糸あやつり人形一糸座・四代目結城一
糸を襲名する結城敬太、江戸伝内に改
名する三代目一糸に聞く

江戸時代から続く伝統芸能、“糸あやつり人形芝居”。その劇団のひとつ、糸あやつり人形一糸座が、「四代目結城一糸(ゆうきいっし)襲名」・「江戸伝内(えどでんない)改名」披露公演を、2022年5月27日(金)~29日(日)に赤坂レッドシアターでおこなう。
この公演から「四代目結城一糸」を襲名するのは、三代目結城一糸の長男・結城敬太。彼は、三代目の元で長く人形遣いとして修行に励み、多くの古典演目の主役を務めてきた。三代目が1972年に襲名して以来、50年ぶりの四代目襲名となる。一方、三代目はこの機会に「江戸伝内」と改名する。このほどSPICEでは、三代目結城一糸(新・江戸伝内)と結城敬太(四代目結城一糸)にインタビュー取材をおこなった。襲名・改名に臨む思いや、クラウドファンディングにも挑戦した今回の襲名披露公演への意気込み等を聞いた(※本文内では二人を便宜上、三代目・四代目と記す)。

―― このたびの「四代目結城一糸襲名」ならびに「江戸伝内改名」、まことにおめでとうございます。襲名/改名の正式なタイミングは、いつからになりますか?
三代目一糸(江戸伝内/以下、三代目) 襲名公演開演と同時になります。
―― 襲名/改名によって、お名前以外に変わるものはありますか。たとえば一糸座の役職や体制などはどうなりますか。
三代目 座長は四代目結城一糸となりますが、芝居の企画は二人体制になります。
―― 三代目一糸(新・江戸伝内)さんにおうかがいします。50年背負ってきた三代目「一糸」ですが、ご自身で振り返ってみて、どのような「一糸」たりえたと思いますか。また、特に印象深い出来事は何ですか。
三代目 古典と新たな芝居の二兎を追ってきました。伝内になっても、きっと二兎を追うでしょう。印象深かったのは、フランスのナンシー国際前衛演劇フェスティバルに1971年に参加した時、世界中の劇団が集まっていました。その中の数劇団には秘密警察が張り付いていました。みんな命懸けで演劇をしているのを目の当たりにし、自分の演劇に対する甘さを痛感しました。その後は演劇は命懸けでやるものと、固く心に誓いました。
三代目結城一糸 40年程前の舞台
―― 今回の四代目襲名は、三代目50年の区切りと同時に、結城敬太さんに「一糸を名乗る技量」が備わったことも理由として挙げられています。「一糸を名乗る技量」とは、紐解くとどのようなことでしょうか。
三代目 役を構築する時、自分本意や自分勝手に役作りをしない、世阿弥で言えば離見の見といったところでしょうか。自分の分身あるいは他者を持つということ。短い言葉でいうと、差異化というのだろうか、自らを懐疑する、それがないと人形遣いとして、一人前とは言えません。また、技量については、当人の探求と鍛錬を一生続けていく覚悟があるかどうかです。
「釣女」左・大名の人形を遣う結城敬太 右・太郎冠者の人形を遣う三代目結城一糸
―― 三代目「結城一糸」でなくなり、「江戸伝内」になる気持ちはどのようなものでしょうか。
三代目 新たなものになるということは清々しい気持ちと、どうやって新・江戸伝内を作り上げるか、というシビアな問題がありますが、残り少ない私の演劇人生を賭けて挑んでいきたいと思っています。
―― 三代目が「江戸伝内」という名前に改名する意味を詳しく教えてください。そして、改名後どんなことをして行きたいですか。
三代目 今まで糸あやつり人形遣いは数えきれないほど生まれ、消えていきました。元禄時代に活躍した江戸伝内もその中の一人です。名人と呼ばれるほどの人形遣いでしたが、一代で途切れてしまいました。それから三百年の時が経ちます。今、江戸伝内の名前を復活させることで、こんな人形遣いがいたということを知って頂きたいという思いもあります。江戸伝内の名を名乗るということは、その消えていった人形遣いの代表として大勢の死者達を背負って生きるということ。江戸伝内として、どんなことをしていきたいかと問われれば、どんなことでもしていきたい、あらゆるものに変様していきたい、と言う他ありません。
三番叟の人形を遣う三代目結城一糸
―― 四代目一糸さんとなる結城敬太さんは、いつ頃から名跡継承の話を聞かされていましたか。また、ご自身が名跡を継ぐ意志を固めたのはいつ頃からですか。
