佐藤浩希に聞く~『悠久に遊ぶ』で挑
む「邦楽器とフラメンコによるコラボ
レーション」のこだわりとは

ARTE Y SOLERA(鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団)『悠久に遊ぶ』が2022年3月15日(火)~17日(木)東京・渋谷区文化総合センター大和田 6階 伝承ホールにて上演される(3月16日夜公演をStreaming+で生配信し、22日までアーカイブ配信もあり)。『悠久に遊ぶ』は「邦楽器とフラメンコによるコラボレーション」と銘打たれ、2019年11月、東京・MUSICASAで初演された。日本を代表するフラメンコ舞踊団と太鼓芸能集団・鼓童出身の吉井盛悟(音楽監督)を始めとする邦楽器の名手らが共演し絶賛を博した舞台が、劇場用改訂版として再演される。演出・構成・振付・出演の佐藤浩希に創作の魅力や抱負を聞いた。

■邦楽・日本の伝統芸能との出会いから広がった創造
――佐藤さんは、フラメンコはもとよりスペインの歌謡曲などにも通じ、音楽全般に対して造詣が深いことで知られています。邦楽を用いて創作しようとしたきっかけは?
フラメンコを始めた頃、お世話になっていた舞台監督の赤木知雅さんに「日本人なんだから、スペイン人のフラメンコだけを追求していても、結局はスペイン人の物真似で終わってしまう。日本の伝統芸能を勉強して、いずれは日本人のフラメンコを築きあげなさい」と言われました。僕はもともと音楽オタクで、ロック、クラシックと雑食で手当たり次第に何でも聴いていたのですが、当時は西洋のものに憧れていたので邦楽は遠い存在でした。
そうするうちに、能楽師の津村禮次郎さんのお弟子さんたちと共演することになりました。打ち合わせの時に能楽の実演に接して、フラメンコから受けていた人間の発する表現の強さとか凄さと同レベルのものをキャッチしたんです。能との出会いが衝撃的過ぎて、それがきっかけで邦楽をおもしろいと思うようになりました。
赤木さんからは「近松(門左衛門)の心中ものを題材に作品にしなさい」と言われました。最初は心中するという気持ちがよく分からず、話を遠ざけていたんです。でも、いろいろな作品に取り組み人生経験を積むなかで、お互いが恋の果てに愛を貫き通すために死を選び来世で結ばれるという考え方が分かるようになってきました。そこで『FLAMENCO 曽根崎心中』(後に『Ay曽根崎心中』と改題)をやるに至ったのですが、そこで邦楽や日本の伝統芸能の方たちが寄ってきてくださいました。目から鱗というか、日本人としてフラメンコをやっていくひとつのあり方として、日本の伝統芸能を学びながらより深めていけたら楽しいと思うようになりました。
『Ay曽根崎心中』 撮影:川島浩之
――『悠久に遊ぶ』の音楽監督・作曲を務め、篠笛・胡弓を演奏する吉井盛悟さんとの出会いも大きいですよね? 
2009年に佐渡でフラメンコライブをやった時、盛悟くんたちが遊びにきてくれました。意気投合し、何かやろうということになりました。当時、能や歌舞伎にハマっていたので『道成寺』を一緒にやりました。(太鼓芸能集団の)鼓童出身の彼らは、日本の伝統を学ぶに際し、一から学んでいく姿勢を持っています。フラメンコに対しても、ワークショップをして踊りも歌も時間をかけて体に入れてから作業してくれるので、もの凄く手ごたえがあります。企画物、コラボレーションをやる時、稽古期間が決まっていてすぐにやるのでは薄っぺらいものしかできないと思うんです。その点、盛悟くんは、お互いに学び合って融合していくことができる仲間です。
『道成寺』 撮影:川島浩之
――『悠久に遊ぶ』をどのように構想されたのでしょうか?
フラメンコはスペインのアンダルシアのロマ民族が創り上げた言われ、それが一番の柱なのは間違いないですが、イスラム教音楽などの影響も大きいんです。それらと長い時間をかけて融合していった背景をみても、日本の伝統音楽と交じり合って時間をかけて一緒にやっていくなかで、何か新しい芸能の芽生え、発端になるような生き方ができないかと考えるようになりました。盛悟くんと「そうしたロマンはまるで悠久に遊んでいるみたいだね」という話になりました。そこから自然に『悠久に遊ぶ』というテーマが決まりました。
『悠久に遊ぶ』 撮影:川島浩之
■「邦楽器とフラメンコによるコラボレーション」の真髄とは?
