日本のオペラ界を牽引する、若きオペ
ラ指揮者 柴田真郁に聞く

日本を代表する若きオペラ指揮として、引く手数多の活躍を見せる柴田真郁(しばたまいく)。今シーズンから大阪交響楽団のミュージックパートナーに就任した若きマエストロに、あんなコトやこんなコトを聞いた。
にこやかに取材に応えるミュージックパートナー 柴田真郁  (c)H.isojima

―― 新しいシーズンの幕開けを飾る、昨日の名曲コンサート、お疲れさまでした。素晴らしかったです。
ドヴォルザーク交響曲第7番の冒頭、ニ短調のやるせない響き……。大阪交響楽団の新しい一面を引き出せたのではないかと思っています。とても気持ちの良いスタートが切れました。
―― 柴田さんが昨年指揮された、大阪交響楽団と堺シティオペラによるプッチーニの歌劇「トゥーランドット」が、見事に「令和3年度大阪文化祭賞」に選ばれました。改めておめでとうございます。
ありがとうございます。コロナ禍の中、セミステージ形式での上演という事で「トゥーランドット」という大きなオペラをやること自体チャレンジでした。「トゥーランドット」はいつか指揮したいとずっと勉強して来た作品ですが、大阪交響楽団と堺シティオペラさんと一緒にアイデアを出しながら、新しいオペラの在り方を提示できたと思います。豪華なキャストに迫力ある合唱、そしてピットでは無く、ステージ上で演奏した大阪交響楽団の皆さんとで作り上げた舞台だったので、立派な賞を頂けたことが嬉しいです。大阪の堺を拠点に活動する大阪交響楽団と堺シティオペラが一緒になって、フェニーチェ堺で作り上げるオペラは、これからも続くと思いますが、次回以降のハードルがぐんと上がりました(笑)。
今後も、大阪交響楽団と堺シティオペラによるフェニーチェ堺でのオペラに、ご期待ください  (c)飯島隆
―― オペラの経験が豊富な柴田さんですが、オペラ指揮者とシンフォニー指揮者との違いはありますか。
指揮の動作に関して云うと、そこまで何かが違う訳ではありません。しいて云えば、オペラでは歌手の息遣いや芝居のタイミングを感じ取りつつ音楽を紡いでいきます。瞬時の事故回避能力と言いますか、オペラは思いがけないことが起こるので、指揮者はパニクらず、適切に動かなければいけません。この適切というのが難しいのですが、歌手の声が弱いと感じた時に、単純にオーケストラの音量を下げれば良いというものではありません。音楽は不思議なもので、音量と共に音楽の持っている力が衰退することも多いのです。例えば、プッチーニを演奏するのなら、ある一定のボリュームは必要です。歌を聴かせるためとは云え、ただオーケストラの音量を抑えると、プッチーニではなくなる。そこは「歌手の皆さんが、歌を聴こえさせるのが仕事でしょう」と、言えるか言えないか(笑)。現実的には落とさなければいけないでしょうが、それではプッチーニではなくなるんですよと言える姿勢は大切です。
音量を下げると、音楽の持っている力が衰退することも多いのです  (c)飯島隆
―― なるほど、それは難しいですね。
オペラに慣れているオーケストラほど歌手の声に反応してしまい、スーッと音量を落としてしまいがちですが、メンバーをそういうマインドにさせないようなテクニックを指揮者は持っていないといけません。歌手に合わせて音量を下げた瞬間に何も無くなってしまっては元も子もありませんからね(笑)。また、音楽が雄弁に語るヴェルディやプッチーニ、ワーグナーなら譜面に書かれている通りにやればいいのですが、ベルカントオペラはちゃんと勉強していないと、どこかにエクスタシーを感じる音は出せません。どれだけ現場を経験しているか。やはり場数がモノを言います。
―― 柴田さんがオペラに傾倒するきっかけを教えてください。
小学校6年生の時に音楽の授業で聴いた『アルルの女』の“ファランドール”です。躍動感のある音楽に魅了されて、瞬間に「指揮してみたい!」と思いました。そこで『アルルの女』を買いにCDショップに行って、間違って買ったのが『カルメン』だったのです。しかし、その事が幸いしました。オーケストラと歌、芝居が一つになった凄い総合芸術、「オペラ」と出会った瞬間です。そこからは夢中になりました。
