竹原ピストルが“今までで一番好きな
作品”と語る新作『悄気る街、舌打ち
のように歌がある。』に込めた想い

竹原ピストルがミニアルバム『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』を2月2日にリリースした。前作『STILL GOING ON』から半年という短いスパンでリリースされた今作は、弾き語りの印象が強かった前作とは対照的に、抑揚するトラックとフルートの音色が印象的な「朧月。君よ、今宵も生き延びろ。」をはじめ、バンドとの共演で生々しいグルーヴを生む「笑顔でさよなら、跡形もなく。」、写実的な描写を小気味よいリズムが先導するような表題曲「悄気る街、舌打ちのように歌がある。」など、5曲5様のアプローチによる魂の歌を収録。さらに、5曲すべてにミュージックビデオを制作し、楽曲に込めた想いを映像でも表現した。今作の制作に向かう以前、コロナ禍で有観客でのライブの中止が相次いだことにより“色々試してみる期間にもなったかもしれない”と思考を転換し、新たなヒントも得たという竹原ピストル。“今までで一番好きな作品”だという『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』について、じっくりと語ってもらた。
――最新ミニアルバム『悄気る街、舌打ちのように歌がある』をリリースする竹原ピストルさん。2022年はリリースイベントにライブにと年明け早々、スケジュールが満載です。
そうですね、やっとやり出した感じですね。
――2020年の『It’ s My Life』ツアーが中断、昨年の『STILL GOING ON』ツアーが中止と、ここ2年はコロナでなかなかライブもできなくて。ライブができないやきもきする時期が続きましたけど、いかがお過ごしでしたか?
やっぱりライブができなくて残念だなというのはもちろんなんですけど。無観客配信ライブを結構な本数やりつつ、曲作りもしつつ、レコーディングをして。それに加えてお芝居の仕事も結構多かったので。音楽活動的にやることは、あまり変わらずにいれたなというのはありますね。そこに加えてお芝居の仕事をいっぱいいっぱいでやってるうちに、あっという間に時が過ぎちゃって。充実はしてましたね。
――でもやっぱり“歌うたい”というところで、人前で歌えない、ライブができないことの物足りなさはあったんじゃないですか?
物足りなさは無かったですかね。配信には配信の楽しさがあって、見てくださる人が必ずいて、“歌うたい”でいさせてもらえましたからね。あと、“そういや、この曲をずっとやってなかったな”って昔の曲を掘り下げるのも有意義だったし。有観客ライブではできない、オチのない話をダラダラ喋ることもできたし(笑)。色々試してみる期間にもなったかもしれないですね。
――なるほど。ライブハウスではできない新しい表現方法を試したり、いつもと違ったことができているという充実感があったと。
そうですね。“今日はレコードでトラックかけて歌ってみよう”とかって、有観客だと度胸いるけど、無観客だとできたりするし。反応を見て“これは今後、有観客ライブでも活かしていこう”みたいなこともあったし。実は大事な時期だったかもしれないです。
――確かに自粛期間中、僕もすごく陰鬱な気持ちになったこともありましたけど。長い人生で考えたら、この2年くらいの自分と向き合って、人生を考える時間ってすごく貴重だったんじゃないか? とも思うんです。
そうなんですよね。言い方が難しいですけど、ずっと楽しかったし、充実してたし。常に前向きで“あ、俺はそういう人間だったのか”と自分を見直してやりたくなるようなところもあったし。あれだけ長期で家にいたことも無かったですしね。
――僕は去年の夏、仕事もなくて本当に落ち込んでた時、『STILL GOING ON』にすごい救われて。今日は、本当にありがとうございましたと言いたかったんです。
いやいや、とんでもないです本当に!
――前作は弾き語りメインのアルバムでしたが。ピストルさんが一人アコギを鳴らして戦う姿にね、“俺も頑張ろう!”とすごく励まされたんです。
それしかできないだけですよ、僕は(笑)。でも嬉しいです、ホントに。
とにかく曲を書くのは好きなので、いつも通り曲を書いていて。新曲が5曲できた時に、“これでいい、出そう!”みたいな感じで。
――そんな『STILL GOING ON』から、わずか半年での新作リリースですが。この短期間でのリリースには、どんな経緯があったんですか?
