「さよなら」と「ようこそ」の狭間の
フェアリーテイル 素顔を見せた三月
のパンタシア みあの綴る歌と物語

2021.11.27(Sat)三月のパンタシア LIVE2021「物語はまだまだ続いていく」@チームスマイル・豊洲PIT
1年10ヶ月ぶりとなる三月のパンタシアの有観客ライブ『三月のパンタシア LIVE2021「物語はまだまだ続いていく」』が東京・チームスマイル・豊洲PITで開催された。
「終わりと始まりの物語を空想する」というコンセプトの元に活動する三パシは、あっという間にメジャーデビュー5周年を迎えた。ボーカルのみあは歌手活動だけではなく小説家としても活動するなどマルチな才能を見せている。
そんな彼女はこのライブに対する思いは並々ならないものがあった。事前のYouTubeでの生放送や、SNSからもファンの前でライブが出来る想いを出し続けてきた。そんな想いのこもったステージが始まる。
全面に紗幕が貼られたスタイルはメジャーデビューから行われていたスタイル。一曲目となった「101」から幕全面にMVが映し出される。その向こう側、バンドメンバーと共にステージで歌うみあの姿。ライトは当たっているが、彼女のすべてを見ることは出来ない。グルーヴィーで展開の早いこの楽曲で客席の温度も一気に上昇する。続く「ピンクレモネード」もカラフルで楽しげな一曲。紗幕の向こうでも久々の生ライブで躍動するみあの姿が見える。
撮影:鈴木友莉
ものすごく大切そうに、嬉しそうにMCで「久しぶりだね……!」とつぶやいたみあは、「フェアリーテイル」「恋はキライだ」と歌い上げる。どの曲もカラフルなのにどこかセピアな印象を受けるのが三パシの特徴の一つ。忘れてしまったあの日、伝えられなかった思い、ポップなメロディーに込められたセンチメンタルな感情。ブルーポップを名称しているのも頷ける。「パインドロップ」もピアノのジャジーな旋律が印象的な一曲。弾けるように奏でられるメロディーに総立ちの客席は手を上げて体を揺らしながら応える。この時期出来る精一杯。
「拍手で伝わってくる熱量がありますね」ファンの思いも、しっかりと紗幕越しに伝わっている。火照る身体を落ち着けるように歌われた「キミといた夏」も2016年に公開されたナンバー。あまりライブで披露されることもなかったこの切ないラブソングを耳にすると、もう三パシが歌う「夏」の風景は現実から遠ざかっているのかも知れないと思った。
昨今の新型コロナウイルス感染症対策に関する状況もそうだが、ヒートアイランド現象など、都心に住んでいると毎年の夏の過酷さを感じることがままある。三パシの音楽世界の夏は暑いけれど心地よくて、夕暮れには寂しさを感じ、夜に焦がれる貴方を思う。そういう僕たちが持てなかった、持っていたけど忘れてしまったロマンチシズムがある。手にしたことがないのに懐かしさがある。そんな独特の風景を三パシは提供してくれる。
撮影:鈴木友莉
ストレイテナーホリエアツシと共に作り上げた「夜光」はみあが執筆した小説『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』主題歌。劇中の主人公である心音が物語の最後に奏でるナンバーでもあるこの一曲は、ホリエの世界観と音楽が三パシと見事に融合した一曲。「ミッドナイトブルー」は夜を感じさせる囁きから始まるダンスポップ、彩度も明度も違うブルーが湾岸豊洲に響いていく。
MCを挟んでの後半戦、初のオリジナル曲となる「day break」を披露。デビューからのファンが興奮する中、メジャーデビュー曲の「はじまりの速度」のイントロが流れ出す。その瞬間、舞台を覆っていた紗幕が落とされる。その向こうにはライトに照らされるみあの姿。これまでみあは紗幕の向こう側、もしくは照明を落とし気味にして顔や姿を極力見せない形でライブを行ってきたが、この日は輝くのライトの下にみあの笑顔が浮かぶ。瞬間、声を出せない会場内に巻き起こった拍手と止められないどよめき。
ステージ後方に設置されたスクリーンはみあの姿を追う、白日のもとになったその笑顔と共に繰り出される歌声は明らかな圧を持っていた。
