稲垣吾郎が語る、鈴木聡とのタッグの
楽しさ 新作舞台『恋のすべて』の魅
力とは

劇作家と俳優という立場での初めての出会いからは19年、作・演出と俳優という立場では15年にわたり、定期的にタッグを組んできた鈴木聡と稲垣吾郎。2022年の新作ミュージカル『恋のすべて』でも、この顔合わせならではの軽やかで小気味よく笑える大人のラブコメディが繰り広げられる。
舞台となるのは1930年代のアメリカ。とある探偵事務所に現れた依頼人は「娘を恋に落としてほしい」と中年探偵・ニックに頼む。迷いつつも、そんな奇妙な依頼を引き受けてしまったニック。それぞれの思惑が複雑に絡み合う状況、そして今年初めての雪が降りそうな中、依頼人のクラーク、その娘コニー、彼女の恋人のテディ、クラークの愛人のザラ、テディの母でクラークの大事な取引先でもあるカミラたちが出席するパーティに、ニックは潜り込むことに成功する。果たしてニックは依頼人の願い通り、コニーを恋に落とすことはできるのか……?
稲垣が探偵ニックを演じるほか、コニーに花乃まりあ、ザラに石田ニコル、テディに松田凌、カミラに北村岳子、クラークに羽場裕一が扮するという、華やかかつ盤石な布陣となる。
順調に稽古が進行中の1月中旬の稽古場で、稲垣が作品への想い、鈴木とのタッグならではの楽しさなどを語ってくれた。
稲垣吾郎
ーー鈴木聡さんとタッグを組んでまた舞台がやれることについて、改めていかがですか。
また鈴木さんとご一緒できることはもちろんうれしいですし、コロナ禍の状況としては厳しいですが、今、舞台ができるということは幸せだと思っています。なんとしても、最後まで完走したいですね。なにより鈴木さんとお芝居をする時は、僕は楽しいという気持ちだけしかないんですよ、お仕事とは思えないくらい。稽古も含めて2カ月間近く、ずっとキラキラした甘い夢の中にいるみたいな感覚なんです。ちょっと非現実的なんですよね。作品のテイストもそうなんですけど、鈴木さんご自身やバンドのメンバーたちが醸し出す空気のせいなのかな。いつも自分へのご褒美みたいな感じで、この期間を過ごしているんです。
ーー稲垣さんが今回演じるのは、探偵の役とのことですが。
とはいえ、いわゆる探偵らしいことはそれほどしないんですけどね(笑)。僕よりちょっとだけ年下の設定ではあるんですけど、中年の男性で、つまりそれまでの人生でいろいろな経験をしてきた人なんですが。それでもまだ、やっぱりちょっとドキドキしていたいと思っている。もう、恋はしなくなったんじゃないかなと思いながらも、そんな年齢になってもまだゆらゆら心が動いてしまっていたりもするんです。そういったところがコミカルに描かれているので、とても等身大だし、今の自分の心境にも合いそうだなと思っています。
ーー鈴木さんのコメントによると、稲垣さんは20年代、30年代という時代が似合うとありました。
鈴木さんご自身が、その時代がお好きなんですよ。スウィングの時代というのかな。文学で言うとヘミングウェイとか、フィッツジェラルドとか。でも実は、僕はその時代のもので大きく影響を受けたものはあまりないんです。でも、確かにこのスウィングジャズの時代ってアメリカの黄金期だし、勢いがあってとてもキラキラしていたんだろうな、とは思う。これからまた稽古を通して、その時代のいろいろなことを鈴木さんに教えていただくつもりです。
稲垣吾郎
ーー鈴木さんと組むことで、自分のどんなところが引き出されていると思われますか。
僕の、調子の良さとか、意外と実はおしゃべりなところ、人たらしのところとかかな(笑)。パブリックイメージとしては、普通はそういう風には稲垣吾郎にあて書きしないと思うんですけどね。だって、これまで僕がやってきた役といえば、多少サイコパスな面があったり、天才音楽家であったり。自分としては「本当は違うのにな」と思うようなキャラクターのほうが多いんです。でも鈴木さんは僕の資質、少しコミカルなところなどをよくわかってらっしゃるというか。それが舞台で演じる役柄の特徴として出るのかもしれないですね。僕自身、すごく見られている感じもしますし。だから、なんだか自分の言葉そのもののようで、セリフを言うのが恥ずかしかったりもします。
ーー今回演じられるニックという役も、やはりご自分と似ている部分が多いのですか。