1年に1枚くらいのペースでアルバムを出してたんですけど、前々作から『STILL GOING ON』までが2年くらい開いたんですよ。だから、その間隔を埋めたかったというのが漠然とあったのと。今作に入った5曲って、そっくりそのまま最近書いた曲なんですけど。5曲目を書いた時、“これでまとまるな!”と思ったんです。もう2~3曲書いて、アルバムにすることもできたんですけど。この5曲でミニアルバムにするのが一番収まりが良いなと思って。それで早まったというのもあります。
――大正解だったと思います! だからこその鮮度もあると思いますし、5曲だからそれぞれの曲の色が際立ってますしね。今作の制作はいつぐらいからやっていたんですか?
去年の夏くらいですね。『STILL GOING ON』をリリースして、わりと直後には動き出してました。
――感覚的には『STILL GOING ON』であるものを出し切って、新鮮な気持ちで制作に取り組めたんですか?
もうね、いつも通りのペースでした。“ここから次に向けてもう一回”みたいなことはあんまり思わなかったですね。とにかく曲を書くのは好きなので、いつも通り曲を書いていて。新曲が5曲できた時に、“これでいい、出そう!”みたいな感じで。
――一番理想的な形ですよね、最高ですね。
最近はアルバムを出すのも、もっと柔軟で良いのかな?とも思ってて。1曲面白い曲ができたら、その曲からすぐに発表みたいな感じで良いのかもしれない。でもやっぱり、世代的には“アルバム出すぞ!”ってなりたいし、みんなが待っててくれる感じも良いし。
――前作のようなアコギの一発録りだったら、できたてホヤホヤの曲を配信リリースすることもできちゃいますしね。
そうですね。いまの時代、どんなやり方でもできるってことですけどね。
――コロナ禍も有意義だったという話は聞きましたが、楽曲制作には影響ありました?
ペース自体は変わらずだったと思います。でも無自覚だったけど、コロナ禍だから書けた曲も少なからずあったと思って。いまのうちにまとめておいてあげたいという気持ちはあったと思います。
――僕が感じたのは、ピストルさんって普段は旅芸人スタイルで、ツアー中に曲を書き留めて、曲が溜まったらアルバムを出して、と言いますけど。今作は描いてる風景が生活圏内にあるなって。ライブハウスの風景を描いてる歌詞もありますが、旅から旅へ流れていく風景でなく、近い距離の風景をすごく深く丁寧に描いてるように描けているのは、家にいて考える時間があったからだろうなと思いました。
確かにじ~っとして書いた曲は多いかもしれないですね。そりゃそうなるだろうという時期ではあったんですけど、確かに夜中にじ~っとしながら書いた曲は多いです。
――自粛期間中、ふだんはしない朝のお散歩をして言葉を書き留めたり、俳句の本を読んで勉強したりしているという話もインタビューで読んだので。そういうところから生まれた発想や表現もあるんだろうなと思って。
うんうん、確かにそうですね。
――今回、風景を描く言い回しや表現方法がちょっと違いますよね?
あ~、でもそれは曲を書くたびに“もっとこういう風に書けないかな?”って、常に良くしようと意識しているので。変化を感じてもらえたなら、すごく嬉しいです。やっぱり自分の中での理想みたいなものがあって、そこに近づけたくて常に考えながら書いていて。俳句の勉強もある種そうで、“僕はこう思った”って言わなくても感情が伝わるフレーズにすごく憧れるし。
――今回、「悄気る街、舌打ちのように歌がある。」とか、「朧月。君よ、今宵も生き延びろ。」とか、曲名からちょっと違いますもんね。ふりがなが必要になっちゃった(笑)。
そうですね。僕ももちろん漢字で書けなくて、変換して“こう書くんだ”と思いましたけど(笑)。そういうフレーズ作りをすごく意識してるので、少しずつ変化してるんだと思うんですけど。確かに思えば、タイトルからちょっと違いますね。
――そこでタイトルとその曲を通して伝えたいこと、描きたい風景がちゃんと連動しているから、どの曲も楽曲世界がはっきり描ける中でバシッとメッセージが届いてくるし、一曲一曲がすごく心に響きます。ご自身はミニアルバムが完成しての感想はいかがですか?
一番好きですね、今までで一番好きです。レコーディングが終わってから久しいですけど、自分でもずっと聴いてますね。色々照れくさくなっちゃって聴かなくなっちゃうことも多いですけど、今作はサウンド面もすごく気に入ってて、繰り返し聴いちゃいます。
――サウンド面は前作がほぼ弾き語りだったというのもあって、今作はそれぞれの楽曲のイメージに合わせた様々な演奏スタイルでの表現になったんですか?
