なかったことにされた高校生の2人芝
居がきっちり面白かったので自分たち
でさくっとやってみる会『明日のハナ
コ』 “きっちり”と“さくっと”を
紐解く座談会インタビュー 

2022年4月8日(金)より3日間、東京・梅ヶ丘BOXにて「なかったことにされた高校生の2人芝居がきっちり面白かったので自分たちでさくっとやってみる会」の『明日のハナコ』が上演される。
本戯曲は福井農林高校演劇部元顧問であった玉村徹氏が書き下ろし、昨年9月に県の高校演劇祭にて無観客上演された二人芝居。作中で原発を扱ったことや差別発言が引用されているなどの理由で一校のみケーブルテレビ放映を外された上、記録映像の閲覧規制や脚本集の回収などが採決なく決定される事態となった。これらを受け、玉村氏は劇作家・演出家の鈴江俊郎と有志数名とともに『福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための「明日のハナコ」上演実行委員会』を発足。オンライン署名や台本の公開を行う傍ら、全国での上演活動も続けている。

光瀬指絵(ニッポンの河川/スイッチ総研)
そんな折に、鈴江を介してことの経緯を知った俳優・光瀬指絵(ニッポンの河川/スイッチ総研)は、田中祐希(ゆうめい)と森谷ふみ(ニッポンの河川)と「なかったことにされた高校生の2人芝居がきっちり面白かったので自分たちでさくっとやってみる会」を結成、早々に上演に向けて動き始めた。「なかったことにされた」ことと「きっちり面白かった」こと、そのどちらも伝えたい。ユニットには光瀬のそんな想いがあり、それらを「さくっとやってみる」べく集った8名の演者の姿がある。舞台上で放たれる個性同様少しずつ違う、けれども誰もが真摯な眼差しと想像力を寄せ合って上演を目指す本公演。その参加メンバーは、光瀬・田中・森谷のほか、有吉宣人、石倉来輝(ままごと)、川田希、福永マリカ、茂木大介。稽古後に、それぞれの想いと戯曲の魅力について話を聞いた。

二人きりの舞台で起きるあれこれに可能性を馳せ、躍動的な演出を試みる。稽古撮影/丘田ミイ子
■「あったこと」を「なかったこと」にしたくない
――まずは、ユニット結成と上演に至った経緯を改めてお聞かせいただけますか?
光瀬:この問題が世に出てしばらくしてから、私のタメ語で話せる恩師の劇作家・鈴江俊郎さんからメールが届いたんです。そこにはリーディング公演の知らせとともに、ことの真相や経緯が綴られていました。全てをすぐには把握できなかったけれど、即答で「やります」と返事しました。鈴江さんがこのことに胸を痛め、奔走されていることが強く伝わってきたこと。それが最初のきっかけでした。
田中:僕は指絵さんに声をかけてもらった時に初めてこの問題を知りました。どんなことが起きて、当事者の人たちは今どんな気持ちでいるのか。聞いているだけではそういったことがもう一歩深く考えられなかった。だからこそ、「やりたい」と思ったんです。自分は俳優で演劇をやっているのだから、活動をする中でもっと考えることができるんじゃないかと思ったんです。
田中祐希(ゆうめい)
光瀬:スイッチ総研にもいつも参加してくれている田中ちゃんを誘った理由はいたって明快で、本人から「指絵さん、疲れる芝居がやりたいですね!疲れる芝居誘って下さい!」と言われていたからです(笑)。田中ちゃんは器用に適当に物事をこなさないし、こなせない人。本気で全力でやってくれる。高校生が上演したものを大人の私たちがやる上では飛び越えなくてはならないこともあると思います。そんな中で、田中ちゃんの存在はとても頼もしい。もう一人同時に声をかけたのが、ニッポンの河川でも一緒に演劇を作ってきた盟友・森谷ふみちゃん。
森谷:年明けに久しぶりに会って、ざっと話を聞かせてもらったんです。実は私も「あったこと」を「なかったこと」にされた経験があって……。指絵ちゃんがそのことを知った上で声をかけてくれたということがすぐに伝わってきました。
森谷ふみ(ニッポンの河川)
森谷:自分がその経験をしたのはだいぶ大人になってからのことだったけど、それでも「当事者なのに言えないこと」や「当事者だからこそ言えないこと」があった。今回、当事者になった子たちはまだ16歳とかで……。大人だから口を出していいわけではないかもしれないけれど、自分の経験から「当事者じゃないからこそできることがあるかもしれない」と思って、すぐ参加を決めました。

■「さくっと」に込められた、さくっとは語れない想いたち
――そこから一人、また一人と様々なカンパニーや作品で活躍される俳優さんの名が連なっていきました。どの回を観るのか悩ましい個性豊かなお顔ぶれですが、このあたりはどのような流れで決まっていったのでしょうか?