結構、似ているんじゃないかな。やはり僕をイメージして、鈴木さんが書いてくれていますので。たとえば、ラジオだと特に僕の素が出ているように思います。どうしてもグループだった時代にテレビでしゃべったりする時は、自分のポジションというかキャラクターがあるので。それぞれ、自分が望んでいなくてもその方向のキャラクターを演じるような、サービス精神が芽生えてしまうこともあったりしたんですけど。それと比べると、今、僕はラジオを週3回やらせてもらっていますが、そこでは素でしゃべっているので自分自身がすごく滲み出ていると思うんです。ラジオって、テレビよりも隠せないというか。そういう、素の感じがこの役にもありますね。まるで自分の素が暴露されてしまうという感覚もあります。それはやはり20年近くずっと一緒にやってきた鈴木さんが書く、僕なんでしょう。鈴木さんだからこそわかる、僕。それにニックは、この物語がうねっていく中でいろいろな選択をしながら生きていくわけですが、その選択の仕方が自分と似ている気もします。なんだか、そう言ってしまうとやはり恥ずかしいな。あまり、似てるって言いたくないんですよね(笑)。そこは演じているって言いたいんですが、こればかりは仕方がない。鈴木さんがずっと僕にあてて書いてくれているのでね。でも僕も歳を重ねて、時代と共に稲垣吾郎も変わっていきますから。35歳の時に鈴木さんが書いたのは35歳の僕だったし。だから今回のニックは、今の僕なんじゃないですかね。だけど僕よりもちょっとキザかな、ニックは。そして僕よりも、使う言葉が上手。僕の場合は言葉が理屈っぽくなってしまうところが多々あるので。
ーーやはり今回の舞台で使われる楽曲も、スウィングジャズ的なものになるんでしょうか。
そうですね、スウィングジャズ的なものもあります。北村岳子さんが歌うスウィングなんてものすごく素敵ですよ。そういうスウィングの世界で、軽快に歌って踊って、僕ら男性陣もそこにコーラスを合わせたり。あと、ビル・エヴァンスのようなジャズボーカルで、ピアノ一本でバラードを歌うようなシーンもあったりします。それにちょっと面白いことに今回の青柳誠さんの楽曲って、スウィングジャズなんだけど、昭和の時代に美空ひばりさんが歌っていたようなジャズを彷彿とさせるような曲も多いんです。なんだか昭和歌謡みたいなテイストの曲もあったりとかして。そのほかにもスタンダードジャズナンバーもあれば、僕らが歌ってきたようなポップスのエッセンスも出てきたりするので、すごく面白いし、素晴らしくいい曲が揃っています。短いフレーズのものも含めるとトータルで20曲近くありますから、耳でも充分に楽しめるんじゃないかなと思います。
稲垣吾郎
ーー今回のカンパニー、共演者の顔ぶれについてはそれぞれ、どんな印象がありますか。
いやあ、面白いです! みんな見事なほどに畑が違うから。鈴木さんとの舞台の時って、いつもそうなんですよね。宝塚歌劇団の出身の方がヒロインを演じられることが非常に多くて、その宝塚育ちの方がいれば、僕みたいなアイドルグループをやってきた環境の者もいるし、北村岳子さんのように劇団四季でずっとやられてきた方もいれば、羽場裕一さんは演劇畑ですよね、夢の遊眠社出身ですから。ふだん、歌なんて歌ってませんよね(笑)。これってたぶん鈴木さんの世界観、つまりラッパ屋さんの世界観ともかなり違うと思えるので、そこがまた面白いんです。その融合感、化学反応感が魅力でもあるし、やっている側も楽しいし。ある意味、こっちもミーハーな気持ちになっちゃうんです。「ああ、劇団四季のミュージカルスターみたいな歌だなあ」って思いながら曲を聴いていたと思ったら、次は「いかにも宝塚の娘役さんの歌声だな」と思ったり。そういう点は、きっと観ている方も楽しんでいただけるポイントだと思います。なにしろこれは、日本発のオリジナルミュージカル作品ですから。日本ではなかなか、オリジナルミュージカルもまだ少ないですからね。そこは自負できるところなんじゃないかな。ちょっとグランドミュージカルよりかなり人数も少なくて、こじんまりとはしていますけど(笑)。
ーーでも人数が少ないからこそ、面白い部分もありますよね。
そうです、そうです! 僕らの場合は、ミュージカルというものをパロディにしているところもありますし。絶対に楽しい作品になることは、もう目に見えていますね。
ーー稽古場ではどんなやりとりをされているのかとか、鈴木さんとの現場の様子も教えていただきたいのですが。
たとえば「女性の口説き方って普通だったらこうするよね?」とか、「その時の仕草はこうかな?」とか。「女性とくっつきたくて、公園のベンチで横に座る時に最初からあまりくっつき過ぎるのも上品ではないから、徐々に距離を縮めていくにあたって動きはどうやる?」「お尻をズラしていくのはちょっとカッコ悪いよね」とか。そういう話をよくします。「口説くとしたら、吾郎くんだったらどうする?」ともよく聞かれます(笑)。
ーーその時は、ご自分の体験談を?
