渋沢栄一役の吉沢亮(左)と渋沢兼子役の大島優子

渋沢栄一役の吉沢亮(左)と渋沢兼子役の大島優子

【大河ドラマコラム】「青天を衝け」
第三十七回「栄一、あがく」急展開を
見せる終盤の行方を占う見事なドラマ
と俳優陣の好演

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。11月28日の第三十七回「栄一、あがく」では、愛妻・千代(橋本愛)を失った主人公・渋沢栄一(吉沢亮)の再婚、ライバル・岩崎弥太郎(中村芝翫)率いる三菱との海運業競争、さらに岩倉具視(山内圭哉)、岩崎、五代友厚(ディーン・フジオカ)らの死といったエピソードが描かれた。
 この盛りだくさんの内容の中で、思わずうなったのは、物語の展開のうまさだ。この回で描かれたのは、年月にして5年ほどにわたる出来事だ。これまでじっくり栄一の歩みを描いてきた本作の中では異例のスピードといえる。
 それもそのはず、すでに栄一の孫・渋沢敬三を笠松将が演じると発表されているように、物語は栄一の最晩年までを描くことになっているからだ。残り少ない回数で栄一の後半生をいかに描くのか。この回は、その試金石だったように思う。
 千代を亡くして気持ちが沈む中、栄一は三菱との海運業対決に苦戦。思わず伊藤博文(山崎育三郎)に不満を並べ立てたところ、逆に焦りを見透かされ、「敵の悪口をあれこれあげつらって言いふらすのは、それこそ実にひきょう千万なやりかたじゃなかろうか」とたしなめられる。
 体調を崩した五代からも、三菱との勝負が誰も得をしない消耗戦に陥っていることを指摘され、双方の海運会社の合併を承諾。
 さらに、再婚したばかりの兼子(大島優子)からは離縁を切り出され、自らの過ちに気づいた栄一の方が「どうかこれから、俺をもっと叱ってくれ」と頭を下げる。
 これらの出来事を経て人間的に成長した栄一は、夫婦としてきちんと向き合うようになった兼子と共に、財政難に陥った養育院の運営に自ら乗り出す…。
 栄一と兼子の再婚から離婚話を経て和解に至るやり取り、養育院の運営を巡る議論と三菱との海運業対決、そして盟友・五代の死。一見バラバラに見えるこれらのエピソードを、栄一の成長を描く人間ドラマを軸に、一つにまとめ上げた脚本は鮮やかだった。
 そして、そんな急ピッチの展開を成立させたのが、俳優陣の好演だ。例えば、子どもを産んだ栄一の娘・歌子(小野莉奈)を家族が囲むシーン。
 一歩下がった場にいながらも、家族になじもうとする兼子は、栄一の幼い息子・篤二に「よかったね。篤二くん」と声を掛ける。だが、兼子を受け入れられない篤二は返事をせず、その場を立ち去る。それを黙って見送る兼子…。
 台本を基に書かれた小説版「青天を衝け」第4巻を読むと、この場面の篤二と兼子のやり取りは本来、もう少し長かった様子がうかがえる。だが、篤二を案じつつも疎外感を覚える兼子の心情がにじむ大島の表情には、この短いやりとりで2人の関係を伝えるだけの説得力があった。
 短い登場場面でどんどん変わっていく兼子を演じる難しさについては、大島自身がインタビューで「この場面ではどのぐらい年齢を重ねていて、どれぐらいの距離感で栄一さんと歩いているか、どんなふうに顔を見合わせるか。そういう細かいことを全部、監督と相談しながらリハーサルで決めていきました」「『これでいいのかな?』『大丈夫かな?』『合っているかな?』とワンシーンごとに頭を抱えながらやっていました」と語っている。この回を見る限り、その努力はきちんと実を結んでいるように思える。
 この他、体調の衰えを言葉ではなく表情や動きで表現した五代役のディーンの好演も、栄一に向けて語る言葉の説得力を高めており、印象に残った。
 「残り少ない回数でいかに栄一の後半生を描くのか」。この回の的確な構成や俳優陣の好演を見る限り、その心配は杞憂(きゆう)に終わりそうだ。むしろ、どんなふうにこの先の半生を描いてくれるのか、楽しみになってきたと言ってもいい。最終回まで無事に駆け抜けてくれることを期待して、残りの物語を見守っていきたい。(井上健一)

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