桂春蝶×桂吉弥×春風亭一之輔『三人
噺』で東西きっての売れっ子落語家が
揃い踏みーー落語のおもしろさは「噺
家の芸が変わっていくこと」

桂春蝶、桂吉弥、春風亭一之輔という上方落語会と江戸落語で随一の売れっ子である噺家の競演『MBSらくごスペシャル春蝶・吉弥と一之輔三人噺』が4月4日(月)に大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティでひらかれる。落語会だけではなく、さまざまなメディアで活躍している三人とあって、特に注目を集めている同公演。演目は、春蝶が「浜野矩随」、一之輔が「青菜」、吉弥が「愛宕山」を披露する。そんな彼らに今回インタビューをおこなったが、取材のなかで思いがけない出来事の吐露もあり……。それでも話を笑いに変える三人の凄みを、本稿から感じとってほしい。
『MBSらくごスペシャル春蝶・吉弥と一之輔三人噺』
●桂春蝶、桂吉弥、春風亭一之輔の共通点は、あの話題
――春蝶さん、吉弥さん、一之輔さんはそれぞれペアで仕事をすることはありましたが、三人揃って、ユニット的な形は初めてですね。
吉弥:最初に『三人噺』の企画を聞いたとき、「おもしろい会になるやろうな」と思いました。僕らは噺家であり、ひとりの落語ファンでもある。だからほかのふたりがどんな噺をするのか、それが楽しみ。春蝶さんは同期でずっと一緒にやってきたけど、「ここに東京の一之輔さんが入ってくるのか!」と素晴らしい人選だと感じました。YouTubeにアップされている「らくだ」も見ていたし、一之輔さんの一門会の話もおもしろかったですから。
春蝶:主催のMBSさんから「春蝶さん、東京からどなたか推薦してもらえませんか」と相談を受けて、一之輔さんに声をかけました。後輩のなかでも一番腹が据わっているし、何より彼の落語が好きなんです。吉弥、一之輔、春蝶の組み合わせであれば、落語を生で観たことがない新しいお客さんにも来てもらえそうだなと。そういうイメージがしやすかったんです。
一之輔:春蝶さんから急に電話がかかってきたときは、行けなくなった営業仕事の代役かと(笑)。春蝶さんはこうやって、僕のことを「腹が据わっている」とか言うじゃないですか。確かにふてぶてしく見られるんですけど、意外と腰が低くて気が小さい男なので「僕で大丈夫ですか」となりましたね。
桂吉弥
――みなさん個性がバラバラですが、あえて共通点を挙げるなら「野球好き」というところですね。
春蝶:うちは家系的にもずっと阪神タイガースファン。親父(二代目桂春蝶)は「たのんまっせ!阪神タイガース」(1984年)というCDも出しているくらいでね。僕は子どもの頃、親父に「中日ドラゴンズのファンになる」と言ったことがあるんです。そうしたら親父は100万円を出してきて「これをやるから、よその子になりなさい」と(笑)。あとね、親父が甲子園球場へ観に行ったらよく負けるとファンの間でも噂だったんです。
吉弥:それはよく知られた話やね。スタンドで「春蝶帰れ」コールが起こったという。
春蝶:親父に甲子園へ連れて行ってもらったとき、「春蝶帰れ」コールが起こって、「うちのお父さんはこんなに世間から嫌われているんか」と本気で泣いたんですよ。そうしたら親父が小さい声で、「いや、こういうこともいろいろ金になるんや」と囁いてきました。
春風亭一之輔
――炎上商法みたいなものですね。
春蝶:そうそう。すぐに炎上するのも、うちの家系なんですかね。
吉弥:笑いづらいわ! 僕の場合は野球シーズンになると、未知やすえさん、ハイヒールモモコさんから「今年はいつ、タイガース戦に行きますか」と連絡が来て、チケットを手配するんです。最近はMBSのアナウンサーさんたちからも「吉弥さん、タイガース戦に連れて行ってください」と頼まれて。きっと、僕に声をかけたら段取りしてくれると思っているんでしょう。
一之輔:僕が野球を好きになった頃は、タイガースはちょうど暗黒時代でね。ジャイアンツファンで、王貞治監督、藤田元司監督が率いていた時代が好きでした。あと関東は巨人ファンじゃないと生きづらいところがあったんです。東京には東京ヤクルトスワローズのファンも大勢いたけど、東京近郊となると、テレビでは巨人戦ばかりやっていたから。学校へ一度、大阪近鉄バファローズの帽子をかぶって行ったら、同級生から「どこのチーム?」と尋ねられましたから(笑)。
●春蝶「母親のあの言葉には本当に救われました」
桂春蝶
――先ほども春蝶さんがおっしゃったように、お三方は新しい落語ファンを意識するように、多方面で活動されていますね。
春蝶:そういった活動を通して、噺家として気づくこともたくさんあります。舞台『天空の恋~谷崎と猫と三人の女~』(2016年)に出たとき、演出家のG2さんに、「あんたたちはとんでもないことをやっているんやで」と言われたことがありました。「落語家は舞台の中央に座り、正面を切って噺をする。これを演劇にたとえると、一番重要な台詞のときにやるもの。それを40分、50分くらい演じている。本当に怖いことをあなたたちはやっているんだ」と。