――佐藤さんが津軽三味線の浅野祥さんともに披露するシギリージャは特に印象的です。シギリージャは古いいわれを持つフラメンコの曲種ですが、三味線も地域の土着芸能と共に育まれてきました。踊りと音楽の共振・共鳴、それに打ち付け合うような技業の応酬が刺激的でした。
この作品を象徴する一曲です。「ぴったりだから、三味線でのシギリージャは『悠久に遊ぶ』という題名にしよう!」となったんですね。こうした融合は、手法としてはとても純粋なやり方なんですけれど、浅野祥のセンスが良くて、フラメンコでやっているそのままを彼が体得して弾いてるんです。リズムが非常にやっかいで捉えどころがないんですが、体得してくれました。いずれふたりでスペインで道場破りではないですけれど、演奏行脚をしたいと話しています。
『悠久に遊ぶ』 撮影:川島浩之
――主演は公私にわたるパートナーである鍵田真由美さんです。フラメンコと邦楽の取り組みに対して、どのように考えているのでしょうか?
鍵田は大分前から踊り手としてフラメンコであろうと、何であろうとよくなっちゃっている感じなんですね。私なんかはフラメンコしか踊ることができないのですけど、そうではない域にいってしまった。現代の巫女というか、神降ろしというか、本来あるべき踊り子というか原始に帰って踊っているので、「良いものさえ創ってくれれば私は踊るよ」みたいになっていますね。
『悠久に遊ぶ』 撮影:川島浩之
――「邦楽器とフラメンコによるコラボレーション」の難しさや魅力は何ですか?
「楽譜があって、お互いに奏でましょう」ということをやっているわけではないんですね。フラメンコ自体が訛りの強い音楽であり芸能なので、スペイン人でも皆が分かるわけではないんです。歌を歌っても何を言っているのか分からないような、強烈な訛りを残した芸能です。日本でいえば、奄美の人と津軽弁を話す人が一緒に喋っても会話が成り立たないような感じです。そこをどうにかして話をしていくのが難しさですね。惚れたもの同士がいかに共通語を生み出していくのか。一体俺たちは何を語り合えるんだろうかと。だから非常に時間がかかり、効率も悪いんですけれど、できあがった時に、作り物ではなく自然なんです。
大きな話になりますが、お互いが出会うことによって芸術は国境の壁を越え、言葉の壁を越えていくことができます。人々は融合できる、きちんとハーモニーを生むことができる。芸術には、その使命しかないんじゃないかなと思います。私たちは、そこを目指しているというか、平和への祈りに捧げたい。そうした思いを底辺に抱きながらやっています。
『悠久に遊ぶ』 撮影:川島浩之
――邦楽器が増えますが、そこも含めてどのように演出されるのでしょうか?