結城敬太(四代目一糸/以下、四代目) 継承の話は5年程前からありました。脈々と受け継がれてきた歴史のある名跡ですので、大変だと思う気持ちはありましたが、2年程前から、一糸座の今後を考えて継ぐべきだと思いました。
―― 四代目にとって「一糸」とはどのような名前だと思いますか。
四代目 初代、二代目、三代目とそれぞれの人形を幼少より見てきましたが、それぞれ違った長所があり、それでいて個々に名人だと思います。「一糸」は名人たちの名跡だと感じています。
―― 四代目から見て、三代目はどのような人形遣いだったと思われますか。また、父親としては、どういう人でしたか。
四代目 古典作品の継承をすると同時に、現代作品へも意欲的に挑戦する、情熱のある人形遣いだと思います。そして、人形芝居だけでなく、ある時代の演劇を作ってきた演劇人の一人だと思います。父親としては厳しいところも優しいところもある人です。
四代目結城一糸を襲名する結城敬太
―― 三代目から見て、結城敬太さんは(人として、また人形遣いとして)どんなかたですか。四代目に対して期待することは?
三代目 探求したり鍛錬したりすることは得意なところですが、時にはちょっとチャランポランなところがあってもいいかなと思います。三代目をあまり意識しないで、全く新たな四代目一糸を創造してほしい。
―― 四代目は、何を受け継ぎ、また、どんなことに挑戦していきたいと考えていますか。
四代目 名を受け継ぐにあたって、大切なことは志を受け継ぐことだと思っております。古典演目の継承はもとより、三代目同様、人間の俳優や海外の劇団とコラボレーションするなど、新作劇にも意欲的に取り組んで参りたいと思っています。
―― 襲名披露公演のクラウドファンディングはどなたが考えたのでしょうか。また、その経過・結果について、感想と併せて教えてください。
三代目 劇団員、みんなで考えて、クラウドファンディングに挑戦しました。コロナ禍の中、また世界情勢も不安な中、支援をお願いする事に悩みましたが、周りの方の後押しもあり、伝統芸能を未来へ繋げるために、思い切って挑戦しました。その結果、私達が思っていた以上に多くの方にご支援頂き、最終日を待たずに目標額に達しました。そしてネクストゴールを目指すことができたことは、大変嬉しく、また、驚きでした。
「戻橋」舞台写真
―― 襲名披露公演での演目について、それぞれの見どころなどを教えていただけますか。
三代目 まず「二人三番叟」は、襲名公演の幕開けに、おめでたい演目を選びました。一糸と伝内の二人の舞いで、間と息がどのように合うか、見どころだと思います。次に「八百屋お七」は、伝内が得意とする町娘の女形です。そして「廿四孝」は、四代目初挑戦の女形で、八重垣姫が恋人を救うため、兜に乗り移った狐と共に、氷の張った諏訪の湖を渡り、追ってが迫る危機を知らせます。八百屋お七の町娘と八重垣姫の対照的な女形二体を選びました。「戻橋」は、四代目の渡辺綱と伝内の鬼女との闘い。渡辺綱と鬼女が京都で対決する、河竹黙阿弥の外連味たっぷりの名作です。
今回の上演演目は、襲名披露公演に相応しい、四通りの特色を持った、バラエティーに富んだものになりました。糸あやつり人形の多様な側面を是非見て頂きたいと思います。また、全編、義太夫・常磐津・鳴り物の生演奏ということも大きな見どころの一つです。とても賑やかで豪華な公演になると思います。
「八百屋お七」舞台セット
―― コロナ禍や戦争など、芸能家たちにとっても何かと生き辛い時代です。そんな今、糸あやつり人形を観るべき意義、そして一糸座ならではの注目ポイントなどを、教えていただけますか。
三代目 こんな生き辛い息の詰まるような時代こそ、芸術が必要なのではないでしょうか。私の亡き父の話しでは、戦争中は観客があふれていたそうです。みんな心の拠り所を求めていたのではないでしょうか。表徴である糸あやつり人形は、観る人のイメージを拡げ、また、事物としての存在感を現す。この一見矛盾する二つのことを同時に感じさせるものです。心無い人形遣いは、人形は不自由だと言います。だが、不自由にしているのはその人形遣いなのです。人形は自由そのものです。一糸座の人形は、繊細さとダイナミックさを兼ね備えた芝居です。是非、この奇跡的な人形の舞台をご堪能下さい。
江戸伝内に改名する三代目結城一糸
取材・文=安藤光夫(SPICE編集部)

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