井上芳雄が日本ミュージカルの歴史を
紐解く『レジェンド・オブ・ミュージ
カル』~初風諄をゲストに迎えた第7
回公演レポート

井上芳雄がホストになり、ミュージカル界のレジェンドを迎え日本のミュージカルの歴史を紐解く人気イベント『レジェンド・オブ・ミュージカル』の第7回が、去る2022年1月25日(火)にシアタークリエにて開催された。
井上自身が「日本のミュージカルの黎明期からミュージカルの世界を生き、愛してこられた先輩方のお話を聞きたい」と企画し、「毎回、聞く価値が余りある」「コロナだからと歩みを止められない、どんどん多くのレジェンドを呼んでいきたい」と語るほど、貴重なエピソードに溢れるこのシリーズ。第7回のレジェンドは元宝塚歌劇団星組・月組トップ娘役、伝説の初代マリー・アントワネット役の初風諄。
このイベントのレポートをおくる。
<初風諄(はつかぜ じゅん)プロフィール>
1941年 東京都生まれ
1961年 宝塚歌劇団に47期生として入団。月組公演『春の踊り/サルタンバンク』で初舞台
1967年 星組主演娘役に就任
1970年 月組主演娘役に就任
1974年 『ベルサイユのばら』初演でマリー・アントワネット役を務める
1975~1976年 ヨーロッパ公演に参加
1976年 退団
その後しばらく舞台から離れるも、2000年東宝版『エリザベート』初演で皇太后ゾフィー役を演じ、24年ぶりに舞台に本格復帰

真っ白いドレスで登場した初風。
開口一番「死ぬ覚悟でまいりました……芳雄さんが呼んでくださったんだから命に代えても行かなきゃ、と」と少々大げさに語るも、事実甘く見てはいけないコロナ禍での開催。二人が会うのもコロナになってからは初めてだそう。
二人の出会いはご存じ2000年の『エリザベート』。そこから21年の付き合いということで……
井上:まだ僕は大学3年生でした。
初風:細かったわよねー、首も細くて。
井上:首ですか!?  今は色々なところが太くなって(笑)。久々に会った僕はどうですか?
初風:全然変わらないですよ! 本当に若々しくて、首も細くて。(当時は稽古場で)ちょこんと座っていらしたのを覚えています。
井上:その頃から本当に初風さんは優しくて、面白くて、無敵でした。なぜそんな風にいられるのか、その秘密も今日はお聞きしたいんです。当時僕は本当の新人でしたが、初風さんも「私も新人みたいなものだから」とおっしゃって。なんて優しい方なんだ! と。
初風:芳雄さんにだから優しいのよ(笑)。でも、楽観的なんでしょうねえ。楽しく過ごしています。
……と、開始からすでに息ピッタリ。
井上曰く「これまでのレジェンドの方は初めましての方も多く、いつも緊張して臨んでいますが、今日は親戚の家に遊びに来た、くらいの気持ち」と、リラックスしている様子。
■宝塚時代のエピソードから……
まずは初風の原点、宝塚歌劇団時代の話から。
宝塚に入ろうと思ったきっかけを「母が宝塚が大好きで、小さい頃から劇場に連れていってもらっていました。それが観ているだけでは物足りなくなってしまった」と語る初風。今では品のある美しい歌声の印象が強い方ですが、当時は「ダンスが好きで、歌は下手くそでした。高木(史朗)先生に「あんた下手下手、代わりなさい」と役を下ろされたくらい。そこからお稽古をし直しました」という過去も。
また入団当初は男役だったものの、「役がついて「僕は」という台詞を言ったとたん、(自分には似合わず)寒気がした。1年で娘役に転向しました」と話す。
娘役になってからも「当時の宝塚は今と違って、(番手はあまり関係なく)誰でも役を狙えたのですが、鳴かず飛ばずで、主役の何番目の妹とか、そういう役ばかり……」と話したところ、井上より「でも入団1年目にトップスターの相手役(雪組『絢爛たる休日』、主役は明石照子)を務めていらっしゃいますよね?」と質問が飛び、「それ1作だけでダーン! と落ちたのよ~!」と明るく笑う初風。
なおこの時の抜擢は「私、お嫁さんにしたい娘役の一番だったの(笑)。助手の方たちが「可愛い、可愛い」と言ってくださって、助手全員で推薦してくださった」という、スターにふさわしいさすがのエピソード!