光瀬:ユニット名にも掲げたのですが、『明日のハナコ』は面白い、素朴だけれどもしっかりと胸を撃つ演劇なんです。やることは最初から決めていたけれど、作者である玉村先生と鈴江さんのリーディング公演を観て、なおのことその決意は固いものになりました。早速SNSに「こんな2人芝居をやります」とアップしたら、のんちゃん(川田希)から「いいなあ、二人芝居」とメッセージが来て。すぐ「出ない?」と返事をして(笑)。
川田:思わず返した返事は「え、出られるの?」だったよね(笑)。観にいく演劇だと思っていたら、なんと、出られる演劇だったのか!と。
光瀬:「さくっとやってみる会」ですから、さくっと連絡が来たので、さくっと誘わせていただきました! 台本を送ったら、「なおさらやりたい」と快諾してくれて。
川田希
川田:「二人芝居がやりたい」と思っていた矢先だったんですよ。あと、指絵ちゃんとは付き合いも長く、この人のやることは大体面白いって知っていたから。その後、内容と経緯を聞いて、「簡単に返事をしちゃいけない」とも思いました。だけど、役者として「この本を面白い」と感じたということが、一つの大きな理由になるとも思ったんですよね。
光瀬:当然ながら、演劇って “さくっと”なんてできないもの。だけど、問題に対する明確な答えを用意して、何もかもに対応できるようになってからしか上演ができないのだとしたら、一生できないかもしれない。だったら、とにかく動いてみよう。そう思ったんです。今回の企画は、出る人にとっても観る人にとっても敷居の低いものでありたい。
森谷:この問題が起きた場所とそこから経過した時間。物理的にも精神的にも自分との距離をすごく考えさせられました。だからこそ、なるべく早くやった方がいい。人って、時とともに忘れてしまうし、真実も薄れていってしまう。それは時にすごく怖いことでもある。答えはわからなくても、「なんか良くないと思う」ということを、漠然とでも意思表明することが大事なんじゃないかなって。
川田:私も今はまだ明確な答えを持っていません。でも、これから取り組む中で少しずつ理解を深めていけたらと思っています。観客の方も同じで、「面白い」と感じた人に少しずつ考えてもらえたら。きっと、人それぞれで引っかかるところも刺さるポイントも違うはずだから。面白い芝居は広く知られるべきだと思うし、純粋にやりたいし、観てほしい。それが今の私の素直な気持ちです。
光瀬:「詳細は知らないけど興味ある」とか「二人芝居やってみたい」とか、出演や観劇の動機はなんでもいいんです。そういう意味での「さくっと」だから。実はもう一人、最たるさくっと枠で出演予定の方がいるんです。これはあしも(石倉来輝)のアイデアでした。
石倉:今、俳優ではない自分の近くの親しい人に声をかけているんです。僕自身、今回の企画はそういう人が参加してもいいんじゃないかと思っていて……。
――なるほど。とても興味深い試みですが、そこにはどんな考えや想いがあるのでしょうか?
