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ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第207回 噂のプーチン漫画 この、わずか一週間ほどの間で「ライドンキング」が無理になってしまったという反応をSNSで見かけたりすることになるとは全然思っていなかった。
 あの作品を楽しんでいた人たちというのは、ミームとしてのプーチンにしか興味がないか、現実のプーチンの問題は問題として、それを切り離して楽しんでいた人だろう。実際のところ、作中の主人公は大国から独立した新興国の大統領という設定であったり、現実のプーチンから可能な限り引き離すような配慮がなされてはいる。その配慮がプーチンに向けてなのか、読者にむけてなのかはわからないが。馬場康誌先生の別作品のプーチンをモデルにしたキャラがキャラだちしていく中で生まれた作中設定などを元につくった作品なわけで、作品として成立過程で大元のキャラクターが持っていた現実のプーチンにつながりそうな部分は極力排除されているように感じる。まあ、現実のプーチンに批判的かつ作中の主人公と現実のプーチンと切り離せないような人は、主人公のデザインを見ただけで最初から読まなかっただろうけど。
 それが、ほんのわずかな間に、今まで作品を楽しんでいたのに楽しめなくなってしまった人、特に何も感じていなかったのに不快感をおぼえるようになったという人を見てしまった。どうしても、プーチンのイメージが混入してきてしまうからだろう。
 今までだってプーチンはシリアやチェチェンで暴挙をはたらいてきたわけだし、まったくもって洒落にならない人物だった。クリミア併合だってあった。にもかかわらず、プーチン・カレンダーや熊にまたがるコラ画像を面白がっている人が沢山いたわけだ。すでにネタとして確立された「プーチン」というおもちゃでネットで遊ぶことにしか興味がなく、本物の彼については知識があまりなかった人もいる。政治家としての彼について、ある程度以上の知識を持ってはいたが、自分の生活とは遠い話のように感じていたという人もいる。それが今回のことで、今まで独裁者としてのプーチンの実像を特に気にしていなかった人たちが、核兵器が使用されるかもしれなかったり、第三次世界大戦がはじまるかもしれないという状況の中、現実世界におけるプーチンの危険性を実感してしまうことになった。結果として「プーチン」をネタとして面白がれなくなった人も出るし、中には「ライドンキング」も楽しめなくなってしまった人もいるというわけなのだろう。あそこまで見た目がプーチンそのままだと仕方がないよなと思う。あのキャラの人物像も熊コラのイメージから発展させていったものだし。
 今回のことで、いくつか感じたことがある。
 一つは、世の中には面白がってはいけないものというのはあるということ。例えばカルト宗教がそうだ。一般的にはネタとして消費されていたオウム真理教がどれだけの凄惨な事件を起こしていたことか。
 政治家も、そういうものの一つかもしれない。なぜなら、彼らは一般の人たちの生活に多くの影響を与えることが可能な存在だからだ。場合によっては命すら奪うことができる存在だ。私が若い頃、友人の中には石原慎太郎氏をネタ的に面白がっている人もいた。彼のめちゃくちゃな暴言を、間違っているから面白いと消費していたのだ。ただ、都内のクラブに対する締め付けが厳しくなると、彼も石原氏に普通に批判的になっていたわけだが。やはり、自分の生活範囲に対する影響がはっきり体感できると、面白がってはいられないということなのだろう。面白がれるというのは、他人事だからというわけだ。プーチンにしたって、そういうことだ。
 もう1つは、今現在生きている現実の人間のイメージ(あくまでイメージであって実像を調べてとかそういう感じではない)を使ってキャラクターを造形した創作物、いわば、現実の人物をまんまモチーフに創られた二次創作的な作品、キャラクターの外見まで現実の人物から借りてきているような漫画作品についてだ。それは実在の人物をモデルにした作品というのとも少し違っている。
 現実の人物の実像が明らかになることによって作中の人物のイメージが変わってしまい、作品がダメージを受けることもあれば、作品の印象で実在の人物のイメージに影響がある場合もある。イメージが良くなる場合もあれば、悪くなる場合もある。その実在する人物の実像を作者自信が把握していることはまれだろう。あくまで作者のイメージにすぎないのに、読者は実際の人物をしらないまま、実在の人物に対して必要以上に好感をいだいたり、悪意をいだいたりもしてしまう。そのことについて、作者がどれだけの責任がとれるのかということもあるが、何か起こっても責任のとりようもないだろうし。本当に難しい。余談ではあるが、90年代以降、実際より極悪に描かれていることがほとんどなのに、多くの場合は魅力的にうつり、本人のイメージも損なわれないという、アントニオ猪木という人は本当に珍しい人だなと思う。自分の中のアントニオ猪木像にこだわりをもった、自分だけの「猪木」を作品にしたかった作家が多いからでもあるだろうが。
 生身の人間を対象にして無自覚に面白がったりするのは、他人ばかりではなく、自分にとっても危ないことである場合もあることを考えさせられた数日間だった。それ以上に未来への不安を感じる数日間だったし、それはどこまで続いていくのがわからないのだけれど。
(隔週金曜連載)

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写真:アテネ, ギリシャ - 2016 年 5 月 27 日: ギリシャへの訪問での共同記者会見中にロシア連邦のウラジミール・プーチン大統領©ververidis/123RF.COM(エディトリアルライセンス)
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