2022年2月の初共演を前に、クァルテ
ット・エクセルシオと後藤彩子(ヴィ
オラ奏者)が大いに語る

長きにわたり日本の室内楽シーンを牽引してきた常設の弦楽四重奏クァルテット・エクセルシオ(通称エク)の第17回京都定期演奏会が、2021年10月、京都府立府民ホール アルティで開催された。ハイドン、バルトーク、ベートーヴェンと、弦楽四重奏の魅力満載の王道プログラムは、コロナで生の音楽に飢えていたリスナーを魅了。大変な盛り上がりをみせた。
そして翌日、彼らの姿は京都市内の某公共ホールのスタジオに在った。ドイツを拠点に世界で活躍するシューマン・クァルテットの草創期を支えた、ヴィオラ奏者の後藤彩子をゲストに迎え、2022年2月に大阪で行うコンサートのリハーサルを行っていた彼らに、あんなコトやこんなコトを聞いた。
クァルテット・エクセルシオ with 後藤彩子(西野ゆか、北見春菜、後藤彩子、吉田有紀子、大友肇 左より)     (c)H.isojima

―― 昨日のコンサート、聴かせて頂きました。弦楽四重奏好きにはたまらない王道プログラム。素晴らしい演奏でした。

一同 ありがとうございます。
―― 驚いたのが、プログラムの曲目紹介と、プログラムに織り込まれていた「エク通信」です。メンバー自身の声をファンに届けるやり方は、ファンとしては嬉しいでしょうね。昨日は定期演奏会だからだと思いますが、カーテンコールの温かさも含めて、ファンの皆さんとの距離が近く感じました。クァルテット・エクセルシオ(通称エク)は、法人格として活動されているのですね。
大友肇 そうです、2004年から活動を「エク・プロジェクト」として芸術NPO化したところから始まり、2020年4月に東京都より認定NPO法人として認められました。これにより、常設弦楽四重奏団に相応しい活動の枠組みを整えることが出来たと思っています。
―― 2月のコンサートは、ベートーヴェンから現代音楽まで、弦楽四重奏に加え弦楽五重奏まで楽しめる、大阪だけの特別なコンサートだそうですね。
大友 はい、「エク」らしい意欲的なプログラムだと思います。第10回大阪国際室内楽コンクールを記念して、現代作曲家の望月京さんに委嘱された「Boids again」を、昨年コロナで大会が中止になったことを受けて、我々「エク」で世界初演させて頂くことになりました。望月さんの意向もあって、前作の「Boids」も併せて演奏致します。
大友肇(チェロ)  (c)H.isojima
―― 「エク」は20世紀以降の現代作品に光を当てる「ラボ・エクセルシオ」として、現代音楽もよく取り上げられます。今回苦労して演奏したこの曲、次回演奏するかどうかわからない曲も多いと思いますが、そういう曲もベートーヴェンと同じ気持ちで取り組まれているのでしょうか。
大友 近現代の曲の中には、キチンと通すことさえ難しいものもあります。しかしそういう曲に誰かが取り組まないと、後の世代の人は触れる機会さえ与えられない訳で…。長く活動している常設の弦楽四重奏を標榜するのであれば、練習時間はかかっても、そういう曲こそ音楽的にしっかり演奏出来なければならないと思っています。望月さんの曲は、チラッと楽譜を見ただけですが、来たな!という感じです(笑)。
クァルテット・エクセルシオ(19.7.27 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)  写真提供:日本室内楽振興財団
―― 定期演奏会では必ず演奏されるベートーヴェンですが、今回は初期の作品18から第2番です。大晦日、東京文化会館 小ホールの「ベートーヴェン弦楽四重奏曲演奏会」で、中期の作品59「ラズモフスキー」3曲や、後期の弦楽四重奏曲を決まって演奏される「エク」としても、初期と後期では向き合い方は違うものですか。
西野ゆか ベートーヴェンの「第九」以降の後期弦楽四重奏曲は特別だという見方をされる方もいらっしゃいますが、私もそう思います。ただ、30年近く「エク」をやっていますので、初期だから、後期だからというのは特にありません。むしろ今回演奏する初期の作品は音数も少なく、判りやすく書かれている分、それをどうやって表現するのか、構築の仕方などはとても繊細で難しいです。
北見春菜 私は2019年に「エク」のメンバーに加わったため、まだ日が浅いのですが、ありがたいことにベートーヴェンのチクルスをやらせて頂く機会があり、その公演を通して全体像を見渡すことが出来ました。ベートーヴェンはどの曲も素晴らしいのですが、第2番はハーモニーもシンプルで、明るい雰囲気が私は好きです。
吉田有紀子 2番は作品18の6曲の中でも凄く爽やかな作品です。4つの楽器のやり取りが多く、チャーミングで魅力的。私も好きな曲ですね。
クァルテット・エクセルシオ(19.7.27 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)  写真提供:日本室内楽振興財団