それぞれのチームで両役を入れ替えて稽古。限られた時間であらゆるパターンを「やってみる」俳優たち。
石倉:正直なところ僕自身は、演劇の文脈で、いち俳優としてこの問題に取り組むことにコミットできない部分もあって……。というのは、僕がこの戯曲で一番惹かれたのは、“「わたしたち」が<生まれた土地>と<自分>を考え、それらを「自らが」語っているということ”だったから。だからこそ、そこと僕自身との距離を<僕が俳優である>という理由だけでは埋めてはいけないと感じています。
光瀬:こんな風にそれぞれがその人からしか語れない言葉で参加の理由や想いを話してくれること。それって、すごいことだなって思う。
森谷:当事者にならなきゃわからないことって当然あるよね。私も福井県に行ったこともなくて、土地柄や環境もわからない。そんなことも含めて、作品を通して色んなことを想像してるところです。
石倉:俳優としてどうかというよりも、この問題はもうちょっと僕たちの生活や未来に密接に関わることだという気がしているんですよね。だから僕にとってこの公演は、「自分の今の生活の中で『明日のハナコ』を読んだということ」を「なかったことにしない」ための成果発表。そんな態度で参加をすることにしました。
石倉来輝(ままごと)
光瀬:最初に電話した時も「自分はこのことの何だったら背負えるのかな」、「自分はどこの当事者なのかなあ」って言っていたよね。それは私自身も感じていたことなので、すごく心に残っています。
石倉:「背負う」というとおこがましいですが、そんな自分のスタンスを踏まえた試みとして、俳優ではない人にも声をかけてみるという話をしてみたらみなさんが賛同してくれて、同居人に声をかけました。「俳優だからやる」という態度ではないので、同じ家に住んでいる人とやってもいいんじゃない?と思ったんですよね。「さくっと」だから、そんなことも叶う(笑)。もちろんまだ調整中ではあるんですけど……。
光瀬:というわけで、一番のさくっと枠として、今回の企画には初舞台の茂木大介さんがいます!
森谷:とってもいいと思います! 石倉・茂木ペアの上演、私たちも楽しみ。
光瀬:これはある意味、ユニットの趣旨にすごく合った試みだよね。通常上演と躍動的リーディング上演の2形態でやるのも、出演者をギリギリまで調整して小出しに発表しているのも、「一緒にやりたいと思ってくれる人と可能な限り一緒に取り組めるように」という思いあってのことだから。
■「面白い」に“きっちり”を添えた理由
――『福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための「明日のハナコ」上演実行委員会』のHPでは台本も公開されていて、光瀬さんがおっしゃる通り、戯曲そのもの面白さにフォーカスした意見も多く見られますよね。
光瀬:そうなんです。嬉しかったのは、言葉や視点はそれぞれ違ってもキャスト全員がこの作品を「面白い」って言ってくれたこと。信頼している俳優たちがそう言ってくれたことはとても大きかったですね。
田中:二人芝居もやってみたかったし、俳優としても貴重な糧になりそうな、すごい戯曲だと感じました。
川田:経緯はさておき、高校演劇をやっていた身としては高校生がやるべき演劇の代表作のような作品だと思った。自分の今いる場所から過去を遡り、未来を見つめて、どうしよう、こうしようと高校生が話し合って……。演じる方も観る方も考えるきっかけがたくさんありますよね。
石倉:この戯曲にはいうまでもなく強度があるので、とにかくこのテキストは読まれればいいと僕は思っています。その上で介し合う。それぞれの興味や問題は各々持ち帰って発見なりをして、それらがこのテキストで出会う/集まるというのがよさそうだなって。
川田:うんうん。高校演劇のオリジナル作品としてこれが上演されたって素晴らしいことだとつくづく思うよ。経緯や真相の全てをすぐには把握はできなくても、いいお芝居だと思う気持ちは揺るがないよね。
光瀬:玉村先生が実際に生徒たちにヒアリングして書いた戯曲だから、戦争や原発の話だけでなく、高校生の等身大の青春の悩みも織り交ぜられているんです。地に足の着いた、すごくいい戯曲だと思う。あと、土地柄もあって、原発を扱った高校演劇はこれまでもたくさんあったみたいだから、そういう意味では例外なわけでもなかったみたいなんです。
田中:そうだったんですね。なぜ、この作品だけがこんな扱いを受けることになったのか。まだまだ分からないことが多いです。知るのも辛いけど、知らなくては、と思う。
光瀬:難解な言葉でなく平易な言葉、高尚というよりも素朴な芝居。難しくて眠くなっちゃう演劇だったら原発のことを言っても届かないけれど、これだと届いちゃう。そう思って、「なかったこと」にされたのかな、と想像したり。
森谷:なるほどね。確かに色んなことを想像するよね。
光瀬:でも仮にそうだとしたら、対応そのものは酷いものだけれど、演劇における評価としては名誉なことでもある。暗に「面白かった」と言っているようなものだから。
川田:高校生が二人きりで舞台に立ってこの作品を上演すること自体、とても勇気のいることだとも感じたよ。
光瀬:そうだよね。だからこそ、「きっちり」という言葉をつけたかった。面白さの加減を示すだけでなく、「人目から隠されるようなおかしなことは何もない芝居だよ」という意味も込めてね。
川田:これはある高校演劇の話だけど、演劇界に限らずこういった問題はどの世界でも起こりえるし、全てに繋がっていると思う。
――台本やリーディング公演の動画を拝見した時、この戯曲や舞台の魅力や評価が語られないことは二重に辛いことだと感じました。問題にフォーカスすると同時に、その創作における面白さをも伝えること。「きっちり」の真意を知ることができた気がします。
田中:稽古で色んなことを考える度、自分事になっていく気がしています。稽古が活動の一部であるような感じで。普段の僕は、つい楽な方、得する方を選んでしまうこともあって。例えば、きついからあっちにしよう、こっちの役の方が目立てるなとか……。
光瀬:お、それは初めて聞く話かもしれない!
