演出・小林且弥×主演・安西慎太郎 
舞台『象』で目指す各々の新たなステ
ージ

古典作品のリメイクや歴史エンターテインメント作品などを数多く手掛けている「る・ひまわり」。2022年4月に上演する『象』では新進気鋭の映画監督・齋藤孝が脚本を担当し、俳優・小林且弥が初の演出に挑戦する。
本来は2020年に公演を予定していたが、コロナ禍により企画が中断。現在の社会情勢や生活の変化といった「今」に目を向け、廃業することとなったサーカス団の最後の一日を描く、『象』という作品が新たに誕生した。サーカス団で働く一癖も二癖もある人々の物語を紡ぐのは、安西慎太郎、菅原健、鎌滝恵利、伊藤裕一、伊藤修子、木ノ本嶺浩、大堀こういちといった個性豊かなキャストたち。
初演出を手掛ける小林且弥とクラウン見習い役の主演・安西慎太郎に話を聞いた。
■今度こそお客様に作品を届けたい
小林且弥
――元々2020年8月に公演を予定していたということですが、その時から『象』という作品で考えていたんでしょうか。
小林:全然違いました。コロナ禍での変化も踏まえて(『象』に)決めました。
――本格的に動きはじめたこの作品についての想いを教えてください。
安西:コロナ禍がここまで続くとは、前は思っていなかったです。リベンジというか、今度こそ必ずという思いがありますね。まずはお客さまに見ていただけるように気持ちを乗せて、大切に作っていきたいです。
小林:正直、この作品も本当にできるかまだわかりません。改めて舞台芸術をはじめとするエンタメコンテンツは社会情勢や社会のあり方と密接に関わっていることを痛感します。その中で、意味のあるなしは別にして「やらなきゃいけない」という気持ちがある。舞台のテーマに直接関わっているわけではないですが、コロナ前と比べて、その思いは一つ乗っかっていますね。
■お互いをよく知る二人ならではの想い
安西慎太郎
――これまでる・ひまわり作品などで共演されているお二人ですが、今回お互いに期待していること、楽しみにしていることはありますか?
小林:慎太郎と初めて共演したのは7年くらい前になるのかな。出会った頃から気になる存在でした。今は経験を積んで、「安西慎太郎」というイメージができていると思いますし、今の慎太郎に向かって僕が言うことではないですが、役者として一つの生き物になってほしいと思っているんです。僕が好きな役者さんって、その人自身が“役者”という生き物なことが多い。そうなれる人は限られていて、そこで勝負しちゃいけない人もいっぱいいる中で、慎太郎はそうなれる人だと思う。言語化するのは難しいですが、たくさんの若手俳優がいる中でも、何かを持っている存在だと思うんです。映画や舞台といったコンテンツは人間の感情やコミュニケーションを描いているわけで、時代がどんどんデジタルになっていく中でも、役者が見せられるのはお芝居だけ。人としての面白さや狂気、そういうものが少なくなっていると感じる中で、慎太郎にはその辺を失ってほしくないと思っています。
安西:そうですね。且弥さんに期待していることか……。
小林:いいじゃん、何も期待してませんって書いてもらいなよ(笑)。
安西:今はいいけど文字にすると伝わり方が変わっちゃうじゃないですか(笑)。且弥さんという存在が人から特別視されていますよね。『象』を発表した時、周りの役者さんたちから「やばいね、いいね!」とか「且弥さんの演出受けたい」とか羨ましがられたんです。それくらい価値の高い人の元で……。
小林:「価値が高い」ってあんまりよくないよ。でも書いてもらって(笑)。
安西:価値の高い人の元でお芝居できるのが嬉しいし幸せです(笑)。いつもはプレーヤーの且弥さんだったけど、今回は演出。正直想像がつかなくて、期待というよりもどういう感じなのかなと思っています。でも、色々なお話を聞いていると、芸術や演劇のこともそうだし、一つの作品を作るときも、考えている量がすごいんですよね。だから逆に、我々カンパニーの一人ひとりにめちゃくちゃ期待してもらいたいなって。且弥さんの力と我々の力を合わせて手を取り合えば、本当に良い作品にできると信じているので。
■役をもらうだけでなく、自分から何か与えたいと考えるように
小林且弥
――小林さんが演出に挑戦しようと思った理由は。
小林:何年か前にお話をいただいたんですが、当初は自分の中でもピンと来なかったし、あまり本気にしていませんでした。監督や演出は僕にはできないし、役者としての自分の見せ方を考えたときに、そういう自分を作りたくないとも思っていて。でも、年を重ねるうちに考えも変わって、役者としての関わり方だけじゃなく、演出などに挑戦できる場があるなら自分なりにやってみようかなと思うようになりました。格好付けるわけじゃありませんが、18年くらいこの仕事をしていて、演劇に携わることができているのが僕の人生。役者だけをやっていく・役をいただいて自分が頑張るのも素晴らしいけど、一方通行ではなく、僕から何かを還元する・与えるという双方向のやりとりをしてみてもいいと思いました。僕が演出をすることが還元になるかは分からないけど、自分の中で何かを削ってお届けするのも一つのやり方かなと。
