ついに東京上陸の『バンクシー展 天
才か反逆者か』鑑賞レポート バスキ
ア&ウォーホルとの比較展示も日本初
登場!

2018年からモスクワ、マドリード、香港、ニューヨーク、ロサンゼルスの世界5都市をめぐり、日本でも横浜を皮切りに各地を巡回して累計300万人を動員している話題展『BANKSY展 GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)』がついに東京上陸。12月12日(日)から2022年3月8日(火)までJR原宿駅前のWITH HARAJYUKU(ウィズ ハラジュク)で開催中だ。現在のアートシーンで最も注目を集める神出鬼没の匿名アーティスト・バンクシーの作品70点含めた計100点以上が展示されている本展の見どころを東京展初登場となる特別展示を中心に紹介していこう。
ついについについに、あの“バンクシー展”が東京にやってきた!
世界各地にゲリラ的に残されるストリートアートやサザビーズでの“シュレッダー事件”など、謎に包まれたその存在と時に社会問題も風刺する奇抜な発想で今やモダンアートの寵児となっているバンクシー。本展『BANKSY展 GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)』(以下、バンクシー展)では、貴重なオリジナル作品を含む、版画、立体オブジェクトなどコレクター所蔵品を中心とした70点以上のバンクシー作品をはじめ、映像やポスターなど計100点以上が展示されている。原宿での開催は待望の東京上陸だけにさらなる話題を呼びそうだ。
会場風景
バンクシーの概略や本展の主な展示内容については、横浜展の内覧会レポートでも詳しく紹介されているので、そちらの記事も併せてご覧いただくとよりわかりやすいだろう。その上でここでは日本初登場の展示から触れていきたい。
ウォーホル、バスキアとの比較展示でバンクシーのルーツに迫る
開幕に先立って行われたイベントで、本展でキュレーター兼プロデューサーを務めるアレクサンダー・ナチケビア氏が次のようなビデオメッセージを寄せた。
「私たちはバンクシーを世界的な文化遺産であるという視点を持って東京展を制作しました。バンクシーは何もないところから突然現れたわけではないのです。ルネッサンス期の古典的彫刻や印象派、今では古典派のストリートアートになっているスターリン様式やウォーホルのポップアートなどの文化的・美術的にとても厚みのあるレイヤーを受け継いでいるのです。本展覧会にいらっしゃればバンクシーが多方面に才能溢れる知的で真摯な現代アーティストであることがお分かりいただけるでしょう」
ビデオメッセージを寄せたアレクサンダー・ナチケビア氏
その思いが反映されているのが、バンクシーの作品と彼が影響を受けたアーティストの作品を比較展示してバンクシーのルーツに迫る、日本では東京展が初登場となる特別展示だ。ニューヨークで好評を博したこの展示では、アンディ・ウォーホルとジャン=ミシェル・バスキアの作品をバンクシーの作品を同じ空間で鑑賞できる。
東京展で日本初登場の特別展示
このうちアンディ・ウォーホルとの比較展示では、ウォーホルによる《マリリン》の肖像と、その作品からインスピレーションを受けてバンクシーが制作した《ケイト・モス》が並べて展示されている。マリリン・モンローという時代のアイコンをシルクスクリーンという手法で大量生産し、いろいろな意味で美術の前提を覆したウォーホル。バンクシーはそのウォーホルの代名詞的な手法を用いてスーパーモデルのケイト・モスを描くことで現代の消費文化を皮肉った。もうひとつの比較展示ではウォーホルの《キャンベルのスープ缶》と同作からインスピレーションを得てバンクシーが制作した《スープ・カンス》が並べられている。
バンクシーとアンディ・ウォーホルの比較展示
一方、ジャン=ミシェル・バスキアとの比較では、バスキアの《JAWBONE OF AN ASS》が展示されている。バスキアはバンクシーがリスペクトしているアーティストの一人で彼が多用した王冠のモチーフはバンクシーの作品にも登場している。
バンクシーとジャン=ミシェル・バスキアの比較展示
これらの比較から見えるのはバンクシーの芸術の中に流れる「文脈」だ。彼の源流は1970年代にニューヨークのストリート・シーンに現れたグラフィティライターにあるとされる。当時のグラフィティは、社会規範や法律、権力など絶対的なものに対する反抗的なメッセージが多分に含まれていた。その象徴的な存在がバスキアであり、バスキアの良き友人だったのがウォーホルであり、バンクシーは彼らにリスペクトを捧げ、オマージュした作品を描いている。そこを一端として、時に過去の芸術の要素やデザインを織り交ぜて作品を生み出すバンクシーが偉大な先人が築いてきた道の上に成り立っていることがわかってくる。
謎多きバンクシーの世界観を冷静な目で鑑賞する
それでは会場全体の様子もざっくりと紹介していこう。
バンクシーのアーティスト・スタジオが再現された最初の展示室を通過すると、本展のメインビジュアルにも用いられている《ラフナウ》と代表作のひとつである《ボムラブ》の原販が展示されている。前者は活動初期の2002年に書かれた作品。バンクシーが自身の姿を投影したとされる猿がかけたボードには「Laugh now, but one day We’ ll be in charge(今は笑うがいいさ。でも、いつかは俺たちが支配する)」という、まだ世に広く知られる前の彼の野心が描かれている。
バンクシーのスタジオを再現したインスタレーション

