世田谷パブリックシアター2022年度ラ
インアップ発表記者会見レポート~新
芸術監督・白井晃「劇場は心を躍動さ
せる場でありたい」

世田谷パブリックシアター2022年度ラインアップ発表記者会見が2022年4月19日(火)に開催された。
2022年4月5日に開館25周年を迎えた世田谷パブリックシアターが、この月より新たな芸術監督として迎えたのが、白井晃だ。登壇した白井はまず「この劇場は初代の芸術監督である佐藤信さんが掲げる“劇場は広場だ”という言葉をスローガンに25年前に開館した。私はその言葉に非常に勇気を得て演劇活動を続けてきたし、世田谷パブリックシアターも、人が集まって話し合って物を作って、そこにまた人が集まってそれを鑑賞するといった、広場であるべき劇場というものを理念に活動してきたと思う。なかなか人が集まれない状態になってしまった中で、もう一度この劇場が広場たるものであり続けるためにどうすればいいのかを考えていきたい」と、3月に行われた芸術監督交代会見でも引用した初代芸術監督・佐藤信の言葉を挙げ、自身の目指す劇場像を語った。
また、コロナ禍における劇場文化の苦しい状況や、人々の心の変化にも言及し「この2年間に人々の心が委縮して、感情の振幅が狭まってしまったような気がしている。それを取り戻すためにも、劇場は心をもう一度躍動させる、心に元気を取り戻す場でありたい。特に公共劇場はその役目を大きく担っていると思うし、劇場は町に必ずなければならないものだという認識を改めて持って進めていきたい。この劇場を中心に、区そして都や国に広場の概念を広げていけるような、ここが最前の場所であるように頑張っていきたい」と思いを述べた。
世田谷パブリックシアター2022年度ラインアップ発表会見  (撮影:田中亜紀)
続いて、2022年度のラインアップ発表が行われ、『お勢、断行』から倉持裕、倉科カナ、福本莉子、『毛皮のヴィーナス』から五戸真理枝、『建築家とアッシリア皇帝』から生田みゆき、安住の地『凪げ、いきのこりら』(仮)より中村彩乃、岡本昌也、私道かぴが登壇し、白井がラインアップの紹介を行った。
4月29日(金・祝)~5月5日(木・祝)には『フリーステージ2022』が開催される。開館当初より、区の文化団体を中心に表現の場として劇場を提供している恒例のイベントとなり、今年は50組の団体が参加し、多彩な発表を行う。
5月11日(水)~24日(火)は『お勢、断行』が上演される。本来は2020年2~3月に上演を予定しゲネプロまで行われたが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で初日を迎えることなく全公演中止となってしまった作品が、2年の時を経てようやく上演される。作・演出の倉持は「今作は江戸川乱歩原案となっているが、乱歩の短編に登場するお勢というキャラクターを拝借したオリジナルストーリー。稀代の悪女・お勢を中心に、立場によって善悪は変わるという普遍的なテーマが描かれている。まさに今コロナ禍にあって、それぞれの正しさを主張して世界各地で様々な対立が生まれている。この公演が本来上演されるはずだった2年前よりも、善悪をめぐるテーマがより鮮烈に観客の目に映るんじゃないかと思っている」と述べた。お勢役の倉科は「2年前、舞台が中止になって悔しさはあったが、2年後にやりましょう、とすぐに言ってくれた世田谷パブリックシアターの心意気や上演にご尽力いただいた皆さんに今は感謝の気持ちでいっぱい。2年前の悔しさを糧にして、よりブラッシュアップした舞台を上演したい」、今回新たにキャストとして参加することになった福本は「倉持さんの作品に出たいという思いと、世田谷パブリックシアターの舞台に立ちたいという思いがあったので嬉しい。舞台は若い人があまり見に来ないイメージがあるので、ぜひこの機会に劇場に足を運んでいただきたい」とそれぞれ公演への意気込みを語った。
