空晴『向こうの景色』作・演出の岡部
尚子×ゲストの稲荷卓央(劇団唐組)
に聞く~「笑いの中に“折り合いをつ
ける”という塩気を効かせた世界です

2007年の結成以来、勘違いと思い込みの連続から生まれる笑いと、身近にある大切な人間関係に気づかせるドラマ性を両立した舞台で、根強いファンを集めている、大阪の劇団「空晴(からっぱれ)」。約1年ぶりの新作『向こうの景色』は、複雑な事情を持つ家族(+元家族)の話と、夢を追う人&夢に破れた人の物語が同時進行する、ビター&スイートな会話劇となるそうだ。
第20回公演ということで、劇団主宰で作・演出の岡部尚子が「もう一度一緒にやりたい」と思う俳優をゲストに招へい。その一人が、第10回公演『これまでの時間は』(2012年)に出演した、「劇団唐組」の看板俳優・稲荷卓央だ。非日常的なロマンにあふれる唐十郎の世界とは真逆の、日常の一コマをほっこりと描いた岡部の世界の中で、どのような演技を見せるのか? 岡部と稲荷に話を聞いた。

■「へえ」ぐらいの台詞でも、ズレるとポーンと変わってしまう。
──このタイミングで、稲荷さんをゲストに呼んだ理由は。
岡部 20回目の公演ということを意識してしまって、誰をお呼びするのかすごく迷ったんですけど、橋田(雄一郎)さんと稲荷さんの名前が上がった時に「この2人を組み合わせたら、めっちゃおもろいんとちゃう?」と。西と東の男前という、完全に私の演劇ミーハーな思いもありますし(笑)、普通に芝居活動をしていたら、多分交わらないお2人なんで。
──確かに橋田さんのやってる芝居も、空晴とは別の意味で唐組の対極です。
岡部 想像がつかないですよね? このお2人が一緒にやってる所。それと1回目の時は、やっぱり憧れの役者さんだったので、唐組で大好きなモノローグのシーンを入れたりしたんですけど、2回目なら存分に「私が見たい稲荷さん」を書けると思いました。
稲荷卓央がゲスト出演した、第10回公演『これまでの時間は』(2012年)より。 [撮影]衛藤キヨコ
──劇作家の特権ですよね。
岡部 それで言うと稲荷さんは、確かに主体はカッコ良さにあるけれど、ひどい目に遭う役回りの時に、すごくチャーミングに見えるんです。だからその部分を、割と抽出した役にしました。「稲荷さんにこんなこと言わせちゃっていいんだろうか?」という役どころで、今度こそ唐組のファンに怒られるんじゃないかとビクビクしています(笑)。
稲荷 でもこの役の8割ぐらいの要素が、自分にはあると思います。「本当にしっかりしてないんだなあ、俺」って(笑)。
岡部 舞台となる家の、長女の元旦那さんなんですけど、愛嬌はあるけど愛嬌しかない、という人。「いい人なんやろうなあ。でもそれだけやろうなあ」みたいな(笑)。他の人も見た目はともかく、生き方がカッコいい人は一人も出てきません。
稲荷 確かにね。本当にしっかりしてないから、高知公演に電車で行くのも「乗り換え大丈夫ですか? 一人で行けますか?」と、今から心配されていて(笑)。でもそれは裏を返すと、僕のことをちゃんと見てくださってるってことだから、愛を感じますね。
岡部 もう愛はあふれてます(笑)。それとここ数回、女性を(ゲストで)お呼びして、女性ならではのテーマを扱った話が続いたので、男性の話を書きたいというのもありました。なので今回は、準レギュラーの太田(清伸)君を含めて、ゲストは3人とも男性です。
「温かさや優しさがありつつ、卑屈さや嫉妬もある本になった」と言う岡部尚子。
──稲荷さんは空晴の演技で、苦労してる所とか、大切にせねばならない点はありますか?
