映画『天才ヴァイオリニストと消えた
旋律』フランソワ・ジラール監督イン
タビュー

アカデミー賞®ノミネート俳優ティム・ロスとクライヴ・オーウェンが豪華競演を果たす、フランソワ・ジラール監督の最新作『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』が2021年12月3日(金)より全国公開となる。
第二次世界大戦下のロンドン。9歳で出会い、ともに育った同い年のマーティンとドヴィドル。やがて将来有望なヴァイオリニストとして成長したドヴィドルは、デビューコンサートの日に忽然と姿を消した―。 35年の月日を経てその真相を追求するマーティンに待ち受ける衝撃の真実とは?
映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』より
ブルッフ、バッハ、ベートーヴェン、パガニーニなどのクラシック楽曲とともに紡がれるハワード・ショアの音楽、そして21世紀を代表するヴァイオリニスト、レイ・チェンによる演奏。美しい旋律に導かれてロンドン、ワルシャワ、ニューヨークを巡る、極上の音楽ミステリーが誕生した。
<STORY>第二次世界大戦前夜のヨーロッパ。ロンドンに住む9歳のマーティンの家に、ポーランド系ユダヤ人で類まれなヴァイオリンの才能を持つ同い年ドヴィドルが引っ越してきた。真面目なマーティンと生意気なドヴィドルは相反する性格や宗教観の違いに戸惑いながらも、やがて兄弟のように仲睦まじく成長した。しかし、21歳を迎えて開催された華々しいデビューコンサートの当日、ドヴィドルは行方不明になった……。音信不通のまま35年の月日が経ったある日、音楽コンクールの審査員をしていたマーティンは、ドヴィドルの行方を追う手掛かりに出会い、彼を探す旅に出る。ドヴィドルはなぜ失踪し、何処に行ったのか? マーティンの旅路の先には思いがけない真実が待っていた……。

SPICEは、このほどジラール監督から話を聞くことができた。
映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』より

