スピルバーグ監督最新作公開記念『ウ
エスト・サイド・ストーリー』大特集
~「ザ・ブロードウェイ・ストーリー
」番外編

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story

番外編 リメイク版公開記念『ウエスト・サイド・ストーリー』大特集
文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima
 いよいよ2022年2月11日に公開される、スティーブン・スピルバーグ監督最新作『ウエスト・サイド・ストーリー』。既に予告編を観て、期待を膨らませている方も多いはずだ。ここでは、現在DVDやブルーレイ、配信などで鑑賞出来る、1961年公開の最初の映画版『ウエスト・サイド物語』(以下『WSS』)を特集。トリビア・ネタを絡めつつ、今年公開60周年を迎えたこの傑作を分析し、スピルバーグ・バージョンの予習編としたい。

アメリカ初公開時のポスター。画家ボブ・ピークのイラストレーションが美しい。
■天才ロビンスのエンドレス撮影
 舞台はNY。人種の壁を越えて燃え上がるマリアとトニーの恋愛を軸に、不良グループのジェット団(ポーランド系)とシャーク団(プエルトリコ系)の軋轢を生々しく描くストーリーは、最早説明の要もないだろう。ブロードウェイ初演は1957年。抗争の果てに、少年たちが命を落とす衝撃の展開に、途中で席を立つ観客もいたほどだった。
日本で映画初公開時にリリースされた、サントラLPのジャケット。主演のナタリー・ウッド(マリア)とリチャード・ベイマー(トニー)。
 本連載では、これまでブロードウェイ・ミュージカルの映画化版について何度か触れてきたが、『WSS』はその中でも最も成功した例だ。大きな理由の一つが、初演の原案・振付・演出を手掛けた、本作の生みの親ジェローム・ロビンスが関わった事だろう。さらに、実在した女性死刑囚の物語「私は死にたくない」(1958年)など、硬派な作品で鳴らしたロバート・ワイズが共同監督の形で参加。ロビンスがミュージカル・ナンバー、ワイズがドラマ部分を演出するという理想的な形でスタートした。しかし予想に反し撮影は難航。初演と映画版で、ジェット団の一員を演じたハーヴィー・エヴァンスは、こう回想する。
「原因はジェロームだった。完璧主義者の彼は、満足の行くまで執拗にリテイクを続けたんだ。例えば、NYのロケで撮影された、ジェット団とシャーク団の確執をダンスで描く映画巻頭の〈プロローグ〉は、当初2週間の予定が2か月近く掛かってしまった。アイデア豊富な彼は、街中で無数のカメラ・アングルを思い付くと、その度に撮り直していたからね」
〈プロローグ〉の振付を教えるジェローム・ロビンス(中央)。左は、シャーク団リーダーのベルナルド役で人気沸騰したジョージ・チャキリス
■白熱のダンスと濃密な楽曲に陶酔
 結局ロビンスは、スケジュール遅延による予算の大幅超過が映画会社の怒りを買い、撮影中盤にあっさりと解雇。ブロードウェイでは巨匠として君臨していた彼の威光は、ハリウッドでは通用しなかった。実際にロビンスが演出したのは、フィンガー・スナッピングでおなじみの前述〈プロローグ〉と、トニーのソロ〈何かが起こりそう〉、シャーク団のアニータ(リタ・モレノ)を中心に歌い踊られる〈アメリカ〉、そしてジェット団の〈クール〉の4曲のみ。その他はロビンスの助手が振付を再現し、ワイズが監督した。ただし、ロビンス自ら演出したナンバーは他を圧しており、何度観ても画面から放射される熱気に興奮を覚える。
ジェット団の面々。左からスーザン・オークス(エニボディーズ)、タンブリン、タッカー・スミス(アイス)、トニー・モーデンテ(アクション)、デイヴィッド・ビーン(タイガー)、ハーヴィー・エヴァンス(マウスピース)、デイヴィッド・ウィンターズ(A・ラブ) Photo Courtesy of Harvey Evans

