熊谷和徳はどのようなタップを響かせ
るのか 単独公演『VOICE』への思い
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タップの本場ニューヨークで活躍するタップダンサー熊谷和徳が、2014年以来8年ぶりに、オーチャードホールで単独公演を行う。公演タイトルは、『VOICE』。全世界に暗い影を落とすパンデミック下にあって、彼は何を想い、どのようなタップを響かせるのだろうか?
Bunkamuraオーチャードホール「熊谷和徳『VOICE ヴォイス』」スポット映像
ーー今回、公演名を『VOICE』としたのは、どういった思いからですか?
タップは、例えばミュージカルの一部として「見る」ものとして扱われるなど、音楽的な要素が余り重視されてこなかったところがありますが、僕が最も重視するのは音の表現にあります。そしてタップのサウンドは、感情を表すための声に近い表現方法だと思っています。声って、誰一人同じではないですよね。一番個性が出る表現ではないでしょうか。タップダンサーはジャズで踊ることが主流なのですが、昨年はコロナ禍で日本にしばらく滞在したこともあり、沖縄やアイヌや奄美や東北など様々な民謡を聴く機会があり、タップのルーツであるアメリカのブルースとの共通点をすごく感じました。純粋に『音』として世界中の音楽に耳を傾けると、そこにはジャンルを超えた普遍的なメッセージとして聴こえてくる気がします。今回、子供も予備知識なく聴けるように、多種多様な声を集めて、ひとつの音楽にしたいと考えました。
ーー五輪の開会式の制作に関わられましたが、日本の民謡など、様々な声を取り上げようと思ったのはなぜですか?
昨年は開会式の制作に関わらせていただく中で、様々な複雑な思いがありました。僕が住むニューヨークでは、去年で言うと10万人以上の人たちが亡くなり、世界中の人たちが沢山の大事な方々を失いました。その中で、日本の昔からの民謡を聴いていると、歌い踊ることの本当の意味は、人間の根源にある生死や愛する人との別れなど、今の時代に通じる普遍的なことを伝えていると思いました。それは、決して暗いばかりではなく生命のセレブレーションのような表現にも感じたのです。今回はそれをさらに深く掘り下げたいという気持ちがあります。
ーー具体的には、どのような公演にと考えていますか?
今回は奄美出身の元ちとせさんをはじめ素晴らしい稀有な声を表現方法として持っているアーティスト達に出演していただきます。大好きなアイヌの歌や踊りの伝統を継承している方達への出演も予定されています。タップは音楽においてリズム的な部分を担っていますが、感情を表す歌でもあると思っています。そして、あらゆる音楽の中には、共通して流れているビートがあります。それは、ネイティブアメリカンのドラムが心臓の鼓動だと言われるのと同じように、風や波など自然の中から生まれてくるリズムです。細かい部分ではそれぞれが長きにわたって培って来た美学があり、そこをリスペクトした上で、僕もただその音楽で踊るのではなく、一緒にリズムを通して物語を作り上げていきたいと思っています。僕はこれまで、アメリカ発祥のタップの元来の伝統を重視して来たこともあり「ジャパニーズ・タップ」というフィルターをかけられることにも抵抗があって、日本の伝統音楽とはあまり共演してこなかったんです。コロナ禍以降の気持ちの変化の中で今回は新たなチャレンジですが、大事なことは、音楽やスタイルがただ変化するということではなくて、より深く掘り下げたところでは、あらゆる伝統やジャンルに共通する『想い』や『声』を発見していくことだと思います。
今回、アレンジおよび演奏として参加してくれるLITTLE CREATURES鈴木正人さんとは民族音楽の持つ素晴らしさを尊重した上で、西洋の音楽との融合や、ジャズ的なアプローチといったアレンジもする予定です。
ーーニューヨークではいち早くロックダウンが始まり、あらゆる舞台芸術がストップしました。アーティストにとってあまりにも辛い日々の中で、熊谷さんはどんなことを感じ、今に至っているのでしょう?
失ったものもあったし、失ったからこそ新しく得られたものもありました。辛い時に助けてくれた友人の存在など、変わらないものの価値の大切さも再確認できました。ロックダウンが始まる直前、ハードスケジュールの中で公演の準備をしていたのですが、世の中がどんどん変化していって。当時はマスクをしたアジア人は狙われていたので、感染以外の恐怖もありました。そんな中でもなんとか公演をしようとしていたところ、本番前日のリハーサル時に中止が決まり、事の重大さを感じました。かなり突然だったんですよ。まだ大丈夫だろうと思っていたら、周りでバタバタと感染者が出てきて、近所に住んでいる方の咳が聞こえてきたりと、救急車のサイレンが鳴り止まないこともありました。僕は3月が誕生日なのですが、タップダンサーの友人で同じ誕生日の人がいて、毎年、「おめでとう」とやりとりをしていたのに、その人も、誕生日の翌日に亡くなってしまいました。そのときあたりから、自分の精神状態もかなり落ち込んでしまい、タップを踊る気持ちやパッションを失いかけていました。横浜の『Inspire』という公演では、約8ヶ月ぶりに舞台に立ちましたが、かなり踊れないブランクが長かったので、本当にできるかどうかも不安もあり、ギリギリまでできるかどうかわからない状態でした。結果的に周りのスタッフの支えもあり、実現できましたが、もしあの公演ができなかったらもうタップから離れていたかもしれません。自分の人生の中で、あの『Inspire』は自分にとってすごく大事な一歩になりました。
ーーまだパンデミックのただ中ではありますが、それ以前と今とでは、ご自身の音自体も変化したと思いますか?
一番変わったところは、今はタップを踊れることが純粋に楽しいです。 僕が15歳でタップをはじめた頃のような感覚に戻ったような感じです。
もう一度基本からタップを見つめなす時間をとって、じっくりタップに向き合っています。そして新しく譜面を読む練習をしたり楽器をさわったり、より音楽的にも学びたいという欲求が増しています。
もっともっとこれから変わりたいという気持ちでいますね。
ーータップは、個々の個性や多様性を保ったまま、国境も人種の違いも言葉の壁も超えることができる。世界的に排外主義や全体主義が強くなる傾向にある今こそ、必要なものなのではないでしょうか。
タップに限らずですが、今、子供達もマスクをつけて生活をして喜怒哀楽を素直に表現することが難しい時代なのかなと思います。自分の感情を表現する方法を持つこと。それが自分にとっては、タップであり、自分の『声』であるわけです。
今回の公演では、様々な声と混ざり合うことで、最終的には観客の皆さんの内なる声と響き合いながら、一緒に前向きな一歩をふみだすきっかけになれたら嬉しいです。

熊谷和徳

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