──なぜ今回、この題材を選ばれましたか?
実はノーマン・レブレヒトの原作(『The Song of Names』)よりも先にジェフリー・ケインによる脚本を送ってもらって読みました。つまり、先に映画的な形になったものを読んだことになります。読んだ直後は、「これは引き受けない方がいいだろう」と思いました。どうしても、自作の『レッド・バイオリン』を思い起こしてしまったからです。同じ題材を扱うことは、少なくとも自分にとってはあまり良いことではないと思いました。でも、それが間違った判断だとすぐに気付きました。この物語は、構成がどうのとか映画的要素がどうのとかではなく、伝えるべき物語だから。というのも、今、世界の30歳以下50%の人が「ホロコースト」という言葉の意味を知らないそうなんですね。みんなが忘れかけているので、語られるべきなんです。そう思って作りました。原作も読みましたが、本質的には同じでも構成が違う。脚色した脚本家の判断はとても良かったと思いますね。
映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』撮影現場のジラール監督
──キャスティングのこだわりは? また、役者とどういうところを大切にして作りましたか?
脚本を読んで、この制作の中で一番の自分の闘いはキャスティングだと思いました。2人組を3世代描く……僕はシックステット(六重唱)と呼んでいました。物語の中心となる2人を演じるティム・ロスとクライヴ・オーウェンのほかに4人を探さなければならなかったのです。この全6人を、同じ人物を演じるトリオが2組、また2人組のペアが2組というふうに考えると、縦横どちらで並べたときにも成立しなければならないわけです。
それは大変なことでした。まずクライヴ、ティムをキャスティングしてから、若い役者たちを探しました。見た目だけでなく、言葉もポイントになりました。特にクライヴも演じるドヴィドル役は、ポーランド訛り、しかもロンドンに移住したことによって少しロンドン訛りになって、さらにそこにニューヨーク訛りが加わるんです。
今回2人のキャラクターづくりに仕事の半分くらいは費やしましたよ。でも少し誇らしく思っているのは、たとえばアクセントに対して、誰からも違和感を覚えたと言われないことですね。
映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』撮影現場のジラール監督
──製作において、もっとも楽しかったこと、また、大変だったことは?
楽しかったことというより思い出深かったのは、トレブリンカに訪れた時かな。撮影中ではなく、最初のロケハンでした。美術デザインのフランソワ・セギュアンさんと一緒に行ったのですが、当日はすごいタイトなスケジュールで、ワルシャワまで戻って飛行機で旅立つために朝の5時から車に乗りました。向かっている最中は、実は、トレブリンカで撮影を決めたことを後悔していたんです。第二次世界大戦やホロコーストについて、本や映画や写真や記録映像をたくさん見ていたので、そこで見た耐えがたいほどの恐ろしい行為が待っているのではないか、と思っていたからです。
でも実際に行ってみると、逆でした。まず記念碑が60年代後半に3人のアーティストによって作られているのですが、素晴らしい出来のマスターピースなんですね。意義深く美しいアートで、そこにいたのは……僕はそこに「死」があるんじゃないかと思っていたけれど……実は「生」でした。というのも、イスラエルから来たであろう人たちがギターを弾いたり、サンドイッチを食べたり、歌を歌ったりと、「生」を祝福しているところに出くわしたんです。それは自分にとってはとてもエモーショナルな瞬間でした。「死」という重苦しいものを、「生」きる意志が完全に打ちのめしたと感じました。
映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』撮影現場のジラール監督
──21世紀を代表するバイオリニストのレイ・チェン氏がバイオリン演奏を担当しています。彼の演奏の魅力はどんなところに感じていますか? また、演奏について監督からの要望はありましたか?
レイ・チェンはとにかく本物の天才です。作曲のハワード・ショアとのセッションは心に刻まれる体験となりました。この作品はキャラクター自身が天才なわけで、この上なく素晴らしい「声(音色)」を必要としましたが、同じくレイも天才。ぜひ「声」を提供してくださいとお願いしました。たとえばメトロポリタンのオペラ歌手には、僕が教えられることなどないわけですよ。具体的に「こうやってください」と言えることはなく、ただお願いしたら素晴らしいものを作ってくれました。
誰でも自分の「声」は持っていて、とくに自分の芸術を高いレベルまで昇華させている方々は自分なりの「声」を持っています。音楽家も、歌手も、役者も、みんなそう。クライヴもティム・ロスも持っています。でも2人の「声」はそれぞれ違う。もちろんレイとジョシュア・ベル(アメリカのヴァイオリニスト)も違う「声」を持っています。どんなトレーニングをしたとしても、その人なりのアイデンティティが「声」には必ずあって、聞けばわかるものなんですよね。
ただ、音楽についての質問は自分にとっては“トラップ”のようなところもあるんですよ。音楽について書いてあるものを読んだ時に、なかなか自分として納得がいくものが少ない。なんかでっち上げているような気がして。その中でも音楽評論家のアレッサンドロ・バリッコさんは素晴らしいと思うよ。
だから、もしレイ・チェンが僕にとってどう素晴らしいのか知りたいなら、彼のレコードを買って聴いてください。「音」を聞けばわかるから。人類の悲鳴のようなものがすごくシンプルに響いてくる。でも僕は多少音楽の知識があるから、そのシンプルさがとても複雑なものだということ、あるいは複雑な過程を経てシンプルになったということはわかる。レイ・チェンはたくさんいる音楽家のマジシャンのうちの1人だよ。
映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』撮影現場のジラール監督
──音楽を題材にした映画をいくつか作られていますが、大事にしていることはありますか?
“映画は音楽である、映画はオペラである”という一節があります。映画はオペラから生まれた、ということですね。19世紀の一番大きなエンターテインメントはオペラでした。舞台セット、衣装、照明、SFXがすべてありました。19世紀のスピルバーグは実はオペラだったし、その中でも特にイタリアン・オペラがハリウッド的なものと言えます……もちろんドイツやロシアにもありましたが。映画というのは、オペラなどの伝統を引き継いだものなんですよ。逆に、映画とオペラを分けて考えることはできません。同じところから生まれてきているからです。たとえばサイレント映画の時代では、ピアニストがスクリーンの横で演奏していました。映像を含むフィルムとミュージックは堅く結びつきがあって、分けることはできません。少なくとも僕は映画について、いつも音楽的なアングルでアプローチして作っています。それは意識的ではなく感覚的にやっています。僕に限らずどんなフィルムメーカーにとっても、音楽というのは非常に重要な要素だと思いますね。

【動画】映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』予告編

【プロフィール】フランソワ・ジラール(監督)
1963年1月12日生まれ、カナダ、ケベック州出身。84年にゾーン・プロダクションを設立し、数々の短編映画やダンスを主題としたミュージックビデオを手掛ける。『Cargo』(90・未)で長編映画監督デビュー。93年『グレン・グールドをめぐる32章』でカナダ•ジェニー賞最優秀監督賞のほか4部門を受賞、インディペンデント・スピリッツ賞にノミネートされ、国際的評価を得る。続く『レッド・バイオリン』(98)ではジェニー賞8部門を制し、東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞を受賞。07年には、日本•カナダ•イタリアの合作映画『シルク』を監督。そのダイナミックな制作領域は映画だけにとどまらず、東京ディズニーリゾートに誕生したシルク•ドゥ•ソレイユの常設劇場の演出、さらにはオペラや演劇まで幅広く活躍している。舞台では、作家・井上靖の小説「猟銃」を『シルク』でも組んだ女優・中谷美紀を迎えて舞台化。他の映画監督作に中編『ヨーヨー・マ インスパイアド・バイ・バッハ サウンド・オブ・ザ•カルチェリ』(97)、『ボーイ•ソプラノ ただひとつの歌声』(14)などがある。
フランソワ・ジラール

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