田中:でも、玉村先生や鈴江さん、そして指絵さん。損得じゃなく心で動き続けている人が身近にいる中で、今、僕はすごく刺激を受けているのだと思います。もちろん、図らずも得が後々回ってきたら、それはそれで嬉しいですけど……。
一同:あはははは!
森谷:「いやあ〜、『明日のハナコ』の時の田中くんよかったよねえ、次、こんなのでない?」とか?
田中:わあ、それはシンプルに俳優として嬉しいやつだ!(笑)
田中:でも実際、膨大なセリフを覚えて頑張って稽古をして、そんな演劇が日の目を見ないってすごく悔しいし、損失だと思うんです。僕だったら嫌ですもん。だから、高校生たちにはやっぱりどこかで得をしてもらいたいです!
光瀬:俺が得に変えてやるぞー!ってね!
田中:いや、本当にそのくらいの気概ではあります。問題の真相の中にはやっぱり損得があり、忖度もあると思う。だからこそ、今回ばかりは損得勘定だけでは動きたくない。
森谷:私も指絵ちゃんの話を聞いて、答えを後に回してもとにかく動きたいと思った。これ以上、誰のことも問題の当事者にしたくないし、何もしないまま時が経って「あの時よくないと思ってたんだよね」って、後出しジャンケンみたいに言うのは嫌だから。
光瀬:ああ、なんか笑いながら泣けてきちゃう。言ってしまえば、演劇の師匠であり仲間の鈴江さんが困っていたことを最初のきっかけに、私はこのことを始めたわけでね。そんな元にこれだけの素敵な俳優が集まってくれて、私が鈴江さんを想ったような気持ちを、今度はみんなから日々稽古場で受け取らせてもらっている。それも本当にありがたい。
田中:みんなでさくっと頑張りましょう! 
光瀬:そうだね。「さくっと」、「きっちり」、「なかったこと」にしない!
田中:今までではないやり方とスタンスで挑みたいと思います。もちろん得があるならば、それもなかったことにはしないですけど……(笑)。
一同:はははは!
森谷:本当、田中くんはつくづく正直者だ!
【最後に】
スケジュールの都合上、稽古場で会うことの叶わなかった参加メンバーもいた。それでも、SNSやブログを開くと、俳優のそれぞれの想いや眼差しに触れることができる。そして、俳優でなくとも今回の試みを気にかけ、参加をしたいと手を挙げた人もいる。切実に綴られ発信されたその言葉たちを、最後にこの場に添えておきたいと思う。
有吉宣人 写真/本人より提供
「作品の背景を知り、居ても立っても居られなくなりました。個人的には、高校生や高校演劇の関係者の方にこの作品を知ってもらいたいです。そのために出来ることを考え、動き始めました。すると、色々な声があることを知りました。このことを一緒に考えてくれる人たちも探しています」(有吉)
福永マリカ 写真/稽古場より提供
「どうにもたぶん世界は単純じゃなくて、打ちひしがれるのですが、そのことをまるまま演劇は表現していいと言ってくれて、たぶん私は演劇のそこが結構好きです。『明日のハナコ』にはそういう広やかさがあって、切実さがあります。その広やかさと切実さが、本来届くはずだった多くの人たちに届くようにそして、ここに起こっていることをいろんな人と一緒に話してみることができるように自分のできることを、助け合ってやっていきたいと思っています」(福永)
写真提供/茂木大介
「『明日のハナコ』のことは来輝から聞いて気になっていました。実際に観てみたいと思っていましたが、役者?として演じることができることとても嬉しく思います。生まれてから演劇に携わったことの無い私が『明日のハナコ』を通じて感じたことをみなさんに共有できたら……と思っています」(茂木)
写真/吉松伸太郎
稽古写真・取材・文/丘田ミイ子

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