「ささやかな日常のドラマを味わいな
がら、メッセージもキャッチしていた
だけたら」 ~Musical『The Parlor』
作・演出 小林香インタビュー

ある時は談話室、またある時は美容室、そして喫茶室……「ザ・パーラー」と呼ばれる部屋を守り継ぐ三世代の母娘を美弥るりか、花乃まりあ、剣幸が演じるアミューズ製作のオリジナルミュージカル、『The Parlor』。その作・演出を手がける小林香に、クリエイションの動機や過程、稽古の様子、また自身の近作“ハンサムウーマン”や今後の展望について聞いた。キーワードは、「“女性問題”」「普通の美弥るりか」「95歳のミュージカル」!
そのフィルター、本当に要るの?
ーーまずは今回、三世代の母娘の物語を書こうと思われた理由や経緯をお聞かせください。
2017年に世界各地で「#MeToo」運動が、それに勇気づけられて日本でも「#KuToo」運動などが起こり、同じ頃からSDGsが盛んに叫ばれるようになって。ここ数年、女性たちが声を上げるムーブメントが分かりやすく可視化されて起こっていますが、どれもひも解くと、もっともっと前からある言葉だったり考えだったりするんですよね。先人が作ってくださった道のりの上に自分がいて、自分がしっかり歩かないと次の世代につながっていかない。私自身40代を迎えたこともあり、そんなことを痛感するようになっていた頃、プロデューサーからオリジナルミュージカルを作りませんかと言っていただきました。その時、三世代にわたって連綿と続く女性たちの場所、「ザ・パーラー」という発想が浮かんだんです。
小林香
ーー「オリジナルミュージカルを」という大きな枠組しかないなか、描きたい題材にすぐに辿り着かれたのですね。
40歳になった時に、残りの人生で何がしたいのか、紙に書き出してみたんですよ。そしたら、そんなにたくさんはできないんだなと気付いて(笑)。これまで、色々な“マイノリティ”に言及したミュージカルを作ってきました。その考えは今も変わらず、残りの時間で、自分にとってより身近な問題を語りたいなと。それは何かと考えたら、いわゆる“女性問題”と言われていることだったんです。この名前からして、本当は社会全体の問題なのに、女性だけの問題のような言い方で不思議ですよね。
ーーそもそも、何がきっかけで“女性問題”にそこまでのご関心を?
小さい頃から、「なぜ女の子はダメなの?」「どうして性別で決められちゃうの?」と思うことがたくさんありました。たとえば……ブルマってやだな、とかね(笑)。なんで女の子はこれを履かされるのか疑問でしたし、私は黄色いランドセルをお願いしたのに伯父が買って来てくれたのが赤だった時や、超合金ロボって最高にクールだと思って持っていたら「女の子なのに?」と近所のおばさんに言われた時は少しショックでした。
時代が変わった今も、4歳の息子を連れておもちゃ売り場に行くと、女の子向けと男の子向けの売り場が明確に色分けされていて。まっさらにのびているはずの子どもの未来が、大人のフィルターによって狭められていくのを感じて心が苦しくなりますね。おもちゃはひとつの例ですが、子どもにとって最も身近なものだからこそ、のちの人生に与える影響は大きいと思います。今回の作品にボードゲームを登場させているのも、日々のそんな思いがあってのこと。ミュージカルって、楽しくて心優しいものだから、「そのフィルター、本当に要るの?」という問題を明るく提示するのにちょうどいいのかなと思っています。
美弥るりかの6歳のシーンにもご注目!
ーーそんなオリジナルミュージカルを作るにあたって、アレクサンダー・セージ・オーエンさんという、日本ではまだ知られていないアメリカの作曲家と組むことにされたのは?
こういった問題を語るにあたって、とにかく軽やかに、湿っぽくなく進めたいというのがありまして。アミューズがたくさんの作曲家候補を挙げてくれたなかで、最も合っていると感じたのが彼のサウンドでした。本当に心地よくて素敵な曲ばかりで、頭ではなくちゃんと気持ちから発生したものを音にしているのが分かるんです。彼との曲作りはすべてリモートでしたが、音楽は譜面とデモ音源のやり取りができれば作れるものですから、何の問題もなかったですね。リモートでモノ作りをすることへの抵抗感がなくなって、海外のクリエイターと組みやすくなったことは、コロナ禍がもたらした数少ない良い点のひとつだと思います。
小林香
ーー具体的な作業としては、まずは小林さんの脚本と歌詞ありきですか?
彼は自分で歌いながら作曲する方なので、歌詞がないと作れないんですが、日本語の歌詞をお渡ししても歌えない。だからまず私が詳細なプロットとともに、「ここでこういう楽曲が欲しい」ということを歌詞の大意とともにお伝えして、それを元に彼が自分の言葉で歌いながら作曲し、今度はそれを元に私が日本語の歌詞を書く……というやり方でコツコツと作っていきました。それはもう、とても大変でしたね(笑)! オリジナルミュージカルを作るのは、いつも本当に大変。でも私は、ゼロから作ることが好きなんですよ。大変だけど楽しいって毎回思うから、これからもオリジナルは作り続けていきたいですね。
ーー大変なクリエイションが実を結ぶまであとわずか。お稽古の様子はいかがですか?
