大貫勇輔が語るミュージカル『メリー
・ポピンズ』のおもしろさーーバート
は客席と舞台を繋ぎ、バンクス家を支
える「架け橋」

ウォルト・ディズニー・カンパニーがパメラ・トラバースの小説を原作に生み出した映画『メリー・ポピンズ』。1964年アカデミー賞5部門を受賞し、現在でも世界中の人から愛されている。そんな本作に、『ライオン・キング』や『アラジン』など数々のディズニーミュージカルを生み出したトーマス・シューマーカーと、『オペラ座の怪人』、『キャッツ』、『レ・ミゼラブル』、『ミス・サイゴン』といった大人気ミュージカルを生み出したプロデューサー、キャメロン・マッキントッシュがタッグを組み、ミュージカルとして新たな息吹を吹き込んだ。ミュージカル版はオリヴィエ賞9部門、トニー賞7部門にノミネートされ、日本で2018年に行われた日本人キャストによる初演も大きな反響を呼び、再演が決定。現在5月8日(日)まで東急シアターオーブにて上演中だ。東京公演ののち5月20日(金)から梅田芸術劇場メインホールにてスタートする大阪公演に向け、バートを演じる大貫勇輔にインタビューを行った。
――初演に続いてバートを演じるお気持ちを教えてください。
初演はとにかくやることが多く、特にメリーとバートはてんてこまいでした(笑)。誰よりも早く来て誰よりも遅く帰る日々でした。今回は少し余裕が出てきて、初演の経験を活かすことができています。バートが何をするとこの作品により貢献できるかを考えた時、お客さまとの架け橋になること、メリーとの裏のストーリーや、ジェーンとマイケル、バンクス家への思いを表現することだという結果に至ったんですよね。あと、僕は元々ダンサーなので、初演は歌にすごく苦労しました。この4年で色々な経験をし、初演よりも何かできているかなと思いますし、よりバートらしく歌うための引き出しも増えたと感じています。演じていてもすごく楽しいですね。前回はビックナンバーに目が行きがちでしたが、今回は間のちょっとしたセリフや、いかにジョージを心変わりさせていくか、バンクス家を良くしていくかというところを大切にしています。
――再演が決まったときの感想は。
初演が終わった段階で絶対にまた出たい、この世界に戻ってきたいと思っていたので、本当に嬉しかったです。この4年で自分が培ったものをプラスして挑めるという意味でもワクワクしました。
――4年間で培ったもので一番大きなものはなんでしょうか。
流れがあって、まず僕は『王家の紋章』も手がけたシルヴェスター・リーヴァイさんの楽曲が大好きなんです。『王家の紋章』のイズミルでリーヴァイ楽曲に挑戦し、歌に向き合う時間を得られたのは大きな経験でした。その後『北斗の拳』での初のミュージカル座長。自分が座長を経験することで、『メリー・ポピンズ』のカンパニーにおいて、よりメリーを支えたいと思うようになりました。
――初演から演じていて感じる、バートというキャラクターの魅力を教えていただけますか。
初演は柿澤(勇人)くんと僕で演じましたが、今回小野田(龍之介)くんが演じたことで、やり方はこんなに色々あるんだと発見しました。僕の中でのバート像は一択だったんです。労働者階級で何でも屋さんで、そしてお客さまと舞台上を繋ぐ、ある意味謎めいた人物。それを小野田くんが演じるのを観て、もっと土くさくて男くさくてもいいんだ、そのやり方もあったんだとすごく幅が広がりました。僕の中では、エンターテイナーで、子どもたちを楽しませながらちょっかいを出すというイメージだったのですが、小野田くんのバートは人間くささがある。それによって、ジョージが心変わりすることへの説得力が生まれるのかもと思って。だから今回は、人間っぽさと、不思議な掴みどころのなさを両方持ちたいと思って挑んでいます。
――バートを演じる上でのポイント、難しいことはありますか?
沢山あるけど、ないといえばないんです。バートはすごく自分自身に近い部分があるので、バートらしい動きは簡単にできてしまう。それがある意味怖いです。感情を伴った動きできちんと伝えたいので、大切に演じています。あとは、歌とセリフの境目をいかになくしていくかがもう一つのテーマですね。
――特に好きなナンバー、楽しい楽曲はどれでしょう。
どれも楽しいけど、やっぱり「ステップ・イン・タイム」です。海外のスタッフからも、僕の壁登りと上下逆さまでのタップが本当に上手だとおっしゃっていただけて、そこは誇りに思っています。褒めていただいたことで自信もついたので、しんどいけど楽しいシーンですね。
――ビックナンバーだけでなくセリフにも目を向けて大切に演じているというお話がありましたが、特に好きなセリフや注目してほしいポイントはどこですか?
