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【映画コラム】懐かしさと新しさが混
在する摩訶不思議な世界が現出する『
ラストナイト・イン・ソーホー』

 『ベイビー・ドライバー』(17)のエドガー・ライト監督によるタイムリープ・ファンタジーホラー『ラストナイト・イン・ソーホー』が12月10日から公開される。全編に流れる、1960年代のブリティッシュ・ポップスが聴きものだ。
 60年代に憧れ、ファッションデザイナーを夢見て、ロンドンのソーホーのデザイン専門学校に入学したエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、寮生活になじめずアパートで一人暮らしを始める。
 だが、夢の中で60年代のソーホーで歌手を目指すサンディ(アニヤ・テイラー=ジョイ)に出会い、その姿に魅了されたエロイーズは、夜ごと夢の中でサンディの後を追うが、やがて体も感覚もサンディとシンクロし始め、次第に精神をむしばまれていく。
 ライト監督は、主人公が幻覚に惑わされるロマン・ポランスキー監督の『反撥』(65)や、霊媒師が登場するニコラス・ローグ監督の『赤い影』(73)の影響を口にしているが、それよりも、アルフレッド・ヒッチコックやブライアン・デ・パルマの諸作を思い起こさせるところがある。
 ちなみに、『赤い影』の音楽は、デ・バルマ作品でよく音楽を担当したピノ・ドナッジオ。彼はダスティ・スプリングフィールドやエルビス・プレスリーがカバーして有名になった「この胸のときめきを」の作者でもある。
 ついでに、『赤い影』の原作はダフネ・デュ・モーリアで、ヒッチコックの『レベッカ』(40)と『鳥』(63)の原作も彼女。というわけで、ぐるぐる回ると、この映画はヒッチコックやデ・パルマともつながる。
 パラレルワールドへのタイムリープ、ファンタジー、ホラー、ミュージカルといった要素と、対照的な光と闇、懐かしさと新しさが混在する摩訶不思議な世界が現出するこの映画。
 それを彩るのは、60年代の音楽とファッションであり、実際に60年から活躍していたダイアナ・リグ、リタ・トゥシンハム、テレンス・スタンプも姿を見せるのだから念が入っているのだが、ただ60年代のロンドンをひたすら懐かしみ、礼賛するのではなく、その恥部や醜さもきちんと入れ込んでいる点が目を引く。
 さて、登場する曲は、「愛なき世界」(ピーター&ゴードン、ポール・マッカートニー作)、「ウイッシン・アンド・ホーピン」(ダスティ・スプリングフィールド、バート・バカラック作)、「ユーアー・マイ・ワールド」「恋するハート」(シラ・ブラック、バカラック作)、「恋のダウンタウン」(ペトラ・クラーク)。
 「ヒート・ウェーブ」(ザ・フー、後にリンダ・ロンシュタットがカバー)、「セット・オン・ユー」(ジェームズ・レイ、後にジョージ・ハリスンがカバー)、「パリのあやつり人形」「恋のウェイト・リフティング」(サンディ・ショー)、「ダンス天国」(ウォーカー・ブラザース)、「ソーホーの夜」(デイブ・ディー・グループ)…。
 前作『ベイビー・ドライバー』の選曲もマニアックだったが、その点では、今回もまたすごかった。日本では比較的地味な存在だが、ビートルズ伝説にも登場するブラックをはじめ、スプリングフィールド、ショー、クラークら、当時イギリスで活躍した女性シンガーたちの人気の高さを垣間見た気がして、興味深いものがあった。(田中雄二)

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