吉弥:戸田恵子さんも一人芝居を初めてやられたとき、「怖い」とおっしゃっていました。「芝居中、お客さんが何かを言ってくるかもしれない。ミュージカルなら音楽があるし、共演者がいれば芝居を続けることができる。でも一人芝居はそうはいかない。落語家さんたちはよくやってるよ」と。そういえば以前、たまたま春蝶さんの扇子を持って噺をしていたとき、うどんの仕草でこれを広げてパタパタとやっていたら、前列のお客さんが「へえ、春蝶の扇子を使ってるんや」とボソッと口にしたんです。何も考えずにその扇子を使っていたから、その声が聞こえてきてちょっと動揺しちゃったんです。でも驚くわけにもいかないから、自分を落ち着かせるために1分くらい扇子をあおぎましたね。
一之輔:生の声が聞こえてくるのも、醍醐味ですよね。逆に僕は、YouTubeで生配信(『10日間連続落語生配信』)をやったとき、お客さんがいないから最初はしっくりこないところがありましたね。ただ、「ずっとウケている」と思ってやっていたら、アドレナリンが出てきてね。寄せられたコメントもポジティブな意見が多かったですから、「形は違っても伝わるものだな」と。
桂春蝶と桂吉弥
――あの生配信で「落語を生で観てみたい」と興味を持った人も多いはず。
一之輔:確かに地方へ独演会に行くと、「YouTubeで初めて観て、今日来ました」と声をかけてくれる方もいます。特にお子さんとかね。ただこういう伝統芸は、そうやって新しいことをやると、好意的な意見ばかり集まるわけでもないです。
春蝶:それで良いと思うよ。好意的な意見じゃなくても、「じゃあ、こいつの落語は実際どんなもんやろ」と観に来てくれたらそれで勝ちやから。僕もネットで叩かれたことがあったけど、そのとき母親から「あんた、世の中からえらいボロカスに言われてるやんか」と言われて。「何があったかは別として、でもそれは、あんたのことを世間様が構ってくれていることなんやから。応援してくれてるみたいなもんや。叩かれてるかもしれんけど、そういうのも応援やねんで」と。母親のあの言葉には本当に救われましたね。
●働き盛りの中年・中堅の三人組、ユニット名は「盛り三中」
『MBSらくごスペシャル春蝶・吉弥と一之輔三人噺』
吉弥:そういえば春蝶さん、先日、そのお母様が亡くなられたんですよね。
春蝶:そうなんです。今日のインタビューの前、みなさんに発表させていただきました。実は今回の『三人噺』の演目「浜野矩随」は、僕に重なるところがあるんでんすよ。親父が早世して、その息子はどうにもならない男の噺。そこで母親が、自分の命をかけて息子を開眼させようとするんです。落語は歳をとればとるほど、噺家もお客も人間関係のおもしろみ、人の業や欲、愚かさ、悲しみの味わいが深く分かっていくもの。今回、母親が亡くなったことで、僕もまたひとつ身にまとうものが増えた。誤解せずに聞いてほしいことなのですが、母親が亡くなって悲しいことなんやけど、噺家としてはそういう経験から次はどういう芸が次にできるんやろうと、興味深いところもあるんです。
春風亭一之輔
一之輔:僕は今、そのことを初めて知ったので驚きました。そんなこと、なかなか言えるもんじゃありませんよ。
吉弥:でも実際にそういう経験をしているわけだから、間違いなく噺家としては芸に影響してくるよね。
春蝶:落語のおもしろさは、一之輔は一之輔、吉弥は吉弥の身の上に何かあれば、それが噺にあらわれるところ。そうやって演者は変わり続けるから、同じネタをやっても以前とは解釈が変わるんです。落語はあけすけなもんやから、噺家の性格が全部出る。非常に変わりやすいものなんですよ。
一之輔:僕なんかもね、確かにお客さんからよく「一之輔は毎度、言ってることが違うじゃないか」と指摘されるんですよ。「その場で言葉を考えているんじゃないか」と。でもその通りでね。僕は良い意味で目先の笑いに走っているから。お客さんが「いつもよりノリがいいな」となると、その場の思いつきで話しちゃったりして。
吉弥:お母ちゃんが亡くなった春蝶が、それをどう芸にしていくのか。何があっても落語は笑えるもんなんで、もし今回の『三人噺』で春蝶さんが一世一代の芸を見せたら、明るくこう言ってやりましょう。「ええタイミングでお母ちゃんが亡くなったな」と。
春蝶:こらこら(笑)。
桂吉弥
――そういうふうに言い合えるのも、この三人だからこそなのかなと。今回、好評であれば第2弾、第3弾が続いていきそうですが、もしこの三人にユニット名をつけるとしたらどんなものでしょうか。
吉弥:中堅どころの三人やから、何やろうね。
一之輔:もう中堅なんですか。バリバリの若手な気がしていました。
春蝶:社会では40代は働き盛りじゃないですか。モリモリと働いている中堅、中年の三人……ということで、「盛り三中(もりさんちゅう)」でどうでしょう。ぜひみなさんに、盛り三中の公演を観てほしいです。
桂春蝶
取材・文=田辺ユウキ 撮影=高村直希

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