歌舞伎座『十二月大歌舞伎』猿之助奮
闘の『新版 伊達の十役』、菊之助と
勘九郎が心温める『ぢいさんばあさん
』他、観劇レポート

歌舞伎座の12月公演『十二月大歌舞伎』が、12月1日(水)に開幕した。2021年の歌舞伎座の最後を飾る、見どころ溢れる全三部のうち、第一部『新版 伊達の十役』と、第二部『男女道成寺』、『ぢいさんばあさん』をレポートする。
※第三部は、別の記事でレポートします
■第一部 午前11時開演 『新版 伊達の十役』
序幕「足利家奥殿の場」「床下の場」
金の屏風や金の襖で絢爛にあつらえられた、足利家の立派な奥殿。その一間で、乳母の政岡(猿之助)が、幼い2人の子どもと身を寄せ合うように生活している。1人は、足利頼兼の子・鶴千代(幸一郎)。もう1人は、政岡の子・千松(市川右近)だ。家督を継ぐ鶴千代は、御家のっとりを企む仁木弾正一味に命を狙われている。毒を盛られることを恐れ、3人は出された食事に手を付けられず、鶴千代と千松は、空腹に耐えている。政岡は千松に、鶴千代の毒味役となり、命を捨てる覚悟で守るよう諭すのだった。
第一部『新版 伊達の十役』左より、乳母政岡=市川猿之助、栄御前=市川中車 /(c)松竹
そんな折、弾正一味の栄御前(中車)が訪れる。表向きは「病気」とされている鶴千代のお見舞いだ。お菓子を差し入れるが、政岡は鶴千代を守るべく、食べさせるわけにはいかない。そこへ飛び出してきたのが千松だった……。
第一部『新版 伊達の十役』左より、乳母政岡=市川猿之助、八汐=坂東巳之助、政岡一子千松=市川右近、栄御前=市川中車 /(c)松竹
幸一郎の透き通る声は、鶴千代の品と同時に憐れさを感じさせた。右近の千松は、背筋をのばし忠誠心をみせるほど、健気さに光が当たった。そんな千松を手にかけるのが、巳之助の八汐。笑也、笑三郎の局が詰め寄ろうとも「騒ぐことない」と一言で制止し、なぶり殺しにする。澱みのない禍々しさは、凄惨でこそあれ陰鬱さはなく、華さえ感じられた。中車は、おろした髪を後ろで束ね、鬘鉢巻という高貴な姿の栄御前。千松が殺される間、そっぽを向いて扇で顔を隠したきり、押し黙っていた。しかし、たしかにそこにいた。その無視できない存在感が、芝居に厚みを加えていた。猿之助の政岡は、愛情と母性に溢れている。息絶えた千松を、ようやく腕に抱いた時、時に人形のように見える身体の動き、唄うように聞こえる台詞回しにのせて、堪えていた感情を決壊させた。身体や声の、時代を越えて伝わる美しさを共通項に、現代では直面しえない心情も鮮やかにつきつける。客席には、すすり泣く声、嗚咽を堪えるような息づかいがあちこちから聞こえた。続く「床下」では、この悲劇の真犯人である仁木弾正を、やはり猿之助が勤める。『伽羅先代萩』をフルサイズで見たかのようなドラマチックな序幕だった。
第一部『新版 伊達の十役』仁木弾正=市川猿之助 /(c)松竹
四世鶴屋南北による『伊達の十役』は、江戸時代のうちに上演が途絶え、台本も残っていない。現在上演されているのは、市川猿翁がオリジナル版のエッセンスを集め、新たに構成し1979年に復活上演(ほぼ初演)したものだ。今月は、さらに当代猿之助のアイデアが加わり、『新版』と銘打たれている。
大詰「間書東路不器用」
幕間をはさんで、後半は早替り舞踊。猿弥、弘太郎による尼が登場し、ごきげんな掛け合いで客席のムードを陽気にする。2人の尼は、頼兼(猿之助)の恋人だった高尾太夫(猿之助)の墓参りに向かうことに。その道中、絹川与右衛門(猿之助)、三浦屋女房(猿之助)、土手の道哲(猿之助)、腰元の累(猿之助)、仁木弾正、細川勝元(猿之助)など、『伊達の十役』にまつわる人物たちが次々に現れ、「御殿」の前段や、その後のエピソードをテンポよくみせる。猿之助のめくるめく早替りは、早替りと分かってみていても、あっと驚かされる瞬間がある。若衆に化けたねずみ(玉太郎)との踊りもあり、エンターテインメント性の高いスペクタクルショーとなっていた。渡辺民部之助を勤める門之助や渡辺外記左衛門の寿猿が出揃い、序幕とは趣きの異なる喝采が送られた。
■第二部 午後2時30分~
『男女道成寺』
第二部『男女道成寺』左より、白拍子桜子実は狂言師左近=尾上右近、白拍子花子=中村勘九郎_ /(c)松竹
第二部は、舞踊『男女道成寺』ではじまる。道成寺は、修行僧の安珍と、安珍に恋をするも騙され、逃げられ、執着の果てに蛇となった清姫の「安珍清姫伝説」で知られるお寺だ。清姫が安珍を鐘ごと焼き殺して以来、鐘がなかったが、ようやく新しい鐘を吊るすことになった。そこへ花子(勘九郎)と桜子(尾上右近)、2人の白拍子がやってくる。踊りを披露する代わりに、鐘を拝むことを許されるのだった。2人は赤い振袖に金の烏帽子をかぶり、『京鹿子娘道成寺』さながら、華やかで荘厳な空気を作る。

