新妻聖子が語る、エンタメファンに捧
ぐミュージカル『ボディガード』再演
に向けての意気込み

ミュージカル『ボディガード』日本キャスト版が、2022年に念願の再演を迎える。
本作は「I Will Always Love You」をはじめとする名曲で彩られた、ケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストン主演の同名映画(1992年)を原作として生まれた大型ミュージカル。2012年にイギリスで初演された後に世界各国で上演され、日本では2019年に来日キャスト版が、2020年春に日本キャスト版が上演された。
日本キャスト版はコロナ禍の影響で大阪公演5回のみの上演となってしまったのだが、この度、新キャストを加えて再演することが決まった。歌姫のレイチェル・マロン役に柚希礼音新妻聖子May J.(トリプルキャスト)、ボディガードのフランク・ファーマー役に大谷亮平を迎え、振付・演出は前回同様ジョシュア・ベルガッセが務める。
今回、二度目のレイチェル役に挑む新妻聖子に話を聞いた。新妻が発する言葉からは、エンターテインメントへの漲る愛がこれでもかというほど伝わってくる。2年前とは違う、今の彼女にしか演じられないレイチェルが生まれるに違いない。そんな期待が高まるインタビューだった。
新妻聖子
「マイペースに今やれることを精一杯楽しく!」
――前回公演の『ボディガード』日本キャスト版(2020年)はコロナ禍の影響で一部公演が中止となり、悔しい思いもされたのではないでしょうか。
そうですね、でも今は無事に再演が決まったという安堵感と、上演を楽しみにしてくださっていたお客様に2年越しに会える!という喜びが大きいです。​公演中止になったときは、悔しいというより心にぽっかり穴が空いた感じでした。別に誰が悪いわけでもないですし、そのときのベストな判断だったと思っています。だからこそこの2年間を乗り越えてまた集うことができるのは、本当に素晴らしいことだと思うんです。
――2年という短期間で、しかもほぼ同じキャストで再演が決まったのは奇跡ですね。本当に良かったです。
良かったですよ〜! これをやり遂げるまでは絶対に死ねないと思っていました​(笑)。
――前回公演は新妻さんにとって産後復帰作でもありました。
慣れない子育てと仕事の両立で、ちょっと体調を崩してしまっていた時期だったので、初演時は右往左往していました。『ボディガード』は主演で出番も多くて、私は育児事情で皆よりも早い時間に帰らせてもらっていたから、せめて稽古場にいる間は人の何倍もやらないとと思い詰めていた部分もあって。家に帰ってからは新米母ちゃんとして息子との会えなかった時間を埋めようと頑張る日々で……とにかく必死だったので、あの頃は結構痩せましたね。
何事もスタートは大変ですけれど、初演というのはどの作品でも茨の道。今回はその土台が2年前に築けていますし、カンパニーに新たにお迎えするメンバーもいるので、2022年版の『ボディガード』を作っていけることを楽しみにしています。
新妻聖子
――初演から2年が経ち、仕事とプライベートのバランスの取り方に変化はありましたか?
思い詰めずにやるコツを掴みました。その方が風邪も引かないし、意外とやれちゃうんです。そして「本当に辛いときは人に頼る。無理をしない。楽しみながらやる」という法則を見つけました。病気や怪我って、どれだけ思い詰めても後悔してもすぐには治らないんですよね。もちろん少しでも状況を良くするために努力は必要だけど、泣いても笑っても結果が変わらないなら、嘆かず楽しく過ごした方が治りも早いんじゃないかなって。転んで膝小僧が擦りむけたら「切れちゃったものはしょうがない。唾でもかけとけ!」みたいな(笑)。そういう「いい加減さ」が時には必要なのだと学びました。元々はめちゃくちゃポジティブな性格なので、育児にも慣れてきて本来の姿を取り戻したという感じです。細かいことは気にせず、マイペースに​今やれることを精一杯楽しく! というスタンスでやっております。
「役を演じる上で大切にしているのは、感情に寄り添うこと」
――新妻さんが演じるレイチェルという女性は、どんな人だと思いますか?
レイチェル先生はですねえ、恋多きDIVA(ディーヴァ)です。“DIVA”って実は英語だといい意味と悪い意味が込められていて、「She is such a diva」のように“わがまま”といった皮肉を込めて使われる場合もあるんですけど、レイチェルにもそういう側面があります。彼女は何でも思い通りになるし、有無を言わせないカリスマ性で人を動かす、それだけの結果を残してきている人。そのキャリアに見合うタスクを毎日こなさなきゃいけないからこそ、彼女に自由はない。シングルマザーとして男の子を育てているという母の面もあり、時にはストーカーに狙われて命の危険を感じることも……。国籍も違いますし、そこまでのスーパースターの生活は想像力で補うしかありません。ただ、与えられた場所で自分が最大限できる表現を真摯に尽くしながら、息子にも愛情を注ぎたいと思う。この状況は立場の違いはあれど同じなので、レイチェルという役にはスッと入っていけましたね。
――そんな彼女を実際に演じてみて、特に共感できたところは?
やっぱり舞台が好きってところ! レイチェルはいつも「お客さんが待っているの」「私の居場所はステージなの」という想いでステージに立つんです。今回久しぶりに台本を開いてみて我ながら面白い変化だなと思ったのが、初演で演じていたときは「たとえ辛いことがあっても使命感からステージに立ち続けなければいけない」というマイナスの方向で役を捉えていたのが、今は「やっぱり音楽が聞こえると歌っちゃうんだよね。私ステージにいることが大好き!」という、レイチェルの歌う喜びの方を強く感じるんです。そこでしか生きられない哀しさ、舞台では一人きりという孤独も確かにあるけど、それよりもステージに一歩出たら別の世界に飛んでいける、いつだって私には歌があるんだという彼女の幸せを感じています。私自身が今そういう精神状態にあるからなのかもしれませんが、きっと初演とは違うレイチェルが生まれる気がするんですよね。人間の細胞の一部って、1年でほぼ生まれ変わるんですって! 初演から入れ替わった細胞たちによって(笑)2年前とは別の人間になっている部分もあるでしょうし、そして同時に絶対に変わらないものもある。この大切なレイチェルという役に、もう一度出会い直す機会をいただけたことがすごく幸せです。