そうです。今回は重厚というか、ガッチリしたものにしたいなと思って。トラックは“ギターはこんな感じで、ドラムはこのパターンで”って口で説明しながらデモを作って、それをディレクターに渡して、なんとか形にしていくというやり方なんですけど。頭の中にあるおぼろげなイメージを形にして、ずっと一緒にやってもらっているディレクターにそれをさらに良くしてもらって、というやり方はずっと変わらないです。
プロモーションの役割だけでなく、“それそのものが作品です”というMVを作ってみたかったんです。この曲に対して、優しくして欲しいといいますか。
――さらに今作は全曲でMVを作って、初回限定盤に全曲のMVが収録されたDVDが付くというのもポイントですが。曲作りの段階で、そのアイデアはまだ無かったんですよね?
無かったです。5曲できてから、「朧月。君よ、今宵も生き延びろ。」のMVを西川美和監督に作って欲しいとぼんやり思ったんです。で、西川監督に相談するときに、5曲だから全曲にMVがあってもいいんじゃないかな? と思ったのが始まりだったんです。いままでもMVは何作も作ってきたんですが、こちらから“この曲でMVを作りたい”と言ったのは初めてでしたね。
――今作に取り組む前って、ピストルさんの中でMVというのはどんな存在でした?
MVは映像で曲の良さを引き立ててくれて、宣伝してくれるものというイメージだったんですけど。今回はプロモーションの役割だけでなく、それ自体で勝負できないかな?と思って。“それそのものが作品です”というMVを作ってみたかったんです。そこは西川監督の存在が大きかったですね。西川監督はとにかく繊細な人の痛みを分かって下さる人だし、それを描く作品を作れる人なので、“この曲の映像を撮ってもらいたいな”と思ったんです。この曲に対して、優しくして欲しいといいますか。
――そしたら、「朧月。君よ、今宵も生き延びろ。」のみでなく、全ての曲たちに対して優しくしてくれる監督たちが集まってくれて。
どれも本当に素晴らしい出来だと思います。最初、5人の監督が決定して、打ち合わせがあって。絵コンテだったりコンセプトだったりが書かれた資料をもとに、監督が内容を説明して下さったんですけど。やっぱり素人ではどんなものが出来上がるか、分からないんですよ。分からない上に歌詞を書く上で見た景色だったりが、自分にはくっきりあるので。それとは違った画で映像を作ってくれるというのが余計分かんないんです。だから、どんな映像になるんだろう?って好奇心があったんですけど、やっぱりプロフェッショナルの映像監督さんって、この素人の想像のはるか先の完成形が見えてるんですね!って感心の仕方をしましたし。実際、この曲のMVはそういう風に表すしか無いでしょう!と思う作品が上がってきたので、ものすごく感動しました。
――自分の書いた歌詞でくっきり景色が見えてるのに、監督の解釈で上がってきた景色に“これしかない!”って思うって、物凄いことですよね。リリースを待たずにイベントで映像の鑑賞会をしているのって、“一刻も早くみんなに観て欲しい!”という気持ちの表れなんだろうなと思いました。
いや、思いました思いました。“これは観なかったらもったいないよ!”と思って、そんなツアーを企画したんです。
――僕はまだ予告編しか観れてないんですが、MVは役者としても出演しているんですか?
「朧月。君よ、今宵も生き延びろ。」は平たく言えば主演として、全編に登場してます。歌うたいとしても出てるんですけど、ボクサー役で出ていて。最初は、ボクシングをやるのはいいんだけど、この歌とどう繋がっていくのかな?と思いながら、西川監督がそういうならやってみよう、みたいな気持ちで挑んだんですけど。実際、出来上がってみたら、自分のMVながらウルッと来たし。想像もしてなかった映像になったんですけど、“そういう歌かも知れませんね”と思って。西川監督に頼んで良かったなと思いました。
――今回はCDで曲を聴いて、自分の頭の中に楽曲世界を描いてからMVを見る人もいれば、MVで映像ありきで曲を聴いてという人もいて。同じ曲でも両方の入り口があるというのも面白いし。より広い層に伝わる可能性を秘めていると思います。
確かにそうですね。それでいて、曲を書いた本人が“こういう映像がぴったりのこういう曲です”って心から納得してるわけですから。どっちから入ってもらっても嬉しいし、全く語弊のない作品群になったと思います。
――役者として活動ってところでは、役者でないと伝えられないことや役者仕事の面白みって見えてきました?