……もちろん「鳴かず飛ばず」に関しても本人だからこその談であって、実際はその実力が認められ入団6年目に主演娘役となる。
トークでは『霧深きエルベのほとり』などで日本演劇界のレジェンド・菊田一夫の演出を受けたという話も。
「辛辣な、でも憎めない演出家。私は『霧深きエルベのほとり』で、好きな人とホテルで一夜を明かし、喜びの気持ちで出てくるシーンで「初風くん、おにぎりもらって喜んでるんじゃないんだよ」って言われてしまったのを覚えています(笑)」という、名演出家の演出の思い出も語った。
また1967年の『オクラホマ!』は、宝塚で初めて上演したブロードウェイミュージカルとしても知られている。
「その時までは(劇団内)オーディションはなかったのですが、この作品からオーディションをやるようになりました。実力があるけれど役が付かなかった人たちが、ここから抜擢されるようになった。演出家も海外から招聘して。お稽古も、宝塚って20日間くらいのお稽古期間だったのですが、この作品では倍くらいの時間をとってやりました。最後「オクラホマ!」を歌うシーンではひとり間違えたら「NO!」とやり直し。とても厳しかった」と振り返り、さらにその演出家のジェムジー・デ・ラップさんとは「このあいだの『CHICAGO』NY公演の時(2016年)に、再会できました。一緒に『オクラホマ!』の歌を歌ったの」というエピソードも。
井上もこのレコード化されている『オクラホマ!』の音源を聴いたそうで「素晴らしい歌唱でした。初風さんもですが、カーリー役の上月晃さんも。今、ミュージカル界はどんどんテクニックが上がっていると言われていますが、今聴いてもめちゃくちゃ上手いなと思いました」と熱弁。
その後、宝塚では珍しく娘役である初風が主役を務めた『ラムール・ア・パリ-サラ・ベルナールの恋-』の話題、そして長期公演だった1975年のソ連公演の話題へ。
このソ連公演が決まったため退団が伸びた……と話し、「丈夫な人ばかり(選抜された)。月組って丈夫なのよ(笑)」と話したところで井上が「組の特色ってよく聞くんですが“丈夫な組”って特徴、あるんですか!?」とさすがのツッコミ。
ただ本当に過酷だったようで「今だったら行かないって言うと思います。食事が大変で、(慣れない)ライ麦パンとスープ。それすら、早くいかないとなくなっちゃう。当時のソ連なんて鉄のカーテンの向こうですから。歌劇団も、よく4か月も生徒を行かせたなと思います。……丈夫だから大丈夫と思われたのかしら」と振り返り、しかし「舞台俳優にとって、丈夫というのは何よりも大事ですよね!」と井上と意気投合するのであった。
『ラムール・ア・パリ』より「白い花がほほえむ」を歌う初風
■『ベルサイユのばら』初演時のこと
そして初風といえば、『ベルサイユのばら』の初代マリー・アントワネット。
井上が「日本のお客さまはフランス文化やフランス革命が大好き。帝劇は年に半分くらいフランス革命をやっているのではという時すらある(笑)。そのすべての源が『ベルばら』。日本のミュージカル、全部『ベルばら』の恩恵を受けていると言ってもいいくらい」と語るほど、日本ミュージカル界にフランス革命はなくてはならないもの。『ベルばら』はその原点。
やはり『ベルばら』ブームはすごかったらしく、初風は「それまでは“知っている人は知っている”宝塚歌劇団という存在が、全国どこにいっても通じるものになった。一般的になりました」と話し、「“大きなお芝居”を長谷川(一夫)先生に教えていただきました。最後、断頭台に上る時に後ろ手でスカートを持つ仕草も。(一個一個の動作)ぜんぶいただいた。それが『ベルサイユのばら』にぴったりだったんでしょうね」と振り返り、井上が「歌舞伎の型のようなものですね」と相槌を。
そのブームが起こる前、『ベルばら』上演時はまだ今ほど宝塚の存在が浸透していなかった一例として、人気俳優だった長谷川一夫が演出をしているということで「(宝塚が女性のみということも知らず)長谷川先生はどこのシーンに出ているんですかと聞かれたりもしました。それくらい、宝塚のことを知らない人もいた」と話していました。
そして初風はこの『ベルサイユのばら』で退団するが、それは「こんなにいい役はもうないから、辞めちゃえ!」と思ったから、だそうだ(笑)。
その話題のあと、初風と井上で劇中歌「愛あればこそ」を披露。
以前の『レジェンド・オブ・ミュージカル』で鳳蘭ともこの曲をデュエットした井上は「初代のマリー・アントワネットと、初代のフェルゼン、両方とデュエットしてしまった……!」と感激しきり。
『ベルサイユのばら』より「愛あればこそ」をデュエットする初風と井上
■舞台から離れていた24年と、復帰後のこと
歌劇団退団後、結婚し、家庭に入っていた初風。その間は年に一度のチャリティコンサート出演を除いては芸能活動から離れ、「真面目に、子どもの学校のPTAの役員などもし、副会長までやりました。舞台にまた立ちたいというような気持ちはありませんでした」と話す。
しかし2000年の『エリザベート』公演に際し「突然、小池(修一郎)先生から「女役で二番手の役があるんですが、出ませんか」と……」連絡が入ったそう。