新妻聖子

――普段はどのように役作りに取り組んでいらっしゃるのでしょうか?
私の好きな女優さんが、「私、役作りしないの。全部脚本に書いてある通りにやればその役になるんだから」とおっしゃっていて、本当にその通りだなと。別人になろうとすればする程、嘘っぽくなるんですよね。基本的にはどんな役でも、感情が動くというのは一緒だと思うんです。違うのは役割・立場・キャラクター。それらは全部脚本にセリフや行いとして書かれています。だから、まずは自分の感情が動くやり方でその通りにやってみる。すると一人芝居でない限り、相手役や周りがいろんなボールを投げてくれるんです。一番怖いのは役に対して興味がない状態になってしまうこと。なので、常に役柄を観察できるような冷静さを保ちながらも、その役を溺愛するようにしています。
――舞台上で役を演じるときに大切にされていることを教えてください。
感情移入ができない状態では舞台に立たないようにしています。以前、ギリシャ悲劇のお芝居をやったときに、どうセリフを言えばいいのかすごく悩んでしまったことがあったんです。そのとき周りの大先輩方のお芝居を観て思ったのは、先輩方はいついかなる時も、心が動いているということ。言葉を発しながら必ずそこに感情があるから、お客様にセリフが届くんです。それを分かりやすく表現して見せる必要はないけど、「心が動いている」ことがすごく重要で。そう気づいたのが、お芝居を始めてから6年目くらいだったと思います。相手に感情を渡して、相手から出てきた感情をしっかりと受け取る。当たり前のことなんですけど、それができた時のお芝居は楽しい。感情が乗りやすいミュージカルでは意識しなくてもできたのに、ストレートプレイのセリフで壁に直面して改めて学んだ事ですね。セリフも歌も感情から紐解くクセがついているのでCMソングを歌っている時もどこかミュージカルっぽいと言われるのは、そのせいかもしれません(笑)。
――『ボディーガード』でも、劇中にホイットニー・ヒューストンの名曲がたくさん登場しますね。
ホイットニー・ヒューストンのヒット曲の数々を、印象的なサビのフレーズ以外は日本語歌詞にした状態でパフォーマンスします。劇中ではレイチェルのコンサートシーンとして披露することが多いので、心情を吐露する典型的なミュージカルナンバーとは少し違います。でも、物語を構成するいち場面であることに変わりはないので、その曲が持つ役割とかを考えながら稽古しています。ここでレイチェルの心情が何色に見えたらお客様は次のシーンにいきやすいんだろう、と。稽古場では俯瞰の演出をジョシュア(演出家)に任せて、彼が作りたがっている絵のどの色を自分は生み出せるのかなって、割と左脳を使って考えていた部分もあるかな。本番中は、基本的には右脳?というか感覚重視。レイチェルの感情に寄り添って心のままに生きて、その想いを音符に乗せて、客席の先の宇宙まで飛ばす!という感じです(笑)。

