初未上演、初現役大学生……史上初め
てづくしとなった「第28回OMS戯曲賞
」授賞式&公開選評回レポート

関西を拠点とする劇作家の、上演実績を持つ戯曲を対象とした戯曲賞「OMS戯曲賞」。第28回となる今年度は、昨今のコロナ禍で公演中止となったり、あるいは計画段階で頓挫した作品が多数あることを考慮して、開設から初めて「上演されていない戯曲」も応募可能になった。実際、応募された45作品の中から最終選考に残った7作品のうち、3作品が未上演だ。そして12月7日に開催された授賞式&公開選評回では、その未上演作品が大賞・佳作を独占するなど、いろいろと予想外な結果となった。
第28回の最終選考に残ったのは、以下の作品(作家五十音順・()内は上演団体)
イトウワカナ『砂利はポルカで踊る』(万博設計)
久野那美『行き止まりの遁走曲(フーガ)』(蛸の階)
くるみざわしん『白地に赤く、日の丸とカッポウ着』(未上演)
高橋恵『ダライコ挽歌』(虚空旅団)
田辺剛『クローゼットQ』(劇団うりんこ)
山村菜月『その桃は血の味がする』(未上演)
山本彩『花を摘む人』(未上演)
大賞を受賞したのは、これが初応募となった、山本彩『花を摘む人』。大阪の劇団「空の驛舎(えき)」(ちなみに主宰の中村ケンシも、第20回で大賞を受賞している)で役者として活動しながら、戯曲を執筆。本作は、故郷高知県の団体「スタープロジェクト」に向けて描き下ろしたものの、コロナのために公演が立ち消えになってしまったという。
『花を摘む人』で大賞を受賞した山本彩(右)。
山本は緊張の面持ちを見せながらも「大阪に出てきてからずっと憧れていた賞だったので、すごく嬉しいです。上演ができなかった作品なので、読んでいただくだけでも本当に嬉しかった。このまま戯曲を書いていけるのか?と悩んでいた時期だったので、これからも頑張って書いていきたいと思いました」と、大勢の人たちへの感謝とともにコメントした。
受賞のスピーチで「ずっと憧れていた賞だった」と語った山本彩。
佳作に選ばれたのは、これも初応募となる山村菜月『その桃は血の味がする』。上演のあてはなかったが、この戯曲賞の応募を目指して描き下ろした作品だ。現在21歳ということで、司辻有香(第12回佳作)が持っていた最年少受賞記録・23歳を、大幅に更新。さらに大阪芸術大学在学中のため、現役大学生として初の受賞という快挙も遂げた。
『その桃は血の味がする』で佳作を受賞した山村菜月(右)。
山村は「こんな所に来られるとは、頭が真っ白です。この作品は家族の問題を書いているのですが、私は家族からすごく愛されて育ち、戯曲を書くことも認めてもらっていて。今こうしてこの場に立てていることが、ものすごくありがたいし、嬉しい気持ちです」と、初々しく挨拶した。
現在、大阪芸術大学で舞台芸術を学んでいるという山村菜月。
授賞式の後は、そのまま公開選評会へ。昨年に引き続いて選考委員を務めた、佐藤信(劇団黒テント/鴎座)、鈴木裕美、佃典彦(劇団B級遊撃隊)、土田英生(MONO)、樋口ミユ(Plant M)が、それぞれの作品に細かな批評を与えていった。
大賞の『花を摘む人』は、村を潰して作られたダム湖を舞台に、そこに咲く昼顔やヒマワリなどをモチーフにしながら、村の過去や現在をめぐる4つの物語が描かれる。短い会話だけで、状況や心象をありありと浮かび上がらせる筆力が絶賛され、選考委員5人中4人が大賞に推すという、圧倒的な評価を集めた。
佐藤:ダムに沈んだ村は割と何度も取り上げられたテーマだけど、それが人々の心にどういう波紋を起こすかについて、直接吐露するのではなく、場面の構成と豊かな台詞で浮かび上がらせることに成功している。OMS戯曲賞らしい、実験性に富んだ作品。
鈴木:(大賞に)入れなかった1人は私です(笑)。どの話も彩度が高くて素晴らしいけど、何かスンとしてる感じ。「私はもう完結しているので、どうか一つ」と、演出や俳優にあまり期待してくれてない印象を受けてしまった。それは未上演の影響があるのかもしれない。
佃:最初の男女のやり取りで、久しぶりに会った二人なんだな……と思っていたら「今年こそ、あの湖に私を突き落とすんだで」という台詞で、一気に持っていかれた。短い台詞の積み上げだけで、どの場面もイメージが鮮明に立ち上がってくることに感動した。
土田:会話で状況を伝えようと思ったら、どうしても台詞が長くなるけど、この本は本当に短い。しかも4つも物語を並べると、似たようものになりがちなのに、割とそれぞれ色やタッチが違う。そのバランスがどこから来たのかと、とにかく舌を巻いた。