『エリザベート』は大好きだったけれど「そんないじわるな役を演じたことなかった」から悩んだと話すが、「しかしゾフィを「女役二番手の役」と表現するって、小池先生も考えましたね(笑)!」と井上。
ここから初風と井上の道が交わっていくわけだが……。
初風:(復帰にあたり)1年間歌のお勉強をしたのですが、出ていったら舞台の動きがわからなかった。でもある日突然、「ここが七・三(の位置)だわ」とか勘が戻ってきた。内野(聖陽)さんも初のミュージカルでしたが、内野さんは大学ノートに(演出家からの)注意をびっしり書いていました。あと楽屋のお掃除をよくしていて、劇団の人は偉いな、と感心していました。
井上:たしかに。僕はそういう教えをどこからも受けませんでした……(笑)。
初風:昼夜公演のあいだに阿知波悟美さんがご自分の楽屋でお食事を作ってくださったりもしましたね。阿知波食堂。
井上:お皿だけ持って食べに行きましたね。もちろん全員ではないですが、けっこう多くの人が集まっていましたよね。
初風:楽しかったですねえ。
井上:僕は初舞台だったので、こんなにカンパニーが家族みたいになるんだ! と思ったのですが、今考えたらとても貴重でした。一路(真輝)さんも「毎回こんな風だと思ったら違うよ」とおっしゃっていました。本当にビギナーズラックで、とてもいいカンパニーでやらせてもらえました。
と思い出話に花が咲く。
ゾフィという役についても
初風:大好きです。(怖く見えるけれど)オーストリアを背負っている、真面目な人なんですよ。
井上:ゾフィの最後の歌もいいですよね。初演ではありませんでしたが。
初風:最初はあったのですが、あまりいい人に見えてしまったら困るとカットされてしまったの。
井上:復活だったんですね!
初風:(再演を繰り返すうちに)憎たらしくなったから、いいだろうと(笑)。芳雄君で覚えているのは、「ハプスブルク……」と言ったら小池先生が「芸大の声だよ!」っておっしゃったこと(笑)。
井上:オペラみたいに歌っていると、よく言われましたね~(笑)。
初風のリクエストで、井上が『エリザベート』より「愛と死の輪舞」を歌唱
初風:あのブルーの衣裳が似合っていてね……。
井上:それで一大センセーションを巻き起こしました(笑)。今、この(水色の)服は使われていないんです。こないだ、稽古着になっていました(笑)。これ実は本編用ではなくプロローグ用の衣裳だったのですが、小池先生が、絶対こっちがいい、とおっしゃって、本編でもこちらになりました。僕が初風さんで覚えているのは、(シシィのベッドの)シーツをめくるシーン。ご苦労されていた。
初風:1時間(稽古を)やった。しまいには「ホテルに帰ってベッドで練習してください!」って言われちゃった。小池先生はああいういじわるなの、すごくお上手なの(笑)。
その後『ウエディング・シンガー』『ミー&マイガール』『CHICAGO』『ニューブレイン』『宝塚BOYS』などの出演作を振り返りつつ、和やかにトークは進む。
最後に井上が「ショービジネス界を生きてきた方の生の声を聞けるのは、僕たちにとってもとても貴重です。ただ初風さんの経歴は誰にでも当てはまるものではなく、逆に言えば希望が持てます。特に女優さんは人生の中に様々な局面があって、仕事を続けていくことが難しいこともある」と、間に休業を挟み、復帰された初風さんのワークスタイルから学べることがあると話す。
そして井上に「続けていく秘訣」を問われ、「元気でいないとダメですね。あとは探求心。やっぱり“好きこそものの上手なれ”です。またミュージカルをやるのなら、歌のレッスンは欠かさない方がいいですね。私は幸いにタバコもいただきませんし、お酒は少し飲みますが、身体を酷使するほどはいただきません。ひとつ大きな目標があると、自分の人生を制することができるのではないでしょうか」と語った初風。
井上も「やりたいことをやりたい放題やるのではなく、自分の本当にやりたいことのために(自制する)。そうやって生きてこられたのだというのが伝わりました」と語る。
さらに「これからの日本ミュージカル界に期待すること」について初風は、「想像つかないところの物語より「こういうところ、あるな」と共感できる物語が日本の強みではないでしょうか。こまつ座の井上ひさし先生の物語とか、観ていてとっても楽しいですから。私たち、髪の毛も黒いし、青い目の人物はなかなかやりにくいですよね」と語り、これには井上も「僕もアイラインの限界を感じています(笑)。僕たちの生活に根付いた物語をお届けしたいですよね」と相槌をうちつつも、「それでも一方で、外国の素敵な物語もやりたいですし……(両方が大事)」と総括。
最後に「また、ぜひご一緒したいです」と話す井上に、「お呼びくださって本当にありがとう。こんな日が来るなんて思わなかった」と感慨深げに初風が返す。そして「コロナがあけたら、また色々なお話をしましょう!」と約束を交わし、楽しいトークは終了。
今回も井上が「ここ(劇場)だけでシェアするのはもったいない」と語るように、日本ミュージカル界の礎を作ったレジェンドの貴重なエピソードに溢れるイベントだった。
取材・文=平野祥恵   写真提供=東宝演劇部

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