―― 今回のコンサートは、シューベルトの弦楽四重奏曲第12番「断章」も演奏されますね。
西野 1楽章だけの10分ほどの曲なので、比較的取り上げやすいと思います。しかしシューベルトと言えば何といっても第14番「死と乙女」。皆さん、大好きです(笑)。アンケートにはいつも、「死と乙女」が聴きたい!とかかれています。私達も好きですけれどね(笑)。
西野ゆか(第1ヴァイオリン)  (c)H.isojima
大友 あと、ドヴォルザークの「アメリカ」もですね。「死と乙女」と「アメリカ」、もちろん名曲ですが、他にも良い曲がいっぱいあるのに、そこで終わるのはもったいない。もっと弦楽四重奏の世界に深入りして欲しいと思って、色々なタイプの曲をバランスを考えて演奏するようにしています。
―― 今回はヴィオラの後藤彩子さんが加わり、メンデルスゾーンの弦楽五重奏曲第2番を演奏されます。
吉田 弦楽五重奏曲としては、モーツァルトやドヴォルザークは演奏しましたが、長年シューマン・クァルテットで活躍されていたヴィオラの後藤彩子さんをお迎えするので、これまでやって来なかった華やかな曲にチャレンジしたいと思い、この曲を選びました。
吉田有紀子(ヴィオラ)  (c)H.isojima
―― 後藤さんは「エク」と共演するのは初めてだったのですか。
後藤彩子 メンデルスゾーンのこの曲も、「エク」の皆さまも初めましてです。もちろん「エク」は良く存じ上げていますが、これまで一緒に弾く機会はありませんでした。今日、一緒に演奏するので、何とか「エクサウンド」に混ざってやるぞ!と気合を入れて参りましたが、正直、一人置いていかれたなぁと思う所がありましたね(笑)。目標に向かってエンジンをかけるポイントや、曲の終わり方なんかに楽団の特徴が出ますね。皆さんメンバー同士仲が良くて羨ましかったです。弦楽四重奏をやりたいモードに火が付きました。楽しかったです! 来年2月の本番が益々楽しみになりました。
後藤彩子(元シューマン・クァルテット ヴィオラ奏者)  (c)H.isojima
―― 後藤さんから、皆さん仲が良くて羨ましいという話がありましたが、クァルテットの成り立ちを簡単に教えていただけますか。
西野 全員が桐朋学園出身です。室内楽の授業でクァルテットを組むことになって、私と吉田さんともう一人、初代「エク」の第2ヴァイオリン遠藤香奈子さんは決まっていました。チェロ要るよね、ということで声をかけたのは大友さんとは別の先輩男性でした。その後すぐに、その方はオーケストラに入るからという事で続けられないという事になり…。
吉田 そこで、先輩の大友さんに、やって貰えませんか?とお願いしました。
大友 学校が狭いので彼らの顔は知っていましたが、いきなりのオファーに戸惑いました。合わせてみると最初から凄いサウンドで驚きました。それまでのチェリストが凄く楽しい人で、話し好きな人だった事もあってか、練習の多くを世間話が占めていたのもびっくりでした(笑)。これだけの素晴らしいアンサンブルには、コミュニケーションの一環として、お喋りも要るのか⁈ 今では、くだらないことを喋っているのは私ですが(笑)。
クァルテット・エクセルシオ(19.7.27 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)  写真提供:日本室内楽振興財団
―― 活動を続けて行く中で、このままこのクァルテットをやり続けていく事に、葛藤は無かったのでしょうか。
吉田 それは無かったですね。96年に大阪国際室内楽コンクールで第2位を受賞した時、とても濃密な練習をして本番に臨みました。そこで成果が出たことを受けて、これはこのクァルテットを続けていかなければいけないねという話になりました。そこから2000年頃まではコンクールが活動の中心でした。自分のミスで結果が悪くなってはいけない。メトロノームを、一目盛りずつ上げて行くといった、絵に描いたような緻密な練習なんかもやりました。今はそんなこと出来ないと思います(笑)。
クァルテット・エクセルシオ(19.7.27 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)  写真提供:日本室内楽振興財団
西野 クァルテットだけでは食べていけないので、オーケストラの仕事などもしながらでしたが、クァルテットもオーケストラもどちらも同じ弾き方というわけにはいかないので、色々と研究するきっかけになりました。2000年にイタリアのパオロ・ボルチアーニ国際コンクールで最高位をいただいたのをきっかけに、定期演奏会の開催を考えるようになりました。
―― その頃からずっと日本の弦楽四重奏の世界を牽引して来られました。「エク」の背中を見て育って来ている若いクァルテットも多く、憧れであり目標ですね。
北見 そうですね、私もメンバーになるまではファンの一人として、「エク」のコンサートを聴いていました。様々な作品に対して意欲的に取り組む姿は素晴らしいなと、いつも尊敬しています。