盛悟くんは和楽奏伝というグループを組んでいて、彼らの公演を観に行くと雅楽が入っていたんです。笙とか篳篥の響きがあまりにも素晴らしかったんです。大陸からシルクロードを伝って、日本に来て冷凍保存されている芸能の響き。それこそが『悠久に遊ぶ』の響きそのものです。その響きを加えることによって、やっとひとつの作品として完成するんじゃないかなと。手前味噌ながら素晴らしいメンバーたちの踊りを劇場空間でより魅力ある形に振付して、舞踊団としてのカラーをいかんなく発揮したいと思います。
――舞踊団の層は厚いですね。工藤朋子さんや三四郎さん、最近では中里眞央さんが注目されています。OBの矢野吉峰さんも客演として公演を支えていますね。
30年という時間はかかりましたが、いい人材が育ってきました。人が育つというのは10年単位の話です。いろいろ紆余曲折を経て、こういうふうになってきました。
『悠久に遊ぶ』 撮影:川島浩之
■「求めてくれる人々のために、命を懸けて舞台を創る」
――KADOKAWA、松竹、松竹エンタテインメントなどの主催・製作により行われたフラメンコライブ公演『Golpe』(2020年、2021年)では今井翼さんを迎え、多くの観客を集めましたが、コロナ禍以降の主催公演としては『悠久に遊ぶ』が初めてです。コロナ渦で公演を打つことへの思いをお聞かせください。
2020年の春に最初の緊急事態宣言が出た頃、クラスを一度締めようかと思い、生徒たちに「踊りたい?」と聞いたんです。すると「踊りたいです!」といってくれた。舞踊団も含め彼らに「踊りたい?」って聴く機会ってなかったんですよ。だって、踊りたいから踊っているわけで、聞くこと自体がおかしかった。「踊りたい!」という言葉を聞いて、人間が生きていくなかで踊っていくことが大きな活力になっていくと初めて実感できたんですね。私たちは、自分が好きで踊って、誰からも頼まれていないのに会を開いている(笑)。自分たちの職業って、生きていくために一番必要がないと思っていたんですけれど、生徒が「踊りたい!」っていってくれるのだから、感染予防対策をしながらレッスンを続けました。
『Golpe』をやる時も「今やるべきなのか……」とも考えたのですが、「観に行きたいと!」と思ってくれる人々がいました。翼くんとツアーをやることによって、各地でお客さんが来てくださる。この体験から私たちが忘れてはいけない大事なことを教えてもらいました。人々が生きていく大きな栄養のひとつとして、私たちが作用できている。求めてくれる方々がいらっしゃる。命を懸けて舞台を創ることのありがたさを実感しました。
以前から『道成寺』など日本の神話をテーマにした作品を創っていました。人間が生きていくなかでやってはいけないものに触れてしまい、神様が荒ぶって人々に災いをもたらす。それを悔い改めて、神の怒りを鎮めてどうにかまた平穏な暮らしを学び直す。そうした神話と共通する部分があります。もともと自然との共存といったテーマを念頭に置きながら活動してきたので、『悠久に遊ぶ』とも深い部分でつながっています。この大変な時期を過ごしている私たちが、明るい未来を見据えて生きていこうという強いメッセージとなるようにと願い制作しています。
『Golpe 2020』 撮影:川島浩之
■「コロナ禍で目覚めた、新たな可能性を深めていきたい」
――佐藤さんはこのところミュージカルミュージカル『ゴヤ-GOYA-』、ミュージカル『ドン・ジュアン』、歌舞伎✕フラメンコによる『GOEMON』等の外部公演においてフラメンコ振付として関わることが多いですね。そういったお仕事を通して得るもの・やりがいとは?
お金をもらって勉強させていただいている感じです(笑)。いっぱい刺激をもらって、それをすべて舞踊団にフィードバックしています。フラメンコを伝えるという面では重責を担っています。フラメンコは特殊技能なので、なるべくワークショップを多めにとってもらいます。びっくりすることなのですが、歌舞伎の(片岡)愛之助さんとか、(中村)壱太郎くんのような、日本舞踊の素養がある役者がしっくりくるんですね。腰を落として踊ることや摺り足がフラメンコに通じます。フラメンコでも脚を打ち付けるよりも、ただ歩くだけの方が難しい。動かないで踊るということは、どれほど難しいことなのか。矛盾することですが、そう思います。
『悠久に遊ぶ』 撮影:川島浩之
――この先、どのように活動しようとお考えですか?
コロナ禍でスペイン人を呼べなくなりました。公演を打つ時、歌い手は自分たちでやろうとなって、意外にも好評です。カンテは一番大事にしている部分なので、うちの舞踊団では踊るならば歌も勉強しなければいけないということで、全員歌えるようにしています。でも舞台で歌うのは別で、それはやっていなかったのですが、中里眞央という才能が出てきて、また関祐三子という全然違うタイプもいます。望外というか、新たな人間の可能性に目覚めました。今後、より人間の持つ可能性、うちの舞踊団の可能性を深めていきたいですね。私と鍵田だけではなく、全員が光り活躍できる作品創りを心がけていきます。
#せたがや元気出せArtsプログラム 動画公開中 フラメンコと津軽三味線のコラボレーション 「悠久に遊ぶ」

取材・文=高橋森彦

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