どうにもこうにも歌うたいなので、演技ばかりは、監督に迷惑をかけないように、なるべくイメージ通りに動けるようにって考えてます。自分の芝居で何かを伝えたいと思ったことは、いまのところ一度もないですね。役者仕事に関してはネガティブな意味合いじゃなしに、使っていただくコマだと思ってるので。広角的に動いて、作品のためになりたいって部分でやっています。逆に、歌うことに関しては全てが矢面なので、歌と芝居は全然違いますね。面白みってところでは、歌も芝居もどっちも面白いし、同じくらい好きなんですけど。歌は自信があるけど、芝居は自信がないという根本的な違いがあるので、“芝居をしたい!”と自分から思うことはいまのところ無いですね。
この期間は一生忘れないだろうなと思って。今はみんなに楽しんでもらえることをずっと返し続けたいなと思っています。恩返ししたいですね。
――そうなんですね。歌も芝居も積み上げてきた年齢やキャリアから滲み出る人間味の部分で、ピストルさんにしかできない表現ができてますけどね。いま45歳ですよね? 僕が46歳なんですけど、50歳が見えてきて、ちょっと焦りません?
焦ります? 僕は結構、急ぐんですよね。“早く50代になりたいな”って。家族がいますから、早く役目を果たしきりたいじゃないですけど、先へ先へって思いますね。
――僕、逆ですね。こっから年取って無理もきかなくなってきて、今みたいに動けなくなって、家族を養っていけなくなったら困るなと思うと怖いし焦っちゃいます。
それは同じですよ。ざっくばらんに言い切ると、“逃げ切れるかな?”っていう。
――そうです、俺も同じです。あれ、おかしいなぁ?(笑)
僕は早く時が過ぎ去って、変な話、役目を果たしきって安心したいなと思うんで。まだ50歳まで5年もあるのか、と思っちゃいます。
――僕はそこで終わりじゃないと考えると、ここまで来ちゃったら他の仕事もできないし、このまま50代になったらシンドそうだなと思って、怖くなっちゃうんです。
僕も曲ができた時、“いい曲できたけど、曲が書けなくなったらどうしよう?”と思うことはありますよ。
――僕、自粛中に何かやらなきゃいけないと思って簿記3級の試験を受けて、落ちたんですよ(笑)。それで逆に“もう、今の仕事を全うするしかない”って腹を括ったところもあったんですが。そんな救いようのない僕だから、救いようのない男が歌う「せいぜい胸を張ってやるさ」が響くんです。
あはは。“きっとそうなんじゃないかな?”と思いたい部分もあるんです。人間誰しも、誰かをホッとさせる存在になりうるんじゃないかな?と思うし、思いたい。それは時に“こいつに比べたらマシ”みたいなホッとさせ方かも知れないけど、それでもいいじゃないかと思って。
――ホッとさせる存在に十分なっています! 今作を掲げてのツアーもつつがなく開催できて、みんなが安心してライブに来れるような状況になることを祈るばかりですが。リリース以降というところではいかがですか?
“ツアーをやろうよ”って話はしてるんですけど、タイミングに関してはもうちょっと考えなきゃいけないなという感じで。『STILL GOING ON』ツアーもできていないんで、2枚掲げてのツアーは計画しています。ちょっと前に回ったツアーで、お客さん方が完璧に感染予防を徹底してくれていて。今日のこの催しをすごく大事にしてくれてんだろうな、ありがたいなと思いながら。“これだったらできるだろう”ってくらい、もろもろ完璧でしたから。感染予防を徹底した上で、“ご都合よろしかったら来てくれ”のスタンスで、ライブ活動は動き出したいと思ってます。
――ライブに集まる人たちがすごく健気にルールを守っている姿を見ると、ここまでしてでも自分たちの大事な居場所を守りたいんだなと思って、泣けてきちゃうんです。
本当にそうですね。あと、感謝の気持ちが薄れていたとは言わないですけど、コロナ禍で無観客配信ライブやって、投げ銭頂いて、どうにか暮らしを回していくみたいな期間が続いて。それでも応援してくれてる人に本当にありがたいなと思ったし、この期間は一生忘れないだろうなと思って。今はみんなに楽しんでもらえることをずっと返し続けたいなと思っています。うん、恩返ししたいですね。
取材・文=フジジュン 撮影=永田拓也

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