――カンパニーの作り方はどう考えていますか?
小林:引っ張っていかなきゃいけなかったり、役者さんを信じることだったり、僕自身演出を受けてきたから、こうしなきゃいけないだろうなというのはあります。でも、演出はこの一回だけだと今は考えていて。例えば僕が職業演出家で、この年までにこの賞をとって……というビジョンがあるなら方法論なども考えるけど、そうではないので自分が見てきたフォーマットに当てはめることはしたくない。役者としてやっているように、稽古場で探そうと思っています。本当は色々な理論や演出方法を考えたらいいんだろうけど、それもつまらないなと思って。
――この一回限りというのはもったいなく感じます。
小林:『象2』やります?
安西:『象2』(笑)!?
小林:次の機会がないくらい偏ったものにしちゃえとも思っています(笑)。ただ、チケット代9800円という金額を見て、改めて責任を実感しましたね。
■自分と似ているけど似ていないからこそ、愛おしいキャラクター
安西慎太郎
――意気込みやお客さまへのメッセージをお願いします。
安西:現時点で思っているのが、この作品は今までで一番しんどいかもということ。今までの僕でやっても意味がなく、殻を破るというか新しい自分を手に入れないといけないだろうなと思っています。すでにこの作品がすごく好きで、自分の中で一生忘れないし消えないだろうなと感じていて。役者を10年近く続けてきて、もちろん毎回本気ですが、本作にはすごく執着していて本気度も高い。自分が今できる限界を超えた本気を観てほしいと思っています。あとは、本当に個性豊かで面白い人たちが揃ったカンパニーですし、演出が且弥さん。楽しみに、というか、ふらっと観にきていただけたら嬉しいですね。
――この作品への執着というのは。
安西:25歳くらいから、これでいいのかずっと考えていたんです。役者として、現状のまま積み上げて行ってもそれなりの役者にしかならないんじゃないかって。それがずっと自分の中で引っかかっていました。さっき且弥さんが“役者という生き物”という言葉を使いましたが、僕が求めているのもそこかもしれない。自分が“生き物”になれる最大のチャンスというか、変わるとしたらここだという予感があるからの執着かもしれません。
――『象』という作品がそう思わせるんでしょうか?
安西:作品自体もそうですし、自分が今置かれている状況や環境もあるかもしれません。主人公である松山くんに共感はしないし理解もできないけど、なんとなく分かるんです。うまく言えませんが、自分のことを分かっているようで分かっていないのと似た感覚なのかな。「自分はこういう人間だ」と思ってるけど実際そうじゃない感じが、松山くんという人物の要素にあるんじゃないかと思っています。人間って周りの環境に染まることがありますよね。脚本を読み終えた時に思ったのが、人間は人間がいるから生きていけるけど、人間がいるから生きていけない。そこが好きというか、そうだよなと思います。自分が生きていく形みたいなものを、松山くんも他のキャラクターたちも考えている。僕もすごく考えるし、松山くんが通るルートが分かるというか。人生の一瞬を切り取った時に自分に近いけど近くない、もどかしいところにいると感じるから、松山くんがすごく愛おしいんですよね。自分と似ているわけではないし似ていないわけでもない。その距離感だからこそ松山くんやこの作品に愛おしさを感じて執着しているのかもしれません。
■“舞台”の良さを実感してもらえる作品に
左から 小林且弥、安西慎太郎
――小林さんも、改めて意気込みやメッセージをお願いします。
小林:今、コロナ禍で配信が増えていますよね。もちろん配信で観ていただけるのもありがたいんですが、僕が演出をする上で絶対に譲れないのが、「舞台」でやる意味。題材が決まる前、演出を引き受けた時点で、テレビでやってもいいものはやりたくないと思っていました。生であることを引き算してしまうと、僕の中で「舞台」じゃなくなるんです。こういうご時世の中で、4月の公演がどんな状況になっているかまだ分かりませんが、生で観るからこそ舞台なんだなと思ってもらえるものを作ろうと思っています。コロナ禍で色々と難しい部分もあり、「いい舞台を作るので皆さんぜひ来てください!」とは言いきれません。その中でも、観に来てくれた人に伝わるものを作りたいと考えています。

360°を観客に囲まれたセンターステージという、本当のサーカスのような空間で描かれる本作。数々の作品で魅力溢れる人物を演じ続けてきた小林による演出と、実力派キャストたちの化学反応に期待が高まる。
取材・文=吉田沙奈 撮影=荒川潤

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