間違って買った「カルメン」のCDがオペラとの出会いになりました  (c)飯島隆
―ー 柴田さんは音楽大学では声楽科で入られたそうですね。どうして指揮科じゃなかったのですか?
オペラを指揮するには声楽の知識も必要だろうと思って、声楽科を選びました。実は、高校の先生に指揮科に行きたいと相談したら、唖然とされました(笑)。やはり指揮科というのは相当特別で、かなりの英才教育を受けていないと入るのは難しいのです。そんな事で、国立音大の声楽科に進みましたが、先生や周囲の友人たちには、僕は指揮がしたいので歌の勉強を本格的にやらないが許してほしいと、あらかじめ伝えていました。
―― えー、凄いハナシですね。周囲は理解を示し、協力してくれたのでしょうか? そうは言っても、卒業試験なんかは普通に受けられたのですよね。
無理に歌わされることは無かったですし、何か有る度に指揮をする機会は頂きました。もちろん卒業試験はちゃんと受けましたよ。『フィガロの結婚』の“伯爵のアリア”を歌ったのですが、僕の番になったら多くの人が集まって来ました。あの人、歌うの見たこと無いけれど、この曲をどのように歌うのだろう⁈ って感じですね(笑)。最後の三連符の嵐の所で、爆笑されました。
国立音大では、指揮科ではなく声楽科を卒業しました  (c)H.isojima
―― しかし、そんな状況から現在の地位を築かれたのは、凄いことですね。
そこは、自分で言うのも何ですが、相当努力をしました。大学を出て、24歳からヨーロッパへ渡りましたが、それまでの2年間、東京室内歌劇場や藤原歌劇団や各地の区民オペラなどで、アシスタントをしながら勉強させて頂きました。関西では堺シティオペラさんに随分お世話になりました。2003年にヨーロッパに渡り、ドイツ各地の劇場、オーケストラで研鑽を積みながら、ウィーン国立音楽大学マスターコースでディプロムを取得。その後、プラハ室内管弦楽団ベルリン室内管弦楽団などを指揮し、2005年にスペイン・バルセロナのリセウ大劇場のアシスタント指揮者のオーディションに受かり、優秀な音楽監督の下、2年半の間、様々な演出家や歌手との音楽作りを経験しました。
これまで、自分なりに努力を重ねてやって来ました  (c)飯島隆
―― ヨーロッパの経験を通して、学ばれたことは何でしょうか。
ヨーロッパの劇場の音楽監督は、芸術家ですがビジネスマンとしてお金を生み出す努力をやっています。日本も、ビジネスとして音楽を捉えるという考え方を打ち出していかないと、埋もれてしまうように思います。芸術文化だから、文化庁が補助金を出してくれて、どこかが協賛金を出してくれるのを待つのではなく、ビジネスだけにタイムリーかつ積極果敢に動かないといけないように思います。
―― オペラは、演出家なのか指揮者なのかどちらが大事だと思われますか? チラシやポスターの打ち出し方もまちまちですし、CDのジャケットなども色々です。
僕は指揮者でも演出家でもどちらでも良いと思っています。作品を売るためビジネスの観点からプロデューサーが決めればいい。知名度のある人を大きく打ち出せばチケットが動くのならば、そうすればいいと思います。ただ、稽古場では指揮者と演出家は対等に遣りあい、言いたい事は言う。そういう姿勢は大切だと思います。
指揮者と演出家が対等にやり合うことは大切なことだと思います  (c)飯島隆
―― 柴田さんのレパートリーとしては、どの辺りの曲になりますか。
モーツァルトからロマン派の作品が多いのですが、最近はベルカントものもやらせて頂くようになりました。そうですね、これまで40~50作品はやらせて頂いています。藤原歌劇団でお世話になっている事もあり、どうしてもイタリア物が中心となります。最近では2018年にマスネ「ナヴァラの娘」の日本初演、19年にはプッチーニ「ラ・ボエーム」、20年にはヴェルディ「リゴレット」、21年にはベッリーニ「清教徒」を共演させて頂きました。機会が有れば、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスといったドイツオペラもやりたいです。

オペラですか、これまでに40~50作品くらい手掛けて来ました  (c)飯島隆
―― 柴田さんは今シーズンから大阪交響楽団のミュージックパートナーに就任されました。大阪交響楽団はどんなオーケストラですか。

堺シティオペラの副指揮者としてドヴォルザークの『ルサルカ』が最初の出会いでした。2008年のことなので、もう14年ほどのお付き合いになります。第一印象は、とにかく響きが明るく、雰囲気も明るいオーケストラだと思いました。皆さん自分用のポケットスコアを持っていて、とても熱心。楽器のサウンド以上に、言葉の持つサウンドに注意を払われているように思いました。最近では明るい響きに加え、音に深みが加わったことで、北欧系のサウンドが出せるオーケストラになったように思います。
最近の大阪交響楽団のサウンドは、明るい響きに加え、音に深みが増しました  (c)飯島隆
―― 柴田さんのミュージックパートナーに加え、常任指揮者に山下一史さん、首席客演指揮者に髙橋直史さんが就任され、大阪交響楽団は指揮者3人体制となりました。柴田さんは主にオペラを中心にやって行くとお聞きしています。
歌心溢れるオーケストラらしく、オペラを得意としている指揮者が3人並びましたが、上手く棲み分けが出来ているように思います。僕だけが定期演奏会でオペラを振る事になっているので、敢えてドイツ、イタリア物を外して、大阪交響楽団との出会いのキッカケでもあるドヴォルザークの幻想的な名歌劇「ルサルカ」を、原語のチェコ語でやる事にしました。今回、大阪文化祭賞を頂いたセミステージ形式でのやり方をベースに、色々と工夫を重ねて行こうと考えています。世界で活躍する森谷真理さんをはじめ、豪華なソリストを揃えることが出来たので、どうぞご期待ください。
左からミュージックパートナー 柴田真郁、常任指揮者 山下一史、首席客演指揮者 髙橋直史  (c)H.isojima
―― 今後の抱負をお聞かせください。
邦人作曲家のオペラを積極的にやりたいですね。團伊玖磨さんの「夕鶴」や池辺晋一郎さんの「死神」はじめ何作品かはこれまでにも指揮させて頂きましたが、他にも素晴らしいオペラが沢山あります。僕自身が日本とパキスタンのハーフという事もあり、日本発のオペラには、とてもこだわりがあります。あと、オペラだけではなく、シンフォニーも沢山やってみたいです。大阪交響楽団とニールセンやシベリウスのシンフォニーなんかを沢山やりたいですね。
大阪交響楽団とオペラだけでなく、シンフォニーも沢山やってみたいです  (c)飯島隆
どうかこれからも、大阪交響楽団をよろしくお願いします  (c)飯島隆

―― 最後に「SPICE」の読者にメッセージをお願いします。

ミュージックパートナー就任後、初めての名曲コンサートが終了しましたが、今もまだ興奮がさめやらぬ状態です! 大阪交響楽団は今後も魅力あるプログラムが目白押しです。ぜひ大阪交響楽団のサウンドを体感しにお越しください。コンサートホールで皆さまとお会いできます事を、楽しみにしています!
ぜひ一度、コンサートホールにお越しください。お待ちしています!  (c)飯島隆
取材・文=磯島浩彰

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