マイク越しに歌っているので、紗幕があるから音のボリュームが違う、などということはない。だが明らかにそこには隔てるもののない開放感と熱量があった。どこか空想の中にあった三月のパンタシアが現実に踏み込んできた感覚。栞をはさんでいた物語のページがめくられていく。
撮影:鈴木友莉
「青春なんかいらないわ」「醒めないで、青春」と客席を煽りながら歌っていくみあ。拳を上げ、手を振り、手拍子でそれに応えるオーディエンスからは幸せそうな空気を感じる。生み出されていくグルーヴ。
MCでみあは「明るくなりましたね、いつももう少しだけ暗い場所で歌ったり話したりしているので」と語りだす。この形で会うのは初めてだということを告げると大きな拍手。今回のライブのテーマが“再会の喜びと幸福を分け合う”ということで、光あふれるステージを作ってみたいと思ったと、顔を披露した心情を語る。「まだみんなが十分に声を出せない状況の中で、表情をより見えやすくしたら、音楽を感情的に共有できるんじゃないかと思った」とこのライブへの思いも込めた気持ちを語った。
その後の「幸福なわがまま」では旗を肩に担ぎ、おおきく振りながらパフォーマンス。これまで出来なかった躍動的なステージングは新鮮でもあり、新たな魅力にあふれている。「三月がずっと続けばいい」はギターのカッティングが小気味よいナンバー。取材席で着席していても思わずリズムを取りたくなってしまう。
撮影:鈴木友莉
「気持ちが入りすぎて前歯をマイクにぶつけちゃった」と笑いながら語るみあ。改めて素顔を見せてこなかったことについて、自分の中で三月のパンタシアでの役割は、物語を伝える人物、語り手だと思っていたと言葉を発した。みあというパーソナルが多すぎ無いほうが、世界観に没入できるのではないかと思い、活動してきた5年間。だがみあは続ける。
「活動を続けていく中で、自分でも音楽でこういう表現がしてみたいとか、こういう思いを歌ってみたいという気持ちがどんどん膨らんでいって。小説を書き下ろすようになったり、作詞をするようになって、今はみあの物語を伝える“当事者”として、自分自身の物語を素顔のままで、ありのままの姿で届けたいと思うようになったんです」
誤解のないように、しっかりと言葉を噛みしめるように伝えるみあ。その言葉をしっかりと受け取ろうとする客席との間には確かな無言の信頼関係があった。
「初期の頃は歌うだけで精一杯だった」とも言ったみあが、本編ラストで選んだ楽曲は「ランデヴー」。以前インタビューでもライブで一緒に遊べるように作ったと言っていた、この弾けるような楽曲をステージを駆け回りながら歌う。本当に楽しそうなその素顔は、今まで空想とエモーショナルな世界観のベールの向こうに隠されていた、彼女の本質なのかもしれない。歌う喜び、空間をともにする幸せ。幸福な時間にはエンドロールが必要だ。強く長い拍手の渦からアンコールで登場した彼女が選んだのは、日常の中で感じる幸せをテーマとした「たべてあげる」。暖かい空気に包まれた後は初披露の新曲「幸せのありか」がお披露目となった。今のみあの気持ちのような一曲は優しくフロアに明かりを灯すように歌われた。
撮影:鈴木友莉
最後の一曲は「街路、ライトの灯りだけ」。夏の楽曲が多い印象の三パシの中でポラリスのように光る冬の切ない恋の歌。季節はめぐる、切ない片思いを抱えてみた遠い夏の夕焼けも、今でも胸を焦がすような失恋も、年を取ればどんどんと摩耗して忘れてしまう心の動きを三月のパンタシアの楽曲は思い出させてくれる。そこに極上のポップネスと少しのブルーな輝きを添えて。
みあの笑顔と僅かな涙を抱えながら会場を後にしようとすると、3月9日にリリースされるニューアルバム『邂逅少女』のチラシが配られていた。みあのビジュアルが全面に押し出されたその一枚を見て、少女が一人のアーティストとしてこの世界に立ったのだという実感が再度湧き上がってきた。物語は続いてゆく。そして新たな物語は動き出す。ベールの向こう靄がかっていた青春の響きは、今後どう奏でられるのだろうか?
もう一度あの時のように、三月のパンタシアという名前のフェアリーテイルに栞を挟もう。来年のワンマンライブも発表された今、栞を抜いてページを捲るのは、以前よりも早く訪れそうだ。
文章・レポート=加東岳史 撮影=鈴木友莉

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