そうなっちゃいますよね、だって他人の体験は知らないから(笑)。だけど難しいですよ、探偵なのに狙った相手を恋に落とすことが依頼、だなんて。仕事なんだけど、もしかしたら自分も恋に落ちてしまうかもしれない、というゆらぎがあるんです。その女性が魅力的だったら本気になっちゃうじゃないか、でもこれは仕事なんだ、いや本当にこれは仕事かな、いや恋しちゃってるのかなって、ニックはゆらぐんですよね。そこが、大人のラブコメとして面白いわけですけど。
稲垣吾郎
ーー相手に本気になられちゃうとドギマギしたりして。
そう、だけどそういう時って自分も本気で恋しないと、相手は落ちないと思う。そこは、お芝居で役を演じるのと一緒です。本気でそのセリフをしゃべらなかったら、お客さんに伝わらないじゃないですか。でもどこか演じている自分もいる。というような、そういう他愛もない、答えのない話を鈴木さんとはずっとしていますね(笑)。
ーー芝居をする、ということにもリンクするご依頼なんですね。
はい、ある意味リンクしてくる、だから面白いんです。探偵としては、相手を振り向かせるためにふだん自分だったら使わない言葉を使って女性を振り向かせようとする。だけど、それは結局自分の想いも乗っかった言葉になるから、やっぱり自分の言葉なんです。気持ちをこめていないつもりでも、だんだんこもってきちゃったり。そういう、気持ちのゆらぎみたいなところは、演じていても楽しいです。「わかるなあー」って思ったりしますもんね。結局、自制との戦いなんです。
ーー自制ですか?
だって、探偵としては自制するわけですから。「これは依頼なんだから」と。だけどそれって、一番楽しいんだよね。禁断の恋、というわけではないけど「ダメダメ、俺は我慢するんだ、我慢するんだ!」と思っても、つい気持ちが溢れてきちゃったりする。それって恋をする時の、一番楽しい時期じゃないですか。
ーーではもしニックから「相手を恋に落とすためには、どうしたらいい?」と相談されたら、稲垣さんはどう答えますか?
そこはやはり「本気で相手に恋するしかないね」と言います。嘘なんてすぐバレるし。今回の場合は、騙すということになるのか。でもニックは依頼だから引き受けちゃうんです。というか、きっとあまり深いことは考えていないんだろうな。「依頼人からお金をいただいちゃったし、彼女もまだ若いから一瞬僕のことを好きになったとしても忘れてくれるはず、なんとかなるさ」くらいに思っているんでしょう。ちょっと彼は甘いんですよ、いろいろと。それがコメディならではの面白さにもつながるので、そこで大いに笑っていただければと思いますね!(笑)
稲垣吾郎

スタイリスト:細見佳代(ZEN creative)
ヘアメイク:金田順子(June)
衣装クレジット:
ジャケット ¥88,000、ネクタイ ¥14,300、パンツ ¥29,700/すべてボス
シャツ/スタイリスト私物
読者問い合わせ先:ヒューゴ ボス ジャパン株式会社 TEL:03-5774-7670

取材・文=田中里津子   撮影=敷地沙織

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