樋口:読んだ時に、そこにあるはずのない人間の血の色がフッと見えたけど、ダムを作ったことで人々が受けた傷が、血のイメージを私に思い起こさせたのかと。何ごとにも裏と表があり、その両側をちゃんと描いてるから、こんなに鮮やかな世界なんだと思った。
選考結果を発表する、選考委員の佐藤信。
佳作の『その桃は血の味がする』は、いじめが原因でニートになった女性と、彼女と姉妹のような関係の大学生の、甘えと束縛の感情が交錯する様を、世間から切り離された楽園「桃源郷」と照らし合わせながら描き出した会話劇。痛みとユーモアを両立させ、しかも「今どきの若者」を強く感じさせる関西弁の会話の巧みさに、将来性を期待しての佳作となった。
鈴木:新しい傷つき方というか、新しい会話のリズムというか、私にはわからない新しい景色を見せてくれたことが、とても嬉しい。「この先もう一幕書けるのでは」という終わり方だったけど、書きたいものをゴチャゴチャ言わずに書ききった感じがすがすがしい。
樋口:「人は一体、本当は何に縛られているのか?」ということを書いた話ではないか。この姉妹は、生きていく上での一つの言い訳を、外側の要因ではなく脳内に作って縛られているんだと。妹が家を出るのは、姉そのものではなく「自分の脳内の姉」との決別だと思った。
また佐藤が、後述のイトウの選評の流れで、山村作品について語った言葉も特記しておく。
佐藤:会話の才能は突出しているけど、作者の心がどこにあるのかを決められてなくて、AIが書いたような作品だと思えてしまった。人間にできてAIにできないのは「心とは一体何か」ということ。作家の心とは一体何だ? ということを考えてほしい。
公開選評会より。選考委員の鈴木裕美(左)、佃典彦(右)。
その他の作品の選評は、以下の通り。
イトウワカナ『砂利はポルカで踊る』
佐藤:会話というものが理屈ではなく、感情の動きの結合だとすると、イトウさんも会話の面では大賞・佳作の二人に匹敵。しかも「心というものがどう変化していくのか」ということを描こうとする、その作家の心がよく伝わってくる。夜のバスという“動く密室”の発想も面白い。しかしこの出来事が、主人公に何をもたらすのか? まではつかみ切れなかった。
久野那美『行き止まりの遁走曲(フーガ)』
土田:登場人物たちは、自分の手触りのある確かなものを探しているけど、中でも偽物と本物をめぐるやり取りが非常に鮮やか。「自分は偽物ではないか」という感じを、僕は半端なく抱えていたけど、これを読んで非常に楽になった。ただ最後にどういう音楽が流れたかが重要に思えたので、それがわかる何かがあった方がいいのでは、という意見もあった。
くるみざわしん『白地に赤く、日の丸とカッポウ着』
鈴木:私が一人だけ大賞に押したのはこの作品。登場人物がすごく多いにも関わらず、流れるように読んでいけるのが、まず素晴らしい。ある種戦争に加担した「国防婦人会」を立ち上げた主婦が、本当に悪気がなくてかわいらしいのが新鮮だし、ラストシーンではちょっと面白いことになってる。それがすごくチャーミングだし、伝わるべきことが伝わってるとも思う。ただ選考会では「もう少し、史実や方言を調べた方がいい」という声が出ていた。
公開選評会より。選考委員の土田英生(左)、樋口ミユ(右)。
高橋恵『ダライコ挽歌』
樋口:時代や経済に振り回されていく大阪の町工場の話だけど、その中で人は何を頼りに生きるのか? という時に「お金かな、いやでも結局人間」という、この台詞にすべてがあると思う。2回3回と繰り返し読むほど、作家の優しい眼差しが味わい深くなる本。ただ時間経過を伝えるのに、作業日誌以外の表現方法があったのではないかと、そこが少し残念。
田辺剛『クローゼットQ』
佃:「引きこもりが出てこないなら、部屋ごと外に引っ張り出そう」という発想と、その部屋を動かす専門の労働者がいるという、無茶な設定を押し切ったのがすごい。主人公の少年は、いろんな世界を見たり聞いたりするけど、それが「体験」になってない気がする。もっと早い段階で、労働者と互いの存在を意識しあえたら、彼ももう少し主体的に動けたのでは。
これまで応募を「上演した作品限定」としてきたOMS戯曲賞だが、大賞級の評価を受けたのが、いずれも未上演作品だったというのは、非常に興味深い結果だった。いずれもこれをきっかけに、舞台化が実現することを祈りたい。
公開選評会より。司会の小堀純(左)、選考委員の佐藤信(右)。
来年度も引き続き、未上演作品も対象にするということなので、ここからまた隠れた才能が現れるのではないかと期待している。今回の大賞・佳作の作品を掲載した戯曲集「第28回OMS戯曲賞」は、2022年3月に発売される予定。
※文中敬称略

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