北見春菜(第2ヴァイオリン)  (c)H.isojima
―― 北見さんはサントリーホール室内楽アカデミーの生徒だったそうですね。

北見 はい、皆さん私の先生です。弦楽四重奏に真摯に向き合う姿は、本当に鑑のような存在です。憧れだった「エク」のメンバーとして演奏出来る喜びを日々感じていますが、第2ヴァイオリンとして音楽的にしっかり主張しなければいけない事も沢山あります。「エク」のメンバーとしてだけでなく、一人の奏者としてもっと成長していけるよう、これからも研鑽を積んでいきたいです。
―― 北見さんはプライベートでも、弦楽四重奏の曲などを聴かれているのでしょうか。他のジャンルの音楽を聴いて楽しんだり、息抜きをする余裕はまだありませんか。
北見 そうですね、まだまだ知らないクァルテットの曲も沢山あるので、勉強も兼ねてクラシック以外は余り聴かないです。
―― 大友さんは如何ですか?どんな音楽を聴かれますか?
大友 最近、ピアノと一緒に、クィーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を演奏しました。いい曲です。あの映画も観ましたが、クィーンは素晴らしいですね。自分の為に聴く音楽としては、やはりクラシックが多いです。特にバッハが好きです。
吉田 私はいろいろ聴きます。演歌は聴かないかな。でも、昔はよくカラオケで歌ってました(笑)。エルビス・コステロやアレサ・フランクリン、サザンオールスターズ山下達郎さんなども好きですね。クラシックでは、やっぱりベートーヴェンが好きです。クァルテットの影響でしょうか(笑)。
吉田有紀子(ヴィオラ)  (c)H.isojima
西野 歌が好きなので、シューマンやブラームスをよく聴きます。もちろん、オペラも好きですし、ボサノバも好きです。あと、ピアソラも好きです。ピアソラはヴァイオリンで弾くのも好きです。
―― プライベートで聴かれる音楽が、皆さんそれぞれに違っていて興味深いです。後藤さんはいかがでしょうか。
後藤 実は5月に3人目を出産して、最近復帰したばかりなんです。家で聴く音楽は、圧倒的に童謡が多くて、それをヴィオラで再現してますね(笑)。母親がジャズピアノ好きで、コロナで自粛期間中にジャズピアニストの小曽根真さんが毎晩SNSでライブを配信されていて、それを母親と一緒に聴いていてストレス発散になりました。そこで気付いたのですが、ジャズヴィオリニストっていないように思うのです。狙い目かもしれないと思い、毎夜練習していました(笑)。実現させたいです。
―― 後藤さんは今後、どのような活動をされるご予定でしょうか。
後藤 今回は「エク」と一緒に演奏させて頂けるという素敵なご縁をいただき、とても光栄に思っています。短時間でしたが刺激的な時間を過ごし、私も将来的に常設のクァルテットをやりたいという気持ちが強くなりました。まずは2月の本番に向けて、しっかり準備をしていきます。そして、室内楽の魅力をもっと広く伝えて行き、演奏者とリスナーの両方を育てて行くお手伝いが出来ればと思います。
後藤彩子(元シューマン・クァルテット ヴィオラ奏者)  (c)H.isojima
―― では「エク」の皆さまにも、今後の抱負をお聞きします。西野さん、お願いします。
西野 少し前から演奏とは別に、若い人たちのクァルテットを指導しています。こういう事で、クァルテットの世界が盛り上がるのなら、積極的にやって行きたいと思っています。
西野ゆか(第1ヴァイオリン)
大友 ベートーヴェンは何回も弾いていますが、モーツァルトは一度しか弾いたことが無い曲もありますし、ハイドンに至っては、弾いたことのない曲もあります。ショスタコーヴィチもやり始めたばかりですし、まだ取り上げていない名曲もあります。ここに来て、室内楽の世界も、若手の台頭を身を持って感じ、頼もしく思います。常設のクァルテットとして27年やって来て、我々を見ている後輩の視線も感じます。まだまだ第一線でやり続けて行きますので、ご期待ください。
大友肇(チェロ)  (c)H.isojima
吉田 12月にベートーヴェンのCD全集の最後、『第13番&「大フーガ」』も発売となり、遂に完結しますので、別の作曲家のCDも作りたいです。実際の演奏と並行して、積極的にレコーディングをして、作品を残していきたいですね。
北見 私たちが実際に様々な地域に出向いて行って、間近でクァルテットの演奏を楽しんでもらえるようなアウトリーチ活動もぜひ積極的にしていきたいです。

北見春菜(第2ヴァイオリン)  (c)H.isojima
大友 クラシックのファンをいかに増やすかと並行して、オーケストラは聴くけれど、まだ室内楽に馴染みのない方も多いので、そのような方々に目を向けてもらうのもポイントですね。難しいテーマですが、しっかり取り組むべきテーマだと思っています。

皆さまのお越しをお待ちしています!  写真提供:日本室内楽振興財団
―― 「エク」の皆さま、そして後藤さん、長時間ありがとうございました。2月のコンサート楽しみにしています。
取材・文=磯島浩彰

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