 特に、舞台版では女性陣のみで展開する〈アメリカ〉は、シャーク団のリーダー役ジョージ・チャキリスら男性ダンサーも加わり、横広の画面をフルに生かしたパワフルなステージングに息を呑む。そしてエヴァンスが、「ダンサー人生で最も過酷だったナンバー」と振り返るのが〈クール〉。リーダーを失ったジェット団のメンバーが、自暴自棄になるのを抑えながら歌い踊る、パフォーマーにとっては難易度大の一曲だ。エヴァンスは続ける。
「ジェロームは、演じる役柄を突き詰め、その感情を歌と踊りに生かす演出法だった。だから稽古中でも不意に、『昨日、親父とどんな口論をした?』と訊いてくる。役を把握していれば即答出来る訳だ。〈クール〉では、僕たちに罵声を浴びせて精神的に追い込み、その上何十回と繰り返し踊らせる事で、爆発寸前の苛立ちを引き出した。しかしあれはキツかったなぁ」
 もちろん『WSS』を語る時、レナード・バーンスタイン作曲の歌曲は欠かせない。華やかなラテン調やモダン・ジャズ、オペラティックなナンバーから正調ミュージカル・コメディー系に至るまで、音楽のジャンルを超越したカラフルな楽曲が彼の才能を物語る。作詞は、11月26日に逝去したスティーヴン・ソンドハイム(映画公開時は一般的に無名)。登場人物のキャラクターが息づく瑞々しい歌詞は、後の成功を予見していた。
映画サントラに加え、1957年のブロードウェイ初演キャスト録音も収録した、2枚組お徳用盤(Sony Musicよりリリース/税込¥1,980)
 日本では、松竹洋画系の映画館で1961年12月23日に初公開。東京の封切館、丸の内ピカデリーでは、1963年5月17日まで1年4か月のロングラン上映を記録し、ミュージカル人口を飛躍的に増加させた。その後も、頻繁にリバイバル上映を重ねている。

■初の翻訳ミュージカルにも貢献
1975年リバイバル上映時のプログラム表紙
 日本のショウビズの世界も震撼させた。ソング&ダンスを絡めたTVのバラエティ・ショウや音楽番組の振付は、指パッチン・ダンスが主流になっただけでなく、舞台への影響も大きかった。現在、全国ツアー中の『マイ・フェア・レディ』再演(2022年1月28日まで)。日本における翻訳ミュージカル第一号となったこの名作の初演(1963年)で、『WSS』のダンサーたちが振付を担当したのだ。それが、シャーク団のハイミー・ロジャーズとジェイ・ノーマン。特に、長身で不敵なツラ構えのノーマンは印象が強烈だった。
チャキリス(中央)の左がジェイ・ノーマン
 初演のプロデュースと演出を手掛けたのが、『放浪記』(1961年初演)の作・演出で知られる菊田一夫。視察のためNYを訪れた彼は、ブロードウェイ・ミュージカルの踊りのレベルの高さに驚嘆する。そこで、『WSS』に出演したキャリアを誇るロジャーズとノーマンを振付師に抜擢。そればかりか、ダンス・ナンバーの強化を図るべく、NYのオーディションで2人が選抜した12名のダンサーを日本へ招聘し、『マイ・フェア』に出演させるという大胆な試みに挑戦した(招聘メンバーも、舞台版の『WSS』を経験したパフォーマーが多かった)。

『マイ・フェア・レディ』日本初演(1963年)の公演プログラムより、ノーマンの紹介ページ

 ちなみに、ロジャーズとノーマンが振付け、12名のブロードウェイ・ダンサーが登場したナンバーは、ヒロインの花売娘イライザが下町の仲間と歌い踊る〈素敵じゃない?〉と、イライザの父ドゥーリトルを中心に繰り広げられる〈時間通りに教会へ〉の2曲のみ(ロジャーズとノーマンも出演)。ただ、ロビンスの薫陶を得た百戦錬磨のダンサーたちのテクニックはさすがに素晴らしく、日本の関係者を大いに刺激したという。

■42年前の地上波吹替え版
 最後に、TVでの初放映について記しておこう。「WSS」が、最初にオンエアされたのは1979年1月4日。TBSが新春特番として地上波で放送した。1970年代は、視聴率獲得のため有名スターを吹替えに起用するケースが目立ち、「風と共に去りぬ」(1975年放映)の栗原小巻(ヴィヴィアン・リー)や、「ある愛の詩」(1977年放映)の山口百恵(アリー・マッグロー)と三浦友和(ライアン・オニール)などが大きな話題を呼んだが、「WSS」も同様。マリア役の大竹しのぶを始め、トニーは国広富之、ベルナルドに沢田研二、アニータが安奈淳、リフは尾藤イサオと、なかなか賑やかな顔ぶれだった(歌の部分は、原語のまま字幕付きで放映)。
 加えて、アイスが富山敬(「宇宙戦艦ヤマト」の古代進)、アクションは古谷徹(「巨人の星」の星飛雄馬)、そしてジェット団入りを熱望するボーイッシュな少女エニボディーズに、今年10月に亡くなった、テアトル・エコーのベテラン太田淑子(「ジャングル大帝」のレオ)ら、脇役も人気声優で固められていた。今から42年前の当時は、ネット配信はおろか、DVDやブルーレイなど影も形もなかった頃で、ビデオでさえ一般家庭へは普及前。食い入るように画面を見つめた事を思い出す。この吹替えバージョンは、12月3日に発売された「日本語吹替音声追加収録版ブルーレイ」に収められた(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)。

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