【観劇レビュー】劇団四季新作ミュー
ジカル『バケモノの子』 ~そもそも
バケモノとは一体何なのか~

JR東日本四季劇場[秋]にて2022年4月30日(土)に開幕した劇団四季『バケモノの子』。細田守監督の同名アニメーション映画を基に、演劇界のみならず映像やCM、マジックの世界で活躍するクリエイター陣とタッグを組み、四季が総力を挙げて送り出したオリジナルミュージカルだ。
本作のレビューを綴らせていただくにあたり、本文には『バケモノの子』の展開や内容に深く触れている部分があることをご留意の上お読みいただければ幸いである。

劇団四季『バケモノの子』(撮影:阿部章仁)
舞台は人間とは異なるバケモノたちが暮らす”渋天街”。約300年に渡り彼らを束ねてきた宗師の転生に伴い、9年後に次のリーダー選びが行われるとの発表が。次期宗師に名乗りを上げたバケモノは2名。皆の信頼を集め、人格者でもある猪王山と、強いが荒くれ者で弟子が1人もいない熊徹だ。弟子がいないことを問われた熊徹は”渋天街”の裏側にある渋谷の街で母親を亡くし1人さまよう少年・蓮と出会う。

蓮を”渋天街”に連れ帰った熊徹は彼に九太と新たな名をつけ、強くなりたいと語る九太を百秋坊や多々良とともに鍛えていく。時が経ち、17歳になった九太(蓮)は、次第に自分が何者か悩み、人間の世界に出かけるようになっていた。そんな九太(蓮)をじっと見つめる猪王山の長男・一郎彦。そしてとうとう次の宗師を決める試合の日が訪れたーー。
今回、特に驚かされたのが装置や映像をはじめとする緻密なスタッフワーク。二重の盆や可動式のセットを多用し、バケモノたちが住む”渋天街”と人間が行きかう渋谷の街とを暗転に頼らず切り替えていくさまがとにかく見事。終盤に巨大生物が登場するクライマックスシーンもアンサンブルのマンパワーとプロジェクションマッピングとの化学反応が最高の形で具現化され、演劇でしかできない表現を成立させていた。熊徹と猪王山の最初の試合にはパペットを使い、元の姿から変身する様を見せるなど、原作アニメーションの世界観を演劇的手法で3次元に移し替える技法が随所で冴え渡る。
劇団四季『バケモノの子』(撮影:阿部章仁)
熊徹を演じる伊藤潤一郎は1人で強くなった荒くれ者でありながら、根の部分に熱く真っ直ぐな魂が宿っていることがはっきり伝わる造形。九太(蓮)との修行の中で自らも成長する姿に説得力があった。
熊徹のライバル・猪王山役の芝清道。長らく劇団の屋台骨を支えてきた彼ならではの佇まいが全体をビシッと締める。さらに本作の裏回し的な役割を担う百秋坊役・味方隆司と多々良を演じる韓盛治が絶妙な芝居を魅せ、作品に厚みを与えていると感じた。
原作アニメーションを監督した細田守氏が息子の誕生をきっかけに「父親は子どもに何ができるのか」と自らに問いかけたことが作品テーマの源になっていることもあり、ミュージカル『バケモノの子』にも原作と同じく、熊徹、猪王山、蓮(九太)の実の父……と3人の父親が登場する。
蓮(九太)を育て鍛えているつもりで、じつは誰よりも自身が成長していった熊徹、正しくあろうとする信念とある秘密から長男・一郎彦との対峙の仕方に悩み、息子と向き合えずに矛盾を抱える猪王山、幼い頃に生き別れ、17歳になった蓮(九太)との付き合い方がわからない実の父。三者それぞれが息子たちと不器用ながら真摯に向き合おうとする姿に胸打たれた。
17歳になった蓮(九太)が「自分はいったい何者なのか」と悩み、外の世界に足を踏み入れることで自らの居場所を見つけていく展開や、父親との関係性が母親とのそれよりビビッドに描かれている点からも、どこか『ライオンキング』とのつながりも感じた(脚本・歌詞の高橋知伽江氏は、原作では写真でしか出てこない蓮の母親を”無償の愛””導く者”の象徴として描き、舞台に登場させている)。血の繋がりのない”親子”の間でスピリットの継承が行われるさまが興味深い。

劇団四季『バケモノの子』 (撮影:阿部章仁)

蓮(九太)が自らのアイデンティティに悩み、それでも真っ直ぐ生きようとする姿を冷たい瞳で見つめる一郎彦。バケモノにはなく、人間のみが心に宿す「闇」を抱えたキャラクターだ。彼もまた自分の存在について葛藤し、そのエネルギーが蓮(九太)とは異なり、暗い方に堕ちてしまう。一郎彦は現代を生きる私たちを現わす鏡なのかもしれない。
ここに来てあらためて考えるのも変な話だが、そもそも「バケモノ」とは一体何なのだろう。確かにその姿は人間とは異なるが、彼らは心に「闇」を持たない。「闇」を抱え、時にそれと付き合い、時にそれに飲み込まれそうになったり、あるいは他者への攻撃の燃料として使用してしまうのは私たち人間だ。たった1人で強くなり、たった1人で生きてきた熊徹が蓮(九太)と出会い、ともに修行し暮らす中で成長し、やがて人間の「闇」を救う存在になるこの物語と、蓮(九太)が自らを「人間の子」ではなく「バケモノの子」と高らかに歌う姿を観て、私たち人間は「胸の中の剣」で自らの「闇」と対峙できているのかと何か強い問いを突き付けられた気がした。
最後になったが、日本でオリジナルミュージカルの大ヒット作が生まれづらい理由のひとつが、創作にかける時間の短さだと思う。劇団という創作集団の土壌を基礎に、コロナ禍前から企画が動き、劇団内外から集まったクリエイティブチームと俳優陣により長い時間をかけて丁寧に育まれてきた本作が、この後もブラッシュアップを続け、より多くの人に届く作品となることを願ってやまない。
※文中のキャストは筆者観劇時のもの
取材・文=上村由紀子(演劇ライター)

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