「僕と同じく“悩めるお年頃”の人に
も(笑)、ぜひ聴きに来ていただきた
いです」 ~西川大貴、今年の出演作
と、締めくくりのソロライブ、そして
今後の展望を語る~

大作ミュージカルから硬派な芝居まで多様な舞台に出演する「俳優」の顔、舞台の脚本や演出を手がけるのみならず時にはイベントの仕掛け人ともなる「クリエイター」の顔、国内外の演劇情報や音楽を届ける「ユーチューバー」の顔……。いくつもの顔を持つ西川大貴が今月30日、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGで今年初のソロライブを開催する。
ではこの度は、「歌手」の顔に焦点を当てたインタビューを! ……と思っていたら、本人から寄せられたリクエストはただひとつ、「ライブの宣伝に終始するのではなく、幅広いSPICE読者の方が“面白い”と思える記事にしてほしい」――。それならばと、いくつもの顔を持つに至った経緯から、『ゴースト』『検察側の証人』『ソーホー・シンダーズ』などに出演した今年の振り返り、さらには出演が控える『The Musical Day 2022』『ミス・サイゴン』への意気込みまで語ってもらったところ、見えてきたのは「社会人」西川大貴の顔だった……!
“マリウスを目指す西川君”から脱却するために
ーーまずは、「俳優」としてのスタートから伺います。初舞台は2001年、タップキッズとして出演された『アニー』とのことですが、これはどういう経緯で?
小さい頃から体操教室に通ってて、そこにタップダンスのクラスがあったんです、なぜか(笑)。カタカタ音の出る謎の靴で踊る子たちを見て自分もやりたいと思い、そのうちちゃんとしたタップ教室に通うようになり、そしたらそこに2000年の『アニー』に出てた女の子がいて。次の年から男の子も出られるようになると聞いて、ミュージカルとは何かも知らないまま、オーディションを受けたら合格したので出演したのが始まりです。で、当時は『アニー』に出たらアルゴ(※)も受けるよね、みたいな流れがあったのでそちらも受けたら合格しまして。アルゴは毎年夏休み期間に本番があって、そのために半年くらい稽古する感じだったので、学業と並行してレッスンとか稽古をする生活を大学に入るまでしてました。
※アルゴミュージカル:1987~2008年にかけて毎年公演されていたジュニアミュージカル。出演者はオーディションで選ばれた子どもたちが中心で、子役時代の山崎育三郎も出演。
ーー子役として続けていたことを、仕事にしようと思ったのは?
うーん、それはすごく“グラデーション”で。高校生の時にはもうマリウス役(『レ・ミゼラブル』)をやりたいって思ってたんですけど、まだ俳優一本には絞れなかったのと、人間が表現をする心理みたいなところに興味があったこともあって、立教大学の現代心理学部に進学しました。在学中に『レミゼ』に出演できたことがまぁ、転機と言えば転機なんですけど……「仕事だ」って意識は子どもの頃からあったし、でもそう割り切り過ぎちゃうとできない仕事でもあるから、“グラデーション”が今も続いているような感じですね(笑)。
西川大貴
ーー『レミゼ』出演は、どんな意味での転機だったのでしょう。
マリウス役で受けて、アンサンブルとして受かってクールフェラック役で出演したのが20歳の時。それから23歳くらいまでは、純粋にマリウスがやりたかったんです。けど同じ頃、アンサンブルとして出演した『ミス・サイゴン』でトゥイのアンダー(稽古場代役)をやって手応えを得たり、様々な舞台や役を演じていく中で、自分はマリウスじゃないんだなって思うようになって。表現ってもっと広いんだって気付いて、そっちに目を向けようとしてるのに、周りからは「次はマリウスやってね」とかって言われることがしんどくなっちゃったんですよね。“マリウスを目指す西川君”からハミ出たい! って思いが膨らみ過ぎて、ほとんど病んじゃってる時期もありましたけど(笑)、それがその後の色んな活動につながってる気がします。
ーーということは、「クリエイター」の顔が出てきたのがその頃?
