2021年トニー賞受賞者ダニー・バース
ティンが語るソンドハイム~「ザ・ブ
ロードウェイ・ストーリー」番外編

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story

番外編 2021年トニー賞受賞者ダニー・バースティンが語るソンドハイム
文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima
 ブロードウェイを代表するソングライター、スティーヴン・ソンドハイムが2021年11月26日に逝去した。91歳という高齢ながら、亡くなる2か月前の9月には、テレビのトーク・ショウで元気な姿を見せ、劇作家デイヴィッド・アイヴス(『ヴィーナス・イン・ファー』)との共作で、新作『スクエア・ワン』を創作中と近況を語ったばかりだった。その後SNSを中心に、哀悼の辞が溢れ返ったのは御存知の通り。ここでは、『ムーラン・ルージュ!』(2019年オープン)で、今年見事にトニー賞助演男優賞を受賞。ソンドハイム作品と縁が深いばかりか、その人となりも良く知るダニー・バースティンへのインタビューを中心に、偉大なる功績を偲びたい。
『ウエスト・サイド・ストーリー』初演(1957年)のレッスン風景。右端がマリア役のキャロル・ローレンス、その隣がレナード・バーンスタイン(作曲)、ピアノを弾くのが若き日のソンドハイム。
■ パフォーマーを鼓舞してきたソンドハイム
 来(2022年)1月11日に、『INTO THE WOODS』(1987年初演)の翻訳上演が開幕。そして2月11日には、ブロードウェイでの作詞家デビューとなった、1957年初演『ウエスト・サイド・ストーリー』の映画版リメイクが遂に公開と、ソンドハイムが創作した名作陣が日本でも再び脚光を浴びている。血みどろの復讐劇『スウィーニー・トッド』(1979年)に代表されるように、敢えてミュージカル化が困難なテーマに挑み続けたソンドハイム。演じる側にとっても、一分の隙もないほど計算された歌詞と旋律をこなすのは至難の技で、同時に高度の演技力を要求される。しかしその難易度ゆえに、多くのパフォーマーを奮い立たせ、また魅了してきた。
『フォリーズ』初演が続演していた頃、40代初めのソンドハイム
 学生時代にソンドハイム本人と知り合い、多大なる影響を受けたのがダニー・バースティン。今年『ムーラン・ルージュ!』で、悲願のトニー賞受賞までに、『ドロウジー・シャペロン』(2006年)や『キャバレー』(再演/2014年)、『屋根の上のヴァイオリン弾き』(再演/2015年)などで、主演&助演男優賞に6回ノミネートされた、今やブロードウェイきっての名優だ。ソンドハイム作品では、再演版の『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(1994年)、『カンパニー』(1995年)、『フォリーズ』(2011年/トニー賞ノミネート)に出演。私は、バースティンが『キャバレー』出演中の2014年に話を訊く事が出来た。
ダニー・バースティン

■ 大巨匠直々のレクチャーに感激
 無名時代に、前述『メリリー~』のオフ・ブロードウェイ公演に出演し、様々な役を演じ分けたバースティン。ソンドハイムとの記念すべき出会いのきっかけを作ったのも、この作品だった。今年の5月に日本でも再演されたので、友情の崩壊を綴るほろ苦いストーリーと、〈オールド・フレンズ〉や〈アワー・タイム〉などピュアで美しい楽曲を堪能された方も多いだろう(下記の連載一覧『メリリー~』特集参照)。彼はこう振り返る。
「カレッジ在学中に、学内で上演される『メリリー~』で、主役の作曲家フランクを演じる事になってね。ところが脚本を読むと、彼が長年の親友たちを裏切り、名声を求めるモチベーションなど、当時18歳の僕には分からない事が多い。そこで、図々しくもスティーヴンに手紙を出してみた。友人が住所を知っていたんだ。そうしたら何と返事をくれた。文面は、〈君の質問に全部答えていたら、トルストイの『戦争と平和』並みの長さになります。家にいらっしゃい。直接話し合いましょう〉。その後訪ねたら、『メリリー~』のメイキングはもちろん、登場人物の性格分析に到るまで、たっぷりと語ってくれた。あの感動は一生忘れないよ」
バースティンが出演した、『メリリー・ウィー・ロール・アロング』再演キャスト盤(1994年)。主役のフランクを演じたのは、マルコム・ゲッツ(『ニュー・ブレイン』)だった(輸入盤)。
『カンパニー』再演盤(1995年)は、ジェーン・クラコウスキー(『NINE』再演)を始め、シャーロット・ダンボワーズ(『シカゴ』再演)ら、達者な女性陣の歌が聴きものだ(輸入盤)。

■ 『フォリーズ』で難役を極める
 『カンパニー』は、様々なカップルが抱える問題点を提起し、他人と共存する意義を問う異色作(現在、ウエストエンド発の再演版がブロードウェイで上演中)。バースティンは、結婚直前にマリッジ・ブルーでパニックを起こしたパートナーに、翻弄される男を好演した。さらに彼が、実力をフルに発揮した作品が『フォリーズ』だ(下記連載一覧のNY Live『フォリーズ』特集参照)。レビュー・ガールの再会パーティーを舞台に、結婚が破綻した2組の夫婦の感情のもつれを活写するこの作品で、バースティンは、バーナデット・ピータース扮する妻のサリーを愛しながらも、顧みられない生活に不満を募らせ、浮気を重ねる夫バディ役で絶賛を浴びる。
「バディは、屈折の象徴のような男だよね。ただ結婚生活に絶望し、常に苛立っているような役柄を演じる時でも、彼が何故そのような精神状態に陥ったのかを徹底的に掘り下げ、自分なりに咀嚼した上で、少しでも人間味を感じさせるように演じている。これもスティーヴンの助言と、彼の歌詞を読み解きながら学んだ事だった」

■ 志を抱く後進とは誠実に対峙せよ
 そのためには、自ら演技のアイデアを出しドラマ性を強調。バディのキャラクターを観客に伝える努力を怠らない。それが結実したのが、彼が鬱屈した感情を爆発させながら激しく歌い踊る、〈ザ・ライト・ガール〉というナンバーだ。
「従来のエンディングでは、ジャ~ンと派手に終わって拍手が来るのだけれど、僕はそこをカットして、いきなり妻に別れを切り出すセリフに繋げる案を、演出家のエリック・シェイファーに伝えた。拍手でドラマの流れを中断せずに、バディの煮えたぎった感情を表す事が先決だと思ってね。幸い、リハーサルを観に来ていたスティーヴンも賛成してくれた。考え方が実に柔軟で、新しい提案を積極的に取り入れるタイプの人なんだ。逆に、『拍手が来ないけれど、おまえ本当にいいのか?』と心配されたよ(笑)」
 私は、この公演を観る事が出来たが、ステージ狭しとエネルギッシュに動き回るバースティンのパフォーマンスは正に圧巻。丁寧な歌詞の表現にも感じ入った。そして最後に彼は、人生の師と仰ぐソンドハイムから学んだ、志を持つ若者には誠実に接し、自分の知識を惜しみなく披露する精神を今も忘れてはいないと語る。
「楽屋口に若い人が来て、目をキラキラさせながら『僕も役者をやってます!』なんて言われると、サインをしながら『いつか一緒に仕事をしようね』と必ず励ますようにしている。もしそれが実現したら、こんなに嬉しい事はないよね」
バースティンや、ソンドハイム作品の常連的存在バーナデット・ピータース、イレイン・ペイジ(『エビータ』ロンドン初演)ら、実力派キャストのボーカルが楽しめる『フォリーズ』2011年再演盤(2枚組輸入盤)。

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