稲荷 唐組は、自分の思いみたいなものを長台詞で吐露することが多いけど、空晴はすごく日常会話だから、会話が一個ズレると全然面白くならないと、演じていて思います。「へえ」「はあ」ぐらいの言葉でもちゃんとやらないと、ポーンと変わったり濁ったりする。
──確かに唐組では、大勢で綿密に会話を積み上げるというのは、まず見られないですね。
稲荷 だから台詞の練習というと、自分の長台詞のことだったりするんですけど、空晴は相手とのやり取りが重要。ポンと間が生まれることで、何かを感じさせるみたいなことも、唐組にはなかなかないけど、それが空晴にはすごく大切なことのような気がします。
岡部 唐組だったら、大事な所では曲をバーン! と流して、照明をガッと当てるという方法があると思うんですよ。役者はそれに助けられることもあるけど、空晴は取っておきの所でしか曲を流さないんです。役者としては、多少調子が悪くなっても、曲や照明の変化によって持ち直せるというのがあるんですけど、うちは役者同士の力で乗り切らないといけない。
稲荷 そうですね。やり取りがちょっと違う方向に向くと「ああ、ダメだ」ってなるし、照明や音響に助けられることもない。「会話」の大切さを改めて感じるし、鍛えられてるし、発見もあるという日々です。
──物語としては、少々SFが入るという話を聞きましたが。
岡部 舞台は、古い家と建てかけの家が左右対称みたいに並んでまして、古い方の家に住んでいるお父さんの傘寿祝で、家族が集まってくるという設定です。この2軒の家で同時に話が進んでいるかと思いきや、片方は実は過去の話では……? と。でも空晴は、SFでもファンタジーでもないので、割と早い段階でネタばらしが出てきます。うちの常連さんは簡単に騙されないでしょうけど(笑)、「本当はどうなんだろう?」というのを楽しんでもらえたらと思います。
今回はコメディの要素と真剣な会話が、いつもより目まぐるしく変わりますね。あと大きな要素として「折り合いをつけること」というのがありまして。その感情を吐露するシーンは、滑稽だと思う人と、痛みを感じる人とで、結構分かれるかもしれません。カッコ悪い男たちのカタルシスみたいな、そんな世界になったと思います。
「空晴では会話の大切さを実感するし、鍛えられています」と語る稲荷卓央。

■二回の大きな痛みを知っているからこそ、書けることがある。
──テーマが「折り合いを付ける」というのは、具体的にはどういうことですか?
岡部 関西って、他の仕事をしながら演劇を続ける人がほとんどで、あきらめて辞めてしまう人もいるけれど、たまに「何のために続けてるんやろう?」と感じてしまう人も、正直いるんです(笑)。橋田さんがこの脚本を読んだ時、すごく印象的なことを言ってくださいました。「俺、続けるのも才能っていう言葉嫌いやねん」って。なるほどと思いましたね。
夢を追うことや、それを継続することは素晴らしいけど、どうやって続けるか、どういう思いで続けるか、周りとはどう折り合いを付けるのか。そして「夢は叶う」とは、さんざんお芝居でも歌でも言われているけど、叶わなかった時はどうするか? ということの処方箋……とまで言えなくても、その痛みに「わかるわかる」と共感してもらえたら、一つの救いになるかもしれないですよね。逆に「自分は何もやってこなかったから、この気持ちがわからない」という、別の痛みを感じる人もいるかもしれません。
稲荷 今稽古をしながら「受け入れる」「受け入れざるを得ない」ということについて、前よりも考えるようになりました。僕や橋田さんの役は、それを何となく受け入れている側だけど、それって何かをあきらめることなのか? 違う風に考えて、新しい自分の糧にしていくことか? さらに、 今コロナ禍で思うように芝居ができないのも、やっぱり「受け入れざるを得ない」ことなのか? そういったことを、ずっと考えさせられています。
空晴第19回公演『予定のあと先』(2020年)。