展示風景

その隣にはバンクシーと同じイギリスのブリストルで生まれ、1997年から11年間、バンクシーのマネージャー兼専属カメラマンを務めたスティーブ・ラザリテスの写真が展示されている。バンクシーの良き友人でもある彼が撮った写真は、バンクシーとされる人物の姿を写した数少ない資料になっている。
世界をまたにかけるバンクシーの足跡
「消費」のコーナーに展示されている《ティーアイ・フェイスト・テナー》は、イギリス紙幣のエリザベス女王をダイアナ妃に変えた偽紙幣だ。よく見ると本物では「Bank of England」のレターが「Banksy of England」に変えられている。本物の紙幣と見紛うこちらの作品は、今ではバンクシー作品の認証機関であるペスト・コントロールが発行する証明書にも使われているという。
《ティーアイ・フェイスト・テナー》 2004
展示室の壁面にはバンクシーが述べた強烈なメッセージが随所にデザインされている。それらの言葉は比喩的な表現が多い作品よりもストレートに我々の心に響き、全体の世界観をより深めている。一方で、入り口に設けられた《ラフナウ》のスポットをはじめ、場内各所にはバンクシー作品の中に入り込めるフォトスポットが設けられていて、体験する楽しみも用意されている。
電話ボックスのフォトスポット
王室や議会への皮肉が満載な「政治」のコーナーにパネル展示されている《ブレグジット》は、2017年5月に英国と欧州本土をつなぐドーバーという町の民家の壁に描かれた作品だ。そこには有名なEUの旗から星をひとつ削り取る作業員の姿が描かれている。小さな港町は世界的な注目を集めたが、実際にイギリスのEU脱退が成立する直前に作品を消すように白ペンキが塗られてしまったという逸話が残る。
《ブレグジット》の展示風景
ストリートアートの代表的なモチーフであり、バンクシーのグラフィティアートの中にも多く登場する「ラット(ねずみ)」の作品も複数展示されている。そして終盤には2018年のシュレッダー事件で細断された作品として有名な《ガール・ウィズ・バルーン》が。2002年に最初に描かれた本作は2014年にシリア難民の少女をイメージして再び描かれ、平和を願う象徴としてSNS上で話題になった。そしてシュレッダー事件でアートに関心のない人々までも“バンクシー現象”の一部に巻き込んでしまう。そんな一枚からバンクシーというアーティストの視野の広さと思慮の深さに最後まで感心させられる。
「ラット」の展示風景

《ガール・ウィズ・バルーン》 2004年

そのほかにも難民支援のチャリティオークションに出品された《パンツ》、紛争の絶えないパレスチナの壁に平和のメッセージとして描かれた《ラブ・イズ・イン・ジ・エア》、イギリスのイラク戦争参加への抗議として描かれた《WRONG WAR》など見どころは尽きない。
《ラブ・イズ・イン・ジ・エア》2003

《ノー・ボール・ゲームズ》 2009

バンクシーというとそのミステリアスさや「芸術テロリスト」とも呼ばれる奇抜な行動の印象が先に立ち、作品についてもネットやテレビの中でしかお目にかかれないといったレア感を抱いている人が結構多いはず。ただ、本展では100点以上というボリュームでバンクシーの世界観を余すことなく感じることができる。また、一点一点に含まれる比喩的表現や謎解き的な要素が強いため、会場を回り終えるころにはかなりの充実感とそこそこの疲労感を感じるだろう。そんな本展はある意味でバンクシーという謎ばかりのアーティストの作品を冷静な目で目撃し、評価する機会ともいえる。
展示風景
『BANKSY展 GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)』東京展は、2022年3月8日(火)までJR原宿駅前のWITH HARAJYUKU(ウィズ ハラジュク)で開催中。バンクシーは天才か、それとも反逆者か。その答えは実際に会場を訪れて自分の眼で判断してほしい。

文・写真=Sho Suzuki

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