脚本自体は中学生の時から書いてたんですけど、確かに24~25歳頃は“ハミ出る”ために、クリエイター活動を積極的にやってた面がありますね。ただその頃は……というか最近まで、自分のなかで「出役(俳優)」と「クリエイター」の活動を分けてるつもりはあんまりなくて。どっちにしろ“表現”で、それって仕事とはいえワクワクする心を持ってないとできないことだから、持ち続けるために、面白いと思えることは色々やってみる、みたいな感覚。最近になって、けどやっぱ出役とクリエイターは違うようなぁ……って感じることが増えてきましたけどね。もし出役の活動だけでずっとワクワクできるなら、自分はそれで満たされるんだろうか? とか考えるようになって、それ考えてる時点で俺、分けてるじゃんって。
ーーそれは、今後は「出役(俳優)」活動に集中していきたいということですか……?
というより、分けて考えなきゃいけないなって。“ハミ出たい”の延長でここまで来ちゃったからか、クリエイター活動が、俳優としての自分を担保するためのものになっちゃってるような気もするんですよね。出役ってことに関して、もう1回本腰を入れ直すことを考えたい。といっても、クリエイターとして今やりたいこともあるし、答えは全然まだ出てないんですけど。たぶん今、“悩めるお年頃”なんだと思います(笑)。
全く太刀打ちできなかった『検察側の証人』
ーー昨年からは、国内外の演劇情報を発信する『クロネコチャンネル』のチャンネルホストという「ユーチューバー」の顔もお持ちです。こちらはどういう経緯で?
いわゆる「メガ盛り牛丼食いまくってみた!」みたいなことじゃないし(笑)、自分で編集してるわけでもないので、ユーチューバーと言えるかどうかは分かんないですけど。前々から、俳優が現場で感じたこととか観た作品の感想を、飲み屋で喋ってるだけになってるのが勿体無いなと感じていて。それだと「意見」もただの「愚痴」になってしまう。だからもっと発信してもいいんじゃないかなと。コロナ禍も重なって、俳優とクリエイターと制作陣と視聴者の意見が集まる場、みたいなイメージで立ち上げたのが『クロネコチャンネル』です。
ーーそういうお話を伺うとやはり、「俳優」として自分を売り出すより、日本のミュージカル界全体を良くすることを考えてる「クリエイター」志向の方、という印象を受けるのですが……?
よくそう言っていただきますし、全体を良くしたいみたいな考えがあることも嘘ではないんですけど……俺みたいなモンが何を大それたことを、とも思うお年頃なんですよ(笑)。それって実は、今年『検察側の証人』に出たことの影響が大きくて。ノート(ダメ出し)に一点の曇りもない小川絵梨子さんって演出家と、「何がどうなってそうなってるんですか?」みたいな領域にいらっしゃるベテラン俳優さんだらけの現場で、僕はもう全く、何も太刀打ちできなかったんです。もうね、めちゃくちゃ落ち込みました。もちろん舞台には、心が折れたままじゃ立てないから自分を奮い立たせて臨んでましたけど、家に帰って風呂入りながら「何やってんだろう」みたいな(笑)。そんなモンが、ミュージカル界の何かを変えるのどうのって何を言ってるんだ、クリエイター活動で自分を担保しようとするなんて100年早い! って(笑)、すごく思っているわけです。
西川大貴
ーー“悩めるお年頃”の本当の意味がやっと分かった気がします(笑)。
すいません、なんか暗い話してますよね(笑)。なんでもかんでも正直に話せばいいってもんじゃないって、分かってはいるんですけど。
ーーいえいえ、俳優さんも人間というか、いち社会人なんだと思えて面白いです。……が、確かにちょっと明るい話題もということで(笑)、今年の出演作を振り返って「良かった」「楽しかった」と思うことなどもお聞かせいただければ。
そうですね、明るい話題を(笑)。まず『ゴースト』は、出役としての活動が1年止まったあとだったから、稽古が始まった、衣裳合わせまで来た、ゲネプロできた、初日の拍手!って、フェーズが移る度に感動してました。それと再演ということで、初演の焼き直しになったら嫌だなって不安があったんですけど、変えようとしてるわけじゃないのにアプローチが自然と変わってて、自分がちゃんと変化できてるっていう安心感も得られて。それは、『ソーホー・シンダーズ』の再演でも感じたこと。『ソーホー』に関しては『検察側』の直後だったから、そういう意味での変化もありましたね。音楽の力ってやっぱりめちゃくちゃ強くて、曲が流れてきたらそれだけで、何も考えなくても役としてその場に“居る”ことができちゃうんですよ。でも『検察側』の稽古の時、あっっんなに居れなかったよね?っていうのがあるから、音楽の力に甘えないようにって、日々思いながら舞台に臨んでいました。
ーーでは、今年共演したなかで特に「すごいな」と思った方は?