『せたがやこどもプロジェクト2022』の《ステージ編》では、2010年より行っている人気企画『お話の森』が7月30日(土)と31日(日)、春風亭一之輔プロデュースによる『せたがや 夏いちらくご』が7月30日(土)に行われる。読み聞かせシリーズとして人気の高い『お話の森』は今回が最終回で、白井は「初回に演出として参加しているので感慨深いものがある。最後を飾ってくれるのはROLLYさんと片桐仁さん。各々の個性的な読み聞かせをぜひ楽しみにしてほしい」と述べた。『せたがや 夏いちらくご』については「昼の部は子どもの入場者を多く入れての入門編、夜の部は本格的な落語会。芸人も呼んでの楽しいイベントになっている」とアピールした。
『せたがやこどもプロジェクト2022』の《ワークショップ編》として7月26日(火)~8月4日(木)に行われる「夏の劇場・りんかん学校」は、白井が「劇場を子どもたちに生で感じてもらいたい」と新たにスタートさせる新企画。第一回目となる今回は、公募により集まった子どもたちと共に、フィリップ・リドリーの児童書をもとに30分程度になるようにアレンジを加えた『流星スプーン』の作品づくりに挑む。白井は「実は父親が電気技師でステージ関係の仕事をしていたので、子どもの頃によく仕込みの手伝いをしていた。そのときに感じた何が起こるかわからないバックステージのワクワク感を子どもたちにも感じてもらいたいという思いがある。一緒に物を作っていくことによってそれを感じてもらえればこういう(自分のような)人間が生まれるんじゃないか、という願いがこもっている」と自身の子ども時代の体験を交えながら企画への思いを語った。
シアタートラムで上演される二人芝居シリーズとして、8~9月には『毛皮のヴィーナス』、11~12月には『建築家とアッシリア皇帝』が上演される。
『毛皮のヴィーナス』は五戸真理枝の演出で、高岡早紀と溝端淳平が出演。米劇作家デヴィッド・アイヴスの、2010年にオフ・ブロードウェイで初演され、2013年にロマン・ポランスキー監督により映画化もされた作品で、演出の五戸は「演出家と女優の二人芝居で、オーディションが終わった後に遅れてやってきた女優が強引に読み合わせを始めてしまうという、劇中劇の二重構造を持った作品。演出家・女優あるある、というような共感できるエピソードがたくさん織り込まれている。高岡さんとも溝端さんとも演出助手としてご一緒したことがある。高岡さんは共演者やスタッフのことを繊細に感じ取る方で、自分の意見をはっきり言える強さも持っているところが役に合っていると思った。溝端さんも作品に対するエネルギーが強い方で、演出家に言われたことをすぐにこなせる演技力を持っているにもかかわらず、繰り返し稽古をしてそれを超えてくるエネルギーを発する方なので、やはりこの役にぴったりだと思っている。お2人の素の部分を感じてもらいつつ、劇中劇で演じている部分では2人の様々な面を引き出せるように頑張りたい」と作品を紹介した。
『建築家とアッシリア皇帝』は生田みゆきの演出で、岡本健一と成河が出演。スペインで生まれてフランスで活躍し、1960年代の演劇に影響を与えた劇作家フェルナンド・アラバールの代表作で、演出の生田は「自分を皇帝と名乗る男と、その男に建築家と命名された男が、ひたすら“ごっこ遊び”をしていく芝居。作品が書かれた背景にはスペイン内戦が大きく横たわっている。アラバールの母が父を死に追いやることになってしまったり、彼自身がフランス留学から母国スペインに一時帰国したときに、反逆罪の疑いで投獄され裁判にかけられたという経験があった。母親や母国に対する憎悪みたいなものが根底を貫いている。出演のお2人とは演出助手としてご一緒したことがあるが、岡本さんは少年のような好奇心と挑戦心と、とにかく演劇を楽しむという姿勢の持ち主。成河さんは作品のディテールまでしっかり理解して、相手がどんなことをしても受け止めた上でジャンプしていける人。そんな2人が組み合うというだけでも本当にワクワクする。私がやらなければならないのは、2人がちゃんと遊べる場をスタッフと共に準備すること。美しいものと汚いものが混在するような懐の深い作品なので、方向性をあまり誘導し過ぎずに提示していくことで、私が想像している以上の面白いことが生まれるんじゃないかと思っている」と作品への意気込みを述べた。