新妻聖子

――演出は前回公演から引き続き、ジョシュア・ベルガッセさんが務めます。
はい。でも前回と違ってジョシュアは日本に来ることができないので、演出はほぼリモートになる予定なんです。初演で何度もディスカッションを重ねて作り上げたものがあるので、今回はそれをベースにカンパニーのみんなで作っていくことになると思います。
――初演時にジョシュアさんからいただいた言葉で、印象的なものはありますか?
ゲネプロを観たジョシュアが「聖子、君は本当に悪い子だ。そんなに弾けられることをなんで稽古中ずっと隠していたんだ!」と(笑)。「Come on! Hey! You're such a superstar!」みたいな感じで(笑)。どうやら稽古場での聖子レイチェルとは別人だったらしいです(笑)。ゲネプロではほんの数人でもお客さんが入るので、通し稽古とは感覚が全然違うんですよ。当時は喉の不調のこともあって、今思えば自分の中でかなりブレーキをかけながら稽古をしていたと思うんです。でもゲネプロで一人でもお客さんが観ていると思ったら一気にスイッチが入って舞台に立てる喜びが溢れ出しちゃって。イキイキと歌い踊る私を観たジョシュアが「今まで僕を騙していたんだな」と(笑)。
――2年前のゲネプロで演出家にそこまで言わせたということは、2022年版が開幕したらすごいことになりそうですね!
そうなるように頑張ります(笑)!とにかく怪我だけはしないよう、千秋楽までのスタミナを見据えて稽古に励みます。
2021年を振り返って「粛々と日常を過ごす幸せを感じた1年」
――もう年末が近づいてきていますが、2021年はどんな年でしたか?
演劇関係者あるあるですが、PCR検査がプロ級になりました(笑)。 検査に必要な唾液2mlが感覚でわかるようになったので、めちゃくちゃスムーズに採取できます(笑)。
今年出演した舞台は2作品。『王家の紋章』の上演中は感染者数が爆発していた時期だったにも関わらず、一度も中止にならなかったのは奇跡的だったなぁと。どんなに気をつけても感染する可能性がある中、運良く走り抜けることができたのはありがたかったですね。粛々と日常を過ごす幸せを感じた1年でもありました。世界では再ロックダウンを検討している国もまだありますし、気を緩める事はできませんが、気をつけるべきところは引き続き気をつけつつ、楽しむことまでは自粛しないフェーズに少しずつ入ってきているのかなと感じます。演劇やミュージカルを通してみなさまの日々に華やかさをもたらすお手伝いができたなら、こんな喜びはないですよね。
新妻聖子
――2022年の抱負はありますか?
最近野望みたいなものがめっきり無くなって(笑)明確な目標とかは思い浮かばないのですが、とにかく今の幸せが続いてくれたらいいなと思っています。健康な普通の毎日が今はすごくプレシャスで、朝起きたときに、今日も息子が熱を出していない、私も声が出る、夫も元気に会社へ行った、今日もご飯が美味しい。仕事も自分のペースで好きな歌や表現のお仕事をやらせていただけて、周りの人にも恵まれている。これ以上の幸せがもうなくて。産後に一度大きな不調と挫折を経験したからこそ、ちょっとやそっとのことでは動じなくなったし、もし荒波が来たとしても、「おぉそう来たか」と楽しむスタンスで2022年も過ごしていきたいですね。
――最後に、『ボディガード』再演に向けて意気込みをお願いします。
とにかく、観に来てくださるお客様にショーを楽しんでほしい!それだけです。『ボディガード』はダンスも歌も派手なので、「久々にエンターテインメントを浴びたい!」という方にとっては最適な演目だと思うんです。そして原作が有名な大ヒット映画なので、みなさんきっと作品に対して前知識がありますよね。ある程度ボーッと観ていてもストーリーを見失う事はないから、頭も疲れないと思います(笑)。まだ客席で声を出すことはできないかもしれませんが、思わず身体でリズムを取ってしまうようなノリノリなナンバーもありますし、音楽ファン、映画ファン、ミュージカルファン、ジャンルを問わずに楽しめるまさに“エンタメファンに捧ぐミュージカル”だと思います。お客様の中には、コロナ禍の影響で観劇回数が減るといった観劇習慣の変化もあったかもしれませんが、日本の演劇界は、「いつでも劇場の扉は開いている」と示し続けることが重要であると、上演を続けてきました。もし足をお運びいただける状況であれば、物語に身を委ね、生演奏と生歌を全身で体感して、日常からエスケープしてもらえたら嬉しいです!劇場でお待ちしております!
新妻聖子
ヘアメイク:丹羽寛和
スタイリスト:小堂真里
衣裳:ブラウス / ¥47,300- スカート/ ¥53,900-(共に エリザベッタ フランキ/ エスケーシー)
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢

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