すこぶる順調ですね! まずは美弥さんが本当に素晴らしくて、朱里という主人公を皮膚感覚で理解して、生き生きと演じていらっしゃいます。美弥さんと言えば、これまでこの世のものとは思えない人物を素晴らしく演じてこられた方。こういう“普通”の役でもすごく輝くはずって、私自身は思いながらも、お客様が求めている美弥さん像とは違うのかもしれないという心配もありました。でもやってみたら本当にハマっていて、ご本人も楽しんでくださっているようです。6歳の朱里を演じるシーンもあるので、お客様には“普通の美弥さん”とともに、そこも楽しみにしていただきたいですね(笑)。
花乃さんは朱里の母と妹の二役という大変な役どころですが、両方に説得力があって、これまた抜群にハマっています。そして祖母役の剣さんは、孫を大事に思う慈しみ深さを存分に表してくださっていて。お三方の結びつき、自然と醸し出される“家族感”は、私の想像を遥かに超えていました。宝塚にいらした時期は別々ですが、同じ空気と水を吸収してきた方々だから、やっぱり共通のものがあるんです。それと、坂元健児さんも実に素敵! 久々にご一緒するのですが、黙っていても役の気持ちが滲み出すような芝居をされていて、いい歳の重ね方をしていらっしゃるなって。こういう再会は、本当に嬉しいし楽しいです。7人とも素晴らしいです。
ーーハマり役ばかりのようで、本番が楽しみです! 今までのお話で十分伝わってきてはいますが、本作の見どころについて、付け足されたいことがあればぜひお願いします。
大きな事件が起こるわけではなく、ささやかな、普通の日常の暮らしがそこにあるだけのミュージカルです。でも私たちの日常がそうであるように、人が人と関わって落ち込んだり勇気づけられたりと少しの変化で、それはもう十分ドラマなんですよね。劇的な展開より、役者さんたちの芝居力と存在感で作品を充実させようとしているので、その心の機微みたいなものを観ていただけたら。その上で、最初にお話したようなメッセージの部分もキャッチしていただけたら幸いです。
小林香
1日でも長く現役の演劇人でいたい
ーー最後に、小林さんご自身についても少し。2019年末にアミューズに移籍されましたが、それももしかして、いつか“女性問題”を扱ったオリジナル作品を作るにあたって、近年歌って踊れる女優さんが増えている事務所に、ということだったりしますか?
いえ、そこまで遠くを見渡してのことではなかったです(笑)。ただ、以前から交流があったなかで、女性スタッフが楽しそうに仕事をしている会社という印象は持っていました。そこに惹かれて移籍したら、所属女優さんたちのポテンシャルの高さに私もびっくりした感じです。3月に構成・演出で参加した“ハンサムウーマン”(『AMUSE PRESENTS SUPER HANDSOME W LIVE~HANDSOME is not just for men.~』)も、本当に面白かったですね。稽古初日に、私が「男性のハンサムライブとはお客様の求めてるものが違う。ノリに頼ることなくステージパフォーマンスとしてしっかり成立させないと、男性版に勝てないよ」という話をしたら、みんな静かに「はい」と。柚希(礼音)さんだけは、「はい!」って大きな声でしたけど(笑)。皆さん本当に頑張って、男性版とは違うステージを作り上げてくださいました。
ーー“ハンサムウーマン”、私も拝見しましたが本当に充実したステージでした……! では、今後の展望といった部分はいかがでしょうか。冒頭でお話されていた“死ぬまでにしたいことリスト”の、片りんだけでもぜひお聞かせください。
まずはオリジナルミュージカルを、ひとつずつ大切に作っていくというのが一番大事にしたいことですね。それから、元々映画監督になりたかったので、1本でいいからミュージカル映画を撮影したい思いがあります。あとはなんでしょう……なるたけ元気に長生きして、1日でも長く現役の演劇人でいることかな(笑)。私の周りには剣さんのように、年齢を重ねるって素敵なことなんだって、身をもって見せてくださる方がたくさんいます。ミュージカルって、決して若い人たちだけのものではないはず。90歳には90歳のミュージカルがあると思うから、1日でも長く、1作でも1頁でも多く作って、95歳くらいで集大成の作品が作れたら最高です(笑)。
ーー同世代として、すごく希望が湧くお話です。95歳の小林さんが作るミュージカル、楽しみにしてますね(笑)。
あははは! その時にはちゃんと、90代なりの観点で記事を書いてくださいね(笑)。
小林香
取材・文=町田麻子    撮影=池上夢貢

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