第二部『男女道成寺』左より、白拍子桜子実は狂言師左近=尾上右近、白拍子花子=中村勘九郎 /(c)松竹

……が! 実は桜子は、女性ではなく狂言師左近(勤めるのは、右近)。素性がバレた左近は開き直り、麗しい顔のまま男性の声に戻る。衣裳、鬘、歩き方など男女の要素がチグハグ混ざり合い、客席から笑いが起きた。冒頭の緊張感が程よくほぐれたところで、再び花子が連れられてくる。勘九郎の花子が、長唄とともに廓の恋心を踊ると、その美しさにはたしかな輪郭があり、かと思えば可憐な表情もあり目が離せない。右近は、桜子でも左近でも、しなやかで華があり、男女の様相もしっとりと描き出す。胸元に携えた鞨鼓(かっこ。左右から打つ鼓)、鈴太鼓(タンバリンのような和楽器)、鮮やかに付け替える三つの面など、盛りだくさんの構成で華やかに楽しませた。
『ぢいさんばあさん』
森鷗外の短編小説を原作に、宇野信夫の作・演出で、1951年に歌舞伎化された『ぢいさんばあさん』。タイトルからは想像がつかない、彩りと芳香に包まれた情緒あるお芝居となっている。勘九郎は美濃部伊織を、菊之助は妻のるんを勤める。物語は、大きく前半と後半に分けることができ、その間を37年の年月が隔てる。
舞台は、江戸番長の美濃部伊織の屋敷。庭に、桜の若木が植わっているが蕾はまだ硬い。るんは、弟・久右衛門(歌昇)の短慮を諭している。弟が喧嘩をして怪我をしたばっかりに、代わって伊織が、1年間、京都の二条城に勤めることになったからだ。夫婦の間には、生まれたばかりの子供がいる。仲睦まじすぎる2人からは、おかしみとともに、家族が離れ離れになる淋しさが滲んでくる。
第二部『ぢいさんばあさん』左より、伊織妻るん=尾上菊之助、美濃部伊織=中村勘九郎 /(c)松竹
場面が変わって、その年の京都・鴨川の料亭。単身赴任中の伊織は、刀屋で立派な刀を手に入れた。そのお披露目の席で、同輩の柳原小兵衛(坂東亀蔵)たちとお酒を楽しんでいる。だが、そこに購入資金を貸してくれた同輩の下嶋甚右衛門(彦三郎)はいない。なぜなら下嶋は、面倒な男だからだ。しかし、さすが嫌われ者。下嶋が、呼ばれていない宴席に、泥酔状態で乱入してくる。そして伊織の刀を「なまくら」と罵る。はじめこそ、今日は帰ってほしいと頭を下げていた伊織だが、これで人が斬れるのかと、なじられるうちに……。
そして37年後の伊織の屋敷。久右衛門の息子夫婦が、留守の家を守り続けていた。庭の桜は枝を伸ばし、幹を太くし、満開の花を咲かせている。伊織とるんが、ついに戻ってくる。
歌昇は、短慮でありつつ実直な人柄を、物語の前半で印象付け、37年後の若夫婦(右近、鶴松)に物語を繋ぐ。それを受け取る大切な役どころを、右近と鶴松が清々しく勤める。下嶋は、大金を貸す気前の良さがありながらも嫌われている。彦三郎は、そんな下嶋を“面倒だけど憎めない奴”に逃げることなく、面倒なイヤな奴に振り切り、声、姿の良さで立ち上げる。勘九郎の伊織は、のろ気が嫌味にならない、まっすぐで親しみやすい人柄。自分にも人にも正直。菊之助のるんは、若い時分から、凛と美しく、たおやか。それでいて伊織に甘えた顔も見せる。それを受ける伊織もトロけるような笑顔。マスクの内側でニヤニヤが止まらなかった。そして菊之助も勘九郎も、37年後の姿を丁寧に体現する。昔と変わらない仲睦まじさの、一緒には歩けなかったそれぞれの37年を想像させた。幕切れに伊織は、「新しい暮らしをともに始めよう」と、るんに語りかける。ふたりに残された日々が、どうかこの春の日のように麗らかでありますように。そう願わずにはいられなかった。心温まる物語の一抹の切なさは、箏の音色とともに余韻を残した。

第二部『ぢいさんばあさん』左より、伊織妻るん=尾上菊之助、美濃部伊織=中村勘九郎 /(c)松竹

いずれの部も、それぞれに心揺さぶられ、体を温めてくれる。そんな歌舞伎座『十二月大歌舞伎』は、12月26日(日)までの公演。
取材・文=塚田史香

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