『検察側』はそんな方ばっかりで、成河さんとか那須(佐代子)さんなんかはもう、絵梨子さんと天上で会話してる感じでしたけど(笑)。小手先の芝居なんかしてたらノートも出ないような現場で、主演の小瀧(望)君が毎日ちゃんと用意してきた上で、ノートが出たらすぐに吸収してバキンって変えていくのを見て、その柔軟さとか勇気はすごいなって思ってました。舞台上でも、オートマチックに居るのではなく、すごくこうアンテナを張って、毎日役を生きているのを感じましたね。あと『ソーホー』の(林)翔太君は、初演の時とは俳優としての逞しさが違うなって思ったのと、声が羨ましいなって。『ソーホー』の曲って歌うのけっこう大変なんですけど、大変な毎日を笑い飛ばして生きてる人たちの話だから、大変そうに歌っちゃいけないと思うんですよ。翔太君は、大変そうに聞こえない歌い方がノンストレスでできる声を持ってる。すごいなぁって思います。
ーーちなみに今年、観客として触れたなかで特に印象に残っている作品や人物は?
舞台では、森新太郎さん演出の『パレード』と小川絵梨子さん演出の『キネマの天地』。どっちも観ながら、絶対太刀打ちできないのは分かってるけどご一緒してみたいなって思ってました。絵梨子さんとは叶って、実際雷に打たれたような経験をしたわけですけど、機会をいただけて本当に良かったと思ってるので、森さんともいつかご一緒できたら嬉しいです。あとこれは映画ですけど、『ディア・エヴァン・ハンセン』はぜひ多くの方に観ていただきたいなって。一見ミュージカルにフィットするとは思えないような題材なんですけど、楽曲とか展開にはすごくミュージカルらしいところがあって、“僕たちの話”だって感じたんです。こういう作品がどんどん増えてほしいと思ったし、自分もこういう作品に関わりたい、こういう作品を創りたいって、すごく触発される作品でもありました。
俳優としての夢を描くことから逃げずに
ーーではここからは、今後の活動について伺います。まず控えるソロライブについて、開催の経緯や意気込みをお聞かせください。
コロナ禍で活動が止まってた去年の6月、「表現せねば!」ってなって(笑)、『雨が止まない世界なら』というソングサイクル(※)を書き始めました。今年の1月に書き上がって、リーディング企画やワークショップ公演の上演をして。その、桑原(あい/作曲)と僕(作詞)とで作った曲をもっとたくさんの人に届けたいなっていうのと、今年ソロライブ1本もやってないぞっていうので、やろうと。『雨が止まない世界なら』の楽曲を中心に、雨にまつわるポップス曲とかミュージカル曲とか、雨にはまつわらないかもしれないけど今回のライブの空気感に合う曲だったりを、ゲストの林愛夏ちゃんと共にたっぷりお届けします。
クロネコチャンネルPresents『西川大貴ソロライブ 211230』
※ソングサイクル:ひとつのテーマのもと、一曲完結の楽曲をオムニバス形式で綴るミュージカルの形式。アメリカでは、若手ソングライターが挑戦しやすいジャンルとしても人気。
ーー特にどんな人に聴きに来てほしい、というのはありますか?
