堂島孝平 ポップマエストロが全身全
霊でエンタメを体現する『生誕祭』で
見た、“君のためにできること”

堂島孝平生誕祭 2022.2.23 LIQUIDROOM

【BAND STYLE】
2年ぶりの有観客となった、ファンにとっては恒例となっている生誕祭ライブは、「せいや! せいや!」の連呼と、入念にリハーサルを積んだ(はずの)ダンスで幕を開けた。
堂島本人は、ライブ中のMCでもこの生誕祭ライブは「アトラクションのような時間」であり、その肝はオープニングだと話した。今回は80年代後半にその名の通り、時代の話題をさらったパフォーマンス集団「一世風靡セピア」へのオマージュの想いを込めて、バンドのメンバーはみんなダブルのジャケットに赤い靴下という衣装で登場したのだったが、果たしてどうだろう?
ライブにはしばしばあることだけれど、演者のつもりとは別に、そのライブのクライマックスが別の場面で訪れる。
先にある種の結論を言ってしまえば、この日のライブの大事なクライマックスのひとつはやはり、最後に歌われた「きみのため」だった。その曲がクライマックスになったのは最後に歌われたからではなく、その歌の主人公と同じように、堂島自身が“きみのために何ができるのだろう?”と考えているように受け取れたからだろう。
堂島が考え続けていることの宛先である“きみ”に、彼は考え続け、「きみのため」の歌詞と同様に、喜びを無理矢理膨らませるようなことはせず、なるべく単純に、決して難しい感じにはならないように、自分の想いを届けようとする。最初の2曲を演奏して、2曲目「H.A.P.P.Y」の最後の音をくどいほどに何度も鳴らしてみせたのも、彼のそうしたシンプルでまっすぐな想いがあっさり沸点に達したからだろう。「たくさん人がいるから、楽しくなっちゃった」と笑う堂島は、少し息が切れている。シンプルな想いを全身で伝えようとする、その直接性も彼の真骨頂だろうが、同時にライブとは肉体的な交歓であることを、それこそ身をもって彼は伝えてくれる。しかも、オープニングの印象的なダンスパフォーマンスが終わると同時に打ち鳴らされ始めたキックの音が、オーディエンスの身体にしっかりはたらきかけるライブであることを象徴的に伝えていて、ズンズンと下半身に響くそのキックの感触はライブを通してずっと心地よかった。そして、そのしっかりとした質感を持つキックの音を土台にした、小松シゲルのキレのいいスティックワークと鹿島達也の表情豊かなベースプレイが、どんなにメロウな曲でも肉体的な快感を連れてきてくれて、それがこのライブの基本的なトーンになっていた。
もっとも、小松シゲル、鹿島達也に、奥田健介、sugarbeansというラインナップのバンド「SUPER A.C.E.」は、それぞれにJ-POPシーンで幅広く活躍している面々だけに、職人的な行き届き感といい、それぞれの楽曲にさりげなく彩りを添える気の利いたフレーズといい、肉体というよりは感受性にこそ訴えかける演奏が持ち味と言うべきだろう。そういうバンドのサポートを得て、堂島の率直な表現がいっそう輝いてくるというわけだ。
さて、“君のために何ができるだろう?”と考え続けながらステージを続ける堂島は、中盤で《僕は黙っていよう》と歌う。その理由は《余計なことばかりしゃべってしまうみたいだから》ということなのだけれど、ここまで同じ空間で同じ時間を過ごしてきた僕たちは、その歌の主人公と同化した堂島が奏でるセンチメンタルなハープソロに感じ入らずにはいられない。想いを伝えようとしてつい過剰になってしまうこともあるかもしれないけれど、それでも伝えたい想いがあり、それを直接受け取りたい人がいて成立しているライブの現場に居合わせていることの幸福を感じる場面だった。
ところで、“何ができるだろう?”と考え続ける堂島は、配信を通してこの日のライブを楽しんでいる人たちのこともやはり気になる。だから、ステージ半ば、スマホを取り出してツイッターで反応を確認するという、果敢な行動に打って出た。当然、すぐに反応の洪水となったわけだが、そこで「分かりましたー。もういいでーす」と打ち切ってしまう、そのあっさりした感じがなんだかおかしかった。
人とのつながり具合に敏感なナイーブさとお茶目な悪戯心。そして、音楽で呼吸するミュージシャンシップ。そうした堂島孝平の全体を、随時感じながら辿り着いた最後の「きみのため」は、音楽家・堂島孝平の有り様を伝える曲だからこそ大事な1曲なのであり、その曲が印象的に響いたこの日のライブは『生誕祭』の名に相応しく、彼の始まりから未来へと変わらずつながるものをあらためて感じさせてくれるステージだった。