──最近の空晴さんはシビアな問題をキッチリ反映していて、劇団の最大の売りである「ほっこり感」だけでは終わらない世界になってきていますね。
岡部 でも思い返すと、意外と大団円なことは昔から描いてないんですよ。「今日は取りあえず丸く収まったけど、明日どうなるかはわからないから、頑張らないといけないよ」という感じ。悪い状況が奇跡的に変わるのは現実的じゃないけど、ただ辛いだけで終わるのも嫌なんです。生きていく上で、確かに辛いことや痛いことはあるけど、それをおぎなう嬉しいことや、支えてくれる人たちがいる喜びの方が大きいといいですね……と。劇団のこれまでの状況を踏まえてきたことで、そんな世界になっていったと思います。
──確かに、旗揚げ公演直後には川下ともこさんが、2018年には平本光司さんが逝去された、その影響は少なくなかったはずです。
岡部 これはよく芝居に書くんですけど「あってよかったとはよう言わん。でも、あれを単なる悪いことにしないためには、その後が大事だ」と。No Pain No Gain(痛みなくして得るものなし)じゃないけど、その痛みを無視せずに「次はこうしよう」「あれがあったから、こう考えよう」みたいにすることでしか、折り合いは付けられないのかな、と思います。でも、あの2回の痛みがあったからこそ「この痛みは知っている。でも、乗り越えられない痛みではないことも知っている」ということを、堂々と描けるのかもしれません。
──空晴さんの芝居での「辛いけど、前を向いていこう」的な言葉の説得力がハンパないのは、実際に辛すぎる現実を乗り越えたリアリティに基づいているからでしょうね。
岡部  言い方は悪いですけど「いや、知ってますよ」って(笑)。だから書けるし、書きたいなあと思います。それを入れることで、空晴が大切にしている「ほっこり感」が際立つということも学びましたしね。お汁粉にちょっと塩を入れるみたいな感じ。
──それが最近は、甘いというより甘じょっぱいぐらいの塩梅に。
岡部 あ、そうですね! 塩気を表に出すようになってきたと思います(笑)。
空晴特別番外公演『一番の誕生日!~空晴特別バージョン~』(2021年)より。
──特に今回は、このタイトルから「コロナ後の世界」について、自然と考えさせるような作品になるのではないかと思いますが。
岡部 やっぱり前代未聞のことが起こって、皆さん否が応でも「これまで」と「これから」を考えたと思うんです。私たちもまた「必要だ」と「不要不急だ」みたいな論議があって、活動を応援してくれる人もいるけど、そうじゃない人もいるんだとも実感しました。コロナをきっかけに、いろいろなことを考えた中で、温かさや優しさがありつつも、結構私の卑屈さや嫉妬なども、苦味として効いた本になったと思います。
とはいえ、私の根底は一緒です。人は絶対に信じたいし、人生は悪いことばかりじゃない。そういうことを二度も教えてもらう大きな機会を経て、描いた世界をぜひ観に来てほしいと思います。配信もありますけど、できれば劇場まで来ていただきたいですね。そして見終わった後に「どの男のキャラが好きやった? 付き合えるとしたら誰?」って、みなさんに聞いてみたいです(笑)。
──特に唐組を観ていても空晴を観たことがない方には、稲荷さんのイメージが大きく変わる……しかも素の稲荷さんに結構近いというので、より楽しめるんじゃないかと。
稲荷 そうですね……それってどうなんでしょう?(笑)「実際はこんな人なのかな?」と役を楽しんでもらいながら、僕が挑戦している姿をぜひ観てほしいです。そして10回公演、20回公演と来て、次は30回公演に出ると、勝手に決めています(一同笑)。
岡部 それはぜひ! うちは公演のペースが決まってるわけじゃないので、いつになるかはわかりませんけど、実現できるまでがんばります。
(左から)岡部尚子、稲荷卓央。

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