バートは、結構遠回しに言うことが多いんです。「時折吹く風、何を運ぶか、喜び、悲しみ、振り子は揺れる」とか。なんのことを言ってるのか分かりづらいかもしれないですが、ストーリーの架け橋になっている。お客さまが前に起きたことから次に起こることを連想、吸収しやすくなる繋ぎのシーンが1幕で4ヶ所くらいあります。1幕のバートは歌詞や思いをメロディーに乗せてどれだけお客さまの心に届けられるかがポイント。そして2幕ではすごく直接的に子どもたちに関わります。子どもたちやジョージとちゃんと向き合う時間があって、家族を変えようとする。音楽とセリフを使って1幕はお客さまとの架け橋になり、2幕はバンクス家の心を変えるので、バランスを大切にしています。
『メリー・ポピンズ』 (c)Disney/CML
――今回のWキャストである小野田龍之介さん、メリーを演じる濱田めぐみさん、笹本玲奈さんが演じるそれぞれの役への印象を教えてください。
小野田くんとは『北斗の拳』でトキとケンシロウの兄弟を演じ、今回はWキャスト。北斗の時は意見交換をしながら、今度は同じ役について話しながら一緒に作りました。彼は初演でロバートソン・アイを演じていたので、バートを外側から見ていて。お互いに「こう思っていた」という意見交換ができたのは貴重な経験でした。お互いにリスペクトしながらバートという役に向き合えたと思います。メリーのお二人に関しては、濱田さんはミス・パーフェクト。バートからすると、本当に憧れの、手の届かないメリーという感じ。笹本さんは人間味溢れるメリーで、きっとバートの初恋の人だったんだろうなと思います。僕の主観ですが、濱田メリーには恋心もあるけど尊敬の方が大きくて子犬みたいに慕っている感じ、笹本メリーには尊敬もあるけれど恋心の方が大きくて、ちょっとかっこつけたくなっちゃう感じがしますね。
――物語の中でみんながメリーに惹かれていきますが、その理由はなんだと思いますか。
「プラクティカリー・パーフェクト」じゃないですけど、宇宙人みたいに不思議でキュートで愛おしく、でも時に冷たい女性がみんなを振り回すじゃないですか。周囲を振り回すけれど才能と愛嬌がある人は、すごく魅力的だと思います。あとは稽古場でもメリーのお二方はすごいことをしてるんです。メリーになるために費やした時間を共演者として知っているし、客席にも伝わっていると思う。その空気感や熱量が人を惹きつけるんじゃないかと思いますね。
――改めて、この作品の魅力はどこにあると思いますか?
まず楽曲が素晴らしいですよね。目を閉じても楽しい。目を開けていても、セットの移り変わりや照明が本当に美しいし、遠近感が絶妙に作られていてトリックアートのような世界もありますよね。舞台装置だと分かっているのに、魔法のようだと思ってしまう。総合芸術ですよね。何か一つでもピースが欠けたら「やっぱり魔法はあるのかも」とは思えなくなるので、その総合力が素晴らしい、完成されたミュージカルだと思います。メリーが客席の方に飛んで行くところとか、分かっているのに泣いちゃいますし、「メリーは本当に空を飛べるんだ」と思っちゃう。積み重ねてきた時間によって魔法や奇跡を感じられるのはすごいことだと、毎公演思います。あとは、普遍的な家族の愛というテーマも大きな魅力だと思います。
――2018年の初演から演劇を取り巻く環境が変わって不自由も多い分、メリーの魔法へのワクワクが高まっていたり、お客さんの反応も変わっていたりするのではないかと思います。東京公演で印象的だったことを教えてください。
こちらは幕の奥でスタンバイしているので、幕が上がる前に拍手をしていただけると、やっぱりテンションが上がりますよね。ジェーンとマイケルが「声は出さないで、拍手で盛り上げてね」というアナウンスをしてから幕が開くからか、もしくはお客さまが期待してくださっているからかは分かりませんが、拍手をいただけるのは本当に嬉しいことだと常々思います。あとは我慢できずに漏れてしまっている笑いなども純粋に嬉しいですね。
――地域によっても反応が変わると思いますが、大阪公演で楽しみにしていることはありますか。
笑いが起きる場所が違うんですよね。初演では、東京公演ではここで笑いが起きたけど大阪では起きないということがありました。今回の東京公演はどこも笑っていただいている印象です。これは多分、JP(ジャン・ピエール・ヴァン・ダー・スプイ)の演出のテンポ感がすごく良いから。重要なテーマである「愛」のエッセンスをより強く濃くすることでお客さまに届きやすくなっているのかなと思います。大阪公演でどんな反応をいただけるか、すごく楽しみです。
――最後に、大阪公演を楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
大阪は個人的に第二の故郷だと思っているので、そこでまた『メリー・ポピンズ』の公演をできるのが嬉しいです。こんなにハッピーなミュージカルを僕は他に知らないです! こういう時代にこそ必要な作品かなと思います。観た方が愛のテーマを受け取って、大切な人にちょっとでも、もちろんたくさんでも、優しくなれたり、温かい気持ちになれたりすると嬉しいです。本当にたくさんの方に観に来ていただけたら嬉しいです。
取材・文=吉田沙奈

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