SOLO STYLE】
「後夜祭みたいな感じかな」と本人が語るように、スタンディング形式だったバンドスタイル編とは変わってソロスタイル編では客席は座席形式となり、本人はステージ上ではなく、その客席フロアに用意されたスペースで演奏する。つまりはグッと内輪な感じの状況になったのだが、とは言ってもあくまで“生誕祭”なので♪ハッピバースデー~というSEで始まり、衣装だってバンドスタイル編からちゃんと着替えて、シックなトーンではあるけれどハレの心意気を感じさせての登場だ。
「こんな形だとは知らなかったので、びっくりしてます。一人で頑張りまーす」
気合十分のダンスから始まったバンド編とは対照的に、こちらは気負わずやりますといった感じ。それぞれ内容が違う2ステージを1日でこなすというのは、初体験だそうだ。とすれば、直前に蔓延防止策が延長されて開演時間が30分早まったりしたこともかなりの大事件だったんじゃないかと想像するのだが、それもこの2年ほどの間にはいくつもあったであろう、どうしようもないことのひとつで、だから余計に気負わずやりますという感じになるんだろうなと思う。
ところで、同じ日に、同じ会場で、でも別スタイル/別内容のステージがあると、それはやはり本人の意図とは関係なく、ひとつ目のステージが二つ目のステージの前フリになる。バンド編の最後に演った曲をこちらでは1曲目に演るというのは、もちろん堂島自身にも何がしかの意図があるのだろうが、それとは別に状況が先に書いたような状況だし、演奏もギター1本の弾き語りスタイルだから、歌の世界の手渡し感が自然と高まるのは言うまでもないこと。おまけに、バンド編で1本のステージを通して“君のために何ができるだろう?”と真摯に考え続けていることを感じさせたばかりだから、例えば《喜びは大きくなくたっていいんだ》という「きみのため」のフレーズが気持ちの深いところにすんなり着地する。このこじんまりとした、仲間内の後夜祭のような親密さこそが幸せなんだ、と。
堂島自身は、バンド編のステージをやりながら、「スタンディングのお客さんを前に演奏するのはずいぶん久しぶりだなあ」と思っていたそうだ。だが、その感想も彼のなかでこのソロ編のステージの前フリになって、いつも以上にお客さんの近さや落ち着いた空気感に安らかさを感じたに違いない。
弾き語りスタイルだと楽曲の骨格をバンドでの演奏よりも確認しやすくなるから、バンド編で初めて聴いた新曲がここで再び演奏されると印象は更新される。歌詞に描かれるとおり、主人公は風の中にいるようだけれど、その風は決してそよ風ではないようだ。テンションの効いたいくつかのコードもそう感じさせた。
そして、ステージのちょうど半ばあたり、5曲を演奏し終えたところで「今日しかできないことを」と、堂島が12歳の時に書いた歌詞に曲をつけて歌として完成させるという試みが披露された。その12歳の作品はソングライターとしての堂島の第1作、ソングライター堂島孝平の始まりだから、生誕祭で取り上げるのが相応しいだろうということなのだ。いくつかある歌詞のなかからピックアップされた「写真」と題された歌詞には、現在の堂島作品にも通じるナイーブな感受性とポジティブな未来に視線を向ける特質がちゃんと書き込まれていた。多くの場合、1stアルバムにそのアーティストの本質が表現されているように、始まりの時点で“ソングライター堂島孝平”は出来上がっていたということだろう。
さて、ステージ後半は一気に進んでいったが、そのなかでもやはりバンド編と重なる曲の、バンド編の演奏とのコントラストが印象的だった。例えば「だんまり」は、まだ夕方だったバンド編とは違って十分に夜と言える時間になっていたから、窓から夜が流れ込んできていよいよ寂しくなる主人公の想いがよりビビッドに感じられたりしたわけだ。その一方で、弾き語りスタイルだからこそ彼の音楽の特性である人懐っこさがよりくっきりと感じられて、その余韻が家に辿り着くまでの間、じんわりと気持ちを温めてくれた。
人懐っこい音楽の、優しい温もりを満喫した一夜だった。
取材・文=兼田達矢 撮影=石垣星児

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