今ふたたび、『フリーホイーリン・
ボブ・ディラン』で
ディラン、22歳の言い分を聞く

『The Freewheelin' Bob Dylan』(‘63)/Bob Dylan

『The Freewheelin' Bob Dylan』(‘63)/Bob Dylan

季節は春から初夏。眩しい光に木々の緑が映える。生き物が活気づき、一年で一番美しい季節かもしれない。なのに、このところ胸を締めつけられるような、つらくなる映像を観ない日はないのではないか。なんという有様だろう。それはいつまで続くのか。終わりはあるのか…。しかし、現在の暗鬱な状況を改めてこの場であれこれ言うことは避けたいと思う。ここは名盤を紹介する場なのだから。そこで、彼の歌を聴いて、せめて思いを寄せようと一枚選んでみた。

この連載では過去にも何度か取り上げている御大ボブ・ディラン(現在80歳)。『フリーホイーリン・ボブ・ディラン(原題:The Freewheelin’ Bob Dylan)』(’63)は彼が22歳の頃の出世作であり、万人が認めるトップ5に入る代表作、そして、そろそろ発表から60年が経とうとしている堂々たるフォーククラシックである。ディランの2枚目のスタジオアルバム。当時の恋人スーズ・ロトロと雪のNYグリニッジ・ヴィレッジを歩くジャケット写真も素晴らしい(撮影はDon Hunstein)。デビュー作『ボブ・ディラン(原題:Bob Dylan)』では2曲のみであったオリジナル曲が、本作では全13曲中11曲にまで増量されていることからも、実質、ここからディランのシンガーソングライターとしての歩みがスタートしたと言っていいだろう。アルバムは1963年5月27日に発売され,全米ビルボード200で最高位22位を記録し(最終的にはプラチナに)、1965年には英国でナンバーワン・アルバムとなっている。
■過去にこの連載で紹介したボブ・ディランについてのコラムはこちら
『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』
・『追憶のハイウェイ61(原題:Highway 61 Revisited)』
https://okmusic.jp/news/414202
・『プラネット・ウェイヴス』
https://okmusic.jp/news/141192

プロテストフォークの旗手として
世界の衆目を集める

そして、ディランは常々本人が意図したものではないのに、時代の節目節目に相関するようなアルバムを発表してきた。本作はさしずめ世間が彼をプロテストフォーク・シンガーと位置付けることになったアルバムでもある。本人はたぶん、そんな自覚はなかっただろう。だが、後年の難解な比喩表現を駆使した作品に比べると、このアルバムで表現されているのはストレートに制作意図が読み取れるものであり、一般、マスコミが彼にプロテストフォーク・シンガーというレッテルを貼ったのも無理からぬことだと思う。

公民権運動、キューバ危機、核への恐怖といった政治的な題材を歌詞に取り込む一方、ニューヨークに出てきてから猛烈な勢いで吸収したバラッド等の伝統音楽、文学への耽溺、そして私生活での恋愛と別れ…。これらのことがアルバムに凝縮されている。短期間のうちに、それらのものを頭の中で掻き混ぜ、血や骨にし、自らの言葉に昇華させていったディランの驚嘆すべき才能にまず驚くが、本作はまだその“序章”でしかなく、それから30年、50年、60年と時間をかけ、ディランのストーリーはノーベル文学賞を授与されるという評価をされるまでに壮大なものになるということを、我々は知るわけである。

アルバムを通してオリジナル、カバー、粒ぞろいの曲が奇跡的なまでにバランスよく配されているが、冒頭「風に吹かれて(原題:Blowin’ In The Wind)」はフォークの新しい時代の幕開けを知らせるような印象的なものになった。
“どれだけ歩けば、人として認められるのか、
どれだけ砲弾が飛び交ったなら、武器は永遠に禁止されるのか、その答えは、風の中だ。答えは風の中を舞っている”
…と結ぶ。この曲の歌詞はあまりにも有名だろう。

本作に収録のもうひとつの有名曲「激しい雨が降る(原題:A Hard Rain’s A-Gonna Fall )」では、まるで戦場を歩く兵士のように情景が描かれ、頭上に降り注ぐ爆弾のごとく“激しく、激しく…激しい雨が降る”と歌われる。そしてこれも初期の傑作「くよくよするなよ(原題:Don’t Think Twice, It’s All Right)」の収まりもいい。世の中が厳しい状況に置かれても、くじけないでいようという、これはディランのメッセージなのだろうか。私は2001年の11月、まだ同時多発テロ事件(9.11)の傷が癒えないニューヨークで彼のコンサートを観たが、その時に久しぶりにセットリストに入ったこの曲を聴いたのを覚えている。マジソン・スクエア・ガーデンに詰めかけた大観衆が、シンと息をつめるように聴き入っていたものだ。

アルバムにはまた、「第三次世界大戦についてのブルース(原題:Talkin’ World War III Blues)」というのもある。いかにもウディ・ガスリー直系のフォークシンガーであることを示すような、トーキングスタイルのブルースだが、冷戦下、当時多くのアメリカ人に広がっていた第三次世界大戦の可能性に対する恐怖と不安を風刺したものだろう。

そして白眉となるのが「戦争の親玉(原題:Masters of War)」だ。この曲はディランのオリジナルとなっているが、実はメロディーは英国のトラッド「Nottamun Town」が使われている。
※ 「Nottamun Town」は多くのアーティストが歌っているが、英国を代表するトラッド系フォークロックバンド、フェアポート・コンヴェンションが初期のアルバム『ホワット・ウィー・ディド・オン・アワ・ホリデイズ(原題:What We Did On Our Holidays)』(‘69)の中でサンディ・デニーのヴォーカルで披露していて、聴き応えのあるバージョンになっている。

「戦争の親玉(原題:Masters of War)」

戦争の親玉たちよ
大砲を作り、飛行機をつくり、
爆弾をつくるお前
そのくせ自分は隠れて姿を現さない
だけどお見通しさ
壊すだけ壊し、世界を弄び
自分の手は汚さない
勝てばいいのだと思い込ませ
みんなをだまそうとする
バレたと思ったらさっさと逃げて知らんぷりだ
お前の頭の中なんてお見通しさ
どんなに死人が増えても
自分だけは邸宅の中

矛盾だらけだと問うてみても
分からないお前がバカなだけだという
俺はゆるさないぞ
神様もお前を決して許しはしない

お前が守るお金はそんなに尊いか
お金はそんなにいいものか
お前は魂を売ったのだ
その腐った魂は二度と元に戻らない
※著作権の関係上、歌詞の中からいくつかのセンテンスを抜粋し、意訳してみました。

20歳そこそこの若者らしい実直さで、時の為政者をやり玉に挙げている。この歌を当時、ディランがそんなふうに表現しなければならなかったのは、いかに世界規模の危機が身に迫っていたかを示している。とりわけ核の脅威は深刻なもので、彼は「ガスマスクだって持っている」と自伝的な映画の中で以前、語っていた。

OKMusic編集部

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