ぶという勢いはあったかもしれないですね。そしてまたたかはしさんの生誕祭が開催されます。
ゆきやま:今年の締めくくりですよ! 集大成って感じ。
――共演者も豪華です。
たかはし:そうですね。People in the Boxが本当に好きで。100曲ぐらいあるんですけど全曲好きで。まさか出演して頂けるとは…。
海:決まって嬉しいはずだったんですけど、決まって焦るっていう(笑)。
――(笑)。リーガルリリーとPeople in the Boxと崎山さんは共通して好きな人は多そうですね。
たかはし:そういう部分も意識して決めました。
――「過剰/異常」は生で聴けそうですか?
海:まだ、“あるかもしれない”ぐらいです(笑)。
――ライブのタイトルも面白いですね。
海:「cell,core」=細胞と核っていうのがお客さんと私たち。私たちが提示している音楽との関係性が近いなぁというのを感じていて。リーガルリリーの音楽を核として持ってくれている人たちが一堂に集まるみたいな。それで、一つの細胞を作り上げる、どんどんその細胞を増やしてアーティストが大きくなるじゃないですけど、そういうのって面白いなと思ったのでタイトルにしてみました。
――演者もお客さんもその時間に細胞分裂してるような感じになりそうなので、非常に楽しみです。
海:3組とも言葉が強いアーティストなので、そういう気持ちも持ってきてくれるお客さんがいるんだろうなっていうのも含めて、いいライブになるんじゃないかなと思っています。
リーガルリリー

取材・文=石角友香 撮影=菊池貴裕

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