これは僕の好きなアーティストが言ってたことなんですけど、もしかしたら自分みたいな誰かが客席にいるかもしれない、と思って歌を作ったり歌ったりしてる部分が僕にもあって。だから今の僕みたいに“悩めるお年頃”の人には、ぜひ来てほしいですね(笑)。暗い歌ばっかりってことでは全然なくて、ただ、悩んでる時にしか歌えない歌ってあると思うので。もちろん、僕とまるっきり一緒って人はいないと思いますけど、『クロネコチャンネル』を見て僕のミュージカルの観方って面白いかもなと思ってくれた人とか、何割かは分かるぜっていう人とか……まぁあの、別に怖い場所じゃないので(笑)。会場も入りやすいというか、一人でもとても行きやすい空間と言いますか、なので色んな方にフラっと聴きに来ていただけたらと思います。
ーーそのソロライブで2021年を締めくくったあと、2022年は1月の『The Musical Day 2022』で幕を開ける形になります。
コロナ禍の2020年に上山竜治さんが企画された“ミュージカルフェス”の第2弾で、前回はお客さんを入れられなかったんですけど、今回は同じブルーノート東京で有観客での開催になります。この企画をゼロから立ち上げた上に、今回その1を2にした竜治さんはすごいな!って心から思いますし、前回が本当に印象深い公演だったので、僕自身すごく楽しみですね。
ーー前回が印象深かったというのは、具体的には。
忘れられない景色がたくさんあるんですけど、今回も出演される方の話をするなら、まずは初共演だった井上芳雄さん。タップでセッションさせていただいた《アイ・ガット・リズム》では僕のことをすごく考えてくださり、僕が《僕こそ音楽》(※)を歌わせていただいたら真っ先に立ち上がって「大貴〜〜!」って拍手を送ってくださって……。本当に包容力のある方で、あの人柄を含めて“井上芳雄”さんなんだなと改めて思いました。平原綾香さんはもうなんか、歌の威力って言うんですかね! それはそれはすごいエネルギーで。平原さんのコゼット、(吉原)光夫さんのバルジャン、僕のマリウスで『レミゼ』の《ワン・デイ・モア》を歌えたことは一生の宝物です。前回も今回もすごいメンバーの中に入れていただいて、恐縮でございますっていう感じです(笑)。
※僕こそ音楽(ミュージック):ミュージカル『モーツァルト!』で主人公ヴォルフガングが歌うソロ。2002年~2014年までヴォルフガング役を務めた井上芳雄にとって“持ち歌”のようなもの。
ーーそして2022年夏には、『ミス・サイゴン』のトゥイという大役も控えます。意気込みの程はいかがでしょうか。
それはもう、すごくありますよ! マリウスは学生の頃の漠然とした夢でしたけど、トゥイは僕が初めて具体的に夢見た役。それが叶うってだけでもデカいことなのに、去年1回中止になってますからね。去年の稽古は、トゥイが死ぬシーンで終わったんですよ。僕が死んだ瞬間にプロデューサーが飛んできて、「今日の稽古はここで終わりです」って言われて、次に稽古場に行った時はもうセットがなくなってた。色んな意味で、忘れ物を取りに行くみたいな感じがあります。延期になったことで、去年の自分には足りなかったことが見つかって、今それを補おうとしてたりもするので、その成果が発表できたら。『ソーホー』と同じく、とにかく音楽の力に甘えないことを大事にしたいですね。
ーー東宝の大作にプリンシパルとして出演することは、「俳優」として大きく飛躍するきっかけにもなると思います。というわけで最後に……“悩めるお年頃”の西川さんには答えづらい質問かもしれませんが(笑)、「スター」になりたいというような気持ちはありますか?
スター! 難しいですね~(笑)。でも、出役として本腰を入れ直すっていうのはそういうことでもあるんだと思います。スターって言葉はフィットしないかもしれないですけど、クリエイターの自分とは切り分けたところにいる出役の自分としてワクワクできることを見つけるための、努力なりアプローチはしていかなきゃなって。それはたとえば、「有意義な活動をしたい」みたいな漠然としたことじゃなく、やりたい役を具体的に描くことなのかもしれないですし。僕は色んなフィールドに手を伸ばしているから、「俳優としてビッグになってやる!」みたいなのとは違う方向に行きたい人ってイメージを持たれてるのかなと思います。でもこれからは、そこから逃げずに。もっともっとたくさんの人に必要とされる、俳優として大きな存在になっていきたいですし、ならなきゃいけないとも思っています。
取材・文=町田麻子

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