9月26日(月)~10月9日(日)には、新潟のりゅーとぴあとの共催公演として『住所まちがい』が、仲村トオル、田中哲司、渡辺いっけい、朝海ひかるの出演で上演される。上演台本・演出を手掛ける白井は「原作のルイージ・ルナーリの作品は、2002年に佐藤信さんの演出で世田谷パブリックシアターで上演された『パードレ・ノーストロ』に、役者として出演した。毬谷友子さんとの二人芝居でセリフ量が多くハードなものだった。そのときに来日したルナーリさんに演出家もやっていることを伝えたら、ぜひ自分の作品を演出してくれ、と言ってくれた。それから20年経ってしまったが、ルナーリさんの代表作をやらせてもらうことになった。物語は、同じ場所に居合わせた3人の男がそれぞれ自分の主義やアイデンティティを主張し始めるという喜劇」と、ルイージ・ルナーリとのエピソードも交えて作品を紹介した。
10月15日(土)16日(日)には、秋恒例となった大道芸フェスティバル、世田谷アートタウン2022『三茶de大道芸』が開催される。白井は「劇場が外に広がっていくという意味合いで、街を劇場にしていこうというコンセプトを掲げて続けられてきた、秋の三茶の風物詩と言ってもよいのではないか」と述べた。
また、10月21日(金)~23日(日)には、世田谷アートタウン2022の関連企画として、世田谷パブリックシアターには2017年以来2度目の登場となる、世界中で人気を博すフランスの現代サーカスカンパニー「カンパニーXY」を招聘し、振付家のラシッド・ウランダンとのコラボレーションによる、日本初演となる最新作『Möbius/メビウス』を上演する。白井は「私もこの劇場でたくさんの海外カンパニーの作品を見てきたので、コロナ禍ではあるがそれを乗り越えて、できるだけ海外招聘もやっていけるようになれば」と意欲をのぞかせた。
11月~12月には、松田正隆が1998年に平田オリザのために書き下ろした『夏の砂の上』を栗山民也の演出、田中圭、西田尚美、山田杏奈らの出演で上演する。栗山と松田のコメントを白井が代読し、栗山は「近頃、歳のせいか、静かにゆっくりと動くドラマに惹かれる」と今作を選んだ理由を明かし、松田は「私は「日常」の劇から「生と死」に直面する劇へと変容するような戯曲を書きたかったのかもしれません」と執筆当時の想いを振り返った。
12月には、2009年からスタートしたシアタートラムネクスト・ジェネレーションのvol.14として、2017年に旗揚げして京都を拠点に活動している劇団・安住の地が『凪げ、いきのこりら』(仮)を上演する。劇団代表の中村は劇団について「音楽家や衣装作家、イラストレーターなど幅広いジャンルの方々とコラボレーションして作品を発表してきた。今回は作演出を担当する岡本と私道の共同作品となる」と説明。私道は「2人の共同脚本、共同演出は3作目」と話し、岡本は「今回のテーマは“異種”。地球に生命体がほとんどいなくなった世界で、様々な種族が生き残りと共生をかけて全然違う他者とどうコミュニケーションを取っていくかということを作品にしたい。一見ファンタジーの形をとっているが、共鳴できない他者とどう関わっていくか、どう共に生きていくか、どう対話していくか、といった今僕たちが生きていく中で難しいと思っていることを、フィクションを借りて皆さんがどう感じるのかを見てみたい。僕たちの劇団自体がいろいろな人間がいるごちゃごちゃした団体なので、テーマに通ずるものがあるのかなと思う」と説明した。白井は「文学性、音楽性、身体性を併せ持って表現するグループで、総合芸術ということで私の気持ちと方向性が合致した。上演を楽しみにしている」と期待を述べた。
2023年2月6日(月)~8日(水)には、ベルギーのダンスカンパニー、ピーピング・トムの日本初演となる『マザー』が上演される。世田谷パブリックシアターは同カンパニーを初めて日本で紹介して以来、継続的に招聘してきた。白井は「2年前に来日が中止になってしまい、待望の公演となる。見るたびに舞台表現にこういうことが可能なのかと驚かされるカンパニー。ダンスカンパニーだが非常に演劇的要素がある。この世界観をぜひ多くの皆さんに感じていただければ」と熱を込めて語った。
世田谷パブリックシアター2022年度ラインアップ発表会見  (撮影:田中亜紀)
2023年3月には、前芸術監督の野村萬斎演出による『ハムレット』が上演される。今年2月に戯曲リーディングが行われ、そこからさらに練り上げた作品になる。リーディングに引き続きハムレット役を務める萬斎の長男・野村裕基はビデオメッセージで「2月のリーディングは現代劇への初挑戦となった。多くの俳優の皆さんと、演出家としての父の下で同じ舞台に立てたことは大変貴重な経験。来年3月にはもっとトライアンドエラーをしつつ、アップデートして皆さんにお目にかけることができたらと思う」と作品への意気込みを語った。
3月に上演される『地域の物語2023』は、学芸事業の一環として、公募で集まった一般市民が数か月にわたるワークショップから演劇を作り上げて発表する公演となる。白井は「世田谷パブリックシアターは25年前から公演事業と共にもう一つ大事な事業として学芸事業を行ってきた。劇場の中だけではなく、学校や地域のコミュニティや施設などに飛び出して、演劇表現を行ったりワークショップを行ったり演劇的な体験をしていただく中で、コミュニケーションを図ることを目的にやってきた。活動内容は多岐にわたっていて、年間通じて300近い活動をしている。この活動の中で一番大切だと思っていることは、“他者の存在を知る”ということ。相手を知ることで自分を知っていくということを伝える、非常に重要な役目を持っている」と学芸事業に今後も力を入れていく決意を語った。
世田谷パブリックシアター2022年度ラインアップ発表会見  (撮影:田中亜紀)
質疑応答で、芸術監督になる前は学芸事業に対してどのような印象を持っていたか、また公演事業と学芸事業という2つの位置づけをどのように考えているかと問われた白井は「1997年の開場当時から学芸事業の活動のことを知ってはいた。ただ、その現場に行くということがあまりなかったので、実際的にわかっていない部分もたくさんあったと思う。公共劇場の中でこれだけ学芸事業に力を入れている劇場はないと思うので、できるだけ後押ししていきたいと思うし、公演事業と学芸事業がクロスするような作品をやれないか、という夢を持っている」と意気込みを語った。
2021年3月まで芸術監督を務めていたKAATとの違いを問われた白井は「立地が違うし、行政が違うので、そこでの使命というのもおのずと違ってくる。表現面という意味では、総合的な芸術作品を作っていきたいという私の気持ちは変えようがないので、そういった面を推し進めていきたい」と述べた。また、次の世代に繋ぐことへの具体的なビジョンについて聞かれると、白井は「今回、五戸さんも生田さんも世田谷には初登場であるし、安住の地はこれから活躍していただかなければいけないアーティストの皆さんで、そういう方々をできるだけ多く見たり、出会ったり、話しをしたりして、この劇場で機会を与えられるように目を配っていきたいと思う。私一人の劇場ではなくてみんなの劇場として、25年の劇場の蓄積の中でスタッフが考えてきたことと私の考えを融合しながら良き方向にレベルアップできれば」と語った。
劇場を広場のように、人々が気軽に集まることのできる場所にしたいという思い、また開館当初より大切に継続されてきた学芸事業の存在感をよりアピールしていきたいという白井の思いがよく伝わってくる会見だった。3月の芸術監督交代会見で明かされた通り、今年度のラインアップは前芸術監督の野村萬斎の監修ということもあり、劇場がこれまで培ってきたものを継続して大切にしていく部分が大半を占め、新たに立ち上げて始める部分は少ない印象ではあるが、ここをスタートに、今後徐々に白井芸術監督のカラーが作られていき、継続の部分と新規の部分のバランスが取られていくことを期待したい。
世田谷パブリックシアター2022年度ラインアップ発表会見  (撮影